2011.6.22更新

SHOP99 名ばかり管理職事件(賃金等請求事件)
事件名:SHOP99 名ばかり管理職事件 (賃金等請求事件)
事件の内容:2007年6月から10月までの期間の残業代相当額74万8923
        円及び労基法上114条の付加金請求として同額を請求。
        さらに、原告を長時間労働等によって病気にし、就労でき
        ない状態したことについての慰謝料として、金300万円。
        合計約450万円の請求
係属機関:東京地方裁判所立川支部民事1部合議係
       (裁判所の立川移転に伴う変更)
       事件番号 平成20年(ワ)1102号
 
2011年5月31日、原告完全勝訴の判決が下り、同判決は確定しました!!
  判決主文は、「金144万8376円と遅延利息の支払い。金20万円と遅延利息の支払い。」 を命じるものでした。
  会社は、控訴期限の6月14日に控訴しませんでした。したがって、東京地裁立川支部が確定し、原告勝利が確定しました。
  裁判の勝利は確定しましたが、原告は、復職を希望しています。原告の復職がかなうまで、原告側は粘り強くたたかいを続けていきたいと思います。

 NPJの 「弁護士の訟廷日誌」 見て傍聴に来た、と言ってくださった傍聴支援者の方が多数おられました。 傍聴支援に原告は強く励まされました。原告を支援していただいたみなさまに、厚く御礼申し上げます。

紹介者:笹山尚人弁護士
     (弁護団は他、戸舘圭之弁護士、三浦直子弁護士)
連絡先:首都圏青年ユニオン TEL 03-5395-5359
     担当者:山田真吾 Mail:s.yamada@seinen-u.org


【事件の概要】
1 当事者
  原告   清水文美
  被告   株式会社九九プラス

2 請求内容 約450万円のお金を会社が清水さんに支払うよう求める。
  (内訳) @ 2007年6月から10月までの期間の残業代相当額として、金748,923円。 A 同額である金748,923円について、 労基法114条に基づき付加金の支払いを求める。 B 清水さんを長時間労働等によって病気にし、就労できない状態したことについての慰謝料として、金300万円。

3 事案の概要
  コンビニエンスストアー「SHOP99」。99円、199円、299円など、低価格で商品を提供し、かつ、生鮮食品を取り扱うコンビニエンスストアーである。 これを経営する 「九九プラス」 に、清水文美さんは2006年9月に正社員として入社した。就職氷河期時代にあってなかなか就職できず、 8年ものフリーター生活を続けた後、ようやくつかんだ正社員の口であった。

  清水さんは、入社後わずか3ヶ月で、実質店長の立場に置かれ、9ヶ月後の2007年6月からは正式に店長に就任。

  「SHOP99」 では、各店舗に正社員が一人しかおらず、あとは全てアルバイトである。24時間営業のコンビニエンスストアで、 アルバイトがシフトに入れない時間帯は、正社員がシフトに入らざるを得なかった。何時間働き続けているとか、休日を取れたかとか、そんなことは関係なく、 シフトに穴が開けば、働かざるを得なかった。清水さんは、もっとも長い場合で、37日間、休日なしで働き、一番ひどいときで、4日間で80時間を超える労働を行った。 4日とは、物理的な時間が96時間である。そのうちの80時間の就労である!

  このような状況で、清水さんは体調不良、不眠、食欲不振に悩まされるようになっていった。
 わずか1年の間に、6店舗に異動させられたことも彼のストレスを募らせた。
 2007年10月、ついに清水さんは体調不良で働くことが出来なくなり、休職することになった。

4 提訴に至る経緯
  清水さんは自分をここまで追い込んだことには、会社の労働時間の管理システムに問題があると考え、首都圏青年ユニオンを通じ、 病気に対する責任を取ることと共に、長時間残業についての残業代を支給するよう会社に求めた。

  ところが会社は、ユニオンとの団体交渉の席上、2007年6月分以降の残業代の支給を拒絶した。 理由は、清水さんが店長であることから、労基法41条2号のいわゆる 「管理監督者」 にあたるから残業代の支給は必要ないと言うのである。

