ブックレビュー 

孫崎亨・木村朗 編/法律文化社
『終わらない〈占領〉対米自立と日米安保見直しを提言する!』

清水 竹人(桜美林大学教員)


  2013年4月28日の閣議決定からわずか1ヶ月半、「主権回復の日」 なる行事が政府の手によって執り行われた。 「サンフランシスコ講和条約」 から61年、現在の日本の 「主権」 がいかなるものかを検証せずに祝うのは、あまりに能天気と呼ばれてもしかたあるまい。

  本書を手にした読者は、鳩山由紀夫・元首相が序言を書いていることに、まず驚かされるであろう。 選挙公約で、普天間基地の移設を 「できれば国外、最低でも県外」 と表明し、長きにわたる自民党支配に終止符を打ったものの、 首相就任後に訪問した沖縄で米海兵隊の抑止力に理解を示し、けっきょく辺野古案に回帰した人物である。 裏切られた沖縄の怒りは大きく、マニフェストの雲散霧消に、脱自民党政策を期待した人々をも失望させた。 東日本大震災と福島原発事故で引導を渡されたとはいえ、民主党政権崩壊のきっかけを招いた張本人というのがおおかたの認識だと思う。

  マスメディアは、鳩山氏の一貫しない政策を叩きに叩いたが、首相の変心というより、そのような方向へ誘導する日米合作のシナリオがあったことを、 本書が示唆している。米国は、自国に服従的な政権を支援する一方、そうでない場合は、あらゆる手段を用いて介入してきた。 日本に対しても、軍事力の行使にはいたらずとも、これまでに数多の政治家が葬られてきたことを論ずるのは孫崎亨氏。 それに加え、政権中枢にいた川内博史氏が今回の 「鳩山つぶし」 の内幕を暴露している。

  頓挫した東アジア共同体構想は、戦後の 「対米従属」 から新たな 「対米独立」 への舵切りであり、その阻止こそが目標とされた。 両国の国民の利益や地域の安定などのためではなく、一部の人間の利権保持であることはいうまでもない。 日本外交を米国一辺倒から東アジア協調路線にシフトすることを米側にリークした外務省・防衛省、 党の指導的立場にあった小沢一郎氏を執拗に訴追することで民主党内にくさびを打ちこんだ検察、そして党内の面従腹背の徒など、 敵は内側にも潜んでいたことが見えてくる。

  普天間を県外に移設することは、本当に無理なのか。読者自身の発見や衝撃をそぐことになるので、あまり多くを書くことはしないが、 米軍再編のカギを握る 「エア・シー・バトル構想」 によれば、辺野古に新基地を建設する必要性は希薄であり、 むしろ海兵隊のグアム移転こそが抑止力の強化なのだという。防衛省や外務省はグアムに 「下げる」 という表現をするのだが、 「強化」 と 「下げる」 は相容れない印象を与えるものだ。沖縄から海兵隊がいなくなると抑止力が低下するといわんばかりである。

  オスプレイが配備された当時、野田佳彦・前首相の 「どうこういえる立場にない」 という発言は、まさに日米関係を端的にあらわしているといえよう。 米国内では許されないオスプレイの飛行を、米軍は日本中の好きなところを、好きなときに実施できる。 沖縄の空だけではなく、日本中の空が米軍ラプコン(レーダーによる航空機管制)の支配下にあるからで、それを可能ならしめているのが、 前泊博盛氏が詳述する 「日米地位協定」 である。

  しかも、米軍は一歩進めて 「自衛隊との協力」 を画策中だ。成澤宗男氏が懸念するような事態が実際に起きれば、 共同作戦を展開する上でいずれが指揮権を有するか、彼我の力の差を考えれば答えは自ずと見えてくる。 世界戦略に 「日本の軍事力」 を組み込むことで、不可避な戦闘による自国兵の損失を軽減することが出来、「属国としての日本」 は、 間違いなくその完成形に近づく。

  米側のみならず、日本国内にも属国化を望む声があるのは解せないであろうが、 ゼネコンを中心とする政財界が 「おこぼれ」 としか呼べない利権を求めて後押しをしているようだ。 現地の苦悩を知り尽くしている元地元自治体の長である伊波洋一、井原勝介の両氏、北方領土の返還に尽力してきた鈴木宗男氏らの言葉に、 私たちは耳を傾けるべきであろう。

  現在の日米関係は、国際社会における日本を低い地位にとどめるだけでなく、世界にとっても暗い影を落としている。 2003年のイラク戦争で、米国はイラク占領を 「GHQ方式でおこなう」 と表明した。要するに、第二次大戦後の日本と同じやり方を狙ったわけである。 しかし、イラクの民衆は日本人とは違った。抵抗はいたるところでわき起こり、治安は劣化し、混乱に陥っただけである。 手を焼いた米軍には撤退以外の選択肢は残されなかった。いや、戦後の日本を見ていたイラク人らは、最初から占領の期限を定めていたのである。 双方に深い傷を残しただけの無益な戦争という歴史が残ったが、後世、日本の二の舞になるよりよほどましだったと評価される可能性は高い。

  もうおわかりだろう。日本は真の独立にはほど遠く、主権を回復する方向にベクトルが向いていないのが実態だ。 本書に沖縄からの視点が多いのは、日本という国と日米関係の真の姿が、この地からはあからさまに見えるというだけであり、 ことは日本全土、あなたや私の問題であることに気づいてほしい。歴代の自民党、とりわけ安部政権は沖縄の全土化に熱心だ。 TPPも原発推進の政策も同根である。そんな中、反骨精神にあふれた志士たちが本書を上梓した。 日本国民の知らない、いや、あえて避けてきた真実がここにある。もしあなたが正義と公正を愛する人ならば、どうか行動で示してほしい。 そのための理論武装のための知恵、そして立ちあがる勇気をくれる一冊である。
(「アジア記者クラブ通信」 2013年7月号に掲載)