2010.8.27更新

島弁日記(31)〜東京以外の地域での相談会〜

今回の法律相談会
   奄美大島・瀬戸内町 H22.6.26(土) 10:00〜18:00
   小笠原村 H22.7.12(月) 9:00〜17:00(父島) 14:00〜16:00(母島)
          H22.7.13(火) 9:00〜12:00(父島)
   千葉県長生郡睦沢町 H22.7.23(金) 17:00〜19:00
                 H22.7.24(土) 13:00〜16:00
   檜原村  H22.8.6(金) 14:00〜17:00
次回の法律相談会
   三宅村  H22.8.28(土) 9:00〜12:00、17:00〜19:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  現在のところ、僕らが定期的に巡回法律相談会を行っているのは、東京都の島しょ部と東京都内陸部で唯一の村である檜原村です。 グループ(NPO)のメンバーには、関東以外の法律家もおりますが、活動のきっかけが平成13年2月の小笠原訪問であったこともあり、 一応、東京都内の司法過疎地がメインとなっています。 ただし、地元で働く法律家の知り合いがいる場合には、時間が許せば日本全国どこでも出張したい気持ちがあり、 今回も奄美大島、及び千葉県長生郡睦沢町にて、初めて相談会を行ってきました。

  鹿児島県大島郡(奄美大島)瀬戸内町(せとうちちょう)(人口1万人弱)は、 奄美大島の最も南にある町で、北端にある空港から車で2時間半以上もかかります。 法律家はほとんどおらず弁護士に会うためには車で1時間半以上の名瀬まで出向かねばなりません。 知人の司法書士がこの地にて独立開業したことをきっかけに、役場のご了解をいただいて相談会を行いました。 中心部にある港町の古仁屋(こにや)のみならず、 瀬戸を挟んで対岸にあるリアス式海岸の美しい加計(かけ)()()島、 そのさらに南にある小さい(うけ)島、 ()()島についても手分けして同時開催するという大がかりな企画です。

  僕が一人で担当したのは請島。人口約150人の島で、滞在した集落には、相談会場となった公民館以外には学校も診療所も警察署も見当たりません。 民家のサンゴの石垣に無造作に立てかけてあるハブ棒(ハブを追い払うために使う)にちょっと怯えながら散策すると、 すぐに畑が開けて牛の穏やかな鳴き声が響く。普段のせわしない生活の方が実は虚構だったのではないかというような感覚になりました。
  予想したとおり法律家が訪れることはない島のようで、ご相談を受けることで少しでもお役に立てたかもと思っています。

  千葉県長生郡(ちょうせいぐん) 睦沢町(むつざわまち)は、房総半島の外房側、茂原市の隣にある町です。 僕の事務所にいた司法書士が、千葉県東金市(とうがねし)にて独立開業しており、 今回、房総半島での相談会を企画してもらいました。 睦沢町は東京駅から特急で1時間、そこから車で20分と交通の便も悪くないですが、上総一ノ宮の駅に降り立った瞬間から、 とてものどかでのんびりした雰囲気の場所です。

  千葉県では、中核地域生活支援センターという他県にはないセンターを各地に設けており、地域密着型の福祉サービスを目指しています。 いつも他では役場に広報や場所の提供のお願いなどして相談会を開催するのですが、 今回はこれらセンターの方々との共催で、相談会のみならずパネルディスカッションやグループワークを行いました。 福祉関係者の方に多くご参加いただき、普段の業務でお互いに顔を合わせることは多くはないため、新鮮な経験でした。

  いずれの相談会も、もともとの知り合い以外にも、地元やその近くでお仕事をしている弁護士や司法書士の方々に不躾ながらお声がけし、 ご協力をいただきました。司法過疎地においては、相談会場でただアドバイスをするだけでは解決しない複雑な問題も多く、 そのような場合には継続相談や事件受任により対応すべきと思っています。 ただし、特に裁判手続を選ばねばならない場合には裁判所の管轄が依頼者の地元となることも多いですから、 東京の僕がお受けしてもご本人のためにならない(交通費や日当がかかってしまう)こともありえます。 その意味で、東京から離れた地域で相談会を行う場合には、自分がどこまで何ができるか悩むことも多いのですが、 地元の法律家の方とも連携させていただきながらできる限り善処したいと考えています。


島弁日記(30)〜刑事事件〜

今回の法律相談会:三宅村  H22.3.20(土) 9:00〜17:00
            ※4月に予定した新島村は飛行機欠航のため中止
            大島町   H22.5.15(土) 10:00〜17:00
            御蔵島村 H22.6.11(金) 13:00〜17:00
                   (小海参加せず)
            八丈町   H22.6.13(日) 10:00〜16:00
次回の法律相談会:奄美大島・瀬戸内町 H22.6.26(土) 10:00〜18:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  「先生は刑事専門ですか? 民事専門ですか?」 と聞かれることがありますが、刑事事件を仕事の中心とする弁護士はそう多くはありません。 テレビや新聞でも 「事件」 と言えば刑事事件が目立つので、華やかなイメージがあるかもしれませんが、実際の仕事は大変です。

  刑事事件のすべてが身柄を拘束されるわけではありませんが、逮捕されると最大23日間のうちに裁判になる(起訴)かどうかが決まります。 弁護士は限られた時間の中で仕事をしなければならず、受けたその日から忙しくなります。 しかも、何とか時間を見つけて(大抵が夜となる)依頼者のいる警察署まで行って面会(接見)したり、 示談が必要であれば被害者に連絡をとって交渉したり、依頼者が犯罪の事実を否定している(否認)場合にはそれを主張し争ったりと、 肉体的にも精神的にも労力がかかります。 僕の場合は、毎日予定が一杯で忙しすぎるうえに、頻繁に島での法律相談活動があるので、いつでもすぐに面会に行けるという余裕がなく、 普段、積極的には刑事事件を取り扱っていません。

  でも、刑事事件において、弁護士はとても重要な役割を担っています。それは、「被疑者・被告人の側に立つ唯一の存在である」 という点です。 法に基づく適正な手続が行わなければなりませんし、本人に言い分がある場合もあります。 そうでなくても、自由に動けず人と話せず、とても不安な立場に置かれています。 弁護士はいつでも捜査官を同席させずに面会できる権利を持つなど、彼らの力になれるのです。 自分が逮捕されるわけがないと思っておられる方も多いでしょうが、えん罪事件のように、 いつ何時トラブルに巻き込まれてしまう可能性だって否定はできません。

  島での刑事事件はそれほど多いとは思いませんが、東京の島では、逮捕された場合、現地ではなく都区内の警察署に身柄拘束されることが多いようです。 また、島では逃げようがないので? 逮捕せずに在宅事件(逮捕されず自宅で生活しながら、 呼ばれたら警察などに出かけて取り調べを受ける)ということもあると思います。 このような意味では、都区内在住の弁護士でも島の刑事事件を受任することは可能であり、僕もそうしています。 「刑事専門」 でなくても、他の仕事が忙しくても、いざ受任したら被疑者・被告人のために真摯に取り組むのが弁護士ですのでご安心下さい。


島弁日記(29)〜小笠原 ザトウクジラ〜

今回の法律相談会:小笠原村 H22.2. 6(金) 19:00〜21:00 (父島)
                           16:00〜18:00 (母島)
                   H22.2. 7(土)  9:00〜17:00 (父島)
                            9:00〜15:00 (母島)
次回の法律相談会:三宅村  H22.3.20(土)  9:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  海面から体を大きく持ち上げひねりながらジャンプする大きなクジラと豪快な水しぶき。 テレビや映画などで印象的な映像ですが、実際に見たことがある人は少ないのでは? 小笠原は、もともと捕鯨漁をしていた欧米人が入植したことから人の歴史が始まりますが、今でもクジラを見ることができます。 それが、春のザトウクジラと秋のマッコウクジラ。

  このうち、ザトウクジラは細長い頭をしたヒゲクジラです。夏の間はアラスカ沖など北極に近い海でオキアミなどを食べ、 冬になると出産、子育てのために暖かい小笠原近海にやってきます。その時期は、だいたい1月から4月まで。 陸の展望台や観光船から容易に観察できるので、観光客も数多く訪れます。僕らが毎年2月に小笠原で相談会を開催しているのもそのためだったりして…

  ザトウクジラの魅力は、なんといっても派手なアクションです。よく見かけるのは何度か潮吹き(ブロウ)したあとに、尾を高く上げる行為(フルークアップダイブ)。 要は海面で息継ぎして深く潜ろうとする動作です。 他にも、尾びれや胸びれを海面にバシャバシャと打ち付ける動作(テールスラップ、ペッグスラップ)、頭を海面に垂直に上げる動作(スパイホップ)など。 そして極めつけは、冒頭で述べたジャンプ(ブリーチ)。これだけは周りの人が見つけて自分だけが見逃すととても悔しい思いをします。 逆に、何度も、時には10回以上も繰り返すこともありますが、そういうときに限ってちょっと離れすぎていて、素人ではなかなかカメラで撮れない。

  今回は、船でダイビングのポイントに行く途中、水深20メートルもない浅瀬の湾でゆったり泳ぐ母子クジラに出会いました。 尾っぽをあげて潜る仕草をしてみたり(練習?)、水中でお母さんの背中の上で、子どもがごろんとひっくり返ったり(遊び?)。 とくにかわいかったのがブリーチで、子クジラ君は何度も繰り返していました。 豪快な水しぶきは上がらずパシャンという感じで、まだまだ大きさが足りないのか修行が足りないのか…なぜブリーチをするのかははっきりと分かってないらしいですが、 本能からくる行動なんですね。今度は、海の中からダイビングでクジラを見てみたい!


