2011.7.16

シリーズ 原発


福島の子供たちの今

6月19日(日) 第一回こども健康相談会ルポ
[NPJ 原発特別取材班] 学生記者 川崎恵子

  福島県福島市 「ホリスティかまた」 にて、「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」 の医師たちによる健康相談会と記者会見が開催された。 主催者は 「こども福島ネット」 の世話人の丸森あやさん。 私は学生記者として記者会見に参加し、主催者の丸森さんと事務局スタッフの小林さん、カウンセラーとして参加されていた小学校教諭のかた、 健康相談会に参加されたお母さまにお話をうかがった。当日、相談会に参加したお母様の数は約500名。関心の高さがうかがえる。 みなさんの話を聞くほどに、福島の子供達が危険な状況にあることを肌で実感した。
  なお今回、原稿掲載に約1カ月かかった理由は、正しい情報をお届けするために、丸森さん、小林さん、小学校教諭のかた、 医師のみなさんに原稿内容をチェックしていただいたためである。子供達の健康は1カ月たった今、ようやく新聞、雑誌に取り上げられ始めてきた。 人ごとではないことが、今、福島で起きている。


  ■■ 丸森あやさん
  こども福島情報センター代表、こどもたちを放射能から守るネットワーク世話人。
  東南アジアで枯葉剤・地雷・ハンセン病に被災・罹患した子供達の支援活動に関わり、 原発事故後に福島・宮城・茨城の避難所を訪れて手当てボランティアを行う。整体師セラピスト。



Q.「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」 設立の経緯についてお聞かせください。
A.いわきに4月に整体ボランティアに行った時、甲状腺が腫れている子供たちの手当てをしたのです。 その後、福島市でも同じように子供の甲状腺が腫れていることに気がつきました。 それで、5月1日に設立された 「こどもたちを放射能から守るネットワーク」 に入って福島市での活動を始めたのです。 そうしたらですね。お母さんたちから子供たちの健康に関しての相談が寄せられました。 「鼻血や下痢など症状が出ているけれど大丈夫ですか」 という相談が、夜中にも来るので、お医者さんにもっと相談にのってもらう必要性を感じました。
  福島の小児科の先生に頼んだのですが 「福島はそう影響はない」 と言われて、なかなかご協力いただける先生が見つかりませんでした。 それで海外、全国へ呼びかけ、相談にのってくださる先生を求めました。 医療被ばくの問題を扱われていた小児科医・山田 真先生が応えてくださって、 「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」 を立ち上げてくださいました。 今日は、その中から山田先生や黒部先生や11人の医師のかた、学校の先生がボランティアで福島まで来てくださいまして、 子供たちの健康について相談できる会を開催することができました。
  放射線の影響は、あるかもしれないし、ないかもしれない。今の段階ではわからないのです。だからこそ専門家と母親が一緒に考える必要があるのです。 本当に 「安全」 で 「安心」 できる社会をつくるためには、専門家と母親が一緒になって知恵を出し合うことなのではないかな、と思うのです。

Q.子供たちの症状はどのようなものですか。
A.主には鼻血と下痢ですね。伊達市では子供たちの免疫力が下がっているのか、病気で入院する子もいます。 体が疲れやすくなり声がれする子供もいます。山田先生にお聞きしたら 「はっきりとは放射線との関係は、わからない」 とおっしゃいます。 わからないからこそ考えよう、自分たちで動こう、自分たちで知恵を働かせよう、と思いました。 放医研の健康相談に電話をして子供の鼻血について聞いたことがあります。「放射能の影響ではありません。 お母さんが神経質すぎるから、それがストレスとなって子供に影響する」 という答えでした。 福島市ぐらいの放射線量で鼻血が出るという過去のデータや動物実験の結果はないのだそうです。
  私は 「お母さんが神経質すぎて子供が鼻血をだすという過去のデータや動物実験の結果はありますか?」 と申し上げましたら、 「それはない」 という答えでした。それであれば母親が神経質すぎるから、と言って欲しくないです。 母親が自分の子供を守ろうとして神経質になることは当たり前です。誰だって不安にもなります。 その不安を否定するのではなく、「では、その不安がなくなるためにはどうしたらいいのか」 を一緒に考えて欲しいのです。


