【事件の概要】
(1) 原告 旧日本軍に徴兵・徴用された在韓韓国人本人および遺族
414名
被告 日本国
(2) 主な請求内容
靖国合祀、遺骨の返還、死亡結果未通知、未払い金返還、シベリア抑留、BC級戦犯等への謝罪と補償。
靖国合祀については、国が行った合祀通知の撤回を求める。
(3) 請求原因
原告および原告の夫・父らは、日本が引き起こしたアジア太平洋戦争に強制動員され、あるものは命からがら生還し、多くのものは死に追いやられた。
にもかかわらず、強制動員した張本人である日本政府からは遺骨の返還や謝罪どころか、死亡通知さえなく今日まで来ている。
夫・父らの残した未払い金も日本政府によって供託され、今なお返還されていない。
一方、日本政府は、靖国神社にだけは遺族に無断で合祀通知を行い、その結果、夫・父らは靖国神社の 「英霊」 として合祀されている。
韓国を植民地化した日本がその戦争を鼓舞するために創建した神社に、夫・父らを死に追いやったA級戦犯らとともに合祀されていることの屈辱に耐えないことである。
靖国神社では今なお植民地支配が正当化され、そこに父らは強制された創氏名のままで合祀されているのだ。韓国人としての民族的人格権の侵害である。
【手続きの経過】
(1) 一審
2001年6月29日一次提訴、03年6月12日二次提訴(併合)。
2006年5月25日一審判決(東京地裁)。
判決は、未払い金やシベリア抑留BC級戦犯問題などについては、
「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められる実体的請求権が含まれているとしても措置法1項により消滅」 とし、
遺骨については 「日本政府が保管、占有しているとは認められない」 として請求を斥けた。
また、靖国合祀については 「国が靖国神社に行った戦没者通知は一般的な調査・回答事務の範囲内」 とし、
「原告らの民族的人格権、宗教的人格権あるいは思想・良心の自由を侵害するものとは認められない」 と国の言い分どおりの御用判決を下した。
この判決の翌日、この裁判の原告らが所属する二つの遺族会団体の一つ・太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会会長・金景錫氏が無念のまま亡くなられた。
(2) 控訴審
2007年9月25日控訴審第一回口頭弁論が始まり、12月18日が二回目の口頭弁論である。
控訴審の争点は二つ。
一つは、靖国神社合祀問題である。今年3月に国立国会図書館から 「新編靖国神社問題資料集」 が発刊され、厚生省と靖国神社が一体となって協議し、
靖国合祀基準を検討し、合祀を推進していることがあきらかになった。
二つめは、日韓協定問題である。「請求権があるとすれば」 全て解決済という無謀な判決を打ち破ることが求められている。
韓国での資料公開につづき、日本でも日韓協定の資料公開裁判が始まり、成果をあげつつある。これらの動きと連携しながら、韓国と連携を強め、訴訟を進める。
・12月の期日の内容
控訴人は、準備書面 (3) および (4)、靖国関係原告94名の統一陳述書、および証人申請している岩淵宣輝さんの陳述書を提出しました。
準備書面 (3) は、新編靖国問題資料集を書証として国・靖国一体性を立証するもの。
準備書面 (4) は、人格権侵害(敬愛追慕の情の侵害)を主張するものです。
統一陳述書は、靖国合祀がいかに韓国人の民族としての誇りを奪い、人格権を侵害するものであるかを主張するものです。
12月の裁判にあわせて来日した原告は、初来日の李美代子さんと何度も来日している李熙子さんです。
李美代子さんが法廷で意見陳述。「私の家はキリスト教で幼い頃から信仰してきました。
今も信仰生活をしています。日帝の時代に宗教的な理由で神社参拝を拒否したキリスト教信者を逮捕し投獄、拷問したという話を聞きました。
またキリスト者の信者のなかで神社参拝を拒否したものが組織的・集団的抵抗運動を展開し、結局は殉教者も出たといいます。
・・・侵略戦争を肯定する靖国神社を正当化している宗教ともいえない宗教施設に父の名前が無断で合祀されていることは到底納得できない」ことであり、