島弁日記(28)〜弁護士は東京の島に定着できるか〜

今回の法律相談会:神津島村 H22.1.15(金) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:小笠原村 H22.2 .6(金) 19:00〜21:00(父島)
                           16:00〜18:00(母島)
                    H22.2. 7(土) 9:00〜17:00(父島)
                            9:00〜15:00(母島)
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  「そんなに島が好きなら住んじゃえば?」 と言われることがあります。 もともと僕は旅行やアウトドアが趣味なので、島だけが好きってわけでもないんですが、こういう活動をしていると他人からはそう見えるみたい。 でも、いつも僕は 「それはないよ。」 と答えます。あと数十年歳を重ねれば、その気になることがあるかもしれませんけど。

  たしかに、近時、弁護士会が支援する公設事務所や日本司法支援センター(法テラス)が、弁護士のいない司法過疎地域に弁護士を配置しており、 10年前と比べても全国津々浦々に弁護士が広がったなという感じがします。 そして、そのような弁護士は意外にも若い方が多く、さらに、そのまま定着(任期を終えてもその地元で開業すること)する方もおられます。 その意味では、「島で開業する弁護士」 もアリかもしれません。

  しかし、東京の島に限っては、弁護士の仕事をしながらそこに住むということは難しいであろうと僕は考えます。 それは、どの島も人口が少ないからです。多いところでも8,000人強ですし、より匿名性が低く争いが顕在化しにくい地域であることを考慮すると、 生活できる収入が得られるほどの事件数があるかは疑問です。 弁護士1人当たりの人口数でいうと東京23区内は605人程度であり、それより人口が多い島はいくつもあります。 しかし、他の地域の仕事も引き受けることができる都心と、おそらく地元の仕事のみが中心となる島では、やはり環境が異なります。 そして、それに加えて、地方裁判所がないことがネックです。 多少時間がかかっても陸路で裁判所まで行けるなら何とかなりますが、島との交通は航路か海路でしかも東京中心に便が組まれていますから、 島から東京に行くとなると泊まりが必要になるなど時間的・金銭的負担がかなり重いです。

  そんなこんなで、この活動のように、定期的な訪問を継続するという方法が、今のところ東京の島の司法過疎解消にとってはベストだと思っています。 定期的な訪問で顔を知ってもらえれば、都心の事務所でも電話を取って法律相談することができますし、意思疎通は楽ではないですが、 受任後も電話や手紙、ファックスやメールで連絡を取り合うことができます。この辺りが、医者などとは違うところでしょうか。 もちろん定着を試みる弁護士がいたら是非応援したいですけどね。
2010.2.4


島弁日記(27)〜相談件数〜

今回の法律相談会:青ヶ島村  H21.12.18(金) 11:00〜16:00
             八丈町   H21.12.19(土) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:神津島村 H22. 1.15(金) 10:30〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  定期的に島に通い様々な相談を受けていると、まだまだ潜在的な需要があることを感じます。 「同じ悩みを抱えている人は他にもいそうだな」 とか、「島の中でこういう出来事があったのであれば、他にも同じ立場の人がいるな」 とか。 では、いつも相談会が盛況かといえば、必ずしもそうではありません。相談件数が10件、20件という島がある一方、いつも数件にとどまる島があります。 人口によっても異なりますし、タイミングやその島の気質によっても異なる気がします。 時には1、2件や0件ということだってある。相談会を開催しても、無料だから 「行列ができる」 ほど単純なものではないのです。

  そもそも匿名性が低い地域なので、相談会場に足を運んだことすら他人に知られることを望まない方もおられます。 たまたま相談日は都合が悪いという方もいるでしょう。でも、おそらく大きな理由は 「弁護士に対して感じる敷居の高さ」 ではないかと思います。 「弁護士に相談したことないから何を言われるか怖い」 とか、「こんな程度のこと弁護士に相談したら怒られそうだ」 とか、 「悩みがあるけど長年解決しない話を弁護士にしても変わらないだろう。」 とか。 もともと島民でなくても一般の人は弁護士に対して近づきがたいイメージを抱いているかもしれませんが、島では弁護士に接する機会がないのでなおさらです。

  ですから、まずは 「顔を見せる」 ことが大事だと思っています。仮に相談件数が少なくても地道に相談活動を継続すること(島によく来るという姿を見てもらうこと)、 すぐに受任しない案件でも継続相談で対応すること、事前の簡単な電話相談や自宅への出張相談など利用しやすくすること、 法律教室など相談者以外の人の前でも話す機会を作ること…さらには、夕食後に(部屋で飲まず)居酒屋に行くよう心がけたりもしています。 地元の人から飲み屋で相談を受けるなんてことも、僕にとっては貴重な機会ですから。

  今回の八丈島での相談件数は、いつもより多い10件でした。いつものような飛び込み相談はもちろん、町役場の広報誌で知り事前に予約をいただいたり、 僕の依頼者が別の相談者に紹介してくれたり。少しずつですが、着実に島の人々に認知されつつあることを実感するのは嬉しいものです。
2010.1.14


島弁日記(26)〜弁護士の一日〜

今回の法律相談会:大島町  H21.10. 9(金) 10:00〜17:00
             利島村  H21.10.10(土) 13:00〜17:00
             三宅村  H21.11.14(土)  9:00〜17:00
次回の法律相談会:青ヶ島村 H21.12.18(金) 11:00〜16:00
             八丈町  H21.12.19(土) 10:30〜17:00

マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  しばらく更新できずすいませんでした。司法修習生の実務指導担当、法科大学院の非常勤講師、集団訴訟の最終準備書面の作成、 いつもの相談会とは別に受任事件の関係での小笠原訪問と、やけに忙しくて執筆の余裕すらなかったんです…どれもこれもあまり一般的な用事ではなかったんですが、 そもそも弁護士が通常何をしているかってご存じない方多いと思うので、今回は僕の普段の生活をご紹介します。

  うちの事務所は平日の朝10時から夕方6時が一応の営業時間です。僕は朝9時や9時半頃事務所に行き、メールや郵便のチェック、その日の準備などをしていますが、 それでも他の職業に比べると遅めですよね。
  日中は、外出の用事と事務所内での仕事があります。外出の用事とは、裁判所での裁判や調停、弁護士会での委員会活動や面談室を利用しての相手方との交渉、 弁護士会の法律相談センターでの法律相談の他、受任事件の関係で現地訪問することなどもしばしばです。 外出の用事が連続することも日常茶飯事で、丸一日事務所にいることの方が少ない。
  また、事務所にいるときも、新件相談や依頼者との打ち合わせの予定が詰まっており、それ以外の時間も電話応対や事務員への仕事の指示など、 とにかくあっという間に日が暮れます。 さらに、働いている依頼者との打ち合わせは夜になりますし、集団訴訟その他の会議があるので、夕方以降も予定がない日というのはほとんどありません。

  とにかくぱっぱと頭を切り換え次の事件の対応をするのが、僕の仕事の一日です。せっかちな性格なので、こういうスタイルの仕事は好きですが。 そして、夜9時頃ようやく終え、事務所の者や会議のメンバーらと飲みに行くというのが日課。
  事件や相談がたくさんあるから忙しいわけで、その意味ではありがたいのですが、困るのが起案、 すなわち裁判所に提出する主張書面などを作成する時間がないこと。 夜遅くまで仕事をするのが嫌い(というか、集中力が欠けるので効率が悪い)なので、どうしても土日にやることが多くなってしまいます。

  島への訪問は、そんな日常から解放されるひとときです。一部の島を除けば、相談会自体ものんびりしたものですし、 何よりも島独特の緩い時間の流れが気分転換になります。といっても、相談会後は車で観光場所巡りをしたり泳いだりと、忙しく遊んでしまうのが僕の性格なんですが…
2009.12.14


島弁日記(25)〜土地の価値 1〜

今回の法律相談会:三宅村  H21.8.22(土)  9:00〜17:00
次回の法律相談会:新島村  H21.9.25(金) 10:00〜16:00(新島)
                           12:00〜17:00(式根島)
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  何だかむりやり島を結びつけたような話題が続いたので、ここらで島らしい話を一つ。 島でよく受ける相談の代表格ですが、土地に関する紛争は悩ましいものが多いです。 土地に関する紛争とは、遺産分割とか、境界の争いとか、時効取得の問題とか、共有状態の解消とか。 小笠原には不在地主 (地主がどこにいるか分からない) なんて問題もあります。

  その大きな原因は、土地の価値を評価することが難しい点にあります。 土地の価値を表すには、実勢価格、公示価格、路線価格、固定資産税評価額などがありますが、今回はまず実勢価格を考えてみます。 実勢価格とは 「売りに出したらいくらで売れるか」 という実際の取引価格です。 当然ながら土地の現実の価値に最も近く、例えば実際に土地を売ってその代金で紛争の相手方と調整をつけるという解決もあるので、 内地の事件ではよく話題になります。不動産屋より見積もりを取ったその額が実勢価格となるため、不動産屋によって金額に違いが生じますが、 何社からか取り寄せそれらの平均で考えるのが普通です。

  ところが、東京の島では不動産屋がないところも多く、「ここに行けば売出し中の土地の価格が分かる」 なんて場所はありません。 島の土地も売買は行われていますが、どうやってるかといえば、相対取引です。 土地を売りたい人が隣人に世間話で伝え、それを人伝いにたまたま買いたい人が聞きつけて直接売主に連絡し、金額を決めて売買が成立する。 こんな感じです。通常はそれでいいのですが、弁護士が関与する紛争の場合、困ったことが生じます。 例えばAとBの共有地があって、仲がよくないのでAがBの持分を買い取り共有状態を解消しましょうというとき、参考となる実勢価格の相場がないのです。 信頼関係が崩れているのですから、お互いが希望する金額を言い合うだけで折り合いがつきません。

  そして、さらに大変なのが 「売りたくても売れない」 という点です。すぐに買い手がつくわけではなく、だからこそ島の人たちはつてを探すのですが、 例えば僕らが売買代金の分配で和解しようと土地が売れるのを待っていたのでは、いつまで経っても解決しません。 宅地ですらそうなのですから、農地や山林はましてやです。 まあ、だからこそ実勢価格 (実際の取引価格) がはっきりしないわけなんですが・・・決して 「売れないから無価値の土地」 というわけではなく、 関係者にとっては少なからず思い入れのある大事な土地なのですが、実勢価格という面で見るとこのような問題が生じてしまいます。
2009.9.24


島弁日記(24)〜過払金と弁護士〜

今回の法律相談会:檜原村  H21. 8. 7(金) 13:00〜17:00
次回の法律相談会:三宅村  H21.8.22(土)  9:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  最近地下鉄でやたらと目につく弁護士や司法書士の車内広告。そのほぼ全てが過払金回収を宣伝しています。 サラ金の広告より多いんじゃないかって感じがするし、弁護士の仕事っていろいろあるのになぜ過払金ばかりって感じですよね。 過払金回収は定型的作業や大量処理が不可能ではないので、多額の広告費をかけても宣伝する価値があると考える事務所があると思われます。

  そもそも、誰もが知っている大手のサラ金であっても、かなり高い利息を要求します (グレーゾーン金利といいます)。 そのため、返済をしていてもなかなか元金が減らず、いつまでも続くどころか、返済のために別のサラ金から借入をし、次第に自転車操業となり借金がふくれてしまいます。 法律違反の利息なので、弁護士が介入し、利息制限法による再計算 (毎回の支払いの法律違反の利息部分を元金に組入れる) を行うと、 今までサラ金から請求されていた元金を減額することができ、しかも長く支払いを続けている場合などには、元金は全て支払済みで払いすぎの状態になることがあります。 これが 「過払金」 で、返済を続ける必要がないどころか、逆にサラ金より一定額を取り戻すことができるのです。

