2010.4.12更新

四日市・中国人技能実習生廃業責任転嫁訴訟
事件名:損害賠償請求事件
     (四日市・中国人技能実習生廃業責任転嫁訴訟)
係属機関:名古屋高等裁判所民事第3部
  3月25日、控訴審判決が出されました。ほぼ、完全勝訴です。一審で負けていた部分まで逆転できました。
   高裁判決文 2010年3月25日

  一審判決
   地裁判決文 2009年3月18日
  (2009年3月18日 津地方裁判所四日市支部 齊藤研一郎裁判官)
   労働判例983号27頁掲載
連絡先:日本労働評議会愛知県本部委員長 豊岡真弓
     〒460-0003 名古屋市中区錦2-9-6 名和丸の内ビル7階B
     電話 052-799-5930 FAX 052-799-5931
     (取材・報道大歓迎)


【事件の概要】
1、 当事者 控訴人(原告)   帆布製造会社
        被控訴人(被告)  中国人技能実習生7名

2、 事案の概要
  10月30日、「有限会社 三和サービス」 は、自らが受け入れていた中国人技能実習生5名 (若い女性たち) に対し、 損害賠償請求訴訟(総額約2700万円)を起こしました。

  原告の主張は、今年4月30日、8月27日の二回にわたり、実習生5人が作業を 「ボイコット」 したため、取引先から仕事の依頼がなくなり廃業に追い込まれたので、 その損害賠償を実習生に請求するという前代未聞の内容です。

  実際は 「ボイコット」 に相当するものではなく、むしろ実習生を仕事ができない状態にさせた、原告である三和サービス社長の責任が問われるものです。

  事件の背景には、三和サービスが、研修生を派遣する受入機関である 「研修生の第1次受入機関である協同組合」 に、 それまで三和サービスが実習生に支払っていた残業代が、労働基準法を無視した違法なものであると是正されたことがあります。 三和サービスは、追加の費用を実習生に転嫁するため、寮費の取立て、労働強化、作業効率の向上を実習生に強いてきました。

  本年8月27日朝、三和サービスは実習生に対し、一方的に作業条件を変更し、一日の作業ノルマを増やし、その上、残業になっても残業代を払わないと言いました。 実習生たちは、とても働けないと反論しましたが、会社は聞く耳も持たず、実習生たちは寮へ追い返されました。
  その後、お昼頃、社長が寮に来て、日本語で怒鳴り散らし、実習生に暴力をふるい、食事をしていた実習生の食べ物を取り上げ、床にたたきつけるなど、 蛮行の限りを尽くしました。実習生たちは身の安全をも心配せざるを得ない状況の中で、とても働ける状態ではありませんでした。
  その後、会社の連絡により協同組合が来て話し合いになりました。

  実習生たちは、協同組合に対し、「働きたい。でもこんな社長のもとでは働けない」、「別の会社に移りたい」 と訴えました。 しかし、実習生には転職する権利がなく、仕方なく帰国することに同意しました。

  会社はこのような事態を指して 「ボイコット」 といい、今回の損害賠償請求訴訟を起こしました。

3、 現時点の状況
  提訴後、原告は、被告等に対して、残業代の一部分 (入国後2年目以降=実習生の期間分) を支払ってきましたが、 残額 (入国後1年目までの分=研修生の期間分) を支払おうとしません

4、 これまでの経過
  12月17日の第1回口頭弁論において、被告は、(1) 準備書面で、実習生は 「ボイコット」 をしておらず、何らの責任を負わないことを主張し、 (2) 解雇無効を前提とする賃金、不払残業代及び付加金総額約800万円を請求する反訴を提起した。
  裁判官の和解勧試に対して、原告は 「ゼロ和解」 を主張。被告は、残業代全額の支払いを求め平行線となったが、1月にもう一度、和解期日が持たれることになった。

  期日後の記者会見で、実習生たちは、「社長から暴力を受けたり、賃金の不払をされた。私たちが訴える立場なのに、会社が私たちを訴えるなんて許せない。」 と述べた。

2008年5月14日 口頭弁論期日
  原告 (反訴被告) 準備書面提出
  準備書面での原告の主張
1 外国人研修生 (1年目) には、時間外研修をさせても、既払金以上の支払義務はない。
  また、時間外研修は、送り出し機関、協同組合、研修生が決め、原告に求めたことである。
2 原告は、被告らを解雇はしておらず、被告らが辞職したものである (前回までは、合意退職であると主張していた)。

2008年6月14日 口頭弁論期日
  被告 (反訴原告) 準備書面陳述
2008年8月8日 厚労弁論期日
1 人証申請
  原告 (反訴被告) は被告 (反訴原告) 6名全員を、被告 (反訴原告) は原告 (反訴被告) および被告 (反訴原告) のうち2名と被告 (反訴原告) の加盟した労働組合役員1名を証人として申請しました。
  これに対し、裁判所は被告 (反訴原告) のうち2名と原告 (反訴被告) を証人として採用しました。
2 和解・・・本訴被告側は、「未払残業代全額支払」 での和解案を提示しましたが、本訴原告は、「全く払うつもりはない。」 と主張したため、話合いは決裂しました。

2008年10月27日 原告本人尋問
  本訴被告 (元研修生2名)、本訴原告(社長)の証人尋問が行われました。

2008年11月20日 口頭弁論期日
  本人・証人尋問の採否の判断 (これ以上の尋問は必要ないとの判断がでました)。

2008年1月20日 結審

2009年3月18日 判決 (判決の詳細については、【一審判決の概要】 をご覧下さい)

