「この映画をみろ! てぃろーの映画評論」
2008.5.23更新



2006年/アイルランド/82分
監督:ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロヴァ

音楽が取り持つ出会い

  名もなき男女が音楽を介してダブリンの街角で出会い、互いに惹かれあいながら一緒に曲作りをし、また別々の人生を歩んでいく。

  冒頭からストリートミュージシャンの男が歌う、一目ぼれの女性にフラレた切ない思いを綴った歌に引き込まれてしまった。

  この作品は音楽映画なのでサントラがかなり重要になってくるが、劇中に流れるどの曲も素晴らしくアカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞したというのも納得。

  男が女の行きつけの楽器店でセッションするシーンと、デモテープを作るために即席のバンド仲間とスタジオで録音するシーンは特に胸を打たれた。

  また、冒頭の投げ銭泥棒とのやり取りから始まり、まるでペットのように壊れた掃除機を引きずる女性、銀行融資家の思わぬ特技など、 ユーモアたっぷりで思わず笑ってしまうようなシーンも効果的だった。

  デモテープを聴いた男の父親が彼に言った言葉や、ロンドンに発つ日、男が女のために最後にしたことは本当にステキで涙が出た。

  男の行動から 「自分を捨てて誰かのために何かができる」 というモンゴル800の 「琉球愛歌」 を想起しながら、 この地球上に住むすべての人がこの男のような心を持てば、「さらば戦争!」 と言える日が来るのだろうと思った。
2008.5.23



2007年/アメリカ/92分
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ
公開日・劇場: 2008年4月18日
新宿プラザ劇場他

大統領選挙に向けたロバート・レッドフォード監督の挑戦

  ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズという豪華キャスト夢の競演。

  先の見えない泥沼に入りこんで脱け出せないイラク戦争から国民の批判をそらすため、 トム・クルーズ演じる共和党上院議員はアフガニスタンへの 「新作戦」 をメリル・ストリープ演じる報道記者にリークするために自室に呼び出す。

  独占インタビューでスクープか!? と彼女は心躍らせるが、次第に何かクサいと思い始める。

  その作戦が始まる2時間前、ロバート・レッドフォード演じる大学教授は最近授業を欠席がちな学生を呼び出して成績の相談をしていた。

  とても光るものを見出していた学生がなぜ来なくなったのかを聞きながら、以前にも教授が目をかけていた学生2人の話を始める。

  その回想シーンで、黒人とヒスパニックの男子学生がプレゼンしているシーンが出てくるが、さまざまなデータを引いてアメリカの格差社会を告発し、 これに対して無関心ではいけないと訴える姿に感動した。

  しかし、世の中を変えるために彼らが選んだ手段は高校時代の1年間徴兵制度導入と、彼ら自らの入隊だった。

  反戦運動 (おそらくベトナム戦争) で殴られ額を54針縫ったという教授は、 「君らの成績なら希望の大学院にも進める」 と2人を引き留めようと説得するが、「帰還したら学費免除になる」、 「高学歴の黒人とメキシコ人が役に立つこともある」 と結局軍隊に入ってしまう。

  教授と学生がカフェで話し合っているという、一見すると何でもないはずのシーンを観ながら、 なぜ彼らのような聡明で正義感が強く有能な若者が戦地に行かなければならないのか…と考えると悲しくて涙が溢れてきた。

  報道ジャーナリストにと上院議員のやりとりでは、議員があからさまに 「イランが核兵器を持っている」と言い、 テロとの戦いに勝利するために 「あらゆる選択肢がある」 とも言うシーンがある。

  これは、自分たちだけが核兵器を使うことを許されるという思い上がった危険な発言だが、実際に現ブッシュ政権の考え方そのものでもある。

  マイケル・ムーア監督が4年前の大統領選挙の悪夢から 『華氏911』 を始めたが、秋に米大統領選挙を控えたこの時期に、 合わせたロバート・レッドフォード監督の、これ以上無意味な戦争によって若者の将来性を奪わせてはならないという固い意志が伝わってきた。
2008.5.1



2007年/日本/110分
監督:小泉尭史
主演:藤田まこと
公開日・劇場: 2008年3月1日
新宿シネマミラノ他

今につながる無差別爆撃の犯罪性を問う

  名古屋空襲時にパラシュート降下してきた爆撃機搭乗員たちを捕虜とせずに処刑したとして、 終戦直後にBC級戦犯に問われた東海軍司令官・岡田資 (たすく) 中将の生き様を描いた本作は、戦争犯罪を裁いたこれまでの映画とは明らかに性格が異なっている。

  それは、冒頭からピカソの描いた有名な作品であるゲルニカが出てきた後に、日本軍による中国・南京および重慶への、ドイツ軍によるイギリス・ロンドンへの、 イギリス軍によるドイツ・ドレスデンへの空爆シーンや、東京大空襲、広島・長崎への原爆投下までに至る記録映像が挿入される展開からも明らかだ。