  受任したらサラ金に取引履歴の開示を求め再計算を行って過払金を請求すればよい、これが先に述べた定型的作業や大量処理をしうる理由ですが、 実際には、弁護士の方法論や経験によって回収額はかなり異なるであろうというのが僕の意見です。 なぜなら、当然といえば当然ですが、サラ金側はできる限り過払金を返還しなくて済むよう、あの手この手を画策するからです。 取引履歴を一部しか出そうとしなかったり、すぐに払いますよと言って6割7割程度の和解を持ちかけたり。 和解を拒否して過払金返還の裁判を起こすと諦めて全額を返還しますが、それでも争ってくる場合もあります。 サラ金各社によって対応が異なるというのも特徴で、自分の経験や他の弁護士からの情報でこれを踏まえた見通しを立てることも重要となります。

  東京の島には 「車内広告」 がないので多少は安心? と思いつつ、僕自身、島の方の過払金事件を受けた経験はそう多くはありません。 借金問題は人に知られたくない話題ではありますが、過払金が生じそれを回収することにより他の債務の返済にあてることができる場合だってあります。 ですから、是非相談会においでいただきたいと思います。
2009.8.20


島弁日記(23)〜弁護団事件〜

今回の法律相談会:御蔵島村 H21.6.12(金) 13:00〜17:00
             八丈町   H21.6.14(日)  9:00〜16:00
次回の法律相談会:小笠原村  H21.7. 9(木) 19:00〜21:00
                       7.10(金)  9:00〜19:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  5月の終わりに被爆者の裁判が新聞やテレビで報道されたのを覚えている方もおられると思いますが、僕はその訴訟の弁護団の1人です。 高齢化した被爆者達にがんなど様々な疾病が発症しているため、これを原爆放射線の影響であるとして原爆症の認定を国に求めている裁判で、 この度、東京高裁にて全面解決の契機となりうる勝訴判決がなされました。 この島弁日記を掲載してもらっているNPJのホームページにも様々な集団訴訟が載っていますが、どれも被害者の意思を結集し、 また被害者が1人でも弁護士が複数集まって取り組んでいる事件です。

  このような事件は、行政や大企業が相手である、多数の原告の陳述書作成や尋問を行わねばならない、 その他にも例えば医学的知見など様々な立証を行わなければならない、マスコミや政治家にも訴えていかねば目的は達成されないなどの理由から、 有志を募って弁護団を組みます。結構時間をとられる一方で、着手金をいただかない場合も多く、解決すれば報酬金を受けとることができるものの、 そう簡単に解決する事件ではありません。

  それではなぜ弁護団事件に関与するか。(1) 弁護士は自分の金儲けのためだけでなく、弱者の味方であることが本来の社会的使命であると思うから。 (2) 被害者本人の話を聴くことでその問題の実態を知ることができ、見聞を広めることができるから。 (3) 他の弁護士と共同することで、その弁護士の知識や経験を学ぶことができるから。
  特に僕のような個人で事務所を経営する者にとって (3) は重要です。 常に1人だけで仕事をしていると自分本位の事件処理に陥りかねないですから。 また、弁護団事件に関わっていると、弁護士は性格や興味や得意分野も様々で、中には個性派の人もいておもしろいです。 僕も他人からそう思われてるかもしれませんが・・・

  島での巡回法律相談活動は、もちろん特定の目的のある集団訴訟や弁護団事件とはちょっと異なります。 でも、島独特の難件などに対して、弁護士のみならず司法書士や税理士の知恵を総動員して取り組むときは、 まさに弁護団事件と同様の経験を積むことができやりがいを感じます。 ところで最後に無駄な? 豆知識。よくニュースで 「勝訴」! とか 「不当判決」! とかの旗を見ますが、最も若手の弁護士が持つのがどの弁護団でも習わしです。
2009.7.4


島弁日記(22)〜振り込め詐欺〜

今回の法律相談会:神津島村 H21.5.15(金) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:御蔵島村 H21.6.12(金) 13:00〜17:00
              八丈町 H21.6.14(日)  9:00〜16:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  振り込め詐欺被害のニュースは巷ではよく流れていますが、弁護士に頼めば解決するという訳ではない難しい被害です。 その原因は、まず第一に犯人を特定できないこと。誤って振り込んでしまった口座の名義人やその住所を調べる方法は一応ありますが、 電話をかけてきた犯人とは一致しません。始めからこういう犯罪を行うために開設した架空名義人や他人の口座だからです。 第二に、被害回復が困難であること。仮に犯人が見つかったとしても、すぐにお金を隠してしまいますから、民事裁判を起こしても、 警察に逮捕してもらってもなかなかお金は戻ってこないのです。

  それでは、実際に被害に遭ってしまった場合にはどうすればよいでしょうか。 とにかくすぐに銀行に連絡して事情を話し、その口座を凍結 (預金の出し入れができない状態となること) してもらうよう依頼してください。 自分が振り込んでしまったお金を犯人が引き出す前に口座凍結するのです。 大抵の銀行はすぐに対応してくれると思いますが、もし何らかの理由で拒否されるようであれば、弁護士を代理人につけて要請すれば応じてもらえます。 そして、凍結したときに預金残高があれば、お金が戻ってくる可能性があります。 被害回復の方法は 「預金保険機構」 のホームページ を見ると書かれています。 凍結した口座が公告され、一定期間内に支払申請を行うと返還手続が行われます。 複数の被害者の申請がある場合は、被害金額に応じて分配されますので、全額戻ってくるとは限りませんが。

  このように早期の口座凍結が重要なので、島の方が被害に遭った場合、年1、2回の僕らの法律相談会の際にご相談を受けても手遅れとなる可能性が高いです。 そこで、被害に遭ったときはすぐに電話で相談してもらえるよう、町村の広報への掲載をお願いしたり、法律教室で素材にしたりして訴えています。

  最近では、交通事故や警察ざたを装って不安にさせるオレオレ詐欺のみならず、お金がもらえるという喜びの心理を利用した還付金詐欺や定額給付金詐欺など、 振り込め詐欺の手口は悪質化しています。もちろん被害に遭わないようにするのが一番ですが、仮に被害に遭ったとしても、 恥ずかしいと思わず諦めてしまわずに、とにかく口座凍結を試みてください。


島弁日記(21)〜島への交通手段と天候〜

今回の法律相談会:小笠原村 H21.4.24(金) 10:00〜17:00(新島)
                            12:00〜15:30(式根島)
次回の法律相談会:三宅村   H21.5.15(金) 10:30〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  今回の新島は、低気圧の接近による天候悪化で、翌日は横浜まで6時間の客船で帰ってきました。行き同様に予約していた軽飛行機が欠航したからです。 東京の島への交通手段は、船 (客船、ジェット船、小型船)、全日空の飛行機、調布飛行場からの軽飛行機、ヘリコプターなど様々ですが、 便数が少ない上に、どれも天候に大きく左右されます。そのため、訪問予定が計画通りにいかないことは日常茶飯事です。

  まず飛行機。全日空の航路は大島、三宅島、八丈島にあります。移動時間と費用の面で最も便利なのですが、大島と三宅島は1日1便だけで、 しかも三宅島は火山ガスの風向きによります。そのため、八丈島に行くときのみ利用していますが、羽田空港の掲示板を見ると、 全国各地は全く問題ないのに島だけ 「天候調査中」 が度々。台風でなくてもです。 機体が比較的軽いからか島の飛行場は風の影響を受けやすいからか、天候悪くて雲が厚かったり風が強かったりすると欠航。 足止め食らって島に行けなかったことは何度もありますし、1日待ち続けて最終便はやっと出発したが着陸を断念し、羽田空港に戻されたこともあります。 無駄な2時間の空の旅、「僕の1日を返せ!」 って感じです。 逆に同じようなシチュエーションで、島の上空で数回旋回の後、「最後にもう一度試みます」 との機長の言葉で着陸できたときもありました。 乗客が一斉に拍手し、まさにスタンディング (できないけど) オベーション状態。感動しました。

  調布飛行場からの軽飛行機便って皆さんご存じないかも知れませんが、乗客19人乗りのプロペラ機で、大島、新島、神津島の航路があります。 比較的風には強いようで (ただしかなり揺れる) 重宝していますが、有視界飛行なので大雨だと飛べません。 調布飛行場は調布駅からタクシーで15分のところにあり、全日空同様、微妙な天気の時は直前にならないと就航の有無が決定されません。 朝早く起きて来たのに欠航になるとかなりへこみます。調布飛行場って周りに喫茶店もなくて、時間をつぶす場所すらないんです。

  船の中ではジェット船が速いですが、波には弱く、天候が安定している夏以外は利用することに不安を感じます。 それと、椅子席なので乗り心地が今ひとつだし、船なのにデッキに出ることができないのがどうにも納得がいかない…

  客船は最も安定性があり費用も安い。三宅島に行くときの他、 訪問メンバーの一部があえて利用することもあります (皆が飛行機の予定で欠航になると相談会を開催できないから)。 ただし、移動時間が長い上、行きは夜行船なのですが、朝早く起こされるのがとても辛い。特に三宅島は朝5時到着で、いつも1日中眠たい感じです。 また、安定性があるといっても、天候がかなり悪かったり、冬の季節風が強かったりして波が高く、その向きも悪いと欠航してしまいます。 「条件付き就航」 (一応、船は出るが、桟橋に接岸できなければ降りられない) も慣れてしまいました。 実際にも、軽飛行機ではなく前日夜発の船を利用したものの、結局波も悪くて新島に近づけず、大島止まりで東京へ戻ったことがあります。 新島で相談会することができず、丸1日船の中にいただけの不毛な時間。

  利島、御蔵島、青ヶ島などは人口が2、3百人レベルの島ですが、湾がなく桟橋が波の影響を受けやすいため、船の就航率は必ずしも高くありません。 他の交通手段はヘリコプターです。ヘリコプターに乗ったことある人ってそう多くないと思いますが、東京の島には定期航路があって (多分、全国唯一)、 上記のような小さい島では村民の重要な交通手段となっています。垂直に離着陸するところがかっこよくて僕は大好きなのですが、とにかく料金が高い。 例えば、青ヶ島に行くのに八丈島から片道20分で1万1000円もかかります。また、軽飛行機と同様に有視界飛行なので、視界が悪くなる天候には弱いです。

  と、このように、各交通手段にはいろいろと長所短所があるのですが、どれも天候に影響されます。 僕はこれまでに、小笠原を除き、どの島も最低一度は欠航により来島できなかったことがあります。しかも、来島できないのはまだましです。 最も怖いのは東京に帰れなくなること。陸路ないですから、どんなに無理しようとしても、帰れないものは帰れない。 二度ほど島から帰れなかった経験があります (うち一度は2日間) が、いずれも翌日は平日で、当然に通常の仕事が入っていました。 弁護士って自営業ですから、すぐに代役立てられるわけでもなく、これが大変なんですよね。

