憲法9条と日本の安全を考える
暴走を始めた自衛隊 その1
1. 2006年12月に自衛隊法・防衛庁設置法が改正され、2007年1月から施行されました。これにより防衛庁は防衛省となり、自衛隊の海外活動が本来任務とされました。
この二つの改正はたまたま重なったのではありません。自衛隊が自衛軍化に向けて大きく踏み出したことの両面なのです。
防衛庁は内閣府の外局でした。「庁」 とは一つの行政事務を専門的に行うための組織です。国税庁は租税制度の運用、社会保険庁は社会保険制度の運用のように、
防衛庁は自衛隊という武力組織の管理運用を業務にしてきました。なぜそのようになったのか。
明治憲法下で軍が政治に介入し支配して、国を滅ぼしたことへの反省、常に憲法違反という影を背負ってきた自衛隊に、政治や政策に口を挟ませず、
「存在するだけの抑止力」 の役割に止められたからです。ですから防衛庁は 「政策官庁」 ではなかったのです。
しかし、事態は大きく動いています。95年防衛計画大綱を大きく変更した新防衛計画大綱 (2004年12月閣議決定) は、今後10年間の日本の防衛政策を定めました。
これまで二度の防衛計画大綱では、防衛政策を定めるというよりも、防衛力整備計画の基本文書のようなものでした。
防衛計画大綱が安全保障政策を打ち出したのは、04年大綱が初めてのことです。
統合的安全保障政策と称されるその政策とは、日本の防衛と国際的安全保障環境の改善の二つを安全保障政策の戦略目標とし、それを日本自身の努力、
同盟国 (米国) との協力、国際社会 (とは言っても米国中心ですが) との協力という三つのアプローチを通じて達成するというものです。
安全保障政策 (戦略) といえば何か難しい感じがしますが、要は、何が国家の安全への脅威 (敵) かを明らかにし、それに対してどのように国家を防衛するか、
脅威を封じ込め打破するかという戦略を定めるものです。
では、新防衛計画大綱はどのような 「脅威」 認識を示しているのでしょうか。「我が国に対する本格的な武力侵攻の可能性は低下」 したとし、
これに変わる新たな脅威として 「大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、国際テロ組織等の活動を含む新たな脅威」 と述べています。
新防衛計画大綱の下書きとなった 「防衛力のあり方検討会議」 (防衛庁内部の会議) 報告書 では、「見通しうる将来において、
我が国への本格的な侵略事態が生起する可能性はほとんどない」 とまで述べています。
これでは自衛隊や安保条約は不要ではないかという批判が当然出ます。そこで、「新たな脅威」 に対抗するためには国際協力が必要だとして、
自衛隊の海外活動の重要性を強調するのです。さらに、自衛隊には国内でのテロ・コマンドウ対策、大規模災害対策のように警察から消防の仕事まで割り振ります。
多機能弾力的防衛態勢と呼んでいます。この様な安全保障政策のことを新しい安全保障政策とも呼んでいますので、私もそう呼びます。
新しい安全保障政策では、自衛隊の役割の内、日本防衛は相対的に必要性が低下し、海外活動が主体になってゆくはずです。
新しい安全保障政策を一言で特徴付けるとすれば、安全保障政策の手段として 「自衛隊を有効に活用しよう!」 といえます。
自衛隊の活動は日本の防衛から海外活動へと大きくシフトします。安全保障政策の手段として有効活用しようというのですから、
防衛庁は日本の安全保障政策の主務官庁にならなければなりません。これまでは外務省の役割でした。ですから、「庁」 ではなく 「省」 にしなければならなかったのです。
防衛二法の改正により、今後自衛隊の予算、装備、編成は、迅速に海外出動可能なように大きく変貌するはずです。
よく自衛隊と自衛軍とはどこが違うのかという質問に合います。私は海外で武力行使ができるかどうかがもっとも本質的な違いだと答えます。
さらにそのために、兵士の教育・交戦規則・装備・編成が大きく変わります。軍事法廷も必要です。
今の自衛隊員は海外では、自らの生命身体に切迫した危険がない限り (正当防衛、緊急避難の場合) 相手に危害射撃はできません。
軍であれば、相手が攻撃を仕掛けてこなくても戦闘行動の一環であれば、躊躇なく敵兵士を仕留めるでしょう。兵士の教育も重要なのです。
市民は人を殺傷すれば刑罰を受けますが、兵士は敵を殺傷する命令に反抗すれば抗命罪として重罰を科されます。市民法と軍法では考え方が逆になるのです。
そのための特殊な法 (軍法) と軍事裁判制度が不可欠なのです。
自衛隊の自衛軍への変貌はすでに始まっています。自衛隊の統合軍化です。2005年7月、成立した自衛隊法・防衛庁設置法改正です。
それまで自衛隊は防衛長官が三軍の幕僚長を通じて個別に指揮をする体制でした。この改正により、統合幕僚長とそれを支える統合幕僚監部を新設し、
長官は統合幕僚長を通じて三軍を指揮するという体制になりました。
ではなぜ統合か? 二つの目的があると考えます。一つは米軍との共同作戦をより一体的に行うためです。
米軍は一人の戦域統合軍司令官のもとで、四軍が統合作戦を行います。自衛隊の運用もそれに合わせたのです。
もう一つの目的は、自衛隊の海外活動のためと考えています。海外での人道支援でも、戦闘行動でも、後方支援でも三軍が一体となった活動が重要だからです。
2. 元来自衛隊は憲法違反という影を背負い、実際の活動には9条、とりわけその2項の制約が効いています。戦力不保持と交戦権の否認です。
その結果集団的自衛権行使ができないことや、海外での武力行使ができない (武器使用のみ) とされます。
この制約は、海外活動が本来任務とされ、自衛隊を安全保障の手段として有効に活用しようとした場合、極めて大きな制約になります。
実は自衛隊の中にこの制約を密かに突破しようとする動きが始まっているのです。
04.10.22 陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班の二等陸佐が、自民党憲法調査会の中谷 元 (元防衛長官) 憲法改正草案起草委員会座長の求めに応じて、
防衛課防衛班のファックス用紙とファックスを使い、自ら書いた憲法改正草案を送りました。その内容は安全保障に関するものです。
彼が示した改正草案では、自衛軍設置、集団自衛権と海外での武力行使を容認、国家緊急事態制度と 「望ましい」 として軍事法廷設置を提案しています。
これをそのまま自らの案として、中谷 元議員は起草委員会へ示し、起草委員会は 「憲法改正草案大綱 (たたき台)」 を作成しました。
この中には二等陸佐が 「望ましい」 とした軍事法廷も入りました。
「憲法改正草案大綱 (たたき台)」 は、自民党内のもっとも伝統的 (保守的) な、自民党らしい改正案でした。
そのため国民の強い批判と自民党内からも批判が出て、本当に 「たたかれて」 お蔵入りになりました。
二等陸佐はこれまで新ガイドライン、ACSA協定、イラク特措法、などを担当し、憲法9条に抵触する立法、政策活動の第一線にたってきた人物です。
この点から、彼の示した憲法改正草案の内容は、決して彼個人のものではなく自衛隊制服組の意見を代表するようなものと考えられます。
制服組自衛官が、政権党の憲法改正草案の内容に強い影響力を及ぼしたことの意味は重大です。
国防族議員と制服組が連携して、国政に影響を与え始めたと考えてよいからです。
2007.12.26
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