2010.9.8

憲法9条と日本の安全を考える

弁護士 井上正信
目次  プロフィール

新安保防衛懇報告書を読み解く 2

一 新安保防衛懇報告書の安全保障環境への認識
 16大綱が示している安全保障環境がどのように変わったのか
  まず、新安保防衛懇報告書の安全保障環境への認識から分析したいと思います。16大綱の安全保障戦略を見直すわけですから、 新安保防衛懇報告書が、16大綱が示している安全保障環境がどのように変化した(しようとしている)と認識しているかを、見ることにしましょう。

  「はじめに」 で、冷戦後の安全保障環境の特徴として、地域紛争、破綻国家、大量破壊兵器の拡散、テロ、 海賊(非伝統的脅威と称しています)などを指摘しています。これは16大綱が冷戦後の安全保障環境の特徴として指摘している、 「新たな脅威や多様な事態」と同じといってよいでしょう。「はじめに」 は、これに続いて、「これからの変化、 とりわけ新興国の台頭によるパワーバランスの世界的、地域的変化を考えれば、日本を巡る安全保障環境は重要な変動期に入ったと言える。」 と述べているように、この認識が新安保防衛懇報告書を貫いています。 しかもこの変化は、「日本の安全保障政策と防衛政策をタブーなく再検討し、承継すべきは承継し、見直すべきは見直す」 (「はじめに」) と述べるように、とても大きな変化というのです。 確かに、「新安保防衛懇報告書を読み解く 1」 で述べたように、 安全保障・防衛政策を規定してきた憲法原則をことごとく見直そうとしています。 本当にそのような大きな変化と言えるのかを含めて検討しなければなりません。

 日本をとりまく安全保障環境への認識
  新安保防衛懇報告書第一章第2節がこれへあてられています。グローバルと日本周辺地域及び重要地域に分けて記述しています。 グローバルな安全保障環境の変化では、第一の特徴として、グローバル化が脅威を国境を越える性格にしたことと、 その結果、自国だけでは平和を維持することは不可能である、主要国間の戦争の蓋然性は大幅に低下したが、明白な戦争ではなく、 主権、領土、資源、エネルギー等について、「平時と有事の中間領域」 に位置する紛争が増大する傾向と述べています。 「平時と有事の中間領域」 は、新安保防衛懇報告書を読み解くキーワードの一つです。 しかし、この特徴が16大綱以降に出てきたとはいえません。このようなことはそれ以前からあったことです。 私には、中国との海洋資源をめぐる問題や領土問題、中国海軍のプレゼンスの増大を強く意識しているのではないかと思えます。 ただ、新安保防衛懇報告書は安保防衛懇報告書とはかなり異なって、あからさまな中国脅威論は控えています。

  第二の特徴として、世界的なパワーバランスの変化を挙げます。これには二つの側面があります。 米国の力の相対的な低下と、ブラジル・ロシア・インド・中国(いわゆるBRICs)等新興国の台頭です。

  第三の特徴として、大量破壊兵器(WMD)とその運搬手段の拡散(弾道ミサイル・巡航ミサイルのこと)を挙げます。 これが新しい安全保障環境の特徴であるかは疑問です。むしろ冷戦後の安全保障環境の一般的特徴として指摘されてきたことです。 新安保防衛懇報告書のこの部分(6頁)を読むと、あえて特徴とした意味が理解できます。 それは、オバマ政権の核軍縮イニシャチブと中国の核戦力の増強を指摘しながら、核兵器の役割縮小という流れの中で、 WMDの使用をいかに抑止するかが重要との問題意識を述べているからです。 おそらくこの認識から、非核三原則の見直しなど、日本の核政策への提言となるのではないかと推測します。 私は、非核三原則見直しなど日本の核政策の提言をするため、第三の特徴を、あえて強調したのではないかと想像しています。

  第四の特徴として、地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪をあげますが、これは、冷戦後の安全保障環境の特徴として、 16大綱が指摘していたことですから、引き続き重要な特徴というのでしょう。ここでは 「人間の安全保障」 を重要な課題としています。 しかし、あえて特徴のひとつに挙げた理由は、新安保防衛懇報告書が防衛力のあり方を述べた第二章で、 グローバルな安全保障環境の改善という役割のうち、最初に 「破綻国家・脆弱国家支援、国際平和協力業務への参加等」 を挙げていること、 そのために、PKO五原則の見直しと、自衛隊海外派遣恒久法制定を提言していることから、この提言へ結び付けようということではないかと推測します。