  また、この作品の特筆すべき点は、アメリカの空爆が国際法に違反していたという視点で一貫して無差別爆撃の違法性を主張し続けたことにあるだろう。

  1945年にハンセル准将からカーチス・ルメイ少将に指揮が移り、東京大空襲を皮切りに始められた日本への無差別爆撃は、 1923年オランダのハーグで開かれた 「戦時法規改正委員会」 (日・米・英・仏・伊・蘭) で 「爆撃は軍事的目標に対して行われた場合にのみ適法とする」 というルールに明らかに違反していた。

  そのことを法廷で明らかにしようと、極めて冷静に 「法による戦い」=「法戦」 を挑んだ岡田を演じた藤田まことの演技は鬼気迫るものがあった。

  劇中、日本のアジアへの侵略やその反省について具体的な言及はないものの、もう二度と過ちを犯さない決意と、 現在も続くアフガニスタンやイラクへの無差別爆撃を問う監督の強いメッセージを感じた。
2008.3.31



2007年/アメリカ/83分
監督:バーバラ・リーボヴィッツ
主演:アニー・リーボヴィッツ
公開日・劇場:2月23日(土)
    シネカノン有楽町2丁目
    シネマGAGA! ほか

世界で最も有名になった女性写真家の姿を追うドキュメンタリー

  有名人を撮ることで有名なアニー・リーボヴィッツの生い立ちから、家族との関係や恋人との出会いと悲しい別れなどを通して彼女の写真に対する思いが浮かび上がる。

  劇中、彼女が撮った写真がたくさん出てくるが、どれも一目見てわかるほど個性的でアーティスティックな作品ばかりで、とても刺激を受ける。

  とりわけ、ぼくの携帯の待ち受けにしている殺される直前のジョン・レノンとオノ・ヨーコの写真を撮った時のエピソードは印象に残った。

  また、「言葉の人」であるスーザンと出会ったことで、それまで 「映像の人」 だったアニーに知性が加わり、 お互いに補完し合える存在になったというエピソードはステキだと思った。

  93年にはボスニアに入り、戦場を撮ったことで彼女の価値観はまた変化を遂げることも重要なエピソードだと思った。

  紆余曲折ありながらも、永遠に残る写真のために全力を尽くす彼女に惜しみない賛辞を送りたい。
2008.2.26



2007年/ドイツ=イギリス/96分
監督:アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド
主演:北極や赤道直下、深海などのさまざまな生き物
公開日・劇場:1月12日(土)
   TOHOシネマズ六本木ヒルズ  日比谷スカラ座 など全国公開


46億歳の地球を観に行こう

  あけましておめでとうございます。昨年は216本の映画を観ました。今年も素晴らしい映画を紹介できたらと思っていますので、よろしくお願いします。

  さて、今年初の映画紹介は、1月12日に公開される 『アース』 を取り上げたい。

  「ディープ・ブルー」 の製作陣や英国BBCのスタッフらが、全世界200ヶ所以上で撮影。 北極や赤道直下、そして深海で、さまざまな生き物の生態に迫るドキュメンタリー。 冬眠から目覚めたホッキョクグマの家族、水と食料を求めて砂漠をさまようアフリカゾウの群れ、6000kmの大移動を行なうザトウクジラの親子。 厳しい自然の中に生きる彼らの行動を、壮麗かつ雄大な景色とともに映し出す。 MovieWalker より

  科学技術の進歩によってこれまでは考えられなかったようなアングルの影像が展開し、 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による繊細かつダイナミックな演奏が感動をサポートする。

  映画館で観ないと魅力は半減なのだが、どうせ観るなら、お得な時に! ということで、ぼくは14日に観に行こうと思っている。 その理由はいくつかあるが、下記に載せておくのでぜひ参考にしてほしい。

  オトク その1
  TOHOシネマズは、2007年9月で10周年を迎えたということで、毎月14日を “TOHOシネマズデイ” と定め、 1000円で観ることができる。

  オトク その2
  毎月14日に環境専門ブロードバンドメディア green.tv japan とのコラボレーションにより、 環境をテーマとした注目の映像を映画の上映前に放映している。 第4回目の1月14日は、動植物の貴重な映像クリップを集めた 「自然界の躍動」。

  オトク その3
  『アース』 上映期間のうち、1月14日(月・祝) の 『アース』 上映分に関して、電力使用量に相当するグリーン電力証書を自然エネルギー・コムから購入することによる、 「グリーン電力上映」 が決定。

