憲法9条と日本の安全を考える
クラスター爆弾禁止条約について
1、 アイルランドの首都ダブリンで開催されていた、クラスター爆弾禁止を求める国際会議 (オスロ・プロセス) で、5月28日、
全面禁止に近い内容で禁止条約に合意しました。
英国が当初は禁止対象の広い例外を求めていたのが、急遽方針を変更したことで、条約締結に至りました。
日本は、日米同盟維持の立場から、全面禁止には消極的でした。しかし、クラスター爆弾を保有するドイツ・フランスなど欧州諸国が積極的なイニシャチブを発揮し、
ほぼ全面禁止に流れが大きく傾いた結果、日本政府もそれに追随した形です。
2、 クラスター爆弾は、親爆弾から、数10個から500〜600個の子爆弾が広範囲に散布され、子爆弾の中には更に孫爆弾まで散布するタイプもあり、
無差別殺傷兵器である上、大量の不発弾が残り、紛争終結後も子供など市民が殺傷され、紛争地域の戦後復興が妨げられるなど、
残虐・大量破壊兵器として、長年禁止を求める運動がありました。
1994年のNATO軍によるユーゴスラビア空爆がきっかけに、NGOなどによる禁止運動が起きて、
国連通常兵器使用禁止制限条約 (CCW) の枠組みの中で制限交渉が行われていましたが、全会一致原則のため、交渉は進展しなかったといわれます。
そのため、2007年2月から、ノルウェーを中心とした諸国が、禁止を求める国だけでまず禁止条約を締結しようとして、いわゆるオスロ・プロセスを開始したのです。
3、 これと同じ方式の運動で成功したのが、対人地雷禁止条約でした。カナダがイニシャチブをとって、禁止を求める有志国が結束して禁止条約を作る、
いわゆるオタワ・プロセスを開始したのです。日本は日米同盟の立場から、反対する米国と共同歩調をとっていましたが、
先に米国が妥協し、日本政府が追随して条約に賛成しました。
この運動は、団結した国際的な市民運動が超大国をも動かす力を持っていることを示したのです。
私はこのような国際社会の取り組みを 「力の支配から法の支配へ」 という大きな歴史の動きとして捉えています。
この歴史の動きは、憲法九条が持っている現代的な意義を示すものでもあります。
4、 クラスター爆弾は、徹底した軍事合理性の観点から考案されました。一発の爆弾 (砲弾、ロケット弾) により、広範囲を攻撃できる特質から、
費用対効果の面で優れていること、出撃する航空機の回数を減らして、パイロットのリスクを軽減できること、体内に入った金属片は例えばBLU-97/Bの場合、
約2グラムと非常に小さく、取り出すことが困難で、兵士の回復にも時間がかかり、治療活動にも手をとられ、部隊の行動が遅れるなどの効果があるといいます。
5、 クラスター爆弾と称する兵器は、爆弾だけではなく、榴弾砲弾、地対地・空対地ミサイル、巡航ミサイル、
迫撃砲弾などおよそ地上攻撃できる兵器に組み込まれています。CBU-87/Bでは、
200m×400mという広範囲をカバーします (カバーする範囲のことをフットプリントといいます)。攻撃目標から対戦車、対車両、対人に分けられます。
6、 クラスター爆弾が禁止されるようになった理由は、非戦闘員も無差別に殺傷するという無差別性、大量破壊性、
不発弾が多く残って紛争終結後も市民へ無差別の被害を与え、戦後復興の障害になることなどです。後者は対人地雷と同じ効果を持ちます。
しかも、広範囲に散布されて一部が不発弾として残るため、どこに不発弾が残っているのかの特定が不可能で、対人地雷以上に危険な面があります。
不発弾になる率が少ないからよいではないかという議論がありますが、少なければ少ないだけ、どこに潜んでいるかわからず、危険性の高さには変わりありません。
7、 実は、日本では早くにクラスター爆弾の被害の体験があるのです。第二次大戦末期、日本の多くの都市は米空軍による無差別爆撃を受けました。
