2013.9.13更新

日産自動車事務系「業務偽装」「派遣切り」 事件

事件名:日産自動車事務系 「業務偽装」 「派遣切り」 事件
事件の内容:日産自動車で勤務していた事務系女性労働者1名が、日産自動車に対して労働契約上の地位を有することの確認や賃金の支払い、 損害賠償の支払いを求めた裁判(また派遣元であるアデコに対しても不当利得の返還を求めている)
係属機関:東京地方裁判所民事36部
裁判長:竹田 光広 裁判官
事件番号:本裁判 平成21年(ワ)第33221号
次回期日:10月8日(火) 午後2時。東京地裁36部、13階にて
次回期日の内容:弁論準備手続き。傍聴できない場合がありますので、
           ご了承ください。
紹介者:上田 裕弁護士
原告弁護団:笹山尚人、大山勇一、伊須慎一郎、上田 裕、小部正治
        今野久子、三浦直子
連絡先:nissan.haken26■gmail.com
   (お手数ですが、ご連絡いただく際は■の部分を@に変えて下さい)


【事件の概要】
1 当事者
   原告 20代女性(匿名希望)
   被告 日産自動車株式会社、アデコ株式会社

2 請求内容
  (a) 日産自動車(株)に対して
  原告が、期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認、
  2009年6月1日以降の賃金の支払い(遅延損害金も請求)、
  不法行為に基づく損害賠償として、1,492万3,040円を請求

  (b) アデコ(株)に対して
  原告が受け取るべきであったマージン部分につき、不当利得返還請求として、857万3,040円の支払を請求

3 事案の概要
  本件の原告は、人材派遣会社アデコ(株)から日産自動車(株)に派遣されていた20代女性1名である。
  彼女は、アデコ(株)に派遣社員として登録され、2003年10月1日から日産自動車(株)本社において、形式上、 「事務用機器操作業務」(いわゆる専門26業務の1つ)を担う派遣社員として稼動していた。 〜2009年5月31日
  ※ 参考:期間制限と専門業務
  労働者の派遣は、原則として1年(手続きを踏めば3年に延長することは可能)という期間制限がある(派遣法35条の2)。 もっとも、この期間制限の規制には例外があり、政令で定められた専門26業務に該当する業務を担当するものとして派遣された場合には、 上記の期間制限の規制は適用されない。
  ただし、専門26業務とは、迅速かつ的確な操作に習熟を必要とするものに限られ、形式上、専門26業務であるとの体裁を整えたとしても、 実質的に専門業務に該当しない場合には、原則どおり期間制限を受けることとなる。

  しかし、実際に彼女が担当した業務は、電話対応、コピー、来客応対、お茶だし、コピー機の詰まり直し、会議用弁当の買い出し、 会議室のセッティング等の庶務的な業務が大半を占め、専門的な業務はほとんど無かった。 このような状態で、彼女は、5年8ヶ月に渡り、日産自動車(株)の本社にて、派遣社員として稼動してきたのである。
  つまり、日産自動車(株)とアデコ(株)は、本来専門業務ではなく、一般庶務業務を担当させる目的であったにも関わらず、 担当業務を専門業務に該当するように偽装し、期間制限の規制を逃れようとしたのである。

  2009年2月に日産自動車(株)社長のカルロス・ゴーンが大量の派遣切り策を示したこと、通常3か月更新のところ2か月とされたこと、 アデコ(株)が東京労働局から是正指導を受けていたことを知ったことから、不安を覚えた彼女は弁護士に相談した。
  その際、弁護士から労働局申告を勧められ、彼女は、4月10日に、弁護士・支援者と共に、東京労働局を訪れ、 日産自動車(株)に対し、直接雇用を指導するように申告した(業務偽装による期間制限違反、派遣法40条の4による雇用申込義務)。

  ところが、アデコ(株)は4月27日、彼女との契約を終了(〜2009年5月31日)するとの通告をしてきた。解雇通知である。 その理由は5月末日(更新満期日)で仕事がなくなるということであった。 しかし、実際には、そんなことはなく、彼女の仕事の穴を埋めるべく別の派遣会社(マンパワージャパン)から派遣労働者が派遣された。

  彼女は、5月18日に、首都圏青年ユニオンに加入し、直接雇用を求めて、日産自動車(株)に対して、団体交渉を求めたが、 未だに日産自動車(株)は団体交渉に一切応じてない。直接雇用ができない理由の中に、経営状況の悪化が挙げられていたが、 日産自動車(株)は、2008年度において、多額の役員報酬(25億円超)を計上しており、会社側の説明には疑問が残る。

  東京労働局から、日産自動車(株)に対しては5月28日に、アデコ(株)に対しては同月29日に是正指導がなされ、 「直接雇用も含めて、申告者の雇用の安定を図ること。またそのために申告者本人と直接話すこと」 との指導を行った。
  ※指導の中で認定した違法(一部)
  ・26条1項    :複合業務なのに契約上は政令26業務となっていた
  ・35条の2第1項:派遣期間制限違反
  ・35条の2第2項:派遣先、派遣スタッフに抵触日通知をしなかった

