ブックレビュー 

ガバン マコーマック/乗松 聡子共著
『沖縄の〈怒〉: 日米への抵抗』 法律文化社 の薦め

木村 朗(鹿児島大学教員、平和学)


 本書は、沖縄にとって 「屈辱の日」 に他ならない4月28日を 「主権回復の日」 として祝おうとする安倍政権に、沖縄人以上に大きな怒りを表明する、 オーストラリアの日本研究者とカナダ在住の平和教育家の共同作業によって完成された作品である。 英語版が本書の原型であるが、それとはある意味で別個の作品で、 まさに沖縄人以上に沖縄現地の人々の立場・視点を重視する姿勢を貫く二人の著者による、 沖縄問題の本質と歴史的背景を本格的に追究した沖縄研究の必読書である。

 歴史的背景として、 琉球・沖縄がある時期二つの強大な隣国である日本(薩摩藩)と中国(清朝)に従属する日支両属・二重主権の 「劇場的国家」 であったとしている。 また、戦後の 「平和国家」 日本と 「戦争国家」 沖縄への分断状況は、(平和)憲法の上に立つ安保条約という現実の反映であり、 沖縄戦が天皇制を守るための 「捨て石」 作戦であったように、沖縄問題と天皇制には密接な関係あることを示唆している。
  さらに日本がどうして自ら進んで屈辱的な従属をしているのかという問いに、昭和天皇の戦後日本の安全保障を米国に任せる発言を対置している。

  オスプレイ問題に関連して、これまでタブー視されてきた普天間基地の 「県外移転」 をいま訴えている沖縄人の真意を、 単なる 「平等負担の訴え」 ではなく、これまで沖縄の基地問題に無関心であった本土の人々の心の中にある差別意識・植民地主義に、 真摯な反省を求める痛切な問題提起であると代弁している。そして、沖縄のたたかいは沖縄だけでなく、「他国の市民を守るためのもの」 でもあるという。
  「これ以上の人権抑圧は許さない」 とする沖縄人の声にどう応えるのか、本土に住む日本人の人間的感性が現在まさに問われているのである。
(『週刊金曜日』 2013年4月19日号に掲載)