2011.12.1

憲法9条と日本の安全を考える

弁護士 井上正信
目次  プロフィール

日本版NSCと秘密保全法制

 11月10日朝日新聞に、野田内閣が、外交安全保障の司令塔となる日本版NSC作りに着手した、との記事が出ていました。 11日の時事通信(電子版)では、民主党は10日の内閣部門会議で、 日本版NSC創設を目指す 「インテリジェンス・NSC作業チーム」 設置を決めたとの報道がなされています。 作業チームは、国家機密漏洩を防ぐための 「秘密保全法(仮称)」 も検討し、来年2月をめどに報告書を提出するとのことです。

  日本版NSCの創設に秘密保全法制がなぜ関わるのでしょうか。これには、自公政権時代からの深い関係があると思われます。

 NSCとは国家安全保障会議のことで、米国で1947年に国家安全保障法により設立されました。 公式メンバーは大統領、副大統領、国務、国防各長官、統合参謀本部議長です。 国家安全保障問題担当補佐官は、公式メンバーではありませんが、NSCスタッフの長として、また、大統領の安全保障問題での側近として、 国家安全保障会議で重要な役割、影響力を有しています。NSCの役割は、安全保障政策、軍事政策についての政策調整や大統領への諮問です。

 日本版NSCについては、このコーナーで7月29日にアップした 「原点回帰した自由民主党」 で、 「国家安全保障会議の常設は、安部首相が執念を燃やしたものです。形骸化した安全保障会議に代えて、 米国の国家安全保障会議(NSC)をモデルに安保防衛政策で首相を中心とした官邸機能を強化し、 首相官邸とホワイトハウスとが常に意思疎通をできるようにすることを狙ったものです。 2006年4月に法案(安全保障会議設置法改正法案)を国会へ提出しました。 しかしながら、肝心の安倍首相が2007年9月に首相の座を投げ出して辞任したことや、国会のねじれから成立の見込みがたたず、 2007年12月福田内閣は廃案にすることを決定しました。」 と述べました。

 日本版NSC創設は、安倍元首相の個人的な強い思い入れでも、自民党固有の政策でもないと思います。 以下に説明するように、これには強い国家意思が背景にあり、政権交代でもそれはいささかも揺るがないものであることを示しています。 ではそれはどこから出てきたのか。直接的には日米同盟強化・深化を合意した日米防衛政策見直し協議のプロセスと考えています。 2005年10月 「日米同盟:未来のための変革と再編」 で、日米同盟を強化するため、「部隊戦術レベルから戦略的な協議まで、 政府のあらゆるレベルでの緊密かつ継続的な政策及び運用面の調整を行う」、 「部隊戦術レベルから国家戦略レベルに至るまで情報共有及び情報協力をあらゆる範囲で向上させる。」 ことを合意しました。

  日米両政府が、国家戦略レベルでの安保防衛政策を緊密に調整するため、ホワイトハウスのNSCに匹敵する日本版NSCが必要となったのでしょう。

 安倍内閣ができる直前の2006年6月22日、 自民党政務調査会の中に作られた 「国家の情報機能強化に関する検討チーム」 の提言が出され、安全保障会議と並ぶ閣僚級の 「情報会議」 設置、 内閣情報会議の下に内閣情報委員会を設置し、内閣情報室が事務局になり、内閣情報委員会が、各省庁の情報部門が参加する情報コミュニティーを担う、 対外情報機関(日本版CIA?)を新たに組織する、罰則規定を含む秘密保護法制を制定する、等を提言しました。

 安倍内閣の下で、官邸内に 「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」 を設置し、2007年2月27日報告書を出しました。 外交、安全保障政策を立案推進するため、内閣の司令塔機能を強化するとして、現行の安全保障会議の機能を吸収して、 新たに国家安全保障会議を創設する、国家安全保障問題担当総理補佐官を常設する、政策部門と情報部門との連接を強化する、 厳しい罰則を定めた秘密保護法を制定する、等の提言を行いました。

