北海道NTTリストラ訴訟
事件名:北海道NTTリストラ訴訟
(配転命令についての慰謝料請求事件)
係属機関:札幌高等裁判所第3民事部 裁判長 信濃孝一
2009年3月26日、札幌高裁は、原判決を破棄し、5名の原告のうち、原告石黒さんのみ慰謝料額を原審での100万円から150万円へ増額し、
他の4人については、請求を棄却しました。判決は、その理由として、石黒さんを含め5名全員の配転命令には業務上の必要性があったと認定しました。
他方、苫小牧市で高齢の両親の介護をしていた石黒さんを東京都へ長距離配転することは、
権利濫用に当たると認定しました。権利濫用の根拠として、「育児介護休業法第26条の趣旨に反する」 ことを明言した点は、注目に値します。
※ 弁護団声明
原告側は、石黒さんを含め5名全員最高裁に上告 (及び上告受理の申立) しました。
2010年6月4日、最高裁はNTTの訴えを退け、高裁判決は確定しました。
【声明】
紹介者:斎藤 耕弁護士
連絡先:たかさき法律事務所 電話 011-261-7738
(窓口:齋藤 耕弁護士)
全国訴訟HP
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【事件の概要】
(1) 当事者 (原告、被告)
・原告 (被控訴人):被告の (元) 従業員 (現在現職は1名のみ) 5名
いずれも通信産業労働組合所属 (組合の HP)
・被告 (控訴人):東日本電信電話会社 (NTT東日本)
(2) 請求の内容 (請求の趣旨) の概要
提訴時は、被告が原告5名に命じた配転命令の無効確認及び金300万円の慰謝料請求。
現在は、慰謝料請求のみ。
(3) 請求の原因の概要
2001年4月、NTTグループは、グローバル化の中で激化する企業間競争を生き残るためなどの理由で未曾有の大規模なリストラ計画を発表し、
翌2002年からこれを実施した。
その内容は、従前NTT東西が行っていた固定電話の保守・管理・営業などといった業務を100%子会社にアウトソーシングし、
これら業務を担っていた従業員のうち、51歳以上の労働者に対しては、一度、NTT東西を退職し、
子会社に再就職 (この場合の賃金はおよそ15%〜30%でカットされる) させることとしたものである (50歳以下の労働者については子会社への出向という扱いである)。
そして、再就職に応じず、NTT東西に残留した労働者に対しては、全国転勤、成果業績主義の徹底を前提に、
従前の業務とは無関係な法人営業等の高度な専門知識が要求される業務に配置転換させるといったものであった。
子会社への再雇用を拒否したため、その見せしめのため遠隔地へ配転を命じられた労働者が、
配転無効確認と慰謝料を請求した裁判がNTTリストラ訴訟であり、札幌、東京、静岡、名古屋、大阪、松山及び福岡の全国7地裁に提訴され、
北海道訴訟の判決 (2006年9月) が全国で最初の司法判断となった (名古屋訴訟では、2006年8月、和解が成立している)。
北海道訴訟では、結審までに5名の原告のうち2名が定年退職、1名が自主退職、残る2名が2005年7月の異動で旧勤務地への再配転を命じられたことで、
配転無効確認の利益は失われ、慰謝料請求のみとなった。
【手続きの経過】
(一審判決)
2006年9月27日、全国で最初の判決が、札幌地裁で言い渡された。
結論は、原告5名の慰謝料請求を1部認容したものであり、実質的には、全面勝利といえる。
判決は、NTTによる大リストラ計画そのものの違法性を認定することはなかった。
しかし、原告5名のうち、4名 (いずれも北海道内での配転) については、各人の配転後の業務内容、家庭生活の変化等を丁寧に認定し、
原告らに対する配転命令には業務上の必要性はなかったとして、配転命令権の濫用に当たり、違法であると認定して、一人50万円の損害賠償を命じた。
例えば、「50歳を超える年齢で、見知らぬ土地に単身赴任をすることを強いられたことについて、不便を感じ、寂しい思いをしたであろうこと、
自らの健康管理にも不安を覚えたであろうことは容易に推認することができる」 などの認定がなされた。
そして、残りの原告1名は配転前苫小牧市に在住し、年老いた両親の介護の必要があるにもかかわらず、