  清水さんは、この会社に言い分は全く通用しないと考えている。なぜなら、清水さんは、その労働の実態からして、いわゆる 「名ばかり管理職」 であり、 「管理監督者」 の実態は存在しないからである。

  「管理監督者」 の考え方については、日本マクドナルド事件で2008年1月28日、マクドナルドの店長職が、「管理監督者」 ではなく、 会社は残業代を支給しなければならないという東京地裁の判決が出たばかりである。 会社は、この点をユニオンから指摘されても、「マックはマック、うちはうち」 として、対応を改めようとしなかった。

  清水さんは、もはや提訴をもって対応するしかないと考えた。

【手続きの経過】
  2008年5月9日、清水さんは、東京地裁八王子支部に残業代の支払いと慰謝料の支払いを求める訴訟を提起した。

  第1回口頭弁論は7月16日に行われ、訴状、答弁書の陳述のほか、清水さんが訴訟について意見陳述を行った。

   ※ 清水文美 意見陳述書

  9月24日の期日では、被告会社から、原告の清水さんの請求に対する答弁が提出されました。 答弁書で一部出ていましたが、残る全体についての反論が出た形になります。
  これによって、会社の主張の内容が、原告がタイムカードどおりの就労を行っているかは疑わしいこと、 ゆえに、原告がうつ病にかかったとしてもそれは会社の責任ではないこと、管理監督者に関するこれまでの通達、判例の考え方は間違いで、 店舗に関する人事権等のみがあれば割増賃金を支払わなくても良い労働者になる、というものであることがわかりました。

  これに対し、原告側が全面的に反論することを約束しました。
  また、この日は、原告側からは、準備書面1を提出しました。これは、この日に先立つ9月9日、厚生労働省が管理監督者に関する新たな通達を出したのですが、 その通達の内容がこれまでの通達、判例の考え方にのっとらないものであるとして全面的に批判するものです。

    この通達については、その後、連合や、日本労働弁護団からも厳しい批判に遭い、厚生労働省はそれにあわてて対応するかのように、 10月3日に 「Q&A」 を発表して、事実上9月9日通達を撤回するに至りました。
  この期日で、いち早く、誤った法解釈は許さないという姿勢を打ち出したことが、通達撤回の一助になったと自負しております。

  2008年11月19日の口頭弁論では、原告側方から、原告清水さんの長時間労働とうつ病発症の因果関係に関する事実について会社主張への反論、 そして、清水さんが店長だということについて、「管理監督者」 との会社主張に対し、管理監督者の法理論からしても、清水さんの仕事の実態からしても、 管理監督者たり得ないとの反論の準備書面を提出しました。
 次回は、この当方主張に対し、被告が反論することが予定されています。
 次回の反論くらいで、双方の主張が出尽くすかなというのが今の印象です。

  2009年1月21日の期日では、法廷でのやり取りは、簡単に済みました。
  被告会社側が準備書面と証拠を提出しましたので、その陳述を行い、原告側が反論するということで終了しています。

  会社側は、今回も、ある店長の陳述書をもとに、「SHOP99」 の店長の実態を主張し、それに基づき、原告ら店長は管理監督者であるとの主張、 そして原告の就労は過酷なものではなく、会社の安全配慮義務違反の事実はないと主張しています。
  次回は、この事実・主張についてこちらから反論することになりますが、会社が提出している店長の陳述が、1つの例にすぎないのか、 それとも会社全般がこのような運用だというのかについて前提として確認する必要があったため、原告側はその点を裁判で会社にただしました。 すると会社の回答は、「会社全体がこのような運用」 との回答でした。 この店長の陳述書では、店長は店舗の管理業務が中心で、 夜間に就労することは基本的に存在しないかのように書かれています。果たしてそれが真実なのか。 今後行われるであろう尋問では、店長の業務の実態が争点になってくるように思えます。