 自公政権最後の内閣となった麻生内閣は、2009年12月に16大綱に代わる新防衛計画大綱を策定しようとしていました。 そのために、自民党国防部会防衛政策検討小委員会は、 新防衛計画大綱の内容へ反映させるため 「提言・新防衛計画大綱について」(2009年6月9日)をまとめました。 そこでは、「情報体制の強化」 として、「国家の情報機能強化に関する検討チーム」 の提言が丸ごと取り入れられ、 「安全保障戦略を推進するための体制強化」 として、安全保障会議の機能を吸収した 「国家安全保障会議(日本版NSC)」 の新設、 情報保護法制の制定(「主要情報の適切な管理に関する法律」 という名称まで例示する)などを提言しました。

 民主党外交安全保障調査会は、2010年11月30日 「『防衛計画大綱』 見直しに関する提言」 を作成し、 その中で、安全保障・危機管理における官邸機能の強化及びインテリジェンス体制の充実を打ち出し、情報保全と秘密保護法制制定が重要としました。 菅内閣が策定した新防衛計画大綱(2010年12月)は、「政府横断的な情報保全体制を強化する」、 「官邸に国家安全保障に関し関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言等を行う組織を設置する。」 として、日本版NSCを創設することを決定しました。 新防衛計画大綱閣議決定の直前に、内閣府の中に官房長官をトップにした 「政府における情報保全に関する検討委員会」 第1回会議が開かれました。 そこで設置されたのが、「秘密保全の法制の在り方に関する有識者懇談会」 でした。 この有識者懇が秘密保全法制を提言し、政府は来年の通常国会へ秘密保護法案を提出しようとしているのです。 有識者懇報告書は以下のURLでご覧下さい。

 以上のような大きな流れを見ると、日本版NSC創設、 内閣の情報機能強化と秘密保護法制は三点セットで押し進められてきたこと、政権交代でもその流れはいささかも変わっていないことが理解できると思います。

  秘密保護法制は、決して尖閣諸島での中国漁船衝突のビデオ流出などの些末な問題から出てきたものではありません。 日米同盟に源流を発した強い国家意思が働いていると思います。26年前にいわゆる 「スパイ防止法案」 が国会へ提出され、 日本弁護士連合会をはじめ多くの法律家団体や、市民団体などの強い反対運動が起こされて結局廃案となり、法案修正の動きもあるも、 再提出させることを防ぎました。このときは、右翼団体などが地方議会で 「スパイ防止法」 制定の意見書を採択させる運動を起こし、 一部の右翼国会議員が議員立法として国会へ提出しました。

  しかしながら今回の動きは、用意周到に積み重ねられてきた国家意思が推進力になっていることは明らかです。 有識者懇報告書を作成する過程で、内閣府の検討委員会の事務局は、秘密保護法制制定に関して関係省庁へ意見照会を行い、 それを踏まえて有識者懇報告書案を事務局が作成したことが分かっています。 私がいつも安全保障・軍事政策に関する貴重な情報を得ている軍事問題研究会が情報公開で入手した意見照会文書は、 1,247枚もあり、内容は黒く塗りつぶしてあるとのことです。まさに、政府を挙げた取り組みとなっているのです。

  ここが26年前と大きく情勢が異なる点です。日本弁護士連合会は、有識者懇が提言する秘密保全法制に対して、反対の意見書を提出しました。 私も意見書作成に加わりました。意見書は、秘密保全法制制定の理由、必要性がないこと、国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど、 憲法上の諸原理と正面から衝突すること、保護されるべき 「特別秘密」 が無限定で曖昧な概念であること、国民が知るべき情報が隠されること、 罪刑法定主義等刑事法上の基本原理と矛盾抵触すること、公開の裁判を受ける権利、弁護を受ける権利を侵害する等を指摘し、 秘密保全法制の制定には反対であることを明確にしました。意見書は以下のURLでご覧下さい。

10 国会では衆参両議院で憲法審査会が動き始めました。 秘密保全法制はそれ自体が憲法の国民主権と民主主義原理、基本的人権の保障、憲法9条の平和原則に反する立法です。 明文改憲への大きなステップになるでしょう。それに引き替え、まだこの問題を多くの方はご存じありません。 今の国会の現状を見ると、法案提出後一気に進む可能性があります。 多くの方にこの問題を知っていただき、9条や憲法改正に反対している個人・団体から反対の声を挙げてください。 私もこのコーナーで随時新しい情報を紹介したり、私の意見を述べるつもりです。

  ・秘密保全法制に関する有識者懇談会報告書
  ・日弁連パブコメ意見書