2013.10.18更新

新宿区ホームレス生活保護裁判(新宿七夕訴訟)

「ホームレス」 だと生活保護を受けられないの?
〜アパートでごく普通に暮らす生活を求める裁判(東京)〜
事件名:新宿区ホームレス生活保護裁判 (新宿七夕訴訟)
     「ホームレス」 だと生活保護を受けられないの?
       〜アパートでごく普通に暮らす生活を求める裁判 (東京)〜
係属裁判所:東京地方裁判所民事第2部
事件番号:平成20年(行ウ)415号
         生活保護開始申請却下取消等請求事件
       平成20年(行ク)146号
         生活保護開始仮の義務付け申立事件
2011年11月8日 原告勝訴判決!!
2012年7月18日 控訴棄却判決!!
     8月1日 被告上告断念、原告勝訴判決確定!!
紹介者:戸舘圭之
連絡先:ホームレス総合相談ネットワーク (代表:森川文人)
     担当弁護士 戸舘圭之
     〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-42-4
     代々木総合法律事務所
     TEL:03-3379-5211  FAX:03-3379-2840


【訴訟の概要】
1  当事者
  原告:新宿区で野宿生活を余儀なくされていた58歳の男性
   VS
  被告:新宿区 (代表者 区長中山弘子)
2  提訴日 平成20年7月7日
3  請求の内容
 (1) 生活保護開始申請に対する却下処分の取消し
 (2) 生活保護開始決定の義務づけ及び生活保護費の支払い
 (3) 仮の義務づけの申立て

【提訴までの経緯】
  1 新宿区福祉事務所へ生活保護申請
  原告は、野宿状態で困窮していたことから、本年6月2日に 「ホームレス総合相談ネットワーク」 の法律家、 支援者らとともに生活保護申請をしようと新宿区福祉事務所の窓口を訪れました。
  ところが、相談員は、生活保護申請をする意思が明確である原告に対し、 執ように法外の制度である緊急一時保護センター等への入所をすすめ生活保護申請を直ちに受け付けようとはしませんでした。
  原告は、自立支援センターではなくあくまで生活保護を申請し簡易宿泊所で待機後、アパート入居をめざす旨を支援者らとともに再三にわたり述べたところ、 ようやく申請が受理されました。

  2 生活保護申請却下
  しかしながら、新宿区福祉事務所は、申請は受けつけたものの 「急迫」 を理由とする職権保護は行わず、 そればかりでなく 「調査」 と称するさまざまな形での嫌がらせを原告に対し行ったあげく、 「稼働能力を活用していない」 という理由で生活保護申請を却下するという暴挙にでました。
  新宿区福祉事務所が言う却下理由は、いずれも生活保護法に照らし理由のないものです。

  3 訴え提起
  原告についてみれば、生活保護の要件を満たすことは明らかであり、直ちに保護が開始されなければならないのですが、いまだ保護は開始されていません。 そこで、原告は、やむなく本訴を提起し、併せて 「仮の義務づけの申立て」 を行い緊急の保護を求めるに至りました。

  4 板橋区福祉事務所では保護開始決定!
  仮の義務付け申立ては、不当にも却下されてしまいましたが (現在即時抗告中)、板橋区福祉事務所は、8月25日、原告に対し生活保護を開始する決定を行いました。

【訴訟の経過】
2008年  7月 7日 提訴
       8月13日 仮の義務づけ却下決定
       9月10日 第1回口頭弁論
      11月 5日 第2回口頭弁論
2009年  2月20日 第3回口頭弁論
       5月12日 第4回口頭弁論
       8月20日 第5回口頭弁論
      11月12日 第6回口頭弁論
2010年  3月11日 第7回口頭弁論
       6月 4日 第8回口頭弁論
       9月22日 第9回口頭弁論
             (証人尋問は証人の急病により延期)
      11月24日 第10回口頭弁論(信木さんの証人尋問)
      12月22日 第11回口頭弁論(長友さんの証人尋問)
2011年  1月28日 第12回口頭弁論 新宿区福祉事務所T氏の証人
             尋問
       3月 2日 第13回口頭弁論 原告本人尋問
       6月21日 第14回口頭弁論 最終準備書面 陳述
      11月 8日 判決言い渡し
      11月 8日 原告勝訴判決!!
             被告新宿区控訴
2012年 7月18日 被告新宿区の控訴棄却
     8月1日  被告新宿区の上告断念により原告勝訴判決が確
            定!!