  労働局からの是正指導を受けて、首都圏青年ユニオンから再度日産自動車(株)に対し団体交渉を申し入れるが、後日(6月8日)、 「応じる義務が無い」 として拒否された。日産自動車(株)は直接申告者と話すことを労働局に求められていたにも関わらず、未だにそのような動きはない。 さらに、弁護士からの通知や彼女の手紙に対しても何ら誠意ある回答を行なわなかった。そこで、本件提訴に至った。

【手続きの経過】
●提訴
  2009年9月17日、彼女は、東京地裁に訴訟を提起した。

●第1回口頭弁論
  11月2日の期日(第1回口頭弁論)では、原告本人が意見陳述をした。併せて、原告代理人を代表して大山勇一弁護士が代理人としての意見陳述をした。 原告からは、被告双方に是正指導書等の文書の提出を求め、併せて、同文書の文書送付嘱託を申し立て、採用された。 11月末日までに、被告らから是正指導書等の文書についての任意提出の有無の回答がくる予定であり、12月28日までに、訴状に対する認否反論が提出される予定。

●第2回口頭弁論
  2010年1月18日の期日では、被告日産自動車(株)、被告アデコ(株)から、訴状に対する認否と反論の準備書面が提出された。 併せて、両被告に対して提出を求めていた、労働局からの是正指導書が提出されたが、被告アデコ(株)が、全てを開示してきたのに対して、 被告日産は、「一般論が書かれている部分である。」 とか、「他の労働者についての部分である。」 などの理由で、多くの部分を黒塗りにして提出してきた。

  そもそも、労働局の是正指導は、調査開始の端緒が個人の申告に基づくことはあるが、指導自体は、被指導会社の派遣労働者受け入れ状況一般に関するものである。 特定個人にかかる指導という理屈は、もともと成り立たない筈である。
  本件と同様に派遣法・職安法違反等が問題となっている多くの事案に於いて、被告会社から是正指導書が全開示されない事例はなく、 いずれも早期解決に向けた誠実な態度を見せている。今回の被告日産自動車(株)の態度は、早期解決に水を差す極めて異例・不誠実なものである。

  原告側としては、被告日産自動車に対して、引き続き是正指導書の全開示を求めると共に、両被告に対し、改善報告書の提出を求めた(上申書提出)。
  また、原被告間の基本的な契約関係を明らかにすることが、迅速な審理に資することから、両被告に対して、労働者派遣基本契約書、労働者派遣個別契約書、 労働条件通知書、給与支払明細書、派遣先(元)管理台帳、就業規則等の基本的な書面の提出を求めた(準備書面1提出)。

  次回までに、被告日産自動車(株)は、是正指導書の黒塗り部分の開示の検討、改善報告書の提出の検討、 その他提出可能な書面を提出することになり(主張については、準備書面1にある求釈明の回答を待って行う予定)、 被告アデコ(株)は、未提出の証拠を整理しつつ、改善報告書、基本書面の提出をすることとなった。

  原告側は、可能な限り求釈明に回答し、他の主張に先行して、両被告の不法行為に関する主張を準備することとなった。 派遣法違反、直接雇用に関する主張は、基本的書面が提出された後、改めて主張する予定である。

  次回期日(3月1日)は、被告双方から、基本的な契約書類、是正指導書、改善報告書等が提出される予定。
  原告側は、被告日産自動車からの求釈明について回答し、両被告の不法行為に関する主張を提出する予定。

●第3回口頭弁論
  2010年3月1日の期日では、原告側から、被告日産自動車(株)からの求釈明に回答する準備書面2を提出した。 被告日産自動車(株)からは、証拠書類が提出された(乙イ1〜乙イ3の32)。
  準備書面2では、原告の業務割合算定(原告が従事した専門業務と一般事務の割合のこと)の根拠及び被告らの違法行為の柱部分の主張を展開した。 これを受けて、次回期日(4月19日 14:00〜)までに被告双方が、それぞれの主張をまとめ、また補充することとなった。

  前回からの持ち越しとなっていた是正指導書の開示については、被告日産自動車(株)は、黒塗り部分についての開示は必要ないとの回答をあらためて行ったが、 期日外で裁判所を交え、引き続き相談していくということになった。つまり裁判所としても、是正指導書の全開示を求める意向を有していることが窺える。 原告側としては、引き続き、被告日産自動車(株)からの早急な開示を求めていく予定である。

  不法行為の主張の中で、原告が得べかりし利益(被告アデコ(株)が被告日産自動車(株)から受領していた派遣料と原告に支払っていた賃金との差額: 本来原告が受領すべき賃金である)について、原告側は具体的な金額が不明であることから、業界平均(これをマージン率と呼んでその部分の返還を求めている。) を用いて金額を算出しているが、具体的な金額を示すよう被告双方に回答を求めた。
  これに対し、被告双方は、反論があるようであったが、その点は書面上で明らかにすることとなった。

●第4回口頭弁論
  2010年4月19日の期日では、被告日産自動車(株)からは第2準備書面が、被告アデコからは第二準備書面がそれぞれ提出された。 被告日産自動車(株)は、準備書面の中で、事実経過についての補充をすると共に、 原告・被告日産自動車間の黙示の雇用契約の成否に関する主張(黙示の雇用契約は成立しないというもの。)を、 松下PDP事件最高裁判決(最判平21.12.18)を根拠に展開している。被告アデコも同様の主張を展開している。
  これを受けて、原告側は、次回期日(5月31日 13:30〜)までに、被告双方の主張に対する認否・反論を準備することとなった。 その際、雇用契約の成立時期について整理すると共に、損害賠償請求(不法行為)に関する主張について、 黙示の雇用契約が成立する場合とそうでない場合について整理して反論を準備する予定である。