  この取組みで、5.4万kWh相当のグリーン電力を自然エネルギー・コムを通じて購入することで、約25tのCO2削減につながるという。※1
  これは、杉の木1778本が1年間に吸収できるCO2の量に相当する。※2
  また、環境省主導の「チームマイナス6%」での個人の目標、1人・1日・1kgのCO2削減で考えると25,000人分を達成していることになるのだそうだ。

※1: CO2削減量の算出には、グリーン電力の発電所が所在する東北電力と中部電力の平成18年度の排出係数を使用。
※2: 50年生の杉人工林の場合。

  どうせ観るならエコに貢献できる時に観てはいかがだろうか。
2008.1.13



2006年/スイス/95分
監督:マルセル・シュプバッハ
主演:カルラ・デル・ポンセ
公開日・劇場:11月10日(土) 東京都写真美術館ホール
         12月 1日(土) アップリンク 他


大事なことは決して諦めないこと

  カルラ・デル・ポンセは、1999年にICTY (旧ユーゴ国際刑事法廷) 検事に任命されてから、 1995年7月12日に、ムラディッチ率いるセルビア人兵士たちによって、 当時国連保護軍の指揮下にある安全地区に指定されていたスレブレニツァに居住していたボシュニャク人 (ムスリム人) の男子が、一人残らず虐殺された 「民族浄化」 で、生死も判明しない家族のことを待ち続ける母親たちの、 「罪人を捕まえ、裁いてほしい」 という願いを実現するために戦争犯罪人を追いかけ続けている。

  彼女が追い続けている戦争犯罪人リストに載っているのは、クロアチアのゴトヴィナ将軍を除けば7人中6人はセルビア・モンテネグロ人であり、 顔ぶれは全員男性だ。男が犯した過ちの犠牲者はいつの時代も女・子ども・老人なのだということが証明される。

  訴追できるが逮捕権を持たない国際検事にとって、戦争犯罪人を捕まえるためには当事国をはじめ、国際的な協力が欠かせないのだが、 EU加盟が熱い焦点になっているクロアチアや、軍部が絡むセルビアなど、国家の厚い壁が立ちはだかる。

  本気になれば捕まえられるはずなのに、なぜ捕まえることができないのか。政治的意思が欠けているのではないのか―─。 鋭い眼差しでカルラは当事国の政府首脳に詰め寄る。

  着任して6年、事件から10年経っても一向に変わらない状況にイライラし、ジレンマを感じることはあっても、「大事なことは決して諦めないこと」、 「逮捕できると信じていれば前進は可能」 と働き続ける彼女の姿勢は神々しささえも感じた。

  折しも、先日ぼくがインタビューした著述家・ジャーナリストの堤未果さんも同じことを言っていた。 さらに彼女は、本当に立ち向かうべき 「敵」 は国家ではなく、周囲の 「無関心」 と自分の中に芽生える 「諦め」 だと言い、無関心をひっくり返していくために、 自分の中の諦めとたたかいながら、とにかく種まきをしていくことが大切だと話してくれた。

  カルラ・デル・ポンテのICTY検察局の長としての任務は、2007年9月14日終了予定が12月末まで延長された。

  「大量虐殺、人道に対する罪はローカルな問題としてのみ扱われるべきではない。 そうした罪は一国家の法体系を超え、国際正義の名の下に起訴されるべきである」 というカルラの言葉を、 国境を超えて市民が意識し・手をつなぐことが彼女への何よりの励ましとなるだろうし、解決への近道となるだろう。
2007.11.16



2006年/スペイン/135分
監督:マヌエル・ウエルガ/主演:ダニエル・ブリュール
公開日:2007年9月22日
上映映画館
  東京都/23区内 日比谷シャンテシネ
  神奈川県 関内 横浜シネマリン


  1974年、フランコ独裁政権末期に、警官殺しの罪で死刑になった実在の若き革命家サルバドール・プッチ (愛称:サルバ) を、 『グッバイ・レーニン』 のダニエル・ブリュールが好演。
  重いテーマだが、スタイリッシュな映像と音楽、そしてサルバのキャラクターに魅せられる。
  最初はサルバに嫌悪感を剥き出しにする看守が、彼とふれあう中で、徐々に変化していく姿や、 面会に来る家族との関係などの描写の中で彼がどれほど魅力的な青年だったのかが感じられた。
  独裁政権のもとで自由を求めて銃を取らざるを得ない環境は、とても想像できないし、理解できるものでもないが、 「階級をなくして誰もが幸せに生きられる社会」 を目指した彼の思想や、権力の理不尽な弾圧に決して屈しない強靭な精神力には尊敬の念を覚えた。
  劇中、「もうひとつの9.11」 であるチリのサルバドール・アジェンデ大統領暗殺の報道も出てくるが、たった30年前に起こったことを決して忘れず、 自由の中で平和に生きる権利が、踏みにじられることが二度とないように声をあげ続けなければいけないと思わせてくれた。
2007.10.30