2008.1.30

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎税金問題の3つの焦点
「脱税摘発」 の季節 (下)

  かつてよく言われたのは、日本人が政治について発言しないのは、サラリーマンが源泉徴収で税金を天引きされており、自分で納めているという感覚に乏しいから、 その使い道についても鈍感になってしまうのではないか、という議論だった。 一種内向きの反省論だが、実際、「税金の使い道」 の議論はもっとされなければいけないはずだ。

  例えば国家予算。いま国会に提出されている2008年度政府予算案は、83兆0613億4000万円。前年度から 0.2%の伸び率だが、 構成比で見ると、歳入では64.5%が租税などの収入、30.5%が国債費で占められている。一方、歳出では、一般歳出が56.9%、国債の償還が24.3%、 地方交付税などが18.8%と、前年とあまり変わっていない。歳出の中身を見ると、社会保障関係費が21兆7824億3400万円で26.2%、公共事業費が 8.1%だ。

  問題の防衛関係費は 5.8%で、4兆7796億5000万円。昨年から見れば少し減ってはいるが、それでも、進行中の中期防衛力整備計画で、 後年度負担が見込まれている。この中期防で見込まれているのは、2005年から2009年にかけて、24兆2400億円に上っている。 そのうちどの程度が、憲法の 「戦力」 に抵触しない 「専守防衛」 に本当に必要な装備なのだろうか。

  例えばいま、国際的にクラスター爆弾を禁止しようという動きが進んでいるが、日本の自衛隊も、 「攻撃用ではなく専守防衛の手段として海岸線から進入した敵を撃退するために使う」 のだそうで、4種類のクラスター爆弾を持っている、という。 「購入費用は158億円だったから、クラスター爆弾は約9000発になるはずだ」 ともいわれている。

  生活保護の問題や、医療、年金問題についても、もっと詳細に検討しなければならないことは多いはずだが、その支出については、 抑制の話しかニュースになってこない。

  もう一つ付け加えれば、いま問題になっている消費税。政府税調は昨年11月、「社会保障制度を支えるため、 安定的な歳入構造の確立が課題」 だとし 「財源としての消費税が重要な役割を果たすべきだ」 と述べ、消費税を社会保障税に変えて税率アップを、 というすり替え論が始まっている。つまり、消費税は、現在5%で、2007年度予算の見込みは、10兆6450億円。 従ってこれを10%にアップすれば、約20兆になり、21兆円あまりの社会保障費をほぼ賄える、と見て、消費税の増税を構想するわけだ。

  しかし、考えてみなければならない。税金とは、一体何のためのものなのだろう。 社会保障のほとんどを、消費税という負担の逆進性が強い間接税で賄おうという発想は、「格差是正」 どころか、 税による 「富の再配分機能」 を図る政府の責任を放棄したものと言わざるを得ないだろう。

  新聞の経済記事に問題があるといわれるようになってから、もう長い年月を経ている。経済面というのは、誰に向かって、どういうメッセージを発しているのか、 という問題だ。株や商品取引の情報がまさにそういわれる要因だった。近年、各紙に 「暮らし」 などという欄が出来て、生活経済への視点が出て、 少し変わってきたとも言えるだろうが、いわゆる経済面は、相変わらずだ。

  「経済問題は難しい」 ではすまされない。求められているのは、庶民の立場に立った 「視点」 をはっきりさせた記事ではないだろうか。
(了)
2008.1.30