ジュゴン、アオサンゴを守れ〜辺野古・違法アセス訴訟
事件名:辺野古・違法アセス訴訟
事案の内容:沖縄防衛局長が現在進めている辺野古新基地建設のための環境影響評価手続は極めて杜撰であることから、
市民が、国を被告として、沖縄防衛局長には環境影響評価諸手続をやり直す義務があることの確認と、損害賠償を求める事件。
当事者:住民 344人 (第1次)+278人 (第2次) VS 国
係属機関:那覇地方裁判所民事第1部(田中裁判長)
事件番号:平成21年(行ウ)第10号、(ワ)第1467号
次回期日:9月16日(金) 午前10時30分〜 現地
次回期日の予定:現地での進行協議
紹介者:金高 望弁護士
連絡先:ヘリ基地反対協議会
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【事案の概要】
(1) 経過
1995年9月の少女暴行事件に端を発した沖縄県民の熱い想いは、危険な普天間米軍基地撤去を求める強い運動へとつながった。
日米両政府は、1996年12月、いわゆるSACO合意により、普天間基地の名護市辺野古沖合(辺野古沖海上案)への移設を決めた。
1997年12月の名護市民投票では、「新基地受入NO!」 という名護市民の意思が示された。
ところが、1998年2月の名護市長選では、「新基地建設の是非は、沖縄県知事の意向に従う」 と公約した岸本建男氏が当選し、
1998年11月の稲嶺惠一保守県政誕生を契機として、沖縄県及び名護市は、辺野古沖合の新基地建設を受け入れていく。
沖縄県民は、これに激しく抵抗した。市民運動は、日米両政府に辺野古沖海上案を断念させるという画期的な成果を生んだ。
しかしながら、2005年10月、日米両政府は 「未来のための変革と再編(中間報告)」 に合意し、新基地を辺野古沿岸に建設するという新計画を策定した。
2006年1月に当選した島袋吉和名護市長は、辺野古沿岸案反対を掲げて当選したにもかかわらず、
4月には、騒音低減のため(と称して)滑走路をV字に設置する 「V字案」 受入を表明、2006年11月には仲井真弘多が県知事に当選して、
保守県政が継続することとなった。その後、仲井真県知事、島袋市長は、騒音低減等を大義名分に、
日米両政府に対して新基地を沖合へ移動する計画変更を求めているが、基本的には新基地建設を受け入れるスタンスである。
(2) 辺野古の自然環境
辺野古崎沖海域及びその周辺は、奇跡的に良好な自然が残されている地域の一つである。
ジュゴンのような草食の大型海洋哺乳類が生息すること自体、辺野古崎沖海域及びその周辺の自然度の高さを示している。
辺野古崎沖海域にはリーフが存在し、リーフ内の一帯にはアマモ等(海草)が藻場を形成している。
海草の群落は、海の生物の産卵場であったり、稚魚が成長する場でもあったりして、海洋生態系の保全上も極めて重要である。
また、海草はジュゴン、ウミガメの餌ともなっている。そして、辺野古に隣接する大浦湾では、沖縄本島近海では死滅しかかっているテーブルサンゴ、ハマサンゴ、
ユビエダハマサンゴ、アオサンゴの群落が発見されている。
特に、アオサンゴの群落は、横30メートル、縦50メートル、高さ最大18メートルにもなる国内最大級のものである。
これらサンゴの群落は、新基地建設予定地から僅か4キロほどしか離れていない海域に広大に展開している。
辺野古崎沖の海域は、以上のような自然保護上の重要性に照らし、沖縄県の 「自然環境の保全に関する指針(沖縄島編)」 により、
評価ランクJの 「自然環境の厳正な保護を図る区域」 に指定されている。
(3) 環境影響評価手続
環境影響評価法は、事業者に対し、まず調査・予測・評価の手法を記載した方法書を作成し、
方法書に対する県知事意見を勘案するなどして環境影響評価を行うことを義務づけている。
ところが、那覇防衛施設局(2007年9月から沖縄防衛局)は、新基地の早期建設のため、2007年4月、辺野古沿岸案に基づく 「環境現況調査」 に着手した。
このようなやり方は、方法書作成手続を定めた法の趣旨を没却するものと強く非難された。
そして那覇防衛施設局は、2007年8月に方法書を公告・縦覧した。その内容は、新基地建設計画の概要すら明らかではない杜撰極まりないもので、
これでは手法の妥当性を検討することすらできないと厳しく非難された。
にもかかわらず、沖縄防衛局は、批判を無視して手続を押し進め、2009年4月、準備書を作成した。
さらに、沖縄防衛局は、準備書公告縦覧も、「環境現況追加調査」 なる名目で、従前と同じような調査を継続している。
「環境現況追加調査」 の結果も踏まえて評価書を作成し、複数年にわたり慎重に調査・予測・評価を行ったというアリバイ作りをしたいのであろう。
(4) 訴訟提起
環境影響評価手続そのものの是非を正面から問う裁判は、国内ではおそらく前例がない。
原告らの請求は、以下の4点である(被告は「国」)。
@ 沖縄防衛局長が、方法書の作成をやりなおす義務を負うことを確認する。