  僕の携帯には、iモードの天気予報サイトで登録したメールが配信されてきます。何かというと、「台風発生情報」。 はるか南の海でも、台風が発生すると日本に向かってこないか、波の影響はないかが気になってしまいます。 サイトでピンポイント天気予報や波の予報を見るのもしょっちゅうです。やっぱりこういう弁護士ってちょっと変わってますよね…
2009.5.7


島弁日記(20)〜隣接士業〜

今回の法律相談会:小笠原村 H21.2.12(木) 19:00〜21:00
                      2.13(金)  9:00〜19:00
次回の法律相談会:三宅村   H21.3.21(土)9:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)

  僕は働き始めて9年目の弁護士です。1人で独立して、知人の司法書士や税理士と同じフロアに事務所を構えてから4年が経ちましたが、 身近に隣接士業 (弁護 「士」、司法書 「士」、税理 「士」 とみな 「士」 がつく資格業なので 「士業」 と呼ばれています) がいるのはとても心強い。 弁護士は 「裁判」、司法書士は 「登記」、税理士は 「確定申告」 なんて頭に浮かぶと全然接点がないように思えますが、いずれも法律の専門家。 そのため互いに助けを求めたり、協力し合ったりする場面は数多くあります。

  例えば、相続で土地の遺産分割が問題である場合とか、共有状態を解消して土地を分けようとする場合、借金整理のためにやむを得ず土地を売る場合など、 弁護士はそれぞれ他の相続人、他の共有者、債権者 (抵当権者) と交渉する役目を負います。 このような土地がからむ事件の場合、話がまとまればその後、司法書士に登記、税理士に申告をお願いすることになるのですが、 そもそもどのような合意をすれば目的の登記ができるのか、登記費用がどのくらいか、税金はかかるのか、かかるとしたらどれくらいかなどということは、 交渉の段階で問題になったりします。特に、かかる費用とそれを誰が負担するかという点において。 ですから、交渉途中でこのような相談をできる隣接士業が近くにいることは、弁護士にとってとてもありがたいのです。 逆に、司法書士や税理士から、依頼者や顧問先の抱える法律問題について相談を受けることもありますし、代理人として受任することもあります。

  さらに、島の相談会は司法書士や税理士とともに開催していますから、一緒に相談に立ち会うこともよくあります。 法律相談のときに、司法書士や税理士の意見を聴けるということは、より早い段階でより具体的な見通しを立てることができ、相談する方にとっても有益です。 加えて、今回も含め小笠原訪問の際には、公証人ともご一緒しています。例えば、遺言など、相談のみでなく、公証人に公正証書を作成してもらうことが可能です。

  前にもお話ししたように、僕の隣接士業の方達との関わりはこの活動から始まりましたが、今、同じフロアで共に事務所を構えている隣接士業も実は島のメンバー。 役場や観光協会でいただいた島のポスターを心おきなく貼ることができる (?) ので、旅行会社みたいな雰囲気の事務所です。
2009.3.18


島弁日記(19)〜法律相談〜

今回の法律相談会:大島町  H21.1.16(金) 10:00〜18:00
(利島村は延期)
次回の法律相談会:小笠原村 H21.2.12(木) 19:00〜21:00
                      2.13(金)  9:00〜19:00
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弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)

  弁護士の業務は様々です。ドラマだと刑事事件で尋問をしている弁護士が多いですが、実際には刑事事件をメインとする弁護士は少なく (僕も同じ)、 民事事件でも全てが尋問や判決に至るわけではありません。打ち合わせ、現地調査、相手との交渉、調停などの申立て、訴訟での主張書面作成…。 そしてこれら全ての業務の始まりは 「法律相談」 です。

  「法律相談」 は、最も基本的かつ重要な仕事であると思います。初めてお会いした人に対し、限られた時間の中でどのような話ができるか。 相談者は悩みや問題を抱えているわけですし、方向性を誤るとかえって解決が長引くことだってありえますから、このファーストオピニオンは気が抜けません。 ただし、弁護士といっても全ての法律が頭に入っているわけではないのですが、 実は経験を積むと、どんな相談でもある程度筋道に沿ったアドバイスができるようになります。 例えば、後々裁判になった場合に主張を立証する証拠があるか。裁判する気がなくても、証拠の有無により相手方との交渉の方針が変わってきます。

  逆に、特殊な法律の問題ですぐには答えられない場合や、裁判例を調べたい場合などには、継続相談や後日回答するなどアドバイスを誤らないよう心がけています。 島の法律相談でもこれがよくあります。長く続いてきた問題で複雑化している場合には、過去の資料を検討してみないと方針が立てられないですし、調査したいこともある。 解決したいが人目を気にするなどの理由から弁護士に依頼するのをちゅうちょしている場合には、僕が島を訪問する度にお会いして、 少しずつ変わる状況を見ながら最終決断をしてもらう。 島では弁護士に相談できる機会は少ないですから、ご本人が望むかぎりは僕自身が継続相談として対応しており、その結果として受任に至るものもあります。

  僕は弁護士1年目より島の法律相談活動に関与し、それによって鍛えられてきました。 なんたって島で法律相談を受けるときは、専門書も手元にないし、裁判例をネットで調べることもできないものですから。 それだけに、弁護士の 「法律相談」 という業務にはこだわりがあり、弁護士会でも法律相談センター運営委員会に所属しています。 といっても難しい理屈はあまり好きではないので、実践を積みながら 「相談者の満足のためにどこまでのことができるか」 を模索している、という感じです。
2009.2.9


島弁日記(18)〜遺 言〜

今回の法律相談会:青ヶ島村 H21.12.19(金) 11:00〜16:00
             八丈町  H21.12.20(土) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:大島町  H21.01.16(金) 10:00〜18:00
             利島村  H21.01.17(土) 13:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)

  ご高齢の方に遺言を勧めると、「まだまだ元気だから」 という返答がよくあります。でも、お元気だからこそ作成してほしいと思います。 自分の気持ちを後生に伝える重要な手段ですが、突然万が一のことがあったり、将来認知症になったりするとそれが叶いません。 ですから、遺言の話をするのは不謹慎なことではなくて、むしろ自己決定権の尊重なのです。

  おそらく多くの方が残したい気持ちとは、自分亡き後、残された者の間でもめてほしくないということでしょう。 遺言には相続紛争の未然防止機能があります。遺言がないと、法律で決められた順位の相続人が法定相続分に応じて財産を得ることになります。 しかし、懸命に自分の介護をしてくれた人に多く譲りたいなど、相続人間のバランスを考えると妥当でない場合も多いですし、 不動産については共有状態となってしまい、利用に支障が生じることもあり得ます。 遺言であれば、「この土地建物は長男の単独名義とする。」 など、自分の思いを反映させることができますし、相続人以外の人に遺産を残すことも可能です。

  たしかに、遺言によって全ての争いを防げるわけではありません。 妻や子、親が相続人である場合には、相続分よりも少ないものの、相続人として最低限の権利 (遺留分) が認められているからです。 しかし、遺留分は相続人の方から主張しなければ問題とはならないので、 例えば不動産について、遺産分割協議をせずとも遺言通りの単独名義に変更することが可能です。 また、兄弟姉妹には遺留分がありませんから、これらの者が相続人である場合には、遺言によって権利を主張できなくさせることも可能です。

  そして、遺言を書くときには、できれば弁護士に相談してほしい。遺言は自筆でも作成できる点で便利ですが、そのかわり要件は非常に厳格です。 日付がなければそれだけで無効ですし、全て自書が必要です。 書いてある内容、例えば土地の特定が不十分だったりすると、かえって後の紛争の種になります。 よって、弁護士に形式や内容をチェックしてもらった方が安心ですし、さらに言えば、できる限り公証役場に出向き公証人に作成してもらうべきです。 東京の島には公証役場は存在しませんが、我々が小笠原を訪問するときには公証人にご同行いただいています。 他の島の方でも、まずは自筆で作成し、その後内地に行く機会があるときに、改めて公証役場で遺言を作成するという方法も可能です。 お元気なうちに是非ご相談いただければと思います。
2009.1.17


島弁日記(17)〜青ヶ島 地熱サウナ〜

今回の法律相談会:青ヶ島村 H20.12.19(金) 11:00〜16:00
             八丈町  H20.12.20(土) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:大島町  H21.01.16(金) 10:00〜18:00
             利島村  H21.01.17(土) 13:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  言葉でも地図でも表現しがたい地形、これが青ヶ島。島全体が複式火山のカルデラで、断崖絶壁の外輪山が周囲を取り囲みます。 無理を承知であえてたとえるなら、靴を海の上に置いた感じで、足の甲にあたる部分に人々が暮らしています。 外輪山が内側にも大きく落ち込み、靴の中敷きにあたる部分に外輪山より低い内輪山がちょこんとすそ野を広げます (イメージわきます?)。 周囲9キロ足らずでこれだけ立体的な島は他にはないでしょう。


青ヶ島の外輪山と内輪山

  内輪山には噴気孔群 (島の言葉で 「ひんぎゃ」) があり、常に地面から蒸気が噴き出しています。 その一角にあるのが 「ふれあいサウナ」、ひんぎゃの蒸気を利用した施設です。 サウナといってもれっきとした温泉。温泉成分表もあって正式な許認可も受けているという珍しい天然サウナです。 で、入り心地はというと・・・熱い! 熱すぎる! 室温60度くらいだそうですが、おそろしく熱く、とても 「ふれあい」 なんてのんびりしたもんじゃありません。 じっと耐えていると、天井の水滴が落ちてきて、これがまた熱い! 地元の人に言わせると、 慣れればこの熱い水滴が快感なんだそうですが・・・しかも、地熱の上の建物なので、サウナ室から出ても洗い場の床はほかほか、 脱衣所も床暖房が入っているような感じで熱さが抜けない! 水風呂用の湯船らしきものはあるんですが、中はいつも空。 何でも水を溜めても地熱であったまってしまうので水風呂の意味がないとか・・・とても珍しい温泉なので、是非体験してもらいたいお勧めの場所です。

  もう一つ楽しみがあります。このサウナに行くときの必需品は、集落のお店で買った卵 (イモでもOK) と地元で製造している 「ひんぎゃの塩」。 サウナの周りには地熱釜があり、誰でも自由に使えます。熱いサウナに入った後、釜に入れていた卵を取り出すと、アツアツの温泉卵になっていて、 これがうまい! ひんぎゃの熱で海水の水分を蒸発させて作った塩は、粒が大きくまろやかで、最高の取り合わせです。たかが卵なのに贅沢な気分。

