「もう一つの日本は可能だ」と首都圏フォーラムで訴え
「いまの日本、これでいいのか」の問い続々
2010年1月26日 S.M

  新自由主義に反対して 「もう一つの世界は可能だ」 と国際的な運動を続けている世界社会フォーラム(WSF)の運動に呼応して、 日本の社会運動が集まって交流し合おうという 「WSF2010 in TOKYO 世界社会フォーラム首都圏」 が、1月24日、東京・千代田区の在日韓国YMCAで開かれ、 約300人が参加した。

  世界社会フォーラムは、2001年1月、ブラジルのポルトアレグレで開催して以来、毎年、各地で開催され、新自由主義と資本主義、 帝国主義に反対する世界の社会運動体が集まり、討論し、交流する場、と位置づけられてきた。 2004年にインドで開かれた 「WSFムンバイ2004」 には12万人、昨年はブラジルのベレンに、先住民などを含め13万人が集まった。 今年は世界各地で分散開催されることになっており、その一環だ。

  フォーラムでは、「新自由主義vs労働運動」 「生物多様化と食の安全」 「自治体民営化と公契約条例」 「もううんざり! 新自由主義−みんなで考えよう金融危機」 など13の分科会と全体集会が開かれ、新自由主義に覆われたいまの日本の状況と、それに対する運動が報告された。 「マスメディアの変革と 『市民の視点』 に立ったジャーナリズムを実現するために、新しいNPO組織 『ジャクリメド』 を設立しよう」という提案も行われた。

  ▼青年労働や民間委託の結果を報告
 「新自由主義vs労働運動」 の分科会で、非正規・青年労働者問題を報告した首都圏青年ユニオンの河添誠さんは、「昨年の派遣村は、 道路に人が溢れるような状況が生まれ、問題がよく見えた。今年も昨年同様深刻だが、よく見えないのは、 正規労働者が職を失うケースが増えたためではないか」 と指摘した。

 「牛丼チェーンの 『すき家』 は、アルバイト労働者について 『彼らは勤務表を自分たちで作っているのだから、雇用関係にはなく業務委託である』 といった主張をしている。 『ショップ99』 で働いていた青年は、店長にさせられた結果、超過勤務が4日で80時間にもなり、うつ病になり、働けず働けない状態が続いている」 と具体例を紹介した。

 そして、「就業と失業を繰り返し漂流している労働者は数多い。労働組合はいま就業している労働者を組織するだけでなく、漂流している労働者を、 就業していても失業していても、そのまま継続して組織にいられるような組織化が必要ではないか」 と問題提起した。

 また、「都立駒込病院を存続・充実させ、地域医療を守る会」 の大利英昭さんは、都立駒込病院が、財政負担の軽減のため、医師と看護師の業務を除く、 受付や会計、医療機器・医薬品の調達など、ほとんどすべての病院業務を、民間大企業に一括して委託するPFI (Pribate Financie Inisiative) 事業を実施した結果、 患者の診療などにも支障が出ている状況を報告した。

 駒込病院でのPFI 事業の実施は、対象の都立4病院の中で最初のケースで、2007年3月の都の入札で三菱商事に決定、1861億円余(契約期間約20年)で落札した。 都としては、これで直営と比べ4.9%の財政負担の削減が見込まれるとしている。

 大利さんは 「仮契約の際、下水道や、電機、ボイラー管理の担務が抜けていた。メディプロジャパンという会社が手術器具の滅菌作業などの仕事をする人を募集したが、 時給900円。清掃を下請け化した結果、どこを掃除すればいいのか分からないまま病院に来ている。この状況は、医療の質に影響が出かねない。 利用者とともに闘いたい」 と強調した。

  ▼自治体行政の中の「民営化」
  「自治体民営化」 の分科会では、昨年5月成立し、今年7月公共サービス基本法や、ILO94号条約との関連で、 自治体が民間企業と契約する際の内容を規制する 「公契約条例」 づくりの運動が議論された。