  被告日産自動車(株)は、乙イ4号証(最高裁判例)、5号証(法律案、国会議事録)、被告アデコは,乙ロ5号証(国会議事録)を証拠として提出した。

  前々回からの持ち越しとなっていた是正指導書等の開示については、あらためて、期日外に、裁判所から被告日産自動車(株)と調整することになった。 同資料は、被告日産自動車(株)の違法な派遣労働者受け入れの実態を解明するためには不可欠な資料であり、 原告側としては、引き続き、被告日産自動車(株)からの早急な開示を求めていく予定である。

●第5回口頭弁論
  2010年5月31日の期日では、原告側から、被告日産自動車(株)及び被告アデコ(株)の事実面の主張に対する反論書面(準備書面3、4)を提出した。
  両書面では、被告日産自動車が派遣法で禁止されている事前面接を行っていた事実、 原告に対する人事権は被告アデコ(株)ではなく被告日産自動車(株)が握っていた事実、原告の賃金は、被告日産自動車(株)の基準に従って、 同社が承認することにより決定されていた事実、5号業務は、高度な専門技術を活用するものに限られること、 被告アデコ(株)は、原告の労働時間管理を外注に出しており、使用者としての実態が無いこと等を主張している。 期日では、上田代理人が口頭で上記要点を説明した。

  次回期日(7月22日 13:10〜)までに、原告側は、被告日産自動車(株)、被告アデコ(株)双方の法律面の主張に対する反論を準備する。 その準備に当たって、被告アデコが業務改善命令を受けた際に、原告が書いたとされる 「業務内容確認書」 等の書証(乙ロ2の1〜3)について、 原本を確認することとなった。 同書面は、その作成経過に被告アデコ(株)が深く関わっており、原告以外の者が加筆した部分を慎重に吟味する必要があるからである。 上記原本確認のほか、書証証拠の整理のための期日として、進行協議期日(7月1日 10:00〜)が設定された。

  被告双方は、原告からの事実面・法律面の反論が揃った段階で、それぞれについて反論することになった。 被告双方からの準備書面の提出は次々回(9月13日 13:10〜)の予定である。
  また、当初より求めていた労働局の是正指導書・被告双方が労働局に提出した是正報告書に加えて被告双方の就業規則等の提出を、 上申書を提出することにより強く要請した。この点に関しては、引き続き、期日間に裁判書を交えて調整していくことになった。

●第6回口頭弁論
  2010年7月22日の期日では、被告日産自動車から是正指導書が証拠として提出され、 原告側から、被告日産自動車(株)及び被告アデコ(株)の法的主張に対する反論及び原告の法的主張を整理・補充する準備書面(準備書面5)を提出した。
  同書面では、労働者派遣は、原則禁止とされている 「労働者供給」 を例外的に許容する制度であり、労働者派遣自体に、 労働者供給が内包している危険性と同様の危険が存在していることを指摘している。
  当該危険とは、@ 中間搾取の危険(本来労働者が受け取るべき賃金の一部を派遣元事業者が派遣手数料としてピンハネしているという構図)、 A 雇用の不安定性(派遣期間が短期のため細切れかつ不安定な雇用となる)、B 労働者間の差別(同じ仕事をしていても、正社員と派遣社員では、 賃金・昇給・昇格・退職金等あらゆる場面で差別されている)、C 使用者責任の曖昧化(派遣先事業者が自らの指揮命令により派遣労働者を使用しながら、 雇用契約関係にないことを理由に使用者としての責任を果たさない)等である。
  当該危険の存在及びこれまで派遣法が経済界の圧力によりなし崩し的に緩和され、労働者保護という重要な点を置き去りにしてきた事実に鑑み、 裁判所には労働者保護のための積極的な法解釈・解決が必要であることを主張している。
  そして、被告らの主張の根拠となっている松下PDP判決の欠陥を指摘し、同判決を根拠に、本件を判断することは許されないことを述べたうえで、 黙示の労働契約の成立に関しては、労働契約法第6条に鑑み、 労働の提供とそれに対する対価としての賃金の支払いという点での意思の合致があれば労働契約は成立しうること、 労働者派遣法のもとでは派遣労働者の労働の提供とそれに対する対価の支払いの意思があっても、 法を遵守する限りにおいて派遣労働者と派遣先との間で労働契約は成立しないことを法律が例外的に設定するのであり、 本件のように派遣法が守られていない前提では原則に戻って労働契約関係の成否が検討されるべきことを述べ、 準備書面3、4で主張した事実に照らせば、原告・被告日産自動車間に黙示の雇用契約が成立していることを主張している。
  その上で、仮に、松下PDP判決の判断枠組みに準拠したとしても、本件においては、被告日産自動車による 「採用行為」 の存在、「賃金決定」 の主導、 人事配置を決定の事実(アデコの主体的関与がない)が存在し、原告・被告日産自動車間に雇用契約が成立することを主張している。 さらに、派遣法40条の4、5を根拠に雇用契約が成立することも併せて主張している。
  期日では、伊須代理人、笹山代理人が口頭で上記要点を説明した。