そのときに使用された爆弾が焼夷弾といわれるものですが、これは初期のクラスター爆弾なのです。
焼夷弾は、大きな親爆弾が投下され、一定の高度でケースが分解し、無数の子爆弾が落下するというものです。
円筒状の子爆弾にはナパームがつめてあり、落下速度を調整するリボンが後部に取り付けてありました。
日本家屋が木と紙でできているという特徴から、焼夷弾は絶大な破壊・殺傷効果がありました。無差別爆撃と併用され、まさに無差別大量破壊行われました。
8、 クラスター爆弾は日本人にとって過去の体験ではありません。自衛隊がクラスター爆弾を保有していますが、その被害を受けるのは確実に日本人なのです。
この議論はなぜかあまりなされていません。私たちは、もっとクラスター爆弾全面禁止を私たちの問題として要求すべきではないでしょうか。
9、 自衛隊がクラスター爆弾を使用するシナリオは、日本本土に上陸した敵部隊を攻撃するためです。
「通常爆弾では撃破できないような広範囲に展開した侵攻部隊の車両等を撃破」 するという目的です (2007年7月10日第166国会衆議院答弁書第480号)。
自衛隊がクラスター爆弾を使用する場合、事前に住民を避難させ、使用後は不発弾処理が終わってから住民を帰還させるというもののようです。
海岸線間近かまで住宅街が迫っているので、これで住民被害が防げるとは思えません。
10、 それに、2004年12月10日に閣議決定された 新防衛計画大綱 では、
わが国へ敵部隊が着上陸するという 「本格的な侵略事態生起の可能性は低下」 したと述べ、
大綱の元となった 「防衛力のあり方検討会議」 (2001年9月から作業を開始した防衛庁内部組織)
報告書 では、
もっと率直に 「見通しうる将来において、わが国への本格的な侵略事態が生起する可能性はほとんどない」 と述べています。
あり方検討会議で使用された 「特に厳重な取り扱いを要する」 とされ、
会議終了後回収と判子が押されてある ペーパー では、
「本格的侵略の可能性極小化」 と書いてあります。判りやすく言い換えれば、新防衛計画大綱でクラスター爆弾を使用するという事態はまずありえないということです。
11、 日本政府はクラスター爆弾禁止条約に調印しましたが、それにもかかわらず、
条約で禁止の例外とされているクラスター爆弾を保有する方針です (既存のものは廃棄する)。日米同盟の維持強化の立場からだと思います。
クラスター爆弾の被害は、海外特に中東 (イラク、アフガン、ヨルダン) やバルカン半島での出来事として、私たち日本人には縁遠いと考えている方がほとんどでしょう。
しかし、自衛隊はこれからも私たちに被害を与えかねないクラスター爆弾を保有しようとしています。
既にわが国防衛には必要がなくなったクラスター爆弾を、日本が率先して完全廃絶を表明することが、この種爆弾の完全禁止に大きく貢献することでしょう。
また、この方針は憲法九条の趣旨を実践することでもあります。
条約では、締約国と非締約国 (現在、米国、中国、ロシアという大国は締結する意思はありません。
オスロ・プロセスへも参加していません。) との共同作戦は禁止されません。米国がクラスター爆弾を使用する作戦で自衛隊が共同作戦を取れるのです。
周辺事態 (朝鮮半島や台湾海峡での武力紛争) では使用されるでしょうが、日本はそのような武力紛争へ周辺事態法を発動して、軍事支援するでしょう。
私は、このような軍事作戦へ日本が加担すべきではないと考えます。
クラスター爆弾を世界中から廃絶するためには、日本政府が米国に対して条約に調印すること、武力紛争で使用しないこと、
使用する作戦には協力しないことをはっきり示すことが必要でしょう。
2008.6.2
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