  青ヶ島村の人口は約180人。市町村合併が進むこのご時世、全国でもっとも小さい行政体がなんと東京都内にあります。 断崖絶壁に取り付けられた桟橋は脆弱で船の欠航率が高く、八丈島から1日1回のヘリコプターの定期便が村民の重要な足です。 厳しい地形で生活も決して便利ではないと思いますが、「行った人でなければ分からない」 魅力が青ヶ島にはあります。 今回は天候にも恵まれ、夜は満点の星空。冬の天の川が見事でした。
2009.1.5


島弁日記(16)〜弁護士の持ち物〜

今回の法律相談会:神津島村 H20.11.14(金) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:三宅村   H20.11.29(土)  9:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  弁護士の必需品って何だと思います? 「六法」…うーん大抵の人は持ち歩いてない! 「弁護士バッチ」 …着けてる人もいるけど僕はあまり着けてない! 「スーツ」…普段は着てるけど島の相談では着ていない! これがないと不安で仕方ないという持ち物といえば…「手帳」 です。 「訟廷日誌」 という弁護士用の手帳で、ここに仕事の予定を書き込みます。明日の予定、明後日の予定、一週間後の予定、一ヶ月後の予定、数ヶ月後の予定。 新件の法律相談や依頼者との打合せは直前に入ることもありますが、裁判は通常1か月おきですから1か月後の予定になりますし、 島訪問など出張の予定や弁護士会の法律相談、委員会などは半年先の予定まで決まっています。 しかも、1日の中で、事務所、裁判所、弁護士会、事件関係の現地など様々な場所で様々な用事があるので、明日の予定すら頭の中だけでは記憶できないんです。 訟廷日誌は絶対になくすことのできない持ち物です。

  他に必需品といえば…「名刺」 や 「携帯電話」 でしょうか。他人に頻繁に接する仕事ですから名刺が必要なのは当然です。 携帯電話は時間を見たり (僕は時計を着けていない)、外出時の事務所との連絡に使ったりします。 時と場合にもよりますが、基本的に依頼者との連絡には使いません。 電車に乗っていたり裁判や外での打合せをしていたりすれば電話に出ることができませんし、事件記録を確認しながらお話しできないからです。 意外と重宝しているのが、いわゆるおさいふケータイのスイカの機能と i モードの電車経路探索サイト。 東京地裁に行くだけなら簡単ですが、横浜や千葉の裁判所事件もありますし、 依頼者宅など現地に出向くこともあるのでスムーズに電車乗り換えできるのはホント便利です。

  それと…結構持ち歩いているのは 「パソコン」 です。外出時の空き時間にメールチェックや文書作成 (起案といいます) したり、会議中にインターネットで調べものしたり。 事件記録もバックに入れていて重いので、当然ながらB5ノート。事務所の机で作業するときもデスクトップではなくこれです。 画面小さいですが慣れてしまっているので。最近はモバイル通信機器もデータ送信が速くなりストレスを感じませんが、島では圏外でそもそも通じないのがかなり辛い!

  とまあこんな感じで、弁護士といっても持ってるものはサラリーマンと変わりません。ただ、僕の場合、島に行く際の必需品は水着とシュノーケル。 今回も泳いじゃいました…
2008.11.17



島弁日記(15)〜クレサラ〜

今回の法律相談会:新島村 H20.10.10(金) 10:00〜15:30(新島)
                           12:00〜17:00(式根島)
次回の法律相談会:神津島村 H20.11.14(金) 10:30〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  「クレサラ」 とは 「クレジット・サラ金」 の略です。弁護士が 「クレサラ事件」 という場合、債務整理事件、要するに借金整理の事件を意味します。 一般に弁護士事務所は依頼者からの様々な事件に対応していますが、「クレサラ専門」 と宣伝していない事務所であっても、 クレサラ事件を多く手がけている弁護士は結構います。実は僕もその1人で、常時抱えている事件の中で、クレサラは半分以上を占めていると思います。 数えてませんが。

  借りたものは返すべきだとか、破産は世間体にかかわるとか思ってる人はまだまだ世の中に多いように思えます。 特に島では、クレサラ事件はなかなか表面に出てこない、相談に来ていただけない分野であると個人的には感じています。 予想しているほど相談件数が多くないからです。「借金」 は身近な人に知られたくない秘密の代表格なのかもしれません。 一生懸命払い続けようとしているからかもしれません。

  しかし、実は間違っています。人はいろいろな理由で借金をしますから、例えば事業資金や生活費のためなど、借りた人を責められない事情もあります。 たしかにギャンブルや浪費は少々問題がありますが、それらでさえ借金を全部支払わなければならないということにはなりません。 重要なのは、「これまでの借入れに問題があるならばそれを反省し、今後の生活の立て直しを考える」 ということです。 この意味で、「破産」 は恥ずべき行為ではなく生活再建のための手段です。また、サラ金に長く支払い続けていた場合などには、 弁護士が介入し利息制限法による再計算を行うと払いすぎたお金が戻ってくる場合すらあります (ご存じかもしれませんが 「過払金」 といいます。 いずれテーマにしますが。)。

  「お金がないから弁護士費用払えない」 と考えてしまうとちゅうちょしてしまいます。 が、毎月の収入から生活費を除いた残額では返済ができない場合とか、返済のために他から新たな借入れを行わなければならない場合には、 是非、弁護士に相談すべきです。自分自身ではどうしても 「目先の支払いをどうしよう」 という意識になってしまいます。 第三者の目で全体の借金をどう整理するかを検討すれば、何か方法はあります。 島の方についても、こちらが繰り返し訪問することで、少しずつ信頼してもらい、 最も人に話したくないかもしれない借金問題についてご相談していただけるようになるのではないかと思っています。
2008.11.13



島弁日記(14)〜弁護士費用〜

今回の法律相談会:大島町 H20. 9.19(金) 10:00〜15:00
次回の法律相談会:新島村 H20.10.10(金) 10:00〜15:30 (新島)
                           12:00〜17:00 (式根島)
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  誰もが 「高い」 というイメージを持っているかもしれない弁護士費用。算定方法や相場も分かりにくいので、 これを理由に弁護士への依頼をちゅうちょする方がいてもおかしくはないかもしれない。 ただ、個別事案の見通しや手間、当初とその後の事件内容の変化や得られた成果によっても変わってくるので、なかなか一般化することは難しいんです。

  事件を受任する場合、通常、弁護士費用は着手金と報酬金に分かれており、着手金は始めにいただくもの、報酬金は一定の成果が得られた場合にいただくものです。 その金額は弁護士によって異なりますが、「着手金は事件等の対象の経済的利益の8%、 報酬金は委任事務処理により確保した経済的利益の16%」 とするのが一つの例です。 具体的には、200万円を人に貸したが返してもらえないという場合、200万円が経済的利益 (得たいと思う利益) なのでその8%+消費税、 すなわち16万8000円が着手金です。これを全額取り返すことができれば、 200万円が経済的利益 (実際に得られた利益) なのでその16%+消費税たる33万6000円が報酬金となりますが、 交渉や裁判の結果100万円だけ取り返した場合には、その16%+消費税たる16万8000円が報酬金額です。

  というのが基本ですが、実際には様々な事情により増減します。島などの遠隔地の場合、 着手金や報酬金とは別に旅費 (実費) や日当がかかるというのが大きなハンデとなります。日当に関しても弁護士によりますが、 例えば半日3万円、一日5万円だったりします。東京の島の場合は、地方裁判所の管轄は霞ヶ関ですから裁判所に通うこと自体に日当はかかりませんが、 現地調査が必要な場合もあります。また、打合せだけのために弁護士の方が島に出向くことは少ないかもしれませんが、 依頼者が島から出てくる費用 (交通費、宿泊費) がかかる点はやっぱり負担になります。

  僕は、東京の島在住の方の事件を受任する場合には、巡回相談会で島を訪問する機会を利用して打合せを行ったりしますので、日当をいただいてません。 ただ、前述した着手金、報酬金の一般的基準額自体が依頼者にとって高すぎるということもままあります。 解決の見通しを図ることが難しかったり、必ずしも経済的に裕福でない方も多かったりするからです。 弁護士は、このような事情により弁護士費用を減額することもありますので、不安を感じておられる方は遠慮せずに直接弁護士に問いかけてほしいと思います。

2008.10.10


島弁日記(13)〜檜原村(ひのはらむら)

今回の法律相談会:三宅村  H20.8.24(日) 9:00〜13:00
             檜原村  H20.8.29(金) 13:00〜17:00
次回の法律相談会:大島町  H20.9.19(金) 10:00〜18:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  すでにご承知のように、島しょ部において巡回法律相談を行っているから 「島弁日記」 なんて書いているんですが、別に 「島」 にこだわっているつもりはありません。 弁護士がいない司法過疎地に自ら出向こうと思い、東京ではまず島が僕の目に付いた? にすぎません。そうです。東京にはもう一つ 「多摩」 という広大な地域があります。

  そのうち、檜原村にて、僕らは年1回相談会を開催させてもらっています。檜原村はJR五日市線の終点、 武蔵五日市 (ここに行くのにも東京駅より1時間半近くかかります) より車で5キロ以上走った先から始まる村。 東京都において、島しょ部以外に 「村」 はここだけです。人口も2,800人と、それほど多くありません。 奥多摩町とともに東京の西の奥に位置しますが、電車が走っていないという意味では奥多摩町より不便な場所かも。 迫り来る山の合間を縫うように道路が走っており、東京であることを忘れてしまうような雰囲気です。

  僕はまだ檜原村を訪れるのは3回目ですが、やはり大部分を山林が占める地域ならではの法律問題があるように思えます。 現在の客観的価値が必ずしも高くない一方で、広大な山林を管理しようとするとかなりの費用がかかる。 そのため、放置せざるを得ない山林が増えていくと、次第に権利関係が複雑になり境界が曖昧になり、さらに利用することが難しくなっていく。 村としても 「檜原都民の森」 という自然公園をつくるなど、いろいろと山林の利用方法を考えているとのことで、このような地域では行政の積極策も重要であると感じました。

  せっかく山に来たのだからと、相談会後はあるキャンプ場のバンガローへ。大学時代はキャンプサークルだったので、もともとこういうところは大好きです。 前日より天気がかなり悪く到着時も雷が鳴っているような状態でしたが、過ごしやすい気温。 脇を流れる小川の増水で、滝のような音がする中での宿泊は、意外にも快適でした。もっと大雨だったらちょっと怖かったかもしれないですけどね。
2008.9.18