A 沖縄防衛局長が、準備書の作成をやりなおす義務を負うことを確認する。
B 沖縄防衛局長が、方法書作成後の追加・修正事項について、
環境影響評価法第5条から第27条までの規定による環境影響評価その他の手続をやり直す義務を負うことを確認する。
C 国家賠償(原告1人当たり1万円)。
@〜B は、行訴法上の実質的当事者訴訟を根拠としている。
@ 本件方法書は、環境影響評価法5条の要件を欠く瑕疵ある方法書であって、事業者である沖縄防衛局長は、法律に従った適正な方法書を作成する義務がある。
A 本件準備書は、同法14条の要件を欠く瑕疵ある準備書であって、沖縄防衛局長は、法律に従った適正な準備書を作成する義務がある。
B 2007年8月の方法書公告以降、幾多の事業内容の修正が加えられており、沖縄防衛局長は、
当該修正後の事業について方法書の作成から環境影響評価手続を全てやり直す義務がある(同法28条)。
という考えに基づく請求である。
また、C 国家賠償請求は、方法書ないし準備書に対して住民等が意見を述べることは、住民等の権利ないし法的に保護された利益であり、
杜撰なアセスによってこのような権利ないし利益を侵害されたとの考えに基づく請求である。
【訴訟の進行について】
(1)提訴
私たちは、8月19日に第1次原告344名で訴訟を提起し、10月20日には第2次原告278名の追加提訴を行った。
(2)弁論
第1回口頭弁論は、2009年10月21日に行われた。
現在までに12回の口頭弁論が行われた。次回は、現地での進行協議。2011年9月16日午前10時30分からの予定。
政治情勢等
2009年8月に行われた衆議院議員総選挙の結果、民主党を中心とする連立政権が誕生したが、沖縄県内では、4つの選挙区全てで、
辺野古新基地建設反対を公約とする候補が当選し、自公候補者は全て敗北、比例復活も許さなかった。
政権発足にあたり、3党は、「沖縄県民の負担軽減の観点から、・・・米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む。」
との合意文書を交わした。
2010年1月の名護市長選では、辺野古移設反対の姿勢を明確にした稲嶺進が当選し、現行案の推進は事実上困難になった。
そうであるにもかかわらず、政府案は迷走に次ぐ迷走の末、辺野古に回帰し、2010年5月28日には日米共同声明によって、
「オーバーランを含み、
護岸を除いて1800メートルの長さの滑走路を持つ代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置する意図を確認した」。
同年8月23日には、ルース駐日米大使が北澤防衛相の日本側説明飛行経路維持を求める要請を拒否し、
米側は従来の日本政府の説明よりも陸上部に近い空域を飛ぶとの見解を表明し、
日本が想定した飛行経路に基づく環境影響評価は実態にそぐわない机上の空論に過ぎないことが明らかになった。
同年8月31日には、滑走路を2本とする案(V字案)と1本とする案(I 字案)の2案を併記した日米の専門家による検討結果報告書が公表された。
両案の飛行経路と、自衛隊による共同使用については同日までに日米両政府間で意見が一致せず、協議を継続するとして明記されなかった。
さらに、同年9月には、日米両政府の閣僚レベルから、普天間代替施設へのオスプレイ配備が予定されていることを認める発言が相次いだ。
オスプレイ配備計画は、米側の各種資料から存在が明らかであったのに、従前の日本政府はこれをひた隠しに隠してきたところである。
普天間基地のヘリ部隊は、グアムに移転することになり、代替施設は不要である。
このことは、普天間基地を抱える宜野湾市の伊波洋一市長が客観的な資料に基づいて明らかにしている。
県内に新基地を求めるのは、もはや日米両政府が沖縄に対して持っている 「既得権」 にしがみついているものとしか評価できない。
他方で、環境影響評価法は、施行から10年の見直し時期を迎えている。民主党の2009年衆院選マニュフェストには、
「環境影響評価制度の充実」 も挙げられていた。
にもかかわらず、先日閣議決定された改正案は、小手先だけのマイナーチェンジにすぎないものである。
この間、沖縄はアセスラッシュで、辺野古新基地建設のほか、新石垣空港建設などの場面で、法を骨抜きにしたアセスが繰り返されてきた。
方法書手続きに先立つ調査着手や、方法書作成後の事業の修正・追加など、共通の問題点が多い。
また、事業者がどんなに杜撰なことをしても、住民らがストップをかけることができない現行法の問題点も浮き彫りになってきている。
閣議決定された改正案は、このような杜撰なアセスに歯止めをかける内容になっていない。
本訴訟は、様々な意味でタイムリーなものと言える。何としても辺野古新基地建設計画を断念に追い込み、
また、環境影響評価法改正議論にも一石を投じるような訴訟活動を引き続き展開していきたい。
文責:弁護士 金高 望
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