  次回期日(9月13日 13:100〜)までに、被告日産自動車(株)、被告アデコ(株)は、今回提出した原告準備書面5に対する反論を準備する。 併せて、原告が上申書により提出を求めている各種証拠(日産:就業規則、個別契約書、派遣通知書、労働者派遣契約内容確認書、勤務表管理台帳、 是正報告書、キャリアシート、アデコ:就業規則、就業条件明示書(兼)雇用契約書、給与明細および管理台帳等)の提出を検討することとなった。

●第7回口頭弁論
  2010年9月13日の期日では、被告日産自動車(株)及び被告アデコ(株)から、 これまで原告側が提出してきた事実主張及び法的主張に対する反論書面が提出された。 原告からは、被告日産自動車(株)に対して釈明を求める準備書面を提出した。その内容は、以下のとおりである。

  2010年8月18日付毎日新聞記事によると、被告日産自動車は 「事務系派遣社員を段階的に直接雇用の契約社員に切り替える」 とされ、 その原因として 「東京労働局から労働者派遣法に基づく是正指導を受け、方針転換を迫られたとみられる」 と報道されている。 そして、被告日産自動車広報部はこの決定に対して、「法を守っているつもりでも、実際には問題のあるケースもあり、グレーゾーンの解釈が難しい。 直接雇用のほうが会社にとっても従業員にとっても良いと判断した」 と説明している。 そこで、当該記事による被告日産自動車(株)の発表と本件との関係についての釈明を求めた。

  また、同記事によれば、被告日産自動車(株)では、管理職向けの派遣社員対応マニュアルを作成・使用していたとされ、 同社広報部も同マニュアルを08年に作成したことを認めている。 同マニュアルには、労働者派遣法で禁じられている事前面接に関して、「派遣staffを選択する行為は禁止されています。 それらを候補者本人同意のもと、『職場見学』 という事に置きかえて 『面談』 を行っています」 「単にことばの問題ですが 『面接』 ということばは使用せず、 『面談』 『打合せ』 という表現を使用するようご留意ください」 「受入の可否はGP3(人事担当)へ報告してください」 などと記載されているようである。 また、賃金については、「オーダーする業務内容と料金テーブルと照らし合わせ、購買H53(派遣社員を管理する部署)にて決定」 と記載されているようである。 同マニュアルにあるこれらの記載は、被告日産自動車が労働者派遣法に違反すると知りながら、事前面接を行い、 その違法性を隠すためにわざわざマニュアルまで用意していたことを示すものであり、違法行為が全社的に行われていたことを示している。 また、賃金決定も実際には被告日産自動車で決定していたことを示しており、本件訴訟で述べている原告の主張を裏付ける内容となっている。 そこで、@ 同マニュアルの開示を求めると共に、A 同マニュアルの作成の経緯等について釈明を求めた。

  裁判長からは、被告日産自動車(株)に対し、上記求釈明について次回期日までに、検討するよう指示があった。

  次回期日(2010年11月8日午前10時〜:631号法定)までに、原告側は、書証を整理して提出すると共に、 今回提出された被告らの準備書面に対する反論を準備する予定である。 被告日産自動車(株)は、上記求釈明に対する回答を検討する。就業規則の提出は期日間に調整する予定である。

●第8回口頭弁論
  2010年11月8日の期日では、原告側から、原告が専門業務ではなく庶務業務に従事していたことを示す証拠を提出すると共に、 前回期日に被告アデコ(株)から提出された準備書面の反論書面を提出した。庶務業務に関する証拠を原告側から提示したのは今回が初めてである。

  提出した証拠は、被告日産自動車(株)の正社員(原告の指揮命令者)から原告に宛てた送られたサンクスカードと呼ばれる表彰カード (そこには、「信頼感ある庶務業無」 と記載されている。)、 複数の弁当宅配業者から被告日産自動車(株)の弁当発注担当者として原告宛てに贈られていたDM、 原告が秘書業務を行っていた時の顧問からの感謝の手紙等である。 これらの証拠から、原告が専門業務ではなく、庶務業無に従事していたことが容易に理解できる。
  その他、原告に交付されていた社員証(裏面には 「表記の者は当社の従業員であることを証明する」 と記載されている。)等も提出しており、 これは原告が被告日産自動車(株)の社員として取り扱われていたことを示している。
  これら証拠についての解説を、大山弁護士が口頭で行った。

  被告アデコ(株)に対する反論書面においては、@ 被告アデコ(株)と被告日産自動車(株)が 「職場見学」 と称して行ってきた事前面接が、 派遣先と派遣労働者との間に雇用関係が成立し、 職業安定法で禁止されている労働者供給事業に該当する可能性があると(社)日本人材派遣協会のリーフレットに警告されていること、 A 賃金決定に被告アデコ(株)の主体的な関与が無く、被告日産自動車の言いなりとなっていること(派遣料と賃金が連動するという構図)を正当化する主張が、 労働法の原則(派遣料金が下がったとしても、労働者の承諾無く賃金を一方的に切りされることは許されない。)を無視した不当なものであること、 B 被告日産自動車が原告に対して有している指揮命令権は、派遣契約上の業務に限定されるが(つまり、原則として5号業務のみ)、 実際は契約上の業務以外(つまり、庶務業無)の指揮命令が大半であったこと等を主張し、仮に、松下PDP事件最高裁判決に従ったとしても、 原告が被告日産自動車(株)の社員としての地位が認められるべきであることを述べている。
  上記概要を伊須弁護士が口頭で解説を行った。

