2008.2.14

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎国民意識と岩国市民の選択
岩国市民は何に負けたのか

  岩国市長選は、1800票足らずの差で、艦載機移駐に反対し続けてきた井原勝介前市長が敗北、自民、公明が押した移駐容認派の福田良彦候補が勝利した。 政府・自民党は 「米軍再編が着実に進む環境ができたのかな、という意味で大変歓迎している」 (町村官房長官)、 「対外的なアピール度が非常に大きい」 (伊吹自民党幹事長)、「普天間問題でも、前向きな考え方が出てきており、その背中を押す」 (古賀自民党選対委員長) と歓迎している。一般的には、朝日が書くとおり 「膠着していた移転計画が進むのは確実で、当初の予定通り14年までに完了する可能性が高まった」 ということだろう。

  しかし問題は、この基地問題が焦点でありながら、それがそのまま票に結びつかなかったことだ。 中国新聞の出口調査によると、米空母艦載機移転について 「反対」 は46%、「賛成」 は 8・4%、「どちらかといえば」 を加えると、「反対」 は市民の65.7%、 「賛成」 は24.0%、朝日の調査では、「反対」 47%、「賛成」 18%だった。また、毎日の出口調査では、「移転反対」 は41%、「反対だが仕方がない」 20%、 「条件付き賛成」 33%、「無条件で賛成」 2%で、この「移転反対」 の人のうち、11%が福田氏に、「仕方がない」 の82%が福田氏に投票した、という。 朝日の調査では、福田氏に投票した人でも 「賛成」 は30%しかなかったそうだ。

  この選挙で福田陣営は、地盤と締め付け、デマ宣伝に頼り、焦点をそらす昔ながらの選挙戦を展開したことは、選挙前の 「ルポ」 で書いたとおりだったが、 これは、選挙中も踏襲されたようで、13日付の東京新聞 「こちら特報部」 は 「『失政』 ビラで移駐隠し 補助金 『兵糧攻め』 奏功」 と、次のような事実を紹介している。

  −井原市政のままでは財政破綻すると強調するビラが何種類も作られ、大量にまかれた。結果的にはこれが効いた。

−ファミリーレストランや美容室では、声高に井原氏を批判する女性グループが活躍したとの証言もある。

  −福田氏は一昨年合併した山間部でも票を集めたが、市の中心部との格差に加え、騒音があまりないため移転問題にも温度差があった。

  そして、「お金の力に負けるのはしゃくだったが、税金が上がる話が気になってすごく迷った。主人は勤め先の会社が押す福田さんに投票。 夫婦で口げんかになった」 という主婦 (49) の話を紹介している。

  ここに紹介されたビラは、選挙前に少なくとも3種類あり、私も見ているし、 女性グループが 「もう今度は福田さんね」 とバスの中などで声高に話しているという戦略も聞いた。

  「移転反対」 でも、「政府がこんな形でやってくれば、やっぱり無理なんじゃないか」 という意識が、福田候補を勝たせたのではないかと思えてならない。

  つまり、「長いものには巻かれろ」 「お上に逆らってもいいことはない」 「うまく世渡りしていくしかない」 「政治は理屈じゃない。生活が先なんだよ」 といった、 「前近代的」 といってもいいような意識である。実は、「生活」 をも危うくするのが、そうした問題なのだが、これを論理として理解しようとはしないのである。

  米軍基地再編をはじめとする現在の自民党政治を支えているこうした国民意識をどう変えていけばいいのか。 岩国の選挙が突きつけている問題は、考えてみれば深刻である。

  東京新聞は 「反対派の市議」 の次のような言葉を伝えている。「三十五億円の補助金カットのときから財政問題を争点にする作戦に乗せられていた。 今回、(容認派が) 勝ったことで、国は他の地方自治体にもこういうやり方をしかねない」

  艦載機岩国移転後の基地の状況が、「しんぶん赤旗」 6日付に載っている。それによると、再編後の岩国は、「アジア最大の基地」 になり、 米軍と自衛隊を合わせると、現在の沖縄・嘉手納の100機をも超える142機の航空機が配備され、年間離着陸は嘉手納の約7万回を遙かに超える約10万回に、 米兵・軍属・家族は嘉手納の約9700人を超す1万0300人になるはずだという。

  「基地はどこかが負担しなければならない 『受苦』 だ」 といって、すますことができるのだろうか? メディアはそのことを十分伝えてきたのだろうか?  われわれはそのことを真剣に考えてきたのだろうか? 

  こんなことをしていると、本当に、もっともっと 「おかしな国」 になっていく。岩国市民とともに、われわれみんなが問われている。
2008.2.14