「解放された民族なのです。靖国神社に神という名目で監禁されている理由がありません。」 と靖国合祀の不当性、
宗教的・民族的人格権を侵害していることをときにあふれる涙を抑えながら陳述されました。
第2回口頭弁論の陳述
原告陳述書 陳述人 李美代子 (イ・ミデジャ)
被控訴人からは、準備書面1が提出され、合祀により発生したという損害賠償は日韓協定の 「請求権」 にあたり、失当と主張し、
前回裁判所から指摘された 「(合祀への) 公務員の関与」 については言及しませんでした。新たに、うちでの小槌のごとく日韓協定を持ち出してきたのです。
4月の期日は、2回にわたる弁論準備を踏まえて行われます。
控訴人としても弁論準備を踏まえてさらに主張を展開、人証の実現を図っていきます。また、日韓協定論については徹底的に反論していきます。
・2月の期日の内容
2008年2月5日、弁論準備手続がありました。
弁論準備は、靖国合祀問題の整理を内容とするもので、控訴人の主張への原告の認否等を促すものでした。
3月26日午後4時30分からもう一度弁論準備 (非公開) が入ります。また、国の準備書面が遅れるようだと、
4月15日の口頭弁論が弁論準備に変更になり、口頭弁論は別途設定となる可能性もあります。
・3月26日の期日の内容
3月26日付けで国から、裁判所から求められていた、
1、 控訴人が主張する国と靖国神社との打合せについての認否および反論、
2、 被控訴人が主張する国が合祀基準を決めていたことについての認否および反論、
3、 除斥期間 (=一定の期間経過後は、法的請求ができなくなる時効類似の制度) の主張の対象、についての準備書面 (2) が提出された。
本準備書面は、控訴人が新編靖国問題資料集を踏まえて提出した準備書面 (3) に対する反論です。
新編靖国神社資料集に対する国の主張が初めて公式に明らかにされたものです。
この被告・国の主張は、今控訴審の要となる問題のため、控訴人としても全面反論のためには4月15日までには間にあわないために4月15日の口頭弁論は中止となり、
4月23日までに控訴人の準備書面を提出、4月30日に弁論準備となったものです。この弁論準備で次回の口頭弁論を含む今後の日程がきまることになります。
ちなみに、被告・国の準備書面は、
1、 国と靖国神社との打合せについて:国と靖国神社が打合せを持ったのは事実のようだが、国に資料は残っていず、具体的な内容は確認できない。
しかし、この打合せ会も靖国神社からの要請に基づき開催したものであり、調査・回答と異なるものではない。
2、 国が合祀基準を決定したことについて:旧厚生省が合祀基準を決定したことはない。
厚生省職員が合祀について意見を述べていることもあるがそれも合祀事務を円滑に進めるための助言に他ならない。
3、 除斥の対象範囲について:靖国神社に戦没者に関する情報を回答したのは、少なくとも1977年頃まで(原審での原告主張)であり、
当該回答が損害賠償を発生させていたとしても20年間以上経過している。
というもの。
また、控訴人が追加した被侵害利益 (敬愛追慕する子らの人格権の侵害) についても、宗教行為によって内心の心情を害されたとしても法的利益とはなりえない、
と主張してきました。
・4月30日の弁論準備期日では、原告被告とも、さらに必要な書面があれば、5月23日までに提出すること、
次回弁論準備では、裁判所のほうから整理案を示すことが明らかにされました。
弁護団としては、新編靖国問題資料集に関する追加書証の提出、裁判所より要請のあった除斥の反論についての適用範囲等について準備書面を提出する予定です。
・6月4日の弁論準備期日の内容
6月4日の弁論準備に先立って裁判所から、双方の主張をまとめた<主張要旨>が明らかにされました。内容は、
1 靖国合祀に係る戦没者通知撤回請求及び合祀についての損害賠償請求
2 遺骨返還請求及び死亡状況説明請求
3 徴兵・徴用及び戦地配備、戦闘行為、労働の強制についての損害賠償請求
4 徴兵・徴用その他戦争に関連する死亡、傷害についての損害賠償請求
5 給与等の未払い金の支払請求及び未払金に係る損害賠償請求