  なお、本期日までに、被告日産自動車(株)が、原告が要求していた釈明事項(毎日新聞で報道された裏マニュアルと本件についての関係)に対する回答をし、 当該裏マニュアル及び就業規則の提出を検討することになっていたが、被告日産自動車は期日までに回答することが出来ず、 11月19日までに回答するので回答期限を延期してもらいたい旨上申し、了解された。
  原告としては、併せて是正報告書の提出を求めた。被告日産自動車からの提出が無い場合には、文書提出命令を申し立てる予定である。

  裁判長からは、原被告双方に対し、今後の立証の方針を次回までに上申書の形で提出するよう指示があった。

●第9回口頭弁論
  2010年12月13日の期日では、被告日産自動車(株)から、 派遣社員対応マニュアル(乙イ14号証)及び同マニュアルを作成したとされる部署の部長が作成した陳述書(乙イ15号証)が証拠として提出された。 同陳述書によれば、同部署は原告が所属していた部門の人事を担当している。 そして、派遣社員対応マニュアルを作成したのは、同部署内にある 「人事グループ」 の担当者である。 説明では、同マニュアルは法律知識の無いこの担当者が、日産全体の人事を扱う本社人事部に相談・確認することなく作成したものであるとされる。 マニュアル内にある「賃金設定(時給設定改訂)」という記載についても、この担当者の言葉の使い方が不適切であったというものにすぎないと説明している。

  しかし、同部署が人事を担当する部門には約千名の社員がいるとされている。マニュアル作成時は部門に就業する派遣社員も相当数に達しており、 担当者は増加する管理職からの質問に対応するため、問合せが多い事項とそれらへの回答をまとめ、 同部門の管理職全員が見られるようにサーバー上に掲載したとされる。
  約千名もの社員の人事を担当する部署において、そのような全管理職を対象とした対応が一担当者のみの采配で行われるはずがない。 マニュアル作成担当者のみに責任をかぶせるかのような説明には疑問が残る。 当該陳述書のみでは、作成経緯等について十分な説明が加えられているとはいえないことから、原告側から、作成者の詳細な情報や、 改定の経緯等についての釈明を求める書面を提出した。
  また、これまで、被告日産自動車(株)及び被告アデコ(株)が提出を拒んできた、 労働局申告に関する文書(東京労働局の是正指導書に対する是正報告書等の文書等)について、 東京労働局に対して提出を求める文書提出命令の申立を行った。是正報告書等は、今後の立証に重要な意味をもつ資料であり、 人証調べに先立って行う必要があることから、同命令にかかる文書提出の必要性・文書の特定等の疎明を、 他の手続き(本訴の手続き)に先行させることになった。

  その他、今後の人証調べに向けての現段階における方針を原被告双方が上申書として提出した。 現段階において、原告としては、原告本人の他、被告日産自動車(株)で原告と同様に稼働していた派遣労働者、学者・研究者等を検討している。 被告日産自動車(株)は、原告の指揮命令者のうち1名及び原告の就労部署の部門人事を担当する部署の部長1名を、 被告アデコ(株)は、コンプライアンス推進部の部長1名を、それぞれ検討しているようである。

  文書提出命令申立事件は、本体の訴訟とは形式上、別事件となるため、次回期日は、文書提出命令申立事件の進行を見て、 追って指定という扱いとなった。

●2010/12/28
  裁判所に対し、文書提出命令申立を行いました。 この申し立ては、2009年5月末に東京労働局が被告日産・被告アデコへ是正指導を行った際の、調査票や報告書といった文書一式を入手し、 今後の裁判に役立てることを目的としています。文書を入手するまで、本裁判の進行は保留となります。

●2011/3/7
  文書提出命令申立について、裁判官との面談を行いました。

●2011/4/8
  文書提出命令申立について、裁判官との面談を行いました。

●2011/7/22
  龍谷大学名誉教授・萬井 隆令氏による本裁判についての意見書を提出しました。

●2011/9/22
  文書提出命令申立について、裁判官との面談を行いました。

●2012/1/25
  進行協議を行いました。

●2012/3/14
  進行協議を行いました。

●2012/4/25
  弁論準備を行いました。

●2012/6/1
  弁論準備を行いました。
  日産が 「派遣マニュアル」 の作成者は明らかにしないと回答してきました。これに対して、反論を行なう予定です。
  また、追加の書証を提出しました(原告が専門業務ではなく一般庶務業無を行っていた事実を示すメールや書類)。
  文書提出命令手続きについては、労働局とのやり取りなど進行を確認しました。 被告らは、申立の対象となっている労働局の書類は本件と関連性がないと主張していましたが、 裁判所は、同書類が本件と関連性がないとはいえないという前提に立ち、インカメラ手続きを労働局に求めました。 労働局からの回答(関係書類についての裁判所に対する開示)が近日中に明らかになる予定です。
  裁判所は、同手続きを経て、文書提出命令についての判断を行うことになる予定です。