島弁日記(12)〜離 婚〜

今回の法律相談会:三宅村  H20.8.24(日) 9:00〜13:00
             檜原村  H20.8.29(金) 13:00〜17:00
次回の法律相談会:大島町  H20.9.19(金) 10:00〜18:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  島に限らず通常業務でも、知人や元依頼者の紹介があったり、弁護士会の法律相談センターの担当をしたりという中で様々な法律相談を受けます。 その内容は多岐にわたるものですが、弁護士にとって 「離婚相談」 は、よく受ける相談分野の一つです。 もちろん、個別の内容は異なりますし、離婚したい側かしたくない側か、夫と妻どちら側の相談かによっても方針は変わります。 しかも、多くの場合、離婚のみが目的ではなく、離婚に伴う財産分与、慰謝料、未成年の子がいる場合には親権、養育費なども争いの焦点になるので、 よく受けるからといって画一的に対応できるわけでもありません。そんな相談を受ける中で、僕が難しいなといつも思うことがあります。

  そもそも最終的に離婚に至る場合、もちろん子と親の関係は一生切り離せませんが、夫婦の関係は切れますし、多くの場合お互いにこれを望みます。 ただし、縁を切りたくても残ってしまう場合があります。それは、ローンや連帯保証など第三者との金銭関係です。
  例えば、夫が住宅ローンを組んでマンションの一室をマイホームとして購入していたとします。 子どもを育てることになる (親権を得る) 妻がこの住宅に住み続けたい場合、離婚とそれに伴う財産分与等の交渉の中で住居の取得を最優先しようと思います。 しかし、住宅ローンの支払いが終わっていない以上、これからの支払いも離婚する夫に続けてもらわなければなりません。 妻が連帯保証人であればなおさら、そうでなくても、もし夫が支払わない場合には、ローン会社との関係では妻が何とかしなければならなくなるわけです。

  島では、このような問題のほか、地理的関係を切り離せないことがあります。 別居したとしても離婚したとしても、お互いの生活環境は限られた地域の中にありますから、日常生活の様々な場面で顔を合わせざるを得ない機会が生じます。 離れて住みたいと思うなら、いずれかもしくはお互いが島を出るしかないということにもなるのです。

  ただ、だからといって離婚するなということにはなりません。僕が言いたいのは、離婚相談もご本人の環境や立場によってその問題は変化するということです。 弁護士は、ご本人の意思や目的を実現するために何ができるか考える立場。それだからこそ、法律知識だけでなく、社会常識や感性も必要になってくると思っています。
2008.9.18


島弁日記(11)〜高校での法律教室〜

今回の法律相談会:小笠原村 H20.7.10(水) 19:00〜21:00
                       7.11(木)  9:00〜17:00
次回の法律相談会:三宅村   H20.8.24(日)  9:00〜13:00
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  今回は小笠原高校におじゃましてきました。島に行っていつも相談者が来るのを座って待っているだけかというと、実はそうではありません。 事前の企画段階で余裕があれば、法律相談がない方でも参加していただける法律教室を開催しています。
  弁護士って敷居が高いイメージですから、今後悩みが生じたときに気軽に相談に来てもらえるよう、こちらから顔を見せる努力をすべきと思うからです。
  そんなわけで、今回はこちらから不躾なお願いをして高校の授業の時間をお借りし、高校生に対して法律教室を行いました。

  高校での法律教室は、いつも講義形式では行いません。理由は簡単、一人で前で一方的に話していてもつまらないからです。
  今回のネタは、まず消費者クイズ。ワンクリック詐欺や出会い系サイトなど、携帯電話にまつわる消費者トラブルを4つ取り上げ、 それぞれまずは高校生に台本を渡し2名の寸劇にて問題設定。
  我々のメンバー3人が解答者として異なる答えを出し、誰が正しいと思うか高校生に手を挙げてもらう。 その後、解説者が正しい答えを出すという流れです。このシナリオは全部この日のために書き下ろしたのですが、これが大変だった! (高校生向けに携帯電話を取り上げようと思ったまではよかったが、出会い系サイトとか実際に見たことがないからよく分からない。) 国民生活センターのホームページに掲載されている被害事例など研究しながら苦労して作りました。こんなこと、好きじゃなきゃやってられないですねえ。

  2時限目は税金ゲームで、これも我々メンバーの税理士の池田充さん書き下ろしです。
  例えば商売をして儲かった人が払う税金など、日常の行為で課税される税金の種類を黒板に貼ってある多くの税金の中から選んでもらったり、 収入の異なる3人を題材に誰からどれだけの税金 (所得税) を取るべきかという累進課税 (実質的平等の観点) をお金を動かしながら考えてもらったりと、 小道具を駆使して分かりやすく説明していました。そして、最後に各士業の職業紹介をして終わりました。

  肝心の高校生の反応は、というと、寝ている子もいなかったし、それなりに楽しんでもらえたと思います (たぶん・・・)。
  小笠原高校は村に一つしかない高校で、今年度の全校生徒数は48名。今回の内容が少しでも記憶に残ってくれたら嬉しいなと思います。

2008.8.26


島弁日記(10)〜小笠原島民の固有の歴史〜

今回の法律相談会:小笠原村 H20.7.10(水) 19:00〜21:00
                       7.11(木)  9:00〜17:00
次回の法律相談会:三宅村   H20.8.24(日)  9:00〜13:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  長い船旅を終えて父島の港に降り立つと、おそらく誰もが期待した通りの南国の雰囲気です。 海、空、太陽、風、山、木々、そしてきれいなペンションやお店。風景だけでなく、人々の生活に目を向けるといろいろとおもしろいことを発見できます。 例えば、車は品川ナンバー (管轄だから当たり前だがちょっとびっくりする) だとか、新聞は1週間分が束になって売られているとか。 そのうち、欧米系の顔をした人が結構多いことに気付くと思います。もちろん観光客ではなく地元の人々で、流暢な日本語をお話になられます。 彼らは、欧米系島民と呼ばれており、小笠原の歴史に深く関わってきた方たちです。


  小笠原の歴史は比較的浅い。江戸時代終期、それまで無人島だった小笠原に、捕鯨漁の中継基地として欧米人が入植したことから始まります。 その後江戸幕府も八丈島から日本人を移住させ (旧島民と呼ばれています)、明治時代以降日本の領土として認められるも、欧米人と日本人が混在して生活していました。 一時は果樹や野菜栽培、漁業などで栄え、約7500の人口 (現在の3倍) になるほど栄えましたが、太平洋戦争により大きな転機を迎えます。 空襲を受けるなど戦火が激しくなり、昭和19年には全島民が内地への強制疎開を命じられることとなるのです。

  戦後の米軍統治下では、欧米系島民のみ帰島を許されることになります。 彼らが爆撃で荒らされ無人島同然となった集落を復興させるのは容易ではなかった一方、 日本系島民も帰島することができたのはそれから20年以上も経った昭和43年です (小笠原の日本返還)。 そして、その後新たに島に住むようになった島民 (新島民を呼ばれています) も増え、今の小笠原の人々の生活があるわけです。

  このような歴史は、当然ながら小笠原固有のものであり、そうであるからこそ、小笠原固有の法律問題も存在します。 例えば、欧米系島民は入植時より家系がかなり広がっている上、戦後の米軍統治下においては当然ながら日本語教育はなく、 日本返還後はアメリカで暮らす子弟も多いために、相続関係を調べたり相続人に連絡を取ったりするのは容易ではありません。 日本系島民にとっては歴史に分断があるので、隣地の登記名義人が戦前実際に存在していたかすら不明なこともあります。 今年は父島返還40周年ですが、まだまだ固有の歴史に端を発する法律問題は残っています。
2008.8.5


島弁日記(9)〜債権回収〜

今回の法律相談会:御蔵島村 H20.6.13(金) 13:00〜17:00
             八丈町   H20.6.15(日)  9:00〜16:00
次回の法律相談会:小笠原村 H20.7.10(水) 19:00〜21:00
                      7.11(木)  9:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  「債権回収」 ってなんだかヤクザの取立てのように聞こえますが、今回のお話しは違います。 人にお金を貸した、商売でこちらから約束の物を納品した、これらは相手に対して債権を持っているので、これを回収したいというものです。 貸金 「債権」 や売掛金 「債権」 などの 「回収」。正当な権利行使ですが、島の人たちに、ハンデが生じる場合があります。

  そもそも債権を回収することは、意外と簡単ではありません。貸金なら消費貸借契約書や借用証がある、 売掛金なら売買契約書や注文書・納品書があるということであれば、一応の証拠はそろっていることになります。 でもそれだけでは解決しない場合、それは、信頼関係がこじれて相手方が感情的に支払を拒否している場合や、資金不足に陥って払えない場合、 特に理由がなくても払おうとしない場合などです。いかにして相手方に支払ってもらうか、すなわち債権を回収するかという問題は、理屈とは別なのです。
 
  島に住んでいる人が内地 (島外) の人に対してこのような債権を持っている場合、その距離感が解決を難しくさせます。 通常、相手方が約束通り支払ってくれないときは自分から催促します。 しかし、離れているため電話や手紙だけでは深い話し合いができませんし、会いに行けなければプレッシャーにもならない。 さらに、相手が無視したり行方をくらましてしまうと、現地を確認したり周りの人に聞いたりすることができず、どこに住んでいるかすら分からなくなる。 加えて、僕にはこのような地理的距離感が、精神的距離感にも影響しているように感じられます。
  例えば、島に住んでいるときに借りたお金を返さず内地に引越し、そのまま逃げてしまう相手方。 島からはうるさく言ってこないだろうと、タカをくくって放置しているかもしれない相手方。当方も、請求しづらいなあと思いながら月日だけが過ぎてしまいます。

  島の場合ではなくとも、不動産や預金、給料 (勤務先) など相手方の財産を把握していないと債権回収は困難な傾向にあります。 たとえ裁判で勝訴しても、相手方が払おうとしなければ強制執行せざるを得ず、財産のありかをしらなければ強制執行もできないからです。 ただ、そのような場合は仕方ないとしても、「距離」 からくる島の人々のハンデは、内地に住む僕らができる限り協力してカバーしたい、そう思います。

2008.7.7


島弁日記(8)〜巡回相談活動をなぜ続けられるか〜

今回の法律相談会:神津島村 H20.5. 9(金) 10:00〜17:00
次回の法律相談会:御蔵島村 H20.6.13(金) 13:00〜17:00
             八丈町   H20.6.15(日)  9:00〜16:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  前日より (二日酔い以外で) めずらしく体調を崩してしまい、早く寝たけど朝起きても具合が悪く、神津島行きお休みしてしまいました。 で、相談会が中止になったかというと、そうではありません。 仲間の弁護士、司法書士にお任せしました。1人で島に行っているかのような雰囲気でこの日記を続けていますが、実は仲間がいます。