  2009年3月19日の期日の内容は以下のとおりです。
  原告側は準備書面4、準備書面5を提出しました。内容としては、会社の管理監督者の主張に対する反論 (準備書面4)、 会社が原告がうつ病になったことに責任はないと主張している点に対する反論 (準備書面5)、というものです。 原告側は、仮に原告の清水さんが管理監督者で残業代を支給しなくても良いという会社の主張が受け入れられた場合、 原告の賃金は時給換算でいくらになるかを試算してみたら、少ないときで時給742円となり、このような低賃金の管理監督者は存在し得ないということ、 それから時間ごとに会社の決めたルールにのっとって細切れで休む間もなく働いていたのが清水さんの就労の実態であり、 被告会社の言うような楽な仕事をするのが店長の実態ではないということを主張しました。
  また、法廷で、裁判所から、会社に対し、タイムカードの書き換えがあったかなかったかについて確認したかとの問いがあり、 会社は、これ以上証拠提出の予定はないと答えました。つまりは、タイムカードの書き換えはなかったことを会社が認めたことになりました。

  次回までに会社は、原告の主張に対する反論を行うことになって終了しましたが、次回の反論を待って、 原告側では原告本人の陳述書を作成して提出することも話し合われました。いよいよ証人尋問が近づいてきたということになります。

  5月13日は、裁判所が八王子から立川に移転して最初の裁判でした。
  この日までに、会社は、裁判所の求釈明に対するプリントを提出する予定でした。
  会社は、店長は本来は暇で、夜中に勤務する必要もないと主張しています。では、実際に原告の清水さんの働きぶりは何だったのか。 暇というほどパートやアルバイトはいたのか。裁判所は以上の問題意識で、清水さんの店舗で、 彼が店長だった時期である平成19年6月から9月までのシフト表を提出するようにということを会社に求めたのです (これを求釈明といいます。)。

  ところが会社は、この日程にその回答を提出できませんでした。そのため、この日の裁判は事実上空転し、次回に仕切り直しとなりました。
  しかしこの日の法廷は良いこともありました。50名かけの傍聴席が満杯になりました。 そのため法廷終了後裁判所から、「次回からは大法廷で」 という申し出があり、6月24日の法廷から裁判は、101号法廷という100名が入る大きな法廷となりました。

  6月24日の期日は、雨天であったにもかかわらず、大法廷は7割方埋まりました。
  この日、会社はようやく回答のプリントを提出してきました。
  そこで、会社の提出してきたシフト表が本当か否かについて検討し、次回までに反論を原告側が準備することになりました。

  この日の期日では、感動的な出来事もありました。裁判所を構成する裁判官が転勤等で交代したため、 改めて、裁判にかける原告清水さん本人の思いを、「意見陳述」 という形で述べてもらいました。
  「SHOP99から、異常な長時間労働がなくなるまで、私は諦めません。」 という清水さんの陳述は、裁判所の法廷中に響き渡り、 聞いている者を感動させずにはおかないものでした。

 今日の法廷では、裁判所から、双方に対し 「和解」 の打診がありました。次回は、法廷での裁判の後、和解協議が開始されます。 しかし、尋問前の和解ですから、そう簡単に原告側の要求が通るか予断を許しません。和解が成立しなければ証人尋問に進むことになると思われます。