  日本の周辺地域、重要地域の安全保障環境として、最初に、米国の抑止力の変化をあげています。 グローバルな安全保障環境で、米国の力の相対的低下を述べていますが、その周辺地域版です。 米国の力の相対的低下という認識は、安保防衛懇報告書と共通しています。 安保防衛懇報告書は、そうであるから、日米同盟の運用において、日本の主体的な役割を強調するのです。 この点では、新安保防衛懇報告書も同じ認識です(7〜8頁)。

  日本周辺地域の安全保障環境の特徴として、新安保防衛懇報告書は、朝鮮半島、台湾海峡、北方領土問題等の未処理の問題や、 冷戦の遺構が残存すると述べていますが、総体的な認識としては、安保防衛懇報告書が、中国の脅威を強調することと対称的に、 これらの脅威論には言及せず、逆に台湾海峡における軍事的緊張は低下したと述べるように(8頁)、 両国の戦略的互恵関係を増進させようと提言します。この認識は、「第二章防衛力のあり方」 において、 「予想される将来、日本の国家としての存立そのものを脅かすような本格的な武力侵攻は想定されないと判断」 したことへもつながるのでしょう。 この点がおそらく16大綱や安保防衛懇報告書と最も違いの大きいところです。

  日本周辺地域に残っている不確実性とパワーバランスの変化として、北朝鮮、中国、ロシアの三カ国について述べています。 安保防衛懇報告書も 「日本周辺の安全保障環境」 として、この三カ国に言及しています。 しかし内容のニュアンスは明らかに異なると思います。安保防衛懇報告書では、北朝鮮の脅威、中国に対する懸念や台湾海峡の不確実性について、 実に詳細に論じています。北朝鮮では27行、中国では34行もあります。ロシアについては21行あります。 新安保防衛懇報告書では、北朝鮮に関して9行、中国に関して25行です。ロシアにいたっては4行です。

  日本にとっての重要地域として、シーレーンとその周辺地域を挙げています。この地域の安定は重要な国益と位置づけています。 具体的には、中東から日本の間の石油輸送ルートです。その周辺諸国には台頭する新興国、破綻国家、 国際テロ等の諸問題を抱えている国々があると述べています。国際平和協力活動強化を提言する背景です。 そして国際平和協力活動は、外交・安全保障政策が基づくべきアイデンティティーとして、「平和創造国家」 を体現するものと位置づけられます(11頁)。 それは国家の有様として、冷戦期の受動的な姿勢とは異なって、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で、 積極的に活動する国を目指すものです。16大綱でもこの路線は出ていたものです。 日本の安全保障戦略の目標として、わが国の防衛と国際的安全保障環境の改善の二つを挙げたのですが、 新安保防衛懇報告書は、これを不十分と評価しているのでしょう。 これが、基盤的防衛力構想を時代遅れと排斥し、専守防衛政策を事実上見直そうとする提言の背景となるのです。

二 安全保障戦略
 安全保障戦略
  第一章が安全保障戦略です。安全保障戦略の基本的目標として、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定と繁栄、 自由で開かれた国際システムの維持という三つを挙げました。16大綱が日本の防衛、国際的安全保障環境の改善という二つを掲げたことと比べ、 より詳細に定義し、「地域的アプローチ」 が明確な位置づけがなされていないという16大綱の欠点を補うため、 日本周辺地域の安定と繁栄を掲げているのでしょう。

  新防衛問題懇談会報告書は、上述した安全保障環境への認識を踏まえて、以下のような安全保障戦略を提言します。
  まず、安全保障戦略全体を貫くアイデンティティとして、報告書の副題にもなっている 「平和創造国家」 という新しい概念を提言しています。 「平和創造国家」 とは、「国際社会に存在する様々な脅威やリスクを低減するために行動することによって、日本が国際社会における存在価値を高め、 同盟、協調関係、さらにはもっと広く外交力を強化することによって、日本自身の防衛力と相まって、自国の安全保障目標を実現しようとする」 (11頁) と定義しています。「平和創造国家」 は、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢にします。

  このような新しい 「平和創造国家」 という概念を導入する背景には、予想される将来、 日本に対する本格的な武力侵攻は想定されないという認識があります(18頁)。 さらに、基盤的防衛力構想が時代遅れとして排斥し、専守防衛政策を事実上見直すなど、 9条に関する憲法政策を見直すことになります (新安保防衛懇報告書を読み解く 1)。 防衛政策としては、自衛隊の任務を日本防衛から国際平和協力活動へ大きくシフトさせることになります。

  安全保障戦略目標を実現するために、日本自身の取り組み、同盟国との協力、「多層的な安全保障協力」 という三つのアプローチを掲げます。

 日本自身の取り組み
  まず、日本自身の防衛力を整備し、抑止力を発揮することの重要性を強調します。米国が核兵器の役割を縮小しようとしているので、 通常戦力の分野での日本独自の取り組みの重要性が増していると指摘しています。この点は、事実上の敵基地攻撃能力保有検討の提言と併せ、 武装自立論という軍事的ナショナリズムの兆しではないかと懸念しています。
  冷戦終結後軍事力の役割が多様化(非戦闘的役割の増大など)し、軍事力が、同盟、友好関係を確認、増進する基幹的手段になり、 「平和創造国家」 として、防衛力を積極的に活用することが不可欠とし、基盤的防衛力構想を時代遅れと断じています。

 同盟国との協力
  日米同盟が日本外交の大きな支えと評価し、日米防衛政策見直し協議(DPRI 米軍再編協議のこと)の合意内容を実行することの重要性を強調します。 その意味で、新安保防衛懇報告書は、日米同盟基軸論に立っているともいえます。どのような方向で実行するかといえば、 米国の力の相対的な低下から、より一層米国を補完するという方向です。「(2)日米間の役割分担の考え方」 にその点が記述されています。

  「米国による拡大抑止」 という項目を設けました。そして、特に核兵器による拡大抑止力の重要性を強調し、拡大(核)抑止力の有効性を担保するため、 日米間の緊密な協議を提案します。その観点から、非核三原則は 「当面」 改める情勢にはないとしながらも、 「一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない。」 として、見直しに向けた検討を求めています。

  思いやり予算は、在日米軍の安定的駐留を支援すると述べたり、負担軽減の努力を継続するとしながらも、沖縄の地政学的位置から、 総合的に判断すべきと述べ、在日米軍駐留の負担を求めたり、沖縄の負担軽減に消極的な姿勢を示しています。

 多層的な安全保障協力
  「地域的アプローチ」 はここで言及します。紛争解決に主要国間の協調的秩序構築が重要と述べ、これにより、グローバル、地域の安定確保、 国際システム維持につとめるとします。

  主要国とは、まず米国の同盟国(韓国、オーストラリアなど)を挙げます。これに、米国の友好国を挙げ、これらを安全保障協力のパートナー国として、 安全保障上の協力を推進すると提言します。また、NATO諸国やインドとの協力強化も提言します。 次に、日本周辺の新興国である中国、ロシアへの積極的関与政策を提言します。さらに、多国間安全保障枠組みの構築と活用として、 ASEAN地域フォーラム(ARF)の重要性を強調し、ASEAN+3、東アジアサミット、日中韓サミットの活用、日米韓、日米豪などの協力関係を基礎として、 地域的安全保障の枠組みを多層的に形成することを提言します。

  この関係で、新安保防衛懇報告書には、北朝鮮問題がすっぽりと抜けていることに驚かされます。 新安保防衛懇報告書は、北朝鮮の国家体制、核・弾道ミサイル開発、特殊部隊による活動が、日本と北東アジアに直接的な脅威と断定しています。 そうであれば、安全保障戦略において、北朝鮮の脅威に対してどのように向き合うのかを提言しなければなりませんが、 第一章、二章のどこにも北朝鮮政策は登場していません。あれだけ北朝鮮の脅威を強調し、弾道ミサイル防衛を導入したり、 周辺事態法や有事法制を制定する理由にしたのではなかったのか。「六者協議」 という言葉すらありません。 2005年9月共同声明、2007年2月合意文書では、北朝鮮核開発解決のプロセスの中で、 6カ国による北東アジア地域的安全保障の枠組み協議を行うことまで合意されているのです。 新安保防衛懇報告書の 「多国間安全保障の枠組み構築と活用」 という項目の中に、このことへの言及が全くないということは、 懇談会メンバーにも日本政府にも、一貫した北朝鮮政策が存在しないことを示しているのではないでしょうか。 このことは、防衛問題懇談会報告書も同じです。