  僕が初めて離島で法律相談会を行ったのは平成13年2月、小笠原村においてです。そのときより、弁護士、司法書士、税理士中心のグループで活動を行っています。 それぞれの専門分野は異なりますが、いずれの分野の知識も必要となる相談は結構あります。 典型的には相続問題。遺産分割協議の相談を弁護士が受ける場合でも、不動産の名義を誰にするか、その費用はいくらかかるか、また相続税はいくらなのかなど、 隣に司法書士や税理士がいると助かることがよくあります。相談者にとって、一度の機会で様々な相談をすることができるので、ワンストップサービスなんて言われます。 同じ弁護士同士でも、経験や考え方は様々ですから、相談者に伝える解決方針に悩む場合、やはり頼りになります。

  我々は一応、特定非営利活動法人司法過疎サポートネットワークというNPOを立ち上げています。 相談活動に参加したことのある弁護士、司法書士、税理士が主な会員です。 まず事前に各島の町役場、村役場にご連絡し、相談会開催の希望日をお伝えし、広報と場所の提供をお願いする。 広報とは、各町村の広報誌と防災無線です。場所は島によって異なりますが、開発総合センターや公民館等公共施設をお借りしています。 その後、我々の中で参加を募り、弁護士、司法書士、税理士合わせて5、6名で訪問し、無料法律税金相談会を開催する。これが通常の流れです。

  今回のようなアクシデントがなければ僕はほぼ毎月この相談会に参加していますから、冷静に考えればその労力と費用は相当なもの。 特に費用は、小笠原村など渡航費、宿泊費の援助をいただいているところもありますが、たいていは自費です。 それなのになぜ続けられるか。それは、一つはアウトドアが好きであるという趣味を兼ねているから。 そしてもう一つは、意識を同じくする仲間がいるからです。これからも楽しくこの地道な活動を続けていきます。
2008.5.22


島弁日記(7)〜新島 コーガ石〜

今回の法律相談会:新島村  H20.4.19(土) 10:00〜17:00 (新島)
                            12:00〜15:30 (式根島)
次回の法律相談会:神津島村 H20.5.9(金) 10:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  相談会の翌日、海で泳ぐにはまだ寒いということで、同行した仲間とガラス作り体験をしてきました。 新島には世界的にも珍しいコーガ石 (抗火石) があります。「何それ?」 と言う人でも見たことがあると思われるのが、 渋谷駅のモヤイ像 (「モアイ」 ではなく 「モヤイ」)。あれは昭和55年に新島村が渋谷区に寄贈したものなんだそうです。 スポンジのように穴が開いた軽石で、加工しやすく意外と丈夫。渋谷駅のモヤイ像は古いせいか排気ガスのせいか黒いですが、現地のコーガ石は白。 サーフィンのメッカ羽伏浦の白浜のイメージです。

  羽伏浦の砂を手に取ってよく見ると、白浜というよりガラスの砂であることが分かります。 コーガ石は主成分が77%の硅酸から成る黒雲母流紋岩で、この硅酸というのがガラスの原料。 そのため、コーガ石は加工しやすい木材として利用できるだけでなく、溶かせばガラスを作ることもできるわけです。 新島ガラスの自然な色は、透明ではなくオリーブ色です。

  見ているだけで熱く感じる溶解炉の中から、どろどろの真っ赤なガラスをパイプで巻き取り、息を吹き込んで空洞を作り、さらにガラスを上塗り補強して息を吹き込む。 ガラス作りと聞いて誰もが頭に思い浮かぶあれです。底を整えたり、コップの口の部分を広げたり、少々失敗してもあたため直して調整できるのがおもしろい。 とはいいつつ、作業 (の大半) をインストラクターに補助してもらいながら、わずか10分足らずで思い通りのコップができました。


  作成したコップは一晩除冷炉に入れてもらい、後日手元へ。思いのほかよい出来で実用になります。 今回はコップ1点制作のコースでしたが、予想以上に楽しかったので今度は他のものも作ってみたいと思いました。
2008.5.1


島弁日記(6)〜「裁判ざた」〜

今回の法律相談会:新島村  H20.4.19(土) 10:00〜17:00 (新島)
                            12:00〜15:30 (式根島)
次回の法律相談会:新島村 神津島村 H20.5.9(金) 10:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  弁護士は裁判を起こす仕事。これが一般の方のイメージかもしれませんが、半分当たっていて半分はずれています。 たしかに訴訟活動は一つの重要な仕事ですが、弁護士に依頼すれば何でも裁判になるというわけではありません。 裁判に至らずとも相手方との間で話し合いが成立する事件はいくらでもありますし、早期解決という意味で基本的にはそれを目指します。 ただし、こちらがそう思っていても、相手方にしてみれば、いきなり弁護士から通知がくれば 「裁判ざたにする気なのか」 と不満を持つ場合もあります。 弁護士が受任挨拶を出す際には、まずこちらの主張をきっちり書いた内容証明郵便を送ることが多いのでなおさらです。

  島の相談ではこの点にとても気を遣います。 そもそも、匿名性の低い小さなコミュニティの中で、相談者自体が周りの目を気にして相談場所に訪れることに抵抗を感じる場合があります。 そのため、希望があればこちらから自宅に出向いて相談を受けています。 外で必要以上に目立たないために、また相談者に気軽に話をしてもらうために、僕はいつもスーツを着ていません (内地での通常業務は別ですよ!)。 島でスーツを着ている人自体が少ないですし、弁護士に対する近寄りがたきイメージ、「敷居」みたいなものをできるだけ取り除きたいと思うからです。

  ただし、事件受任することになったが紛争の相手方が同じ島に住む人の場合、どのように交渉を進めていくかは依頼者とよく話し合わねばなりません。 会いたくなくても外を歩けば顔を合わせてしまう環境にあるわけですから、例えば強気な内容証明郵便の発送を依頼者が望まないことも多いからです。 司法過疎地では当事者いずれも弁護士へのアクセスに障害があるのですから、 当事者の一方に弁護士が就くことで崩れる当事者間のバランスに気をつけていないと、かえって解決に支障をきたすということもありえます。

  「相手方ともめないようにしてください」。弁護士が交渉する上で依頼者からのこのようなリクエストは結構難しいのですが、 文書の言葉遣いを柔らかくするとか、あえて内容証明郵便を利用しないとか、ときには相手方に面会を求めるとか、いろいろ試行錯誤です。 もちろん事案によってはやむを得ない場合もありますが、少なくとも島に裁判所がない以上、「裁判ざた」 を本当に裁判にまでしない努力も必要だと考えています。

2008.4.24


島弁日記(5)〜帰島後の三宅島〜

今回の法律相談会:三宅村  H20.3.21(金)09:00〜17:00
次回の法律相談会:新島村  H20.4.19(土)10:00〜17:00(新島)
                           12:00〜15:30(式根島)
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  三宅島に上陸するときにはガスマスクを携帯することになっています (船が出発する竹芝桟橋で2520円で購入できます)。 三宅島の火山ガス放出は現在も続いており、島内では定期的に火山ガス情報が防災無線で流れ、 一週道路沿いにはその場の火山ガスのレベルを示す回転灯 (濃度に応じた色の回転灯が光る) が設置されています。 こんなこと聞くと驚いてしまう人がいるかもしれませんが、いざ行ってみると、他の島と変わらずのどかな雰囲気です。 僕自身、まだ一度もガスマスクを使ったことがありません。ガスの噴出量や風向きによっては硫黄臭を感じることもありますが。

  雄山の大噴火により全島民が島外に避難することになったのは平成12年の9月1日。 それから4年半を経て平成17年2月1日に避難指示解除となりましたが、当初は 「火山ガスとの共存」、「帰島は村民個人の自己責任に基づく判断」 などと言われ、 本当に帰れるのか疑わずにいられませんでした。あれから3年。人口は統計上2900人と避難前の75%まで回復し、道路沿いには着々と新しい家や店ができています。 もともと三宅島はバードアイランドと呼ばれるほど野鳥の種類と数が豊富でしたが、今でも騒々しいほどに野鳥がさえずっています。 ダイビング客や釣り客も多く訪れています。

  と、災害復興は順調のようにみえますが、実はまだまだ悩みを抱える島民はいます。特に難しいのが土地に関する問題でしょうか。 三宅島の土地はもともと地番がなく地図も整備されておらず、登記簿があっても所在不明の土地があったり、 国土調査により筆界未定となってしまった土地があったり、これまでの噴火 (昭和37年、58年)の際には流れ出した溶岩により土地が埋没したりとかなり複雑です。 住んでいたときはそれほど気にならなかったかもしれません。 それが、今回長期避難生活により建物が劣化し、また泥流被害を受けて全半壊し (今回の噴火では溶岩の流出はありませんでしたが、 山の表面に積もった火山灰が雨水等により泥流となってふもとの建物を押しつぶす被害がありました)、 建て替えの必要が生じたときなどに、これら眠っていた問題が浮上しているのです。

  年間を通じてガスが流れやすいということで 「高濃度地区」 として今でも居住が禁止されている地域があります。 東の三池地区にあった村役場もそうであり、現在は南西の阿古地区の学校施設を仮庁舎として使用しています。 今回の相談会でもここをお借りしました。長期間帰ることが許されなかった 「島」 での、 現在も火山ガスが放出し居住禁止地区も存在する 「完全には終息していない災害」。帰島後の三宅島に学ぶべき事は多いです。

2008.4.7


島弁日記(4)〜小笠原の時間的距離〜

今回の法律相談会:小笠原村 H20.2.7(木) 19:00〜21:00
                      2.8(金) 09:00〜17:00
次回の法律相談会:三宅村  H20.3.21(金) 13:00〜17:00
                      3.22(土) 10:00〜17:00予定
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  東京・浜松町の竹芝桟橋から25時間半の船旅、これが小笠原へ行く唯一の交通手段です。 船旅というと何となく優雅なイメージですが・・・揺れるときは揺れるんです! 今回の帰りの船は、前線の影響で北東の風が強く久々に経験する大揺れ。 ジェットコースターよりも重い強制的縦揺れと横揺れが一晩中です。船が波に当たる音もドガーン、ドガーンと響き眠れたもんじゃありません。 僕は船に強い方で酔い止めも飲まないのですが、夜が明けても続く大揺れ。 起きあがってトイレに行くことすらおっくうで、何もすることもできず、この日記は横になったまま携帯のテキストメモ使って辛うじて書いています。