  ※インカメラ手続き
  裁判当事者には開示することなく、裁判所だけに関係書類を開示して、 当該関係書類が文書提出義務のある書類なのかそうでないのかを判断する手続きのことをいいます。

●2012/07/11
  原告側、準備書面12陳述。証拠として甲31,32を提出。
  2012年6月29日付にて裁判所が文書提出命令を決定し、東京労働局に対し、調査資料の提出を命じた。
  東京労働局は、これに抗告せず、7月10日、裁判所から提出を命じられた書類を裁判所に提出した。
  本日は、東京労働局から提出された書類が顕出された(両当事者に対して示されること)。

  今後の段取りとして、東京労働局提出書類を原告側被告側双方でコピーし、それに基づき必要な書類を証拠提出すると共に、 主張を補充することをまず原告側が行うということが決められた。
  また、準備書面12において、被告日産自動車が、証拠提出した派遣労働者の管理マニュアルについていつ誰がどのような経緯で作成したのかについて 原告側が追及。これについて、被告側が改めて次回までに見解を提示することが決められた。

●2012/09/14
  <文書提出命令によって明らかになった被告日産自動車の実態>
  原告側、準備書面13を陳述。証拠として甲33〜65を提出(取調べは次回)。
  文書提出命令によって開示された書類には、被告日産自動車の職場で、いかに広範に派遣法違反が行われていたか、 その法規の順守に関していかに被告日産自動車が無頓着であったか、その実態が明らかになった。
  準備書面13では、これらの書類を証拠とし、被告日産自動車、被告アデコが行っていた派遣法違反の実態を詳細に明らかにし、 そのことから、被告日産自動が原告に対し直接雇用の義務を負うこと、原告に対する賠償義務をも負うことを明らかにした。

 この書面に対し、次回までに、被告日産自動車及び被告アデコが、反論を行う予定である。 併せて、裁判所から被告日産自動車に対し、 同社が証拠提出している派遣労働者の管理マニュアルについての作成者・作成経緯に関する回答を出すよう要請があった。

  次回期日は、10月19日午後3時。東京地裁36部にて。

●2012/10/19
  被告日産自動車は、準備書面8を陳述。証拠として乙16(裁判例)、17(全社マニュアル)を提出。 準備書面8、文書提出命令によって開示された資料は直接雇用の根拠とならないこと、不法行為責任については反論不要という内容である。 そして、従前から求めていた裏マニュアルの作成者の開示に代えて、全社マニュアルという被告日産自動車の表向きのマニュアルを提出してきた(乙17)。
  これを受け、原告側は、準備書面14を陳述。同書面では、これまでの証拠関係から、 被告日産自動車による事前面接・賃金決定の実態は明らかにされており、前回提出された証拠等により補強されていること、 その点を今後さらに明確にしてくことを述べ、併せて、原告が契約を更新されないこととなった際、 同部署には、更新された派遣社員が存在する事実を指摘し、明確な認否を求めた。これは、原告を狙い撃ちにした不利益処分の存在を窺わせる事実である。
  そして、全社マニュアル(乙17)は、裏マニュアル代替になるものではないことを重ねて指摘し、再度、担当者等の開示を求めた。

  次回までに、被告日産自動車は、上記対応を検討すると共に、最高裁判例についての主張を加える予定である。
  併せて、原告・被告双方が、人証の計画を準備する予定である。

  次回期日は、11月20日午前11時45分。東京地裁36部にて。

●2012/11/20
  被告日産自動車は、準備書面9を陳述。同書面では、原告の主張(被告日産自動車による労働局申告者(原告) に対する不利益取扱の主張)に対する反論及び裏マニュアルの作成者の開示には応じない旨が論じられている。
  裁判所は、このような裏マニュアルに関する被告日産自動車の対応が、被告日産自動車にとって不利となることもあり得るが、 それを前提に原被告双方に具体的な人証計画を立てるよう指示した。

  原告側は、準備書面15を陳述。同書面では、準備書面13、14を補強するため、文書提出命令によって得られた証拠を詳細に分析し、 @ 原告を含めた派遣社員が被告日産自動車において、庶務業務を広く担当していたこと、A このような業務偽装行為が全社的に行われていたこと、 B 原告を含めた派遣労働者の人事(解雇)が、被告日産自動車によって決定されていたこと、 C 被告日産自動車の、東京労働局からの是正指導に対する無反省な態度等を明らかにした。

  次回期日は、12月28日午前11時00分。東京地裁民事36部にて。

●2012/12/28
  原告側からは、横浜地裁に係属中の同種事案の原告の陳述書を提出。
  原被告双方から、証人に関する上申書が提出され、必要な証人の選定が始まった。
  被告日産自動車は原告の指揮命令者1名を、被告アデコは団体交渉等を担当した職員1名を候補者として指定。
  原告側は、@ 原告本人、A 元同僚派遣社員、B 労働法学者、C 事前面接担当者、D 派遣労働者の更新等の決定に関与していた担当者(日産社員)、 E 原告に庶務業務を指示していた指揮命令者、F 労働局調査時の日産側担当者、G 裏マニュアル作成者、H 日産担当営業社員(アデコ社員)、 I 労働局提出のための業務内容確認書の記載を指示したコーディネーター(アデコ社員)を申請予定とした。
  併せて、裏マニュアル作成者の尋問の必要性に関する書面も提出した。 依然として、被告日産自動車はマニュアル作成者の特定を行わないため、更に同作成者の尋問の必要性に関する書面を補充し、尋問を求めていく。