  8月26日の期日の内容は以下のとおりです。
  まず法廷では、原告、被告双方ともそれぞれの言い分を主張した準備書面を提出した。
  被告側は、コンビニの店舗は2人のパートアルバイトがいれば十分に店舗を回すことができ、店長が3人目となって勤務することは必要ない、 原告があえてはたらいていたのは無意味であったという趣旨の主張を出していた。 そこで、店舗の実情、実際にいたパートアルバイトの経験、従前から組まれていたシフトの状況といった具体的事実に照らして、 店舗では3名勤務することが現実に必要だったという趣旨の反論を提出したのが原告側の準備書面である。
  被告側は、これを非難する内容の準備書面を提出したが、内容的には原告の主張事実を否定するだけで、新しい内容はない。
  これで双方の言い分はほぼ出尽くしたので、通常であれば証人尋問に突入する場面である。
  しかし、この段階で裁判所が和解協議を提案した。そのため別室に場所を変えて和解協議に入った。 和解協議は、裁判所の控える部屋に、原告側、被告側双方が呼ばれ、個別に話しをする。手続きとしても非公開となる。
  原告側は和解協議において、本件を和解するために要望することを問われ、被告側に、店舗被告側に、 店舗の店長であった原告が労基法41条2号にいう 「管理監督者」 ではなかったことを認め、原告に過酷な就労を強いたことを謝罪することを求め、 未払いの賃金や慰謝料等については、この要求に対する被告の態度を勘案して検討したい旨を述べた。 あわせて、原告としては健康状態の状態をみて復職を検討したい旨を述べた。 被告側が要望として何を述べたかは原告側には伝えられていない。   裁判所は双方の要望を聞いて、和解協議を続行することとし、この日の裁判が終わった。 

  9月30日は、第2回目の和解期日でした。
  被告会社側が管理監督者の問題をどうするか、原告の復職についてはどうか、原告の請求する金銭についてはいかなる内容を持つかの3点について、 回答を持ってくることになっていました。ところが、会社側が十分な回答を寄せなかったため、 和解は会社の検討状況を聞くという途中経過報告というような内容で終了しました。

  次回は、内容のある回答を持ってくるようにということが裁判所から会社に指示されました。
  ということで次回は改めて、会社側の検討を聞く機会となります。

  11月18日の期日では、原告に対し、「退職するという解決案はあり得るか、口外禁止条項についていかなる考えを持つか」 という裁判所からの質問がありました。 被告会社は、裁判所に、和解の条件を持ってきたようですが、内容が検討に耐えないのか、こちらにその内容は伝えられませんでした。 そのため、こちらがこちらとしての解決案を検討することになって終了しました。

  12月24日の期日では、原告側が解決案を提示しました。基本的には、「管理監督者でなかったことを認めよ」 「職場復帰を求める」 「口外禁止には基本的には応じない」 という内容を提示しました。被告会社は、それに応じられないという答えであったため、和解が決裂しました。

  2010年2月17日の法廷では、原告側は、2人の証人を申請しました。原告本人と、以前SHOP99でアルバイトしていたことがある人です。 被告会社側からは、原告の元の上司や同僚など、5人の証人の申請が期日当日になされました。
  裁判所の意向で、会社側からの承認申請が直前だったので、その要否や時間については検討するとして、原告側証人については採用する方向で検討し、 次回、会社側証人とあわせて証人の採否を決定する、原告側証人は採用する前提で尋問期日を決めておきたいということになりました。
  そこで、4月14日に最終的に尋問予定を決定し、原告側証人の尋問を6月2日に行うことが決定しました。 なお会社側は、原告側のアルバイトの人について、フランチャイズ店舗での就労であることを理由に、証人としての適格性に疑問があるという意見を述べました。

  4月14日の期日では、原告側が申請した、SHOP99の元店長の証人尋問、原告本人の尋問を次回6月2日に実施すること、 会社側の証人として、原告の上司、及び元部下のアルバイト2名という合計3名を採用し、8月4日に尋問を行うことが決定されました。

  6月2日の期日の内容
  原告清水さんと、清水さんと同時期にSHOP99の店長を務めていた方の証人尋問が行われました。
  元店長は、店長業務がいかに過酷なものであって、労働時間が長時間に成らざるを得ず、 権限としても裁量のないものであったのかについて詳細な証言をしました。 また、清水さんも、自身の過酷な就労実態、そして、それが心身を蝕んでいった経過を語りました。
  2人の証言によって、SHOP99の店長が、全くの 「名ばかり管理職」 である実態が余すところなく明らかになりました。