  東京地評の永瀬登さんが、官製ワーキングプアに反対して、毎年続けてきている自治体キャラバンについて報告、 東京土建の白滝誠さんが建設労働者に関連した公契約運動を報告、自治労埼玉県本部の青木衆一さんが野田市ではじめてできた 「野田市公契約条例」 について報告した。

  自治体の民営化は、保育園、図書館、文化会館等の施設などの運営について、直営から外郭団体へ、外郭団体から民間委託へと進んできている。
  例えば、指定管理者制度は、公共施設でありながら、入札などで決まるため、指定の期間が3年から5年と限られており、 期間満了後に同じ団体が継続して指定される保証は全くないため、職員が入れ替わったり、正規職員を雇用して配置することが困難で人材育成が難しくなり、 専門性が身につかない、などの問題点が指摘されている。

東京地評の自治体キャラバンでは、(1)自治体直接雇用の臨時・非常勤職員の雇用、労働条件 (2)公共事業、業務委託に従事する労働者、就労者の雇用、 労働条件−について調査したが、その結果ちょうど33.3%が非正規労働者だった。

  永瀬さんは 「自治体は民営化した公共サービスに従事している労働者の実態をつかんでいないのが実態だ。 しかし、例えば埼玉県富士見市でプール事故があり、学生アルバイトが現場にいたが、この責任を問われるのは担当課の公務員だ。 ILO条約は、公的な当事者は模範を示すよう求められており、労働者の労働条件などは、 当該地方の関係ある職業、産業の水準以上のものでなければならないと決まっている。自治体と関連企業の労働者の労働条件の改善は重要だ」 と強調した。

  また白滝さんは、「公共事業を幅縮小する民主党の政策は、地域業界を切り捨て、農林業への転業を支援することと同時に、スーパー中枢港湾、 ハブ空港など産業基盤整備を重点戦略にし、民間資金導入(PFI )、官民共同(PPP)政策を積極的に取り入れようとしている。 『公共工事報酬確保法』 の制定も考えられているが、重点戦略には問題もあるし、公契約法や条例は、特効薬ではない。 現場での闘いが重要であり、ルールある労働を確立していくことが重要だ」 などと話した。

  青木さんは、野田市の条例を引きながら、「公契約条例には、雇用継続や積算基準に基づく予算作成、適正賃金確保を入れ、社会的価値の実現のための事業なのだ、 という条項を入れていかなければならない」 と強調した。

  ▼「もう一つの世界」求める
  全体集会では、世界社会フォーラムに毎回参加、昨年のベレン集会にも参加した秋本陽子さん(フォーラム事務局)が、 WSF運動の10年間について総括的な報告をしたあと、西南学院大学の吾郷健二教授が 「新自由主義の20年」 を報告、 派遣労働ネットワークの中野麻美弁護士が 「雇用の不安定化と新自由主義」 について報告、会場からの意見も出された。

  吾郷教授は1930年代からの経済学史をたどりながら 「利潤率が低下傾向になった結果、資本主義は規制撤廃・自由化による市場原理の諸政策、 グローバリゼーションの拡大、金融自由化などの危機からの脱出策を講じたが、これらのすべての面で行き詰まった」 と指摘した。

  そしてさらに、「このため世界は、アメリカとG7支配の体制から米中のG2と主要国によるG20の支配に移る。 経済危機対策が講じられているが、これは資本の金儲けの自由と両立する形での一定程度の規制が強化されたとしても、真のケインズ主義的な規制にはならない。 従って今後も、危機の再発は避けられず、バブルや恐慌の再発もあり得る。多様な社会運動と世界市民社会を作っていく運動が新しい社会を展望するのではないか」 と指摘した。

  最後の討論の中では、大阪から、「大阪フォーラム」 を3月21日に開くことや、普天間基地問題をめぐる大集会を30日に東京・日比谷公園で開くことなどが報告され、 参加の呼び掛けが行われた。
(了)