 国連・グローバルレベルでの努力
  グローバルレベルでの安全保障環境改善のため、国際平和協力活動へ積極的参加を求めます。 グローバルな課題の一つに、大量破壊兵器の軍備管理・不拡散を挙げますが、究極的な核兵器廃絶までの過程において、 米国の拡大抑止力が低下することのないよう留意すると、わざわざ述べています。核兵器廃絶へのイニシャチブをとろうとする姿勢は全く感じられません。
  国際平和協力の文脈の中で、武器輸出三原則見直しを提言しますが、何かへりくつのような感じを持つのは私だけでしょうか。

 多層的な安全保障協力(日米同盟の位置づけに関して)
  防衛問題懇談会は、新しい安全保障戦略として、「多層協力的安全保障戦略」 という新しいネーミングを提唱しました。 新安保防衛懇報告書の多層的な安全保障協力とはどう違うのでしょうか。
  多層協力的安全保障戦略とは、安保防衛懇報告書が打ち出した安全保障戦略のネーミングです。 それは、安全保障戦略の目標として、日本の安全確保、脅威の出現防止、国際システムの維持・構築の三つを挙げて、 これを、日本自身の努力、同盟国との協力、地域における協力、国際社会との協力という4つのアプローチを組み合わせるものです。 しかも、三つの目標とそれへの4つのアプローチは、それぞれ重複している部分が多く、完全に区分できないことから、 4つのアプローチをシームレスに連携、機能させることが重要として、多層協力的と表現したのです。 防衛問題懇談会報告書を読むと、多層協力的安全保障戦略における日米同盟の位置づけが、シームレスに連携、 機能させるべきアプローチの一つになっているにすぎません。
  防衛問題懇談会報告書が、米国の力が相対的に弱まるという認識を示し、日米同盟における日本の軍事的役割の増大や、 敵基地攻撃能力保有能力の検討を提言することから、私は、防衛問題懇談会報告書は、 将来の日本の武装自立に傾斜しようとしているのではないかと懸念を持ちました。

  新防衛問題懇談会報告書では、多層的な安全保障協力は、地域及びグローバルな協力というアプローチを意味しており、同盟国との協力の後に出てきます。 しかも、地域における協力では、米国の同盟国や友好国と協力すると述べています。 米国の同盟国とは協力しやすく、その基盤もあるからです。言い換えれば、日米同盟を中心円に描き、 その外縁にパートナー国との協力を持って来るという図式です。その意味で、新安保防衛懇報告書は防衛問題懇談会報告書よりも、 日米同盟基軸論を明確にしているのかもしれません。

三 防衛力のあり方
 第二章が防衛力の在り方です。ここでは、基本的な考え方として、基盤的防衛力構想を見直し、新たな防衛力の在り方を提言します。 基盤的防衛力構想は、部隊・装備の規模に着目した 「静的抑止力」 の考え方であったが、軍事技術の発展で、装備の質による戦闘能力の優劣が顕著になり、 新しい脅威は、事態が生起するまでのウォーニング・タイムが短くなり、抑止が有効に機能しないことから、即応性と部隊運用能力が重要となるため、 高い運用能力を兼ね備えた 「動的抑止力」 が重要であるとします。

  基盤的防衛力構想では、仮想敵の持つ軍事力に対応した軍事力を構築するという 「所要防衛力構想」 ではなく、 「限定的且つ小規模な侵略までの事態に有効に対処しうる」 防衛力を構築するものです。 では、これが前提としている情勢に大きな変化が生じて、前提が崩れた場合どうするかといえば、基盤的防衛力構想は、 新たな事態へ円滑に移行できる中核となる能力でもあるというのです(エクスパンション論)。 その場合、移行期のタイムラグから事態に十分対応できないリスクが出てきます。ウォーニングタイムが短くなれば、この防衛構想では対応できないことから、 基盤的防衛力構想は時代遅れだと判断したのでしょう。