  2010年8月4日の期日の内容
  8月4日の期日では、会社側証人として2名の証人尋問が実施されました。1名は、原告清水さんの上司、 もう1名は、原告清水さんが店長として勤務していた当時アルバイトとして勤務していた者です。
  アルバイトをしていた者は、清水店長が店長として深夜勤務していたのを見ていたことが全くないと、清水さんのタイムシートが不正確であるかのように、 そして店長としての勤務にはそれほど多忙さがないかのように証言しました。 これに対し、原告側は、タイムシートの記録は正確に記載されていること等を示して弾劾しました。
  上司であった者は、店長業務が過酷なものではないこと、原告清水さんには十分な配慮をしてきたことを証言しました。 これに対し、原告側は、原告のタイムシートを見たにもかかわらず、契約上取ることが可能とされている夏休みを取るようにせよなどといった指示もしておらず、 全く配慮といえるような事実はなかったこと、店長に必要とされる業務の詳細を明らかにして業務は多忙にならざるを得ないこと、 アルバイトの人員が不足した場合、店長がシフトをカバーせざるを得ず、 店長には労働時間の自己決定の裁量などないことなどを詳細に反対尋問で明らかにしました。

  10月27日の期日の内容
  原告が店長として勤務した店舗の前任店長の証人尋問を行いました。

  その後の手続き
  裁判所から、再度和解協議を行いたい旨の連絡があり、和解協議が行われました。
  2月16日までに、数回、裁判所で和解条項を具体的に検討する協議が行われましたが、合意に至ることはできませんでした。

  2011年2月16日の期日の内容
  和解が決裂したため、この日、裁判所は訴訟の手続きを終了する、弁論終結手続きを行いました。
  これを受けて、判決言い渡しが行われることになりました。

2011年5月31日、地裁判決について
(1) 最大の争点である、「管理監督者」 論については、次のように述べました。
  管理監督者に労働時間法制が適用されないのは、「管理監督者が労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、 その職務内容、責任及び権限等の重要性に照らして、法所定の労働時間の枠を超えて事業活動をすることが要請され、 その勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にある一方、一般の労働者と比し、相応の賃金を受け取り、 また、自らの労働時間について厳格な規制を受けず、比較的自由な裁量が認められているなどの待遇面及び勤務実態を考慮すれば、 例外的に、労働時間等に関する規定を適用しなくても、過重な超時間労働を防止しようとした法の趣旨が没却されるおそれが乏しいことによるものと解される。 そこで、原告が管理監督者に該当するか否かの判断に当たっては、上記趣旨にかんがみ、当該労働者が職務内容、責任及び権限に照らし、 労働条件の決定、その他の労務管理等の企業経営上の重要事項にどのように関与しているか、勤務態様が労働時間等の規制になじまず、 また、自己の出退勤につき一般の労働者と比較して自由な裁量が認められているか、 賃金等の待遇が管理監督者というにふさわしいか否かなどの点について、諸般の事情を考慮して検討すべきものと解する」。

  原告はパートアルバイト(PA)のシフト作成や商品の発注等の権限を有していたが、PAの自給決定権、販促活動や取扱商品の決定権限がなく、 店舗内ですら、日常業務内容についてPAとの境界があいまいで、店舗運営において重要な職責を負っているとはいえない。 会社の経営方針に違憲を反映する機会もない。店長には出退勤につき自由な裁量があったとはいえない。 賃金は店長昇格後に受け取った賃金が、店長昇格前の賃金額を超えることはなかった。 以上の職務内容、責任、権限、勤務態様、賃金等の待遇に照らし、原告が管理監督者に当たるとは認められない。

(2) 原告の勤務に裁量が少なかったこと、原告に任された店舗は原告の経験からすると負担の少なくない店舗であったこと、 結果として原告の労働時間が超時間になったことに照らし、未払い期間が4ヶ月と比較的長期間でないこと、 被告が殊更賃金未払いを免れるようにしていたわけではないこと等の事情を考慮しても、付加金としておよそ5割の20万円の支払いを命ずるのが相当、 としました。