  東京―小笠原間を結ぶ 「おがさわら丸」 (略称 「おが丸」) は1000人乗りの大型船で、約1週間に一度就航する定期船です。 途中の寄港地はありません。例えば今回は、水曜日の午前10時に東京都出て、翌、木曜日の午前11時半に小笠原・父島二見港到着。 そのまま船は金・土と停泊し、日曜日の午後2時に出発して翌月曜日の午後3時半に東京に到着する。 これが小笠原訪問の最短ルートでワンシップと言います。行き帰りで船中2泊、現地3泊の合計5泊6日、途中で帰ることはできません。

  島の人が内地に行くときはさらに日数が必要です。午後3時半に東京に着いたおが丸は、大抵の場合翌日午前10時には再び小笠原に向けて出航する。 これでは日中の滞在時間がほとんどありませんから、普通は一度船を見送ることになります。すなわち、9泊10日。島から出張するのも容易ではなさそうです。 数年前までTSL (テクノスーパーライナー) という高速船就航が国家プロジェクトで進められてきましたが、原油高その他の理由から、 船が完成したにもかかわらず一度も就航することなく計画が白紙になってしまいました。 長年議論されている飛行場計画が再浮上する可能性はありますが、いずれにしろ当面はおが丸のままです。

  僕にとって島への巡回法律相談は平成13年2月に訪問した小笠原から始まりました。 今回でおそらく17回目。25時間半という時間的距離で言えば、日本どころか世界各国よりも遠い場所です。 究極の場所であるからこそ通いたいと思うし、地道に通い続けることでしか解決できない島の人々の様々な法律問題があります。

  結局、揺れに揺れたせいで到着が大幅に遅れ、26時間半の船旅となりました・・・
2008.2.14


島弁日記(3)〜裁判所〜

今回の法律相談会:大島町 H20.1.18(日) 10:00〜17:00
                     1.19(土) 09:00〜12:00
次回の法律相談会:小笠原村 H20.2.7(木) 19:00〜21:00
                      2.8(金) 09:00〜17:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  伊豆諸島・小笠原には地方裁判所がありません。大島・新島・八丈島に家庭裁判所の出張所と簡易裁判所があるだけです。 では島の人々が裁判所を利用するとなるとどこに行くか? それは東京のど真ん中、霞ヶ関の本庁となります。

  多くの方は 「自分は裁判所に行くことはないから関係ない」 と思われるかもしれません。 でも、人が社会の中で他人に接しながら生活する以上、思わぬきっかけで裁判所が必要になります。 例えば、他人にお金を貸したがなかなか返してもらえないとか、他人との間で事故を起こして損害賠償を求められたりとか、 亡くなった親が自筆の遺言を残していて家庭裁判所の検認手続が必要だったりとか、離婚することになったが条件につき当事者の間で話し合いがつかないとか。

  もともと裁判所に行くこと自体、そんなに気持ちのいいものじゃありませんが、近くにないとなるとさらに負担が増します。 相手方が東京、自分は島、裁判所は東京ということになると、自分の側の金銭的・時間的負担が一方的に重くなってしまうわけです。 相手方も同じ島民であるとすれば、両者とも。弁護士に依頼すれば代理人として裁判所に出てもらえますが、 それでも和解協議、証人尋問のときなど内地 (島から見て東京のことを 「内地」 といいます) に出向かなければならない場合が生じます。

  つまり、いざというときのために、やっぱり裁判所は全国津々浦々にあるべきなんです。 あまり現実味なく聞こえるかもしれませんが、例えば小笠原にも戦前は裁判所がありました。 せめて各島に簡易裁判所や家庭裁判所があれば、必ずしも弁護士に依頼せずとも本人申し立てて調停 (話し合い) ができるようになります。
  また、弁護士にとっても裁判所のない地域で独立開業することはかなり困難です。 本人同様、弁護士自身にも金銭的・時間的負担が生じるわけですから。裁判所ができれば弁護士土着の可能性も出てくるわけです。

  先に述べたように、大島には簡易裁判所がありますが、島で最も大きい元町にありながら、裁判所はやけに奥まった目立たない場所にあります。 島の濃密な人間関係ではなおさら 「裁判ざた」 を好まないでしょうが、だからこそ裁判所の方から積極的にその存在をアピールしてほしいと思います。
2008.2.4


島弁日記(2)〜神津島 天上山〜

今回の法律相談会:神津島村 H 19.12.7 (金) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:大島町   H 20.1.18 (金) 10:00〜17:00
                       1.19 (土) 09:00〜12:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  神津島(こうづしま)村法律相談会の翌日、 天上山(てんじょうさん)に登ってきました。「神津島」 の 「天上山」 とは何とも神話めいた雰囲気が漂いますが、 この島は伊豆諸島9島の真ん中に位置するためか、各島の神々が天上山で会議を開いたという言い伝えが本当にあります。 その昔、事代主命という神様が、島づくりのために、神々を集めて相談をする拠点としたのが 「神集島」 であり、そこから 「神津島」 の名がつけられたのだそうです。

  山といっても標高は574メートル。2つある登山道のうち、集落から外れた西側の白島登山道途中まで車で行けば、山登りは30分足らずです。 それでも、最近仕事が忙しくてスポーツクラブさぼり気味の体。前の日にいきなり僕が言い出したことなので、 相談会に同行した仲間の中には仕事用の革靴の人もいて、さらに大変だったようです。ゴメンナサイ……道は整備されてるんですけどね。

  息も絶え絶えに山頂にたどり着くと、眼下には足下の白い山肌とさわやかな水色の空の間に、深い青色の海が広がります。 低木である上に、地肌部分も多く、台形状の山頂部はどこに行っても眺めがよい! ゴロゴロした岩場があったり、背丈ほどの低木の林を抜けたり。 不入ガ沢(はいらないがさわ)という神々が水を分ける相談をしたと伝えられる窪地があります。 表砂漠とよばれる平坦地には、ガラスのような白砂があり、登ったのに砂浜に来たような不思議な感覚です。

  さらに山の東側に行くと、伊豆諸島が一望できるような高台があります。 快晴ながらも水平線はかすんでいたため、今回は遠くの島まで望むことはできませんでしたが、隣の平たーい式根島とその後ろに構える2つの山、 新島とのコントラストは印象的でした。
  神も立ち寄る神津島。軽いトレッキングにはお勧めの山です。


「相談会に参加した弁護士3名、司法書士3名、税理士1名」
2007.12.18


島弁日記(1)〜相続問題〜

今回の法律相談会:神津島村 H 19.12.7 (金) 10:30〜17:00
次回の法律相談会:大島町   H 20.1.18 (日) 10:00〜17:00
                       1.19 (土) 09:00〜12:00
マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  島ってどんな相談が多いの? とよく聞かれます。
  弁護士はもともと何でも屋みたいなところがあるし、人の悩みは千差万別ですから、島で受ける相談も様々です。ただ、あえて言うなら 「相続問題」 が多いでしょうか。 中でも、例えば 「島に先祖代々の土地があるが、現在の登記名義はひいおじいさんのままである。すでに亡くなっていて相続が繰り返され、 今では10名以上の相続人がいて、自分もその一人である。」 というような、土地にからむ相談が悩ましいです。

  遺産分割協議をしようにも、孫の代、ひ孫の代になってくると相続人間の関係が希薄だし、そもそも誰が相続人でどこに住んでいるかも分からない。 戸籍をたどれば調査はできるけど、会ったことがない人に手紙を出すのもはばかられる。 逆に連絡をとらず、複数の相続人がいても相続に従った登記を入れることは可能だが、多数者の共有となるのでは解決しない。 結局、次の代になると枝分かれして、さらに権利を持つ者が増えていくからです。

  ではどうするか。他の相続人より相続分を譲り受ける方法が考えられます。ただし、必ずしも無償でというわけにはいかず、買取り資金が必要です。 土地の他に現金預金の遺産があればこれを利用できるのですが、本件のような何代も続いた相続の場合にはそのような流動資産はないことがむしろ普通です。 しかも、相続財産の一部を第三者に売るなどして (もちろん他の相続人全員の同意の上で) 資金繰りをしようにも、島の土地は必ずしも価値が高くありません。 それどころか、そもそも不動産屋の通常の土地売買の対象となる地域ではないので、市場価格がいくらかかも、本当に売れるのかも分からないのです。 さらに、土地問題の最終手段? たる時効取得も、相続が関係すると簡単ではありません。

  でも、このまま放置していいのでしょうか。土地問題の難しさは、放っておくと永遠に解決しないというところにあります。 島に住む相続人の一人が、事実上管理使用していたとしても、その土地に家を建てたりすることは困難です。 島の面積は限られているのに、このような利用しにくい権利関係の複雑な土地が増えていくのはとても耐え難い。 もっと早くに弁護士や司法書士が関与できていたらと思うと、僕は弁護士としての責任のようなものも感じてしまいます。 どこまで何ができるか、自分自身にとっても挑戦です。
2007.12.17



島弁日記 〜ご挨拶〜

次回の法律相談:12/7 (金) 10:30〜17:00 神津島法律相談会
連絡先:マザーシップ法律事務所 TEL 03-5367-5142
     弁護士 ()  (かい)  (のり)  (あき)


  東京には、伊豆諸島・小笠原諸島含めて全部で11の有人島があります。 人口 9,000人近くの島から数百人の島までその雰囲気は様々ですが、弁護士は一人もいません。 裁判所も、数島に簡易裁判所があるだけで、地方裁判所はありません。我々はこのような地域を司法過疎地と呼んでいます。

  人が普通に生活する以上、望むと望まざるとにかかわらず、法律問題に関する困りごとや争いを抱えてしまうことがあります。 いざそうなったときに誰に相談していいか分からない。電話相談という手もありますが、弁護士の立場からすると、 直接、顔を合わせたり資料を見たりしながらお話しを聴かないと、なかなか適切なアドバイスはできないのが正直なところです。 となると、島民は弁護士に相談するにも内地 (東京) まで出かけていかなければならない。その時間的・金銭的負担は相当なものです。

  私は5年程前から、東京の島しょ部を定期的に巡回し、島民向けに法律相談会を行っています。 離島であるが故に法的サービスが受けられないというのは不平等であるし、それを解消するためには誰かがやらなくてはならないと思うからです。 全ての島で年1、2回開催していますから、毎月1、2回は島を訪問していることになり、「空弁」 ならぬ 「島弁」? (「弁」 の意味が違う!) 状態です。 もちろん、この活動ばかり行っていては事務所経営できませんから、普段はバリバリ一般事件の処理に没頭していますが・・・

  島であるが故に匿名性が低く、すぐに特定されてしまうため、実際に関与した事件をそのままここに書くことが難しい。 ですが、この活動を続ける中で、弁護士として、または、僕なりに感じていることはたくさんあります。 これからは、私が島を訪問するたびに、少しずつそんなことをお話ししていこうと思います。
2007.11.19