2009.3.4更新

西武鉄道株主損害賠償請求事件

事件名:西武鉄道株主損害賠償請求事件
係属機関:東京高等裁判所第16民事部
  2009年2月26日、東京高裁の控訴審判決 (宗宮英俊裁判長) は、株主の損害を一律 「公表前株価の約15%」 として一審より総額約1億5千万円減らし、 175人に計約7900万円を支払うよう命じました。
紹介者:西田 穣弁護士
HP:http://www.ne.jp/asahi/seibu-tetudou/kabunushi-bengodan/


【事件の概要】
  本件は、西武鉄道株式会社が数十年に亘って有価証券報告書の大株主の株式保有比率欄に虚偽記載をし続けたことにより、 損害を被った投資家を救済するため、西武鉄道株式会社、株式会社コクド (現プリンスホテル株式会社) 及び西武鉄道株式会社の取締役3人に対し、 証券取引法、民法に基づく損害賠償を求めた裁判です。

  地裁では、訴訟は第15回口頭弁論まで行われ、原告数は全部で290名に達しています。   約3年にわたる裁判も、平成20年2月24日に判決が言い渡されました。

【地裁判決】
  平成20年4月24日、東京地方裁判所民事第8部 (合議法廷、裁判長難波孝一、事件番号 平成17年(ワ)第1768号 平成17年(ワ)第8176号・平成19年(ワ)第21171号) は、 被告ら全員に対し、原告176名に連帯して総額2億3127万円余りを支払うことを命ずる判決を出した。 被告ら全員の不法行為と責任を認める画期的な判決である。
  認容した金額は、西武鉄道株式会社の有価証券報告書等の虚偽記載が公表された平成16年10月13日の終値である1株1081円と売却した価格の差額である。
  もっとも、原告は289名おり、残りの113名については請求棄却となった。この113名は株式を売却せずに現在も保有している点で上記176名と異なっている。 上記判決では、この113名に対する関係でも、被告ら全員の不法行為と責任を認めたものの、口頭弁論終結時の平成19年12月20日現在において、 その保有する西武株の価格が1株1081円を上回っているため、結果的に損害がないとして、請求を棄却した。 しかし、上場市場では、適正な情報の下、いつでも売却ができるからこそ、自己責任が謳われるのである。 敗訴した原告らも、上場廃止され3年もの間相対取引でしか売却できず、実際現時点でも上場の見通しがたっていないため1081円以上で売却する術がない。 にもかかわらず、現在の西武株の価格が1株1081円以上であるから、損害がない、というのは形式的と言わざるを得ない。
  もっとも、違法行為を行った取締役だけではなく、株式発行会社に対する責任までをも認めた判決は、やはり画期的である。 今後、有価証券の流通市場における公正な価格形成及び円滑な取引を維持するための適正な情報提供のコンプライアンス確立に大きく寄与するものと考える。

 今後は、現に保有する原告との関係で控訴をする予定である。また、被告らも処分した原告らを相手に控訴をしてくるものと思われ、 場所を控訴審に移しての訴訟が続くことになる。

【控訴審】
  控訴審第1回口頭弁論期日では、裁判所は結審したがっているようにも見えましたが、第2回期日が入ることになりました。 被控訴人西武が書面を出してきたため、原告側で反論すべきかを検討中です。

  2008年12月11日、結審しました。本期日では、書面のやりとりのみで、裁判官から、心証らしきものを得るような発言はありませんでした。 前回期日において、裁判所から和解の可能性について個別に連絡をするかもしれない、という話があったのですが、原告側に連絡はなく、 期日においても話は出ませんでした。

  2009年2月26日、東京高裁の控訴審判決が出ました。宗宮英俊裁判長は、株主の損害を一律 「公表前株価の約15%」として一審より総額約1億5千万円減らし、 175人に計約7900万円を支払うよう命じました。
  判決は被告らの違法行為と責任を認めつつ、どの時点で売却するかは株主が判断することだと指摘。 「虚偽記載は、粉飾決算などの場合とは異なり、企業価値そのものに影響を与えるものではない」 と述べ、 公表直前の株価と売却価格の差を損害と認めて176人に約2億3千万円の支払いを命じた一審・東京地裁の判断を変更し、その上で、 下落額を客観的に把握できる証拠がないとして、民事訴訟法248条を挙げて公表直前の株価の約15%にあたる1株160円を一律の損害額と算定しました。
  この判決に対し、弁護団は、違法行為と責任を認めたことを評価しつつ、民訴法248条という極めて曖昧な損害額を算定したことに対し、 一部勝訴判決原告のうち、上告を望む方とともに最高裁で争う方向でいます。

【訴訟の意義】
  本件は、投資家が被った損害を回復するという目的もありますが、同時に、有価証券報告書の虚偽記載に対する一般予防、 すなわち市場の健全化・透明化を図るという意義を有しています。
  本件西武鉄道の事件等を契機として、有価証券報告書の虚偽記載に対する刑事罰の厳罰化や、課徴金制度の創設などの法改正がなされました。 これらの規制とあいまって、本件のような民事訴訟において損害賠償責任が認められることにより、市場の健全化がより一層進むのではないかと考えております。
  様々な法的問題点はありますが、市場で提供されている虚偽記載 (情報) を真実と信頼して株式を購入した投資家がいかなる救済を求められるのか、 今後の訴訟に大きな影響を与える事件ですから、裁判所に対しても積極的な判断を期待しています。

【一言アピール】
  大法廷で行う裁判ではないため、それほど多数の傍聴が可能というわけではありませんが、社会問題となった事件でもあり、 積極的に関心をもっていただければと思います。

文責 弁護士 西田 穣