(3) うつ状態発症についての被告の責任については、次のように判示しました。
  原告のうつ状態の発症は、原告が長時間の労働時間に従事していたこと、それは生活リズムを破壊するものであること、 短期間に頻繁に店舗異動が8回行われたこと、原告に任された店舗は原告の経験からすると負担の少なくない店舗であったこと、 原告より経験豊富な店長経験者である証人も超時間労働と待遇の悪さを理由に退職していること等に照らし、 原告の業務との間に相当因果関係がある。被告は安全配慮義務を負っているのに、原告の就労実態を把握しているにもかかわらず、 特別な配慮をしたことがなく、かえって店舗の人件費を抑えるように指示をするなど、 逆により一層原告が長時間労働をせざるを得ないとの心理的強制を原告に与え、原告の申し出に真摯に対応していない。 これは安全配慮義務違反である。以上により被告は、債務不履行として慰謝料金100万円を支払うべきである。

  私たちの評価です。
  この判決は、管理監督者論など、従来の判例の枠組みを踏襲しつつ、事実を丁寧に認定したことによって、 非常に正当な判断をした判決であると評価できます。

  当方が主張した事実はほぼ認定しました。残業代の当方の主張金額と判決の金額が異なるのは、1日の中で休憩時間を算定すること、 法定休日の指定の仕方といった点で計算数値が異なってきたためで、当方の主張が認められなかったためではありません。 事実の詳細な認定の上にたった評価であり、その点を高く評価できます。 とくに、安全配慮義務及び病気と業務の因果関係については、この詳細な認定があることできわめて説得力があります。

  最大の争点であった 「管理監督者論」 について、日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決の考え方とほぼ同旨ですが、 法の趣旨に立ち返って極めてすっきりと解釈論が展開されている点が特徴的といえます。

  それから、付加金の支払いが命じられたのも特徴的です。付加金の支払いを命じるかは裁判所の裁量であり、支払いを命じられる例は少ない。 しかし今回支払いが命じられたのは、被告の行為の違法性が顕著で、悪質だからだと考えられます。

  判決には、会社の代理人弁護士も出席し、判決を受領しました。控訴期限は6月14日になります。会社が控訴するのか否か、その点が注目されます。

  いずれにせよ、原告の清水さんは、復職を希望されています。清水さんの復職がかなうまで、粘り強くたたかいを続けていきたいと思います。

【会社の反論の検討】
 「管理監督者」 とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場において、 同法所定の労働時間等の枠を越えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、 また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、 上記の基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがない者」 をいうと解釈されている。

  清水さんの場合、一店舗の管理者としての立場に過ぎず、しかもその職務のあり方も会社から厳しくマニュアル化されている状況であり、職務内容、 権限からして経営者と一体的立場になるようなものではなかった。 また、清水さんは店長時代のほうが一般社員時代より賃金が下がっており、一般労働者に比べて優遇措置が取られている事情もない。 清水さんが 「管理監督者」 でないことは明らかである。

【本件訴訟の意義】
  「管理監督者」 の意味をどのように理解するのかについて、従来の理解は、非常に厳格なものである。 法定の労働時間を超えたら、割り増しした残業代を支払う。それが、長時間労働をさせないための、労働法の大原則である。

  管理監督者は残業代は不要というのは、大原則の例外のルールなのだから、厳密にとらえなければならないのはいわば当然である。 今年1月の日本マクドナルド事件東京地裁判決は、そのことを明確に宣言するものであった。

  しかし、大企業側は、このような例外が邪魔で邪魔で仕方がない。もしこれが厳格に運用されてしまったら、 今まで 「名ばかり管理職」 として残業代を支給してこなかった労働者に残業代を支払わなければならなくなる。

  日本マクドナルド事件判決を覆すためにも、本件で、大企業側は、がっぷり4つの闘いを組むことにしたようである。 会社側には、経営側の名だたる弁護士が代理人に就任し、管理監督者に関する長文の反論を答弁書で提出してきた。

  以上のように、本件は、長時間労働を許さない労働法の大原則を守ることができるか否か、の大事件である。ぜひ多くの方にご注目いただきたい。

文責 弁護士 笹山 尚人