  次回期日までに、それぞれ相手方申請証人の必要性等に関する意見書を提出することとなった。

  次回期日は、平成25年2月20日午後1時30分。東京地裁36部にて。

●2013/2/20
  原被告双方から申請証人についての意見書が提出され、当方からは、再度、裏マニュアル及び同マニュアルに記載がある賃金テーブル等の提出を求めた。 併せて、裏マニュアル作成者と思われる人物の人証申請を行った。
  裁判官からは、被告日産自動車に対し、同社が原告の採用・昇給について、当該裏マニュアルの適用はないというのであれば、 どのような基準・根拠に基づいて、原告の受入・昇給が行われたのかについて、 明らかにするようにとの指示があり(立証しなければ、裏マニュアルに則った運用をしていたとみなす可能性を示唆)、 次回までに当該事実が、根拠資料とともに被告日産側から提出されることとなった。
  次回期日は、平成25年4月9日午前10時30分。東京地裁36部にて。

●2013/4/9
  被告日産自動車から、原告を受け入れた際の社内手続きの流れをまとめた書面(第10準備書面)が提出されたが、 同書面は、当時の記録・資料が残っていなかったために、全て推測で記述したものであるとのことであった。 また、当該準備書面には、原告の時給決定に関する手続きの説明がなかった。 そこで、原告から説明を求めたところ、被告日産自動車は、その点については裁判所からの説明要望事項ではないとの認識を示した。 しかし、その場で原告から前回期日における裁判官の認識について整理と再確認を行い、それを踏まえて、 被告日産自動車が次回までに検討・提出することとなった。
  併せて、原告が、従来から被告日産自動車に対して提出を求めてきた賃金テーブルについて改めて言及したところ、 被告日産自動車は当時の物は残っていないとする一方で、被告アデコにも関わる資料であることから被告日産自動車の一存では提出できないとも述べた。 そこで、被告アデコの側で当時の賃金テーブルの提出の許否を検討することとなった。 もっとも、被告アデコ代理人はその場において、賃金テーブルは、被告日産自動車が作成するものであり、 被告アデコと被告日産自動車間の交渉によって作成されるものではないだろうとの認識を示している。

  原告は、両被告の対応を待って、証人に関する最終的な意見をまとめ、併せて、2013年3月13日に山口地裁で下された、 マツダ裁判の判決(マツダ及び派遣会社による常用代替を目的とした非正規雇用形態の悪用を認定し、 派遣労働者等の地位確認を認めた判決)を敷衍した、主張整理の書面を提出する予定である。

  次回期日は、平成25年5月20日午前11時00分。東京地裁36部にて。

●2013/5/20
  原告側からは、本件と類似の事案において派遣労働者と派遣先事業者との間の雇用関係を認めた山口地裁平成25年3月13日判決をベースに、 本件事案を再整理した準備書面16を提出した。 そこでは、被告日産自動車と被告アデコが協力して派遣法の規制を潜脱して、原告ら派遣労働者を常用代替として使用していた実態を明らかにし、 松下PDP最高裁判決の枠組み内においても、原告と被告アデコとの間の派遣労働契約は無効であり、 被告日産自動車との間に雇用関係が存在することを主張した。
    また、被告日産も準備書面11を提出した。派遣料金の決定の仕組みについて主張したものであるが、今となってははっきりしないが、 という留保つきのものであること、派遣料金と原告の賃金との連動性がないことを指摘した内容である。
  さらに、これまで原告が提出を求めてきた派遣労働者の賃金を決定する基礎となる賃金テーブルについて、 被告アデコから同資料と思われるデータが発見されたので、両被告検討の後6月3日までに提出したいとの考えがアデコから表明された。

  今回の日産の書面及びアデコからの提出証拠を踏まえ、次回期日において、証人の採否を決定する方針となり、これまで出された証拠資料を踏まえ、 原告側から、これまで申請していた証人の必要性について、再度まとめ、提出することとなった。

  次回期日は、平成25年7月4日午後4時00分。東京地裁36部にて。

●2013/7/4
  原告側からは、書証(賃金テーブル)開示と申し出ている人証の採用を求める上申書を提出。 併せて、本件と類似の事案において派遣労働者と派遣先事業者との間の雇用関係を認めた山口地裁平成25年3月13日判決(甲67) と原告と同様に被告日産自動車本社で庶務を担当していた女性の陳述書(甲68)を提出した。

  被告日産自動車からは、アデコ作成とされる派遣料金の見積書(乙イ20)が提出された。 アデコ代理人の説明では、当該見積書は、現実の賃金の変動とはリンクしていないため、 必ずしも当該見積書に基づいて賃金を決定した訳ではないとしつつも、 (原告の賃金を決定するに際して)提出された見積書が被告日産自動車に提出された最終版であるとのことであった (具体的に、どのように見積書が使われたのかについては、アデコの証人であるH氏の陳述書で説明される予定とのこと。)。

