2007.12.18

憲法9条と日本の安全を考える

弁護士 井上正信 プロフィール

  私は、1975年に弁護士登録をしました。
  まだ駆け出しの1978年11月、福田総理大臣 (当時、現総理の父) が有事法制の研究を防衛庁へ指示をしました。 そのときに全国的な有事法制反対の運動が起こりました。私の住む福山でも野外集会が開かれて、私が有事法制について報告することになり、 そのとき以来、有事法制問題に深く関わるようになりました。

  有事法制問題ではその後94年、朝鮮半島第一次核危機の際に政府が立法化を企てたため、有事法制反対運動が起こりました。 さらに02年初めから、有事法制三法案国会提出の動きに対して、全国的な反対運動が起き、02年5月に設置された日弁連有事法制問題対策本部の事務局へ入りました。 それ以前に日弁連人権擁護委員会の中に設置された周辺事態法及び有事法制調査研究委員会へ所属していました。 また、97年秋の日弁連人権大会 (下関) では、平和的生存権をシンポジュームで取り上げ、約1年間そのための実行委員会で準備を進めました。

  また、広島県で弁護士開業したことから、核兵器問題に関心を持ち、80年代のヨーロッパでの反核運動の盛り上がりから刺激を受けて、 日本全国で非核自治体運動が起き、福山でも大きな市民運動となり、核兵器と米国の核戦略について学習会で講師をするため、 本格的に核兵器問題に関わることになりました。核兵器の廃絶を目指す国際的な法律家団体である国際反核法律家協会 (IALANA) が設立され、 私もその活動に加わり、日本支部として作られた日本反核法律家協会に参加しました。

  95年、96年には、IALANA、国際平和ビューロ、国際反核医師の会 (IPPNW) が共同して提起した、 国際司法裁判所で核兵器が国際法に違反するという勧告的意見を勝ち取る国際的な反核運動 (世界法廷運動) に関わり、各地で学習会の講師をしました。 その結果、96年6月には有名な勧告的意見が出され、その後の核兵器廃絶運動の大きな発展の基礎となりました。

  私は弁護士ですが、私が平和運動に関わってきたことは、どちらかというと軍事戦略、安全保障政策が中心で、憲法問題として取り組んできたのではありませんでした。 しかし、憲法改正が9条を中心としたものであるうえ、法律家である以上、憲法問題としても取り組まなければなりません。

  私は、9条改憲の策源は日米軍事同盟の強化にあると考えています。9条改憲の内容を正確にかつリアルに理解しようとすれば、 軍事戦略、安全保障政策への理解が不可欠です。特に日本は軍事的にも安全保障政策でも米国への従属を深めていますから、 日本のものを理解しようとすれば、米国の安全保障政策と軍事戦略を理解しなければ本当のところはわかりません。 幸い80年代以降、米国の核戦略を勉強する中で、米国の国家安全保障戦略や軍事戦略に関する文献を読むことが多く、 9条改憲問題へのこの様なアプローチは私にとってはむしろ当たり前のことでした。

  また、軍事情勢、安全保障問題は時々の大きな紛争、国際問題 (イラク、イラン、北朝鮮、台湾海峡、アフガン、 旧ユーゴ、米国の国家安全保障戦略や核戦略など) での動きを常にフォローしなければなりません。 そのため、特に新聞記事はこれらの問題をフォローする上で極めて貴重な情報源になります。

  実は、私は長年にわたり、日本の反核運動や護憲運動に不満を持っていたのです。 日本の反核運動は、被爆の実態を世界に広める上では外にはない役割を果たしました。むろん日本の反核運動は世界をリードしたことも事実です。 しかし、日本の世論は核兵器には反対しても、米国の核抑止力に日本の安全を依存するという政策を支持してきました。 この政策は、日本の防衛のためには敵国に対して核攻撃を米国に要求する政策です。 日本の反核運動は、この様な日本の核政策 (突き詰めれば日米軍事同盟を日本の安全の基本に据える政策) を政治的なものとして、 避けてきたのではないかと思ってきたのです。

  護憲運動では、9条を理念化しすぎてきた (9条は人類の歴史の先駆的なものであるとか、人類の理想であると持ち上げる──これ自体は誤りではありませんが) のではないかと思ってきました。そのため、護憲論が国民へ提起してきたのは、9条で行くのか、はたまた自衛隊安保条約で行くのかという、二項対立の選択肢でした。 護憲論だけではなく改憲論にも同じ責任があります。そのため、世論調査では日本の安全には安保自衛隊も必要だが、9条も大切だという矛盾した結果を示していました。 現在、改憲論はその点をついて、9条は非現実的であり、すでに規範力を失ったと 「現実主義」 の立場から護憲論を批判しているのです。 これでは圧倒的な 「現実」 の前には護憲論の旗色は悪くなる一方です。

  私のアプローチは、現実の国際政治の動きの中から9条が果たしている役割、果たしうる役割を探り出し、改憲論の主張する 「現実」 がいかに非現実的なのか、 むしろ9条が国際政治に日本が関わる際の現実的な指針になり、日本の安全に寄与するものであることを示そうというものです。

  この連載では、現実に生起している問題 (北朝鮮核開発問題、拉致問題、イラク、アフガン、イラン、台湾海峡等々) を通じて、 私がいつも考えていることを率直にお話ししたいと考えています。むろん私は一介の田舎弁護士 (尾道です!) ですから、軍事や安全保障問題の専門家でもなく、 またそのための系統的な勉強をしたのではありません。さらに、私の情報源のほとんどは新聞記事なので、記事そのものの検証はできず、 質の悪い、もっと言えば誤った情報も含まれます。そのため独りよがりや、とんでもない誤りも犯すかもしれません。 読まれた方からのご批判や情報提供を是非お願いします。
  また、私の事務所は弁護士は私一人なので、本業がとても忙しく、08年には日弁連が人権大会で憲法改正問題の第二弾に取り組むため、 毎回きちんと原稿が出せるか自信がありません。編集者からのおしかりを受けながら続けたいと思います。