  新安保防衛懇報告書が基盤的防衛力構想を時代遅れと判断したのは、 予想される将来、日本に対する本格的武力侵攻は想定されないと断定したこともその重要な背景です。 それに代わり、弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃、特殊部隊・テロ・サイバー攻撃、離島・島嶼部の安全確保、在外邦人救出、周辺事態などの多様な事態や、 これらが複合的に発生する事態、その他大規模災害・パンデミック(感染症の爆発的流行)に軍事的に対処するため、 即応性が高く、信頼性の高い、動的抑止力の構築の重要さを強調します。 このことは既に16大綱で方向性を示していたことですが、16大綱はまだ 「基盤的防衛力構想の有効な部分を承継する」 と、不徹底な部分を残していたので、 今回明確に決着を付けようとしています。

 防衛力の役割では、16大綱は、@ 新たな脅威や多様な事態への対応 A 本格的侵略事態への対応  B 国際的安全保障環境の改善を挙げました。新安保防衛懇報告書は、@ 多様な事態への対応 A 日本周辺地域の安定確保  B グローバルな安全保障環境の改善を挙げています。@ と B は同じですから、 本格的侵略事態への対応がなくなり、周辺地域の安定確保に入れ替わったことが新しい内容です。 この違いは、地域的アプローチの位置づけが不十分という16大綱の欠点を補充し、 日本に対する本格的武力侵攻は想定されないとの情勢認識が反映したと言えます。

  防衛力の役割は、上記三つの分野で規定しています。「多様な事態への対応」 では、 16大綱の「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」 とほとんど同じです。 ただ、弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃に対して、事実上敵基地攻撃能力の保有の検討を提言している点は、 「読み解く1」 で述べたとおりです。
  在外邦人救出任務は、16大綱では登場していません。また、16大綱や防衛問題懇談会報告書で 「本格的な武力侵攻への備え」 を挙げていたのですが、 これに代わり、「日本周辺の有事」 を挙げています。防衛力の役割として、A 本格的侵略事態への対応を落として、 A 日本周辺の安定確保を挙げたことに対応します。
  「多様な事態への対応」 では、弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃と周辺事態への米軍支援以外には、 日米同盟に関する記述がないので、これらの役割は、日本独自のものという認識と思われます。
  「日本周辺地域の安定の確保」 では、日米安保体制下での日米防衛協力が最も重要な要素と規定します。 韓国とのACSA協定締結を求めるなど、オーストラリア、韓国との軍事的関係の緊密化の重要性を強調します。 安保共同宣言を出したインドとの関係強化も重要としています。 「地域的安全保障枠組みへの取り組み」 の内容は、防衛問題懇談会報告書の内容とほとんど同じです。

  注目すべきは、防衛省が地域的安全保障の枠組み構築へ積極的に参加し、地域の平和と安定に貢献すべきであると提言していることです。 16大綱で、防衛力を安全保障の手段として有効活用する路線を打ち出し、 さらに、新安保防衛懇報告書でその路線を徹底させようとしています(基盤的防衛力構想を時代遅れとしたことなどはその一つです)。 その結果、防衛省は、安全保障政策を担う政策官庁に脱皮しようとしているのです。
  国内法制では、既に2006年12月に自衛隊法が改正され、同法第3条改正により、自衛隊の海外活動が本来任務に格上げされ、 同時に、防衛庁設置法が改正され、防衛省となっています。私は当時この改正により、防衛省が政策官庁となり、 外務省と並んで安全保障政策の主管官庁になると書いたことがあります。新安保防衛懇報告書を読むと、このことが一層明確になってきたと思います。 防衛省が安全保障政策の主管官庁となれば、日本の外交、安全保障政策において、軍事的色彩が強くなるでしょう。9条改憲への下地が形成されます。

  「グローバルな安全保障環境の改善」 の内容は、安保防衛懇報告書とほとんど同じですが、 この分野こそが 「平和創造国家」 という日本のアイデンティティを発揮する分野ですから、記述量は二倍になっています。

  次号は、新防衛問題懇談会報告書が提言している安全保障戦略、防衛力の在り方について、私の抱いている問題意識や批判を述べて、締めくくりとします。