  原告側からは、裏マニュアルに記載のある賃金テーブルが別途存在している筈であると指摘したが、被告日産自動車の代理人は、その存在を否定した。
  原告側が提出した原告の同僚の陳述書(甲68)について、被告日産自動車は、反対尋問の必要はないと回答。

  人証調べについては、まずは双方が申請している人物及び裁判所が現段階で採用してもよいだろうと考えている以下の4氏 (日産自動車から原告の事前面接を行ったI氏と原告の元指揮命令者であるY氏。アデコから日産を担当していた営業職のH氏。 原告)の尋問を行なうこととなった。その上で、当該尋問だけでは不足する場合には、その他の人証を採用する方針で、 次回期日までに上記4氏の陳述書を提出することとなった。

 次回期日は、平成25年9月10日午後4時00分。東京地裁36部にて。

●2013/9/10
  原告側からは、原告本人の陳述書(甲69)を提出。今後、9月末を目途に追加の陳述書を提出する予定である。
  被告日産自動車からは、I氏の陳述書(乙イ21)が提出された。前回期日において提出を求めていたY氏の陳述書は、同人が既に退職している上に、 本人の意向で協力が得られないため、提出できないとのことであった。
  裁判官からは、Y氏を証人として呼び出す場合、被告日産自動車による事実上の協力が得られるか否かの確認があったが、 請け合うことはできないとのことであった。
  被告アデコからは、H氏の陳述書(乙ロ 12)が提出された。

  これを受け、裁判官からは、まず上記3名の尋問を行い、不足があれば、保留となっている他の証人の採用を検討することを提案された。 当方としては、被告日産自動車での派遣労働者の労働実態を明らかにするためには原告の元同僚の尋問が不可欠であると申し出たが、 当面は採用しない方針であると回答された。

  次回期日までに、原被告が互いに相手方の陳述書を検討し、尋問時間等の見込みを確認し、次回、証人尋問期日を確保することとなった。

  次回期日は、平成25年10月8日午後2時00分。東京地裁36部にて。
【本件訴訟の意義】
  本件は、2008年から2009年にかけて席巻している 「派遣切り」 に対し派遣労働者が異議を唱える訴訟である。

  衆議院総選挙後、民主党政権が発足し、いよいよ労働者派遣法の改正が問題となる情勢下において、本件は、派遣労働者が派遣先に直接雇用を求める裁判である。 しかも、これまでは、製造業派遣の男性労働者の事件がほとんどであったが、本件は、女性の事務系の派遣社員であり、派遣労働の問題の広がりを象徴する事件である。

  これまで、期間の定めのない終身雇用が原則であった日本の雇用形態が企業側の都合でねじ曲げられている。 法制度がねじ曲げられ、かつ悪用され、使い捨てが容易にできる非正規労働者(期間従業員・派遣労働者)が本来正社員が担当すべき業務に従事する常用代替が進み、 非正規雇用の労働者が大量に生まれる結果となった(規制緩和による派遣可能業務の拡大等)。 その結果、常用雇用の代替として働きながらも、雇用の調整弁として、真っ先に解雇の対象とされる、極めて不安定な生活を余儀なくされる労働者が、 労働市場のかなりの割合を占めるに至った。

  そこに、襲った不景気の波(2008年)によって、大量の非正規労働者が仕事を失い、それに伴って住居(寮など)まで失うという深刻な状況が生じた。 2008年末の年越派遣村は正に、それを象徴するものといえよう。

  そして、このような雇用形態に見直しを図るべく、現在、派遣法の改正が問題となっているのである。 その一つとして、期間制限違反の場合のみなし雇用規定の創設である。
  現在の法律では、期間制限違反があったとしても、申込み義務が課されるのみで、しかも、派遣元が、 派遣期間違反となる日の通知(派遣先・派遣労働者に対して)を出すことを条件としているため、本件のように、派遣先・派遣元が業務偽装をしている場合には、 全く救済されない構造になっている。だからこそ、派遣法の改正が必要なのである。 そのような、派遣法改正の意義を問いかける意味でも、本裁判には、派遣労働者全体に関わる重要な意義が存在する。

  また、彼女の働き方をみると、採用や賃金決定について、本来なら、雇用主であるアデコ(株)が決定するところ、実際には、日産自動車(株)が主導的立場で関与し、 決定している。つまり、派遣元アデコ(株)は、採用や賃金決定について、雇用主としての存在意義がないのである。 そのような実態において、労働契約関係をどのように捉えるかについても、本裁判は重要な意義を有している。

  こうした派遣切り事案は、全国で多数提起されている。本件は、その中でも、女性の事務系労働者の提起である点に特色がある。 事務系労働者の中にも多数の派遣切りの被害者がいるが、派遣切り事案の多くは工場労働者の男性が当事者であり、事務系労働者、 しかも女性が当事者である例は珍しい。
  実際の所は、労働者派遣は、事務系労働者にも深く浸透している。その意味では、本件は、全国の多くの女性の事務系派遣労働者の利益を代表している面がある。 この意味でも、本件には大きな意義がある。

  本裁判は、日本の派遣労働者に、正規雇用の道を開く可能性を秘め、ひいては、日本の労働者派遣制度にも影響しうる重要な事件である。 是非とも、多くの方に関心をもって頂きたい。

文責 弁護士 上田 裕