2012.12.5

音楽・女性・ジェンダー
―─クラシック音楽界は超男性世界!?
小林 緑
目次 プロフィール
第34回
再度吉田隆子について:お知らせ2つ

  3・11以来、何一つ好転しない世情の中、暴走・無責任知事の後始末に加えて、違憲状態での総選挙…息詰まるばかりの歳の暮れ、 これまた慌しくお知らせのみの更新でお許しいただきたい。私が担当した前回第32回の最後に予告したNHKによる吉田隆子の特集番組が、 思いもかけないほどの反響で、再放送が決まり、さらには改めてコンサートの実施まで進んでしまった…今回はその経緯の説明に絞ることとさせていただく。

  NHK/ETV特集 『戦争・音楽・女音楽〜吉田隆子をしっていますか?』 が2012年9月2日、22時より予定通り放映されると、 すぐその一週間後に、しかし時間は24時、つまりは真夜中にずらしてだが、再放映も行なわれた。 ここまでだけでも、当初NHKが本当にこんな企画をまともに放映するかしら…と、全くもって疑心暗鬼だった私としては快哉を叫びたい気持だった。 何しろ、東京新聞や朝日新聞の視聴欄に大変好意的な投稿文が載ったし、全く存じ上げない方のHPで、 隆子の音楽が欧米の現代音楽に劣らぬ先見性を備えたものと見抜かれていたのも驚きだった。 知人が立ち上げた高齢者のためのレストランで歌の先生をしたりピアノを弾いたりしている若い女性からは、 「山田さんが弾いていたピアノ曲〔“カノーネ” のこと〕、とっても素敵なので、是非弾いてみたいのに、楽譜が無いって言ってましたよね」 といわれ、 びっくりと同時にがっくり!! 番組で取上げられた隆子の作品は、すべて 「音楽の世界社」 から出版済みなのに、誤ったナレーションが流され、 しかもそれを私もチェックできなかったからだ。 インタヴューなどに出た人間にも事前の放送内容のチェックはさせぬというNHKの基本方針ゆえ、やむを得ぬことではあったのだが…

  しかし何より、「やっぱりねぇ…」 と思わされたのは、「久保栄のことはよーく知っていたけど、吉田隆子なんて言う作曲家の女性の存在も、 まして二人の関係もほんと、全く知らなかったから、すごいびっくり!」 という声がいくつも届いたこと。 加えて、もともと音楽番組ではなくあくまでドキュメンタリーゆえ、音楽が断片的に挿入されただけなので、それが物足りない、ちゃんと全曲聴いてみたい、 という要望があちこちから聞こえてきた。そこで本連載22回目で予告済みだったが、2010年12月5日に生誕100年記念として実施したにもかかわらず、 今回、NHK番組のほとぼりが冷めぬうちに…と急遽、コンサート開催に向けて準備を進めることとなったのである。

  そしてもう一つ…第32回連載 「女性の “ユニフォーム” ―オリンピック選手とクラシック音楽家の場合」 掲載の直後に、 一日でなんと! 200回もヒットした、という驚きの情報があった。 ところが実は、その目指した先は本題ではなく、 最後に付け加えたNHKの吉田隆子の番組予告から遡って第22回 「吉田隆子生誕100年記念コンサートのご案内」 へのアクセスに繋がったものだった…と後日、編集担当の方から聞かされたのである。 以来この件がどうしても頭から離れなかった…つまり吉田隆子の音楽を聞きたい、知りたいと思っている層が確実に存在する、 だがその方たちはきっと2010年のコンサートのことをご存じなかったのだ、 これはなんとかしなくては…となればこのNHK番組で盛り上がった折こそ絶好のチャンスでは…そう考えついたのも、ご理解いただけるのではないか。

  そうこうするうちに、NHKの担当ディレクターから再放映がきまったという嬉しい電話をいただいた。 放送批評専門誌 『ギャラク』 で月間の優秀番組の一つに挙げられたということも、そのとき初めて知ることができた。
  さてその再放映は以下の通り:
   12月9日(日) Eテレにて22時よりの59分間。

  できればこの機に便乗して、準備中のコンサートの予告もしてもらえれば言うことなし! なのだが…それにしても再放映まで、 なんと、もうあと5日しかない…慌てふためき更新させていただいた所以である…間に合うよう掲載していただくことを祈るばかりだ。

  準備中のコンサートについては、目下出来上がった資料はまだ何も無く、 最低限の情報を載せた 仮チラシ のみ。 ただ、コンサート開催を思い切って発案した手前、私が正規のチラシ用に企画の趣旨ないしご挨拶を書く羽目になった。 その原稿を先ほど書き終えたところなので、それを再放映のお知らせとともに、先立って以下、本回を結ぶのに転用することとした。 もろもろ御了解いただきたい。

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コンサート:「吉田隆子の世界」に寄せて
国立音楽大学・名誉教授/女性と音楽研究フォーラム・前代表
 小林 緑

  「戦争・音楽・女性〜作曲家/吉田隆子を知っていますか?」―こんな文言をみたら、大部分の方は 「何?それ…」 とチンプンカンプンではないでしょうか。 実はこれ、先ごろ(2012/9/2)放映されたNHK・ETV特集のタイトルなのです。 「こんなこと、全然知らなかった!」 とすごい反響で、ほどなく再放映もされました(12/9)。 この国最大・最強のメディアが、吉田隆子(1910-56)の生き様を初めて可視化したことの重要性は、まことに大きかったといえましょう。

  NHKが番組製作の何よりの拠り所としたのが、昨年出版された辻浩美著 『作曲家・吉田隆子/書いて、恋して、闊歩して』 です。 詳しいことは本書に譲りますが、あの大戦前後、特高により投獄・拷問されながらも民衆に寄り添い人形劇団プークに作品を提供、 最新の語法を取り入れつつ自らの理想とする音楽を造り続け、加えて恋愛暦も豊富、見事なファッション感覚まで発揮、 久保栄との公私にわたる対等な協働生活など、驚かされることばかりです。

  当フォーラムでは、実は隆子生誕100年記念コンサートを実施済み(2010/12/5・求道会館)でした。 このたび再度開催に踏み切ったのは、NHKで断片的に紹介された曲をきちんと聴きたい…との声が多かったからです。 幸い番組に登場して頂いた3人の素晴らしい演奏家の全面的なご協力のおかげで、この企画が実現できました。

  3・11以後の、世界が日本の方向性を注視するこの折こそ、『君死にたもうことなかれ』 に託した隆子の想いを共有する意義はさらに深くなります。 多数のご来場を心よりお待ちしております。(2012/12/4)


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