本書は、朝鮮半島出身の非転向政治犯として19年間を獄中で過ごした筆者が東アジアの国家暴力の現場を巡る旅、
すなわち台湾、沖縄、韓国、中国における国家テロリズムによる 「政治受難者」 の人権・名誉回復と和解・平和を求める旅をまとめたエッセイ・評論集である。
本書を通じて、読者は、波乱万丈の人生を歩まざるを得なかった筆者の生々しい人生を追体験するとともに、「東アジア」 とは何か、植民地、
冷戦・分断体制に支配されてきた東アジア民衆とは誰か、を筆者とともに探求することになる。
そして、「分割して支配する」 という米国・日本による東アジア支配の実態を再発見するだけでなく、東アジア冷戦構造の解体と過去清算、
東アジア民衆の真の解放への道を見出すことになろう。
筆者は、明治以降の日本には、西欧を模倣して東アジア諸民族を抑圧する 「欧化主義」 への道、
東アジア諸民族と連帯して西欧に対抗する 「アジア主義」 への道という二つの選択肢があったが、
日本は自国中心の東アジア地域秩序を指向して 「大東亜聖戦」 に突入して敗戦にいたったことを指摘するとともに、
靖国神社に象徴される誤った歴史認識を克服して日本軍国主義の解体と植民地支配体制の清算を行うことが日本再生と東アジアでの平和と和解を実現する道であることを提起している。
特に、最後の 「日本の東アジア戦略を問う」 論考が、韓国のキャンドル・デモに象徴されるサイバー・アゴラ民主主義の先進性を指摘する一方で、
現在の日本(麻生政権)、韓国(李政権)両保守政権の相似性とコントラストを浮き彫りにしているように、
本書は日本のあり方に根源的な問いかけを与えてくれるものであり、一読されることを強く薦めたい。
(『週刊金曜日』 845号 2011年4月29日発行 に掲載)