  ■■ 山田 真先生
  こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク代表。 森永ヒ素ミルク中毒の被害者の救護活動を医者として続けてきた。また、医療被ばく問題に長く関わる。


演壇が山田先生、右に座っているのが黒部先生

  昭和30年の森永ヒ素ミルク中毒事件の時、1年後に、国は健康診断で大丈夫と言ったのですが、実際には今50歳になっても、 つらく重い症状で苦しんでいるのです。今回の低線量被ばくも、持続的に受けることによる人体への影響、危険はあると思います。 私は放射線の専門家ではありません。しかし、専門家が安全だと断定的にものを言っている現実に怖れを感じます。 放射線の専門家ではない自分がどこまで言えるか自信はないですが、親御さんが何を知りたいのかを把握して安全を守る態勢をつくりたいし、 それを全国に知らせていきたい。そう考えています。アメリカでの被ばくの状況が低線量という点で日本と似ていますが、 データは残念ながらあまり公開されていません。みなさんには不安を持つことがいけないことと思わないで欲しいです。 そして私は子供たちと一緒に生きていきたいと思っています。


  ■■ 黒部信一先生
  小児科医。未来の福島こども基金代表。チェルノブイリ子ども基金顧問。母乳調査・母子支援ネットワーク発起人。

  私は医療被ばくの低減問題から、小中学校のX線検診廃止運動に取り組み、廃止させました。 今起きている低線量被ばくは、高線量による急性障害に対し、何年も経て起きる晩発障害が問題です。人の体細胞は60兆個ありますが、 1ミリシーベルトの放射線を浴びると、すべての細胞に1本ずつ通過し、細胞内の染色体やDNAが切断されます。 日常的にも細胞内の傷害はありますが、普通は修復され、健康を保つことができます。 その傷害の数が増えるので、すべての細胞の傷害の可能性があり、その傷害の確率を発がん性で代表させているのです。 乳幼児や胎児は細胞分裂が活発で、細胞分裂の際に間違いが起き、その度に修復されるのですが、その数が増えるため症状が出やすくなります。
  これから大切なのは、外部被ばくが減っていきますが、汚染された食べ物を食べることによる内部被ばくが増えることです。 内部被ばくは、体内に取り込まれた放射性物質による被ばくなのです。それを防ぐため食品の汚染状況を調べ、汚染度の高い食品を食べないことです。 また内部被ばくを調べるために、ホールボディカウンターが必要です。これに対応することで、 子供たち、特に汚染地から逃げられない子供たちの未来を明るくしていきたいと思います。 希望は免疫を活性化し、傷ついた染色体やDNAなどを修復する働きを高めます。子供たちと親たちに希望を持ってもらいたいと思います。


  ■■ 福島市在住のお母さん
  4歳と7歳の息子さんと一緒に、健康相談会に参加。

Q.お子様の健康状態はいかがですか。
A.心配です。4歳の息子は、震災後の3月、4月に鼻血を出して、それも赤黒い色の血です。 7歳の息子も3月に鼻血を出して、大丈夫なのか本当に不安です。それで今日、健康相談会に来ました。

Q.お子様のふだんの学校生活はいかがですか。
A.上の子の小学校は、校庭の土の入れかえをしたのですが、掘り起こした土を校庭にまとめてあって、 ブルーシートをかけているだけなんです。そして、そこがホットスポットになってしまっているんです。 その校庭で子供たちが遊んでいるので心配です。命の問題です。子供の命だけは、なんとかして欲しいです。 教室の窓は閉め切りだし、子供は外で遊べないし、本当になんとかして欲しいです。
  放射線量が高いなら、隠さないで高いとはっきり言って欲しいです。対応も自治体によって、まちまちで、 ある市ではガラスバッヂ(個人被ばく線量計)が配られると言われたり、集団疎開の話が出たりしています。 福島市はあまり何も対策がないように思えます。それに県も何もしてくれないし、福島県は県民をここに閉じ込めておきたいように思えます。 夜、子供の寝顔を見ると涙が止まらないです。
(同席していた祖母のかたが、うちの孫たちには毎日こんぶ水を飲ませてるから大丈夫。と不安そうに私に語ってくれた)