6 BC級戦犯に係る損害賠償請求
7 シベリア抑留期間中の未払賃金請求及び損害賠償請求
8 軍事郵便貯金に係る損害賠償請求
9 謝罪文の交付及び謝罪広告請求
10 日韓請求権協定等について
11 国家無答責について
12 不法行為債権の行使に関する期間制限について、
全32ページ (+控訴人請求一覧7ページ) にわたる整理されたものです。
上記を踏まえ、裁判所から、双方に、上記<主張要旨>に意見があれば、個別にまたはまとめて、次回弁論準備までに書面を提出するよう、
そして、証拠調べ (人証) 申請を提出するよう話がありました。
また、控訴人には、遅延延滞金の起算点について、また、
被控訴人・国には上記<主張要旨>の11 (国家無答責)、12 (除斥・時効) はどこに該当するのかあきらかにするよう指示がありました。
いずれにしても、裁判所は、ポイントは、
1 厚生省と靖国神社の関係 (控訴人より証拠も追加して提出された)
2 被侵害利益 (人格権侵害)
にあるといっています。
7月16日、高裁第2部で弁論準備期日があり、以下のことが決まりました。
この間の弁論準備を踏まえて、9月初旬に裁判所から、再度争点整理表を出す。そして、被侵害利益を中心に証人尋問が下記のとおり行われる予定です。
*10月21日(火) 午後2時〜3時 証人尋問 (内海愛子先生) (予備日10月28日)
*12月2日(火) 午後2時〜3時 証人尋問 (韓国・周剛玄民俗学博士と李熙子氏)
なお、12月2日の証人尋問をもって弁論は終結となります。
この間の弁論準備で 「靖国合祀」 問題でかなり踏み込んだやりとりがなされました。
控訴審最終局面です。是非、多くの傍聴をお願いします。
10月28日の期日では、韓国・朝鮮人BC級戦犯者問題等を中心的に研究されている内海愛子さん (早稲田大学大学院客員教授) の証人尋問が行われました。
韓国から兵力動員 (軍人軍属) がいかに戦後も差別され苦労されたのかを証言されました。
具体的には、韓国大使館員から 「国賊」 とののしられ罵倒され、また、子どもたちは、学校で 「親日派の息子」 と嫌がらせをされ、
BC級戦犯の奥さんで自殺をされた方もいるという内容でした。
証人尋問後、2008年1月27日にもう一回弁論を入れることになりました。
12月2日の期日では、証人尋問が行われました。
まず、韓国の民俗学の第一人者・朱剛玄 (チュ・カンヒョン) 氏が証人に立ち、「加害者と一緒に合祀ということは容認できない、考えられないこと」
「‘霊魂幽閉’されており、故郷に返さなければさらない」 「世界的に見ても例をみない」こと、靖国合祀が韓国社会での祭祀の障害になっていることを力強く証言されました。
また、原告・李熙子 (イ・ヒジャ) さんは、短時間ではあったが怒りを押し殺しながらも心にしみる陳述を行いました。
「父は植民地支配のもとで無念の死をとげた。子として親不孝にならないようにと裁判を起した。父の小さな名誉回復を御願いしたい。」 と締めくくりました。
靖国合祀が原告の利益を侵害していないという一審判決を覆すに十分な証言でした。
2009年2月24日、第5回口頭弁論が行われ、生存者を代表して金幸珍 (キム・ヘンジン) 氏が、
遺族を代表して李熙子 (イ・ヒジャ) 氏が最終意見陳述を行いました。
金幸珍 (キム・ヘンジン) 最終意見陳述 PDF
李熙子 (イ・ヒジャ) 最終意見陳述 PDF
・東京高裁判決全文 2009年10月29日
・弁護団・支援者声明 2009年10月
【訴訟の背景・関連訴訟】
この裁判の原告は、韓国の太平洋戦争被害者補償推進協議会 (共同代表:李熙子、李種鎭) と、
太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会 (会長:洪英淑) の会員で構成されています。
また、靖国合祀取消門問題では、グングン裁判の原告等を中心に、2006年2月26日、
靖国神社・国を被告として新たな裁判 (ノー! ハプサ (合祀) 訴訟) が始まりました。
ノー! ハプサ訴訟とともにご支援をお願い致します。
文責 グングン裁判を支援する会 関東事務局長 御園生光治