2009年3月31日 本訴原告控訴。

【一審判決の概要】
  初めて研修生の労働者性を認める画期的判決がでました。
 判決は、研修生の労働者性を認め、労基法・最低賃金法に基づく残業代約247万円及び付加金約39万円の支払を認めました。
 また会社は、技能実習生等が仕事をボイコットしたため約2750万円の損害を被ったとして、その賠償を請求していましたが、判決で裁判所は2日の不就労のうち、 1日については会社の承諾を認定し、もう1日は、労働条件の不利益変更に対するストライキとして適法であるから、技能実習生らには責任がないとしました。 当時 (労組加入前)、技能実習生らは、労働法上の労働組合とはいえないが、憲法上の団体交渉権及び争議権の保障を受けるとしました。
 不当解雇後の賃金請求相当額の損害賠償請求については、棄却されました。上記のストライキの日以降、技能実習生らは、労務を提供する意思がなく、 帰国が予定していたから、労働契約は合意解約されたといえ、解雇したとはいえない、という判断です。

【本判決の意義】
  研修生の労働者性を認めた基準は、(1) 非実務修習が3日間しか行なわれておらず、外国人研修制度の要件を満たしていないことに加え、 (2) @ 実務研修の内容 (技能実習生として行なった作業と同じ)、A 時間外研修の名目で長時間の作業を行なっていること、 B 訴状に1年目から雇用契約を結んでいたとの記載があり、会社には、 研修生が労働者と区別される存在であるとの認識が無かったことを総合的に判断したということです。
  不当解雇後の賃金請求相当額の損害賠償請求について棄却された点では不満がありますが、弁護団としては、本判決を実質的な勝訴判決であると評価しています。
  本判決は、翌日の中日新聞朝刊1面トップ記事として報道されるなど、注目を集めています。 現在、全国で、20件弱の外国人研修・技能実習生を当事者とする訴訟、労働審判が闘われていますが、その多くで研修生の労働者性が論点になっており、 今後、本判決が示した労働者性認定の基準が他の訴訟等の影響を与えていくものと思われます。

【控訴審】
  2009年6月12日 控訴審第1回口頭弁論。控訴人欠席のため、空転。

  2009年8月19日 控訴審第2回口頭弁論
  控訴状および答弁書,準備書面の陳述の後、被控訴人代理人弁護士が意見陳述を行いました。
  裁判長は 「原審 (第一審) は、被控訴人に代理人がついていなかったこともあるので、裁判所としては、人証申請について検討したい」 として控訴人に対し、 陳述書を出すよう求めました。

  2009年10月7日 控訴審第3回口頭弁論
  被控訴人が附帯控訴。

  2009年11月11日 控訴審第4回口頭弁論
  控訴人が附帯控訴に対する答弁書を陳述。被控訴人が準備書面陳述(附帯控訴の理由)。

  2009年12月21日(月) 第5回口頭弁論
  控訴人から準備書面提出

  2009年1月19日(火) 第6回口頭弁論
  証人尋問(証人:控訴人管理職)


控訴審勝訴判決報告
  3月25日、控訴審判決が出されました。ほぼ、完全勝訴です。一審で負けていた部分まで逆転できました。

1 控訴人(会社)の控訴棄却。
  8月27日の不就労は、控訴人が被控訴人等を暴力により威嚇し、就労できないようにさせたものであるから、 被控訴人等に帰責性はないとした(一審は、憲法上のストライキとしていたが、この構成はとらなかった。)。

2 被控訴人(元実習生ら)の附帯控訴に基づき原判決変更
@ 控訴人が、被控訴人等を解雇したことを認定し、解雇権濫用により無効として、技能実習期間終了までの8か月ないし12ヶ月分の賃金支払を命ずる。
A 一審判決と同様、研修生の労働者性を認め、最低賃金を下回る不払賃金額の支払いを命ずる。
B 付加金を増額して、その支払いを命ずる。
  付加金の範囲は、「労基法37条1項の割増賃金部分のみならず、通常の賃金も含めたもの」 と判断。 さらに、「違反の時から2年以内に請求されている付加金の額が、仮に誤って少額であったとしても、 ・・・その後、その未払金の額に合致した額に付加金の請求を増額したとしても、2年の除斥期間によりその増額が制限されることはない」 と判断しました。

  実習生らを不当解雇し、残業代や解雇後の賃金を請求されると、 実習生らに対して高額の損害賠償請求をする不当訴訟を提起した会社の姿勢に対する裁判所の怒りが感じられるよい判決だと思います。

【一言アピール】
  本件は、実習生らが、三和サービスが違法な最低賃金以下の残業代しか支払わなかったことによる未払い賃金の支払いを求めていたところ、 それに対抗した訴訟提起として起きた事件です。

  その後も会社はさまざまな嫌がらせを行い、実習生たちを寮から追い出そうとしてきました。こんなことが許されていいのでしょうか。 まるで経営者の好き勝手であり、裁判制度がこのように用いられること自体許されるものではありません。 実習生たちはこうした会社の嫌がらせ、悪行にも負けず、訴えられた裁判の中で道理を通して、経営者としてのあり方そのものを問いただしていく決意です。 さらに反訴を起こし、自らの利益を守るために闘う考えです。

  社長は、外国人研修生・実習生を 「安価な労働力」 としており、今回の裁判は自らの違法性、責任を実習生に転嫁しようとしている悪質な裁判です。

  研修生・実習生は、今回の裁判に見られるような無権利状態の中で、働かされています。 この実態を明らかにし、社会的に外国人研修・技能実習制度を改善していかなければなりません。                                
文責 弁護士 指宿昭一