2012.11.9

憲法9条と日本の安全を考える

弁護士 井上正信
目次  プロフィール

ガイドライン見直しと集団的自衛権

 11月7日朝日新聞(大阪本社版)に、「日米指針見直し、来月協議へ」 という小さい記事が出ています。 97年9月に策定された日米防衛協力の指針(いわゆる新ガイドライン)を見直そうというものです。 私はすぐに 「動的防衛協力」 と集団的自衛権の行使容認との関連を思い浮かべました。

 日米防衛協力の指針とは、安保体制下での日米両部隊の軍事的役割分担を決めるものです。 言い換えれば、日米共同作戦計画の青写真とも言えます。78年11月に最初の指針が合意されましたので、97年9月の指針を新ガイドラインと呼びます。 旧ガイドラインが合意された同時期に、福田内閣は有事法制の研究を閣議決定しました。 旧ガイドラインに基づき、日米両部隊の共同訓練が始まり(米海軍と海上自衛隊だけはそれ以前から行っていた)、共同訓練を積み重ねながら、 日米共同作戦計画が作られてゆきます。しかし、旧ガイドラインは日本有事における日米両部隊の軍事的役割分担の合意に止まっていました。

 新ガイドラインは、冷戦体制崩壊後の新たな情勢の下で、アジア・太平洋地域での日米の防衛協力を合意するものでした。 日本側はそれを実行するために、周辺事態法、周辺事態船舶検査法を制定しました。しかし、これはあくまでも個別的自衛権行使の防衛法制です。 そのため、自衛隊ができる協力は後方地域での限られた兵站支援に止まり、危なくなれば活動を中断または撤退するという仕組みでした。 周辺事態とは、第二次朝鮮戦争と台湾海峡をはさんだ中台武力紛争を想定していました。 自衛隊によるこのような後方支援活動は、安保条約第5条(日本の施政権下の領域にある日米いずれか一方に対する武力攻撃事態)ではなく、 第6条(極東の平和と安全に寄与するための在日米軍基地の使用)でもありませんので、事実上の安保条約の改定ともいわれました。

  新ガイドラインの下で、第二次朝鮮戦争を想定した米韓連合作戦計画(OPLAN5027)を支援するための、 日米共同作戦計画(CONPLAN5055)が2001年9月に策定されました。

 その後取り組まれた日米防衛政策見直し協議(米軍再編協議)や米軍再編見直し協議により、日米同盟が強化されて、 新たな日米両部隊の役割、任務、能力を目指そうとしています。 それが、2012年4月27日2+2と5月1日日米首脳会談で登場した、「動的防衛協力」 なのです。 「動的防衛協力」 が、平素から情勢緊迫時、有事の各段階で日米が共同で行う「情報収集、警戒監視、 偵察」 という集団的自衛権行使の態勢であるということは、このコーナーの2012年6月1日 「米軍再編見直しと憲法9条」 をお読み下さい。

 ではなぜ新ガイドライン見直しなのか。 日米防衛政策見直し協議で合意された日米両部隊の役割、任務、能力の内容は、 2005年10月29日2+2共同発表文 「日米同盟:未来のための変革と再編」 に規定されています。 これにより、日米安保体制はグローバルな日米同盟へと変質させられたのです。 日米が合意した地域における共通の戦略目標と世界における共通の戦略目標を実行するための日米の役割、任務、能力が合意されたのですが、 よく読むと、地域における共通の戦略目標(日本の防衛と周辺事態のこと)では、日米両部隊の役割分担については具体性があるのですが、 世界における共通の戦略目標=グローバルな日米同盟に関しては、日米両部隊の役割分担は具体性が無く、いわば政治的宣言に終わっているのです。

  なぜそうなったのか、私は次のように考えます。 新ガイドラインは、周辺事態での日米の共同作戦(新ガイドラインは共同作戦という言葉ではなく「相互協力計画」 と呼ぶ)、 周辺事態と同時またはこれから発展する日本有事での共同作戦計画を策定するものです。 周辺事態での米軍支援のための国内法制として、周辺事態法、周辺事態船舶検査法のほか、有事法制とりわけ米軍の作戦支援で重要なものとして、 米軍支援法と特定公共施設利用法が制定され、それなりに日米両部隊による共同作戦の基盤が確立しています。 むろんそれは個別的自衛権の枠組みであることから、米国からすれば、不十分なものです。 しかし、グローバルな日米同盟ともなれば、せいぜいPKO協力法、テロ特措法(廃止)、イラク特措法(廃止)、海賊対処法位であり、 これらはいずれも日米両部隊の共同行動を直接の目的にしているものではありません。

  つまり、グローバルな日米同盟を実効性のあるものにするための、日米両部隊の共同行動を可能にする仕組みがないということです。

 では、ガイドライン見直しは何を目指そうとしているか。 一つには、「動的防衛協力」 を実効性のあるものにするためでしょう。 東シナ海、南シナ海、西太平洋地域での平素から情勢緊迫時、有事の各段階での日米両部隊による共同の 「情報収集、警戒監視、偵察」 を行うための具体的な計画を作るためです。 この軍事態勢が集団的自衛権行使に他ならないことは、先に紹介した 「米軍再編見直しと憲法9条」 で述べたことです。
  もう一つの可能性は、第三次アーミテージレポートが求めているものです。 レポートは、日本防衛と地域紛争を米国とともに防衛することを含むよう拡大すべきであるとし、 具体的には、最も差し迫ったものに南シナ海と東シナ海での中国の脅威に対する対抗を挙げ、 さらに、同盟の防衛協力の拡大の可能性がある二つの分野として、ペルシャ湾の機雷掃海と南シナ海の共同の警戒監視を挙げています。 ペルシャ湾の機雷掃海は、イランによるホルムズ海峡封鎖への対抗、南シナ海での共同の警戒監視は地域の安定と航行の自由を挙げていますが、 主要には中国シフトです。

 ガイドラインの見直しにより、日本は米国との集団的自衛権を実効的に行使しようとしていることは明らかでしょう。 ただそれがどの地域を想定しているかは分かりません。今後の見直し協議のプロセスを注目する必要があります。

  集団的自衛権の行使を禁止する憲法解釈を改めるべきとの主張が急浮上し、 そのための国家安全保障基本法案などの具体化の動きも始まっているという背景には、日本の防衛ではないにもかかわらず、 日米両部隊による共同行動をとろうとする日米同盟の強化があるのです。
  ガイドラインの見直しや集団的自衛権を行使しようとする具体的な動きに対して、私たちは機敏に反撃する態勢を作らなければならないでしょう。