2008.1.26

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎税金問題の3つの焦点
「脱税摘発」 の季節 (中)

  確定申告のキャンペーンは、もちろん 「脱税摘発」 だけではない。自治体の広報紙だったり、申告書の郵送だったりで、国民各層に知らされる。 新聞もまた税金を取り上げるニュースが増える。

  国会で問題になっているガソリン税の特別措置をどうするか、といった問題も大きいが、本質的には、国が必要とする公共的な仕事をみんなでどう賄っていくか、 という問題であることに気づく。そして、その原則は、「能力に応じて負担し、必要に応じて支出する」 というものでなければならないことも当たり前だ。 だが、いまの税制と国家財政の運用を考えると、その点でどうにも納得できないことが多いことにも気づく。

  先に 「国税当局はこれまで数十年にわたって、国民各層を分断し、反目させて、その矛盾を利用しながら、結局、広く厳しく、 税金を取り立てるという戦略を進めてきた」 と書いた。どういうことか。簡単に紹介しよう。
  例えば、かつて 「クロヨン」 とか 「トーゴーサン」 とかいう言葉が言われた。税金の捕捉率の話だが、簡単にいえば、会社勤めなどの給与所得者は、 源泉徴収制度で、会社が給与から天引きする方式をとっているので、実際の所得の9割は捕捉できるが、自営業者の場合は6割、 農業・林業・水産業者など第一次産業の場合は4割しか捕捉できない、と宣伝された。「サラリーマンに過酷で、自営業や一次産業優遇の税制」 というわけだ。

  実際にどうなのか? いまは決してそんなことはない、というより、いかにして必要経費を捻り出すかが大変なのだ、といわれるくらい、 自営業も第一次産業も大変で、税務署はそうした人たちからの徴税を強化した。

  「直間比率の適正化」 という話もあった。消費税を引き出し、さらにそれを強化するためのキャンペーンといってもいい。 直接税は、高額所得者には高い税率、所得が少ない人には低い税率で課税するから、一応 「能力に応じた課税」 つまり 「応能主義」 に近い形になっている。 しかし、消費税など、高額所得者でも低所得者でも同じように使うものに掛けられる間接税は一律にならざるを得ないから、これに多くの負担を掛けると、 低所得者は負担能力が低いにも拘わらず、高額所得者に比べ重い負担を掛けることになる。

  消費税の増額が語られているが、既に日本の直間比率は、国税ベースでいうと、1965年には72.8対21.2で直接税が多かったものが、 1999年には、57.2対42.8になり、2004年には、58.2対41.8になる。
  そして現在、2007年度では、62.4対37.6。直間比率が少し戻してきているから消費税を、という考え方もあるに違いない。つまり 「薄く広く負担」 の戦略だと言っていい。

  そして、問題なのは 「累進課税の緩和」 である。
  1970年当時、私は社会部記者として国税庁を担当していたが、このころ広報課がしきりに言っていたのは、累進の緩和だった。 当時の高額所得者は長島茂雄氏や松本清張氏。広報課長は 「長島さんは高額所得者だけど、70%は税金に持っていかれる。 松本さんが書く原稿は400字詰め原稿用紙で300字までは税金に持っていかれるんですよ」 ということだった。 当時の累進税率は確かに、所得に応じて19段階に刻まれ、最高の8000万円の課税所得者には、75%だったのである。
  しかし、2007年で見ると、1800万円以上は刻みが無くなって4段階。最高の1800万円に上が37%、2008年分からは40%と半減されてしまっている。 高所得者はますます自分の懐に富を蓄積できて優遇されるが、低所得者の負担税率は変わらない。

  これで 「格差」 が是正できるというのだろうか。
  ついでに書こう。住民税も以前は累進課税だったが、2007年分から一律10% (道府県税4%、市町村税6%) となるのだそうだ。
2008.1.26