2008.3.5

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎閣僚の「憲法擁護義務」違反をメディアは放置するのか?
「九条の会に対抗」する「改憲議連」の動き

  4日付の朝日、毎日夕刊は、「与野党改憲派がタック 鳩山由、前原氏ら役員に」 (朝日)、 「新憲法制定議員同盟 自・民同舟 鳩山由氏らが初の役員入り」 (毎日) と報じた。
  1955年以来の 「自主憲法既成議員同盟」 が、昨年、中曽根元首相が会長になったのを契機に動き出し、昨年四月、 名称を 「新憲法制定議員同盟」 と改称して動き出した。 昨年末には、「憲法審査会」 を始動させないのは問題だとして、衆院議員の過半数の245人、参院議員73人の計318人 (自民党が279人、民主党24人、 公明党5人、その他10人) の署名を、衆参両院議長に提出している。

  この時期になって、新年度の活動を本格的に始めようということだろう。民主党と国民新党を巻き込んで、組織と活動の強化を図ったわけだ。
  問題なのは、その役員体制で、会長代理は中山太郎氏、副会長に町村信孝官房長官、高村正彦外相、額賀福志郎財務相、鳩山邦夫法相の4閣僚と、 前原誠司前民主党代表らが加わり、顧問には鳩山由紀夫民主党幹事長、綿貫民輔国民新党代表がそろって入っていること。 まさに 「タッグ」 であって、毎日も 「同舟」 と書きながら 「呉越」 とは書かなかった。「自・民」 は 「呉・越」 ではないのだ。
  しかし問題なのはこの報道、朝日は2面の右下3段格、毎日は6面左の4段格の囲みで、 朝日には中曽根氏の 「改憲のような国家的大問題は超党派で決めていかなければならない」、安倍前首相の 「改憲は私のライフワーク」、 民主党の田名部匡省参院議員の 「改憲はここ数年で決着すると決めてやらないと」 との発言を紹介しているが、 少なくとも違憲の疑いがある町村官房長官以下4閣僚が、幹部として名前を連ねていることについては、全く言及がなかった。
  事実、昨年10月、この 「新憲法制定議員同盟」 は緊急総会で、安倍退陣後の改憲運動の 「立て直し」 に、福田首相を 「副会長」 としたが、 「しんぶん赤旗」 によれば、同紙は緊急総会後、福田首相の事務所と同議員同盟に問い合わせた結果、 福田事務所が首相が同議員同盟を退会したことを明らかにした、とのことだ。(2007年11月13日付)

  「しんぶん赤旗」 はさすが5日付トップでこれを報じ、「憲法99条の公務員の憲法擁護義務に触れる」 と指摘したが、 この扱い、両紙の扱いはあまりにも鈍感ではないのか。
  同紙によれば、活動方針には 「民主、公明両党の議員を中心に会員の増強を強める」 「『九条の会』 に対抗していくため地方の拠点作りを進める」 などが確認され、 愛知和男幹事長の活動方針の説明では、「われわれと正反対の勢力、『九条の会』 と称する勢力が、全国に細かく組織作りができており、 それに対抗していくにはよほどこちらも地方に拠点を作っていかなければならない」 とされ、中曽根会長も 「各党の府県支部に憲法改正の委員会を作り、 全国的な網を張っていくことが私たちの次の目標」 と述べた、と報じられている。

  朝日も、毎日もその前日には 「せんたく議連107人で発足」 と北川正恭元三重県知事、佐々木毅元東大総長、 松沢・神奈川、東国原・宮崎県知事らの動きを大きく報じているが、それと比較しても、看過できない動きではないのだろうか。

  こうした事実が、一般のメディアでは報じられないことことが、そのまま 「九条の会」 やさまざまな民衆の運動について冷淡な 「メディアの問題」 につながっている。
 NPJ (「民衆のためのニュース」) のサイトが繁栄することを、既成メディアは恥じなければならない。
2008.3.5 (3.7 訂正)