【11月8日 原告勝訴の判決が出ました】
  2011年11月8日、東京地裁民事第2部(川神裕裁判長)は、1.新宿区福祉事務所長のした生活保護却下決定の取消し、 2.居宅保護の方法による生活保護開始決定の義務付け、を命じる原告の請求をほぼ全部認める全面的勝訴判決を言渡しました。
  2008年7月7日の提訴以来、合計14回の口頭弁論期日、緊急一時保護センター、自立支援センター、無料低額宿泊所等の施設での進行協議期日、 相談を担当した福祉事務所職員の証人尋問、申請同行した支援者の証人尋問、元都内福祉事務所査察指導員の生活保護研究者の証人尋問など、 慎重な審理を経ての全面勝訴判決でした。
  東京地裁は、生活保護法の基本理念に立ち返り、原告が本件申請当時に置かれていた具体的状況を踏まえて、 「その利用し得る能力を、その最低限度の維持のために活用すること」 (法4条1項)という要件を充足していたと判断し、 新宿区福祉事務所長の却下処分を取り消し、保護の開始を義務付けました。

【2012年7月18日 被告の控訴が棄却されました!!】
  2012年7月18日、東京高裁第20民事部(春日通良裁判長)は、平成23年(行コ)第399号生活保護開始申請却下処分取消等請求控訴事件について、 却下決定を取り消し、生活保護開始を決定するよう命じた一審東京地裁判決(昨年11月8日東京地方裁判所民事第2部(川神裕裁判長) 平成20年(行ウ)第415号生活保護開始申請却下処分取消等請求事件)を支持し、同区の控訴を棄却しました。

【原告勝訴判決が確定しました】
  原告勝訴の一審の判断を認め新宿区の控訴を棄却した東京高裁判決に対して、被告新宿区は、 ホームページ 上で上告をしない旨を表明しました。
  新宿区は、「見解の相違はあるものの、現行法令を前提とした場合、本判決を受け入れざるを得ないとの結論に達したので、 新宿区は東京高等裁判所の判断を尊重し、上訴しないこととします。
と上告断念の理由を公表しています。その結果、同年8月1日に原告勝訴判決が確定しました。

【訴訟の意義】
  本件訴訟は、ホームレス状態を余儀なくされている人々に対し侮辱的、差別的な取扱いを行う新宿区福祉事務所の生活保護行政のあり方を問う訴訟です。

  生活保護法は憲法25条に基づいて全ての生活困窮者に対し 「健康で文化的な最低限度の生活」 を保障することを行政に義務づけています。 にもかかわらず、多数のホームレス状態にある人が生活している新宿区において、 ホームレス状態にある人々への生活保護制度の適用を事実上排斥していることは由々しき事態です。

  本件訴訟は、単に原告ひとりの生活保障を実現するにとどまらず、 背後に数万人はいるといわれる日本中の安定した住居を持たない人々への生存権保障のあり方を強く問うものでもあり、広く社会的意義を有するものと考えます。


   【カンパにご協力ください】
   三井住友銀行 麹町支店 普通口座 口座番号:8924234
      口座名義:新宿生活保護裁判を支える会 会計 力丸 寛
   ゆうちょ銀行  記号:10050  番号:91185431
      名義:新宿生活保護裁判を支える会

   ●新宿生活保護裁判を支える会ブログ

文責 弁護士 戸舘圭之