  ■■ 小学校教諭
  宮城県在住。子供のメンタルケアの相談員として、健康相談会に参加。

Q.本日の健康相談会ではどんなメンタルな相談がありましたか。
A.県外に転校した子のお母さんから避難先での心配について、 また、放射線への心配を全く聞き入れない中学校についてなどの相談がありました。 避難してきた子と言っても、指示されて避難して来た子と自主避難とでは、状況が異なることなど、心配されていました。 また、皆さん共通して、学校の先生方が話を聞いてくださらないということを嘆いていました。放射線のことだけではないと憤っていました。 学校で仕事している者としては嘆かわしいと感じます。管理体制が強化されている中、教職員が自分の言葉を持てなくなっている状況は、 教育の現場としては大きな問題だと感じています。

Q.では、いま教えていらっしゃる小学校にについて、お聞かせください。町はどんな状況ですか。
A.私たちは宮城県なので、被害は地震と津波によるものです。津波後は、安否確認などいろんなことがありました。 今、大人の雇用問題が大きな課題です。私の通う学校の生徒は幸いなことに、みんな無事でした。怪我をした子がいましたけれど命は無事でした。 学んだことは、慌てず落ち着いていこうってことですね。子供たちは強いです。毎日おもしろいことを発見し、したたかに成長しています。

Q.福島の原発事故による放射線の影響はありますか。
A.福島県でないからといって、放射線測定をおろそかにしていては、いけないですよね。 でも町で測定器を持っていないところもあるし、宮城県北部の牧草地でセシウムが出たといっても 「遠いから大丈夫」 「危険と言われていないから、 危険ではない」 と言っていたり。宮城県南部では校庭の土を入れ替えたりしていますけれど。北と南で対応が違います。
  これ以外にも、例えばプール掃除をどうするか、など、いろいろな問題があるんですよ。プール掃除は生徒と一緒に今までしていたんです。 ただ今までプールに貯まっていた泥には汚染物質が含まれているわけですからね。水道水には汚染物質が入っていないから大丈夫だ。 他の学校でも子供たちがプール掃除をしているから同じように。など、意見はいろいろです。 結局、私たち大人である程度は泥かき(汚染物質が入っているかもしれない)を済ませて掃除をしてから、子供たちを呼んで一緒に掃除をしました。
  これから心配なのは猛暑です。今のまま窓をしめて授業ができるのかが問題です。クーラーを入れてくれ、と言っても難しいです。 扇風機をおうちの方に借りたり工夫が必要でしょう。昨夏の猛暑のときは、扇風機に当たれるよう、しょっちゅう席替えをしたりしました。 ただ、この状況は来年も再来年も続くのかと思うと、なんとかしたいです。


  ■■ 小林麻耶さん
  こどもたちを放射能から守るネットワーク スタッフ



Q.子供たちの症状についてお聞かせください。
A.鼻血が止まらない、下痢が続いている。そんな症状ですね。今日の健康相談会も500名のお母さんが相談に来られました。 この状況で大丈夫だと言われていても、やはりお母さんは不安で相談会があるとみなさん集まってくるんですね。 福島のお母さんが何を考えているのか知ってもらいたいです。汚染された土地で子供を育てる母親の気持ちがどんなものか考えて欲しいです。
  政府には一刻も早く避難できる環境をつくって欲しいと思います。経済的にも避難できるような態勢を整えて欲しいです。 また政府が決めた年間の放射線限度量を、はやく20ミリシーベルトから元の1ミリシーベルトに戻してほしいです。 そうすれば政府からの避難指示が出て、避難しやすい環境になりますから。市によっても対応に違いがあります。 伊達市はホットスポットの地域は避難し始めている。福島市と郡山市には動きはない。福島県民には国が避難指示を出してくれるんでないか、 という期待があります。他県に避難するのは、なかなか思い切れないんです。
  それに福島には避難しにくい精神的な環境があります。避難するには、家族の相互理解、地域の理解がないと難しいんです。 私たちの親世代には避難することに罪悪感もあります。避難する=逃げた、という感じで避難した人はその罪悪感に苦しむのです。 また、夫婦でお母さんは避難したくてもお父さんは国が大丈夫と言っているから大丈夫。 というように夫婦で意見が違う場合もあります(原発離婚という言葉があるらしい)。 ママ友でも違う意見は言いにくいですし、働いている人は仕事への責任感から避難できなかったり、 まして高齢者の方々をお世話しているヘルパーさんは逃げられない状況です。それに県外のどこに避難したらいいか、 そういう避難のための情報は私たちには一切入ってこないんです。福島市では情報を受け付けていないのです。