東京へ配転されたことに関しては、介護すべき両親がいることが、配転障害事由となることを正面から認め、
それにもかかわらず、配転させたことが不法行為に当たると認定し 100万円の損害賠償を命じた。
(控訴審)
この判決に対し、NTT東日本は、控訴した。
控訴の理由は、膨大な書証等を提出して原告ら5名への配転命令には、業務上の必要性があったことを立証するものであったが、
その中味は、既に原審で主張されていたことの焼き回しにすぎないものであった。
そして、NTT東日本は、原審で取り調べ済みの証人4名を含む10名の証人申請をしている。
他方、原告らも、リストラ計画の違法性を認めなかったこと、損害額の認定が低すぎることなどから付帯控訴した。
7月17日の期日では、控訴人及び被控訴人からの主張 (NTTリストラ東京高裁訴訟判決の評価など) が出し尽くされ、
次々回期日10月7日に証人尋問を行うことが決定されました。
採用された証人は、被控訴人の石黒さんと石黒さんの配転先の上司だった人です。
10月8日午後1時から午後4時半まで証人尋問が行われました。
まずは、被控訴人石黒さんの上司だった会社側の証人について尋問が行われました。
主に石黒さんの東京への不当配転後の勤務状況について証言がなされましたが、反対尋問に対し、同証人が、
石黒さんの健康状態 (頸椎を痛めており、東京配転後、悪化) について、上司として、把握してしておらず、産業医から特別の連絡がなかった以上、
特に確認する必要もなかったなどと証言すると、傍聴席から怒りの声が上がりました。
会社側は、石黒さんの北海道時代の経歴から、光 IP販売業務に必要なスキルを有していたと判断していたと主張していたことに対し、
最後に、裁判長が補充尋問で、「では、どのような部署に勤務していた労働者には、スキルがないと判断するのか?」 と質問したところ、しどろもどろになりました。
その後、被控訴人である石黒さんの尋問では、東京配転後の業務の大変さ、自身の健康状態の悪化の様子、
老親の介護の状況について、大変説得的に語り、反対尋問で、会社側代理人が、上司の事実に反する供述を前提に質問してきたことに対し、
「どうしてそんな嘘の話がでてくるんですかね。」 などと切り返しました。
裁判は、次回11月25日までに双方が最終準備書面を提出し、結審の予定です。
2009年3月26日、札幌高裁は、原判決を破棄し、5名の原告のうち、原告石黒さんのみ慰謝料額を原審での100万円から150万円へ増額し、
他の4人については、請求を棄却しました。判決は、その理由として、石黒さんを含め5名全員の配転命令には業務上の必要性があったと認定しました。
他方、苫小牧市で高齢の両親の介護をしていた石黒さんを東京都へ長距離配転することは、
権利濫用に当たると認定しました。権利濫用の根拠として、「育児介護休業法第26条の趣旨に反する」 ことを明言した点は、注目に値します。
※ 弁護団声明
原告側は、石黒さんを含め5名全員最高裁に上告 (及び上告受理の申立) しました。
【全国の動向】
大阪地裁 (2007年3月28日)、東京地裁 (2007年3月29日)、松山地裁 (2008年2月20日)、東京高裁 (2008年3月26日)において、判決が言い渡された。
大阪地裁判決で、原告の一部が勝訴したが、その他の訴訟では、原告側は敗訴している。
いずれの裁判でも、リストラ計画の合理性を認め、会社の主張を丸飲みするような判決であった。
【一言アピール】
仮に、このリストラ訴訟で労働者側が敗訴したまま、訴訟が終結すると、今後は、全国の企業で同様に子会社を利用したリストラ計画が実行される危険が高い。
そのようなことを許さないためにも、この訴訟で勝ち抜くことが非常に重要となってきている。
前述のような全国の状況の中で、唯一全面勝訴している北海道訴訟で勝ち抜くことが、非常に重要になってくると思われる。
そのため、多くの支援を期待している。
取材は大歓迎です。
文責 弁護士 齋藤 耕
一審勝訴時の様子 2006年9月27日
一審勝訴時の判決報告集会 2006年9月27日
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