Q.みなさん、情報は何からとっているんですか。
A.インターネットを見ない人が多くて、市民の情報は市民だよりがすべてです。 それに、県のアドバイザーや政府が言っていることを福島市民は正しいと思ってる人がほとんどです。テレビではNHKが基準です。

Q.例えば、もっと身近なところにパソコンがあったら、インターネットの情報をみなさん自身でご覧になりますか。
A.難しいと思います。ネットは不確かで本当の情報ではない、と考える人が多いと思います。 国が言うことが一番正しいと考える人が多いですから。 最近では、福島県のアドバイザーの山下さん(長崎大学 山下教授)の講演会でみんながすごく影響されています。 いまの放射線量は大丈夫。マスクは気休めで必要ない。避難する場所はない。政府が安全と言っているんだから安全だ。など、言っています。 だから、みんな信じているんです。
  福島県は県民を県外に出したくないのだと思います。学校からも避難を止められたり、県外に避難した人には仮設住宅に戻って来てください、 と言ってますから。私は 「こどもたちを放射能から守るネットワーク」 がみなさんに支持されて大きくなって、自分で情報を知るようになって、 いろいろわかってきました。自分で情報を集めなければ、いけないと思いました。 なんで今まで自分はいろいろなことに興味を持てなかったのだろうと思いました。 いまは私たちのネットワークが、県外へ避難する受け入れ窓口になったり、すでに避難した人に これから避難しようとする人の窓口になってもらったりして、 情報の共有をするように働きかけています。福島を政府に強制避難区域に認定して欲しいし、また子供たちは特に避難させたいです。 避難できる環境、雰囲気にしていきたいです。


  ■■ 取材を終えて
  今回、東京都千代田区から車で出発。車内では他の記者の方や弁護士でジャーナリストの方たちと話をしながら、福島市へ。 驚いたのは、那須を過ぎた頃から車内に外気を取り入れると線量計の値が上がること。 また、後部座席の方が前の座席よりも空気が滞留するためか、放射線量が高いことであった。私たちは車内のホットスポットと呼んでいた。 線量計は全部で4台あり、値の差や反応の速さに差はあるものの、ほとんど近似値であった。


安積インターで測定

  放射線量は浦和では0.2マイクロシーベルト(以下、単位は同じ)、上河内で0.2、黒磯3キロ手前で0.5、蛇尾川で0.4、那須で0.4、 安積のインターではなんと2.1、福島市では場所によって違うが2.1である。その時の風の状況にもよるが、ビルの陰の風がたまる場所や、 砂の上は高めであった。とにかく屋外より屋内が低いのは確かである。
  みなさんにはできるだけ屋内にいること。効果は定かではなくてもマスクを着用すること。雨に濡れないこと、やむをえず雨に濡れたらすぐ洗うこと。 これらのことを強くおすすめしたい。
  取材を終えた次の日、私が驚いたのはNHKのテレビニュースである。「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」 が健康相談会を開催、 と報道していた。しかしNHKが子供の症状として紹介したのは頭痛と寝不足であった。焦点が違う。鼻血と下痢には一切ふれない。 そして丸森さんのインタビューでは、お母さんに対して 「一人で悩まないで、相談して欲しい」 の部分だけが使われていた。 「こどもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」 設立の主旨はもっと切実で、子供の命を守るためであったはずだ。 ニュース時間に限りがあるとはいえ、もっとやり方があったはずだ。 鼻血と下痢が直接の放射線による被害かどうかは、いろいろと私も調べたが放射線ての関係は断定はない。ただ症状として現れているのは事実である。
  NHKがマスメディアのなかで果たす役割は大きい。最近、ETV特集の “ネットワークでつくる放射線汚染地図” など事実を伝える良質の番組もある。 そして福島のような地方都市では、ニュースとして信用されるメディアといえばNHKである。 福島を情報鎖国にしないために、事実をありのままに伝えるのがメディアの役割である。その役割を私はNHKを始めマスメディアにも期待したい。 ソーシャルメディアや市民メディアは事実の発信を通じてマスメディアを刺激し続けたい。そして情報を集めて行動を選択するのは、私たち自身である。