憲法9条と日本の安全を考える
オバマ候補が大統領に就任して
日米同盟、憲法問題に変化が来るか
1、チェンジをスローガンに選挙戦を戦ってきた民主党オバマ候補の大統領選挙当選のニュースを聞きながら、この原稿を書いています。
事前の報道でも、オバマ陣営の運動員や支持者は、米国を変える歴史的一瞬だと異口同音にコメントしていました。
選挙戦の争点は外交ではイラク問題ですが、ほとんどは国内問題に終始しました。米国民は大統領選挙になると、内向きになるのでしょうか。
2、チェンジをスローガンにしてきただけに、何か日本の憲法問題、安全保障問題に大きな変化があるではないかと期待したくなるのは無理からぬことでしょう。
私にとって関心があるのは、オバマ大統領になって、9条改悪と、その裏腹の関係にある、日米同盟強化路線に、私たちが期待できるような変化がくるのかという点です。
結論から先に述べると、ブッシュ政権下で進められた日米同盟の強化路線には変化がなく、9条改悪の圧力は弱まることはないと考えています。
オバマに対して私たちが期待を持てば持つほど、9条改憲阻止の運動の足元をすくわれはしないかと気がかりです。
3、ではなぜそのように考えるのか? その根拠を説明する前に、日米同盟強化と9条改悪との関係を簡単に整理しようと思います。
ここでの日米同盟強化路線とは、2002年12月から始まった日米防衛政策見直し協議のことです。
この日米協議は一応2006年5月に最終報告書とロードマップが合意されて終了し、現在日米合意の内容を実行する段階です。
いわゆる同盟の変革と呼ばれているこの内容は、日米の安全保障政策、軍事政策の一体化、日米両軍の一体化の強化とそれにあわせた自衛隊の変革 (自衛軍化)、
日米同盟のグローバル化です。
この日米協議は、ブッシュ政権の安全保障政策、軍事政策がストレートに反映し、このプロセスから生まれた新防衛計画大綱が打ち出した安全保障政策は、
ブッシュ政権の国家安全保障戦略 (2002年9月) を引き写しにした内容となっています。
自民党新憲法草案による9条改憲では、集団的自衛権も行使できる自衛軍を創設し、自衛軍の任務として我が国防衛の外、
国際平和協力活動と国内治安維持を挙げています。日米強化路線の実行として、防衛二法 (自衛隊法、防衛庁設置法) が既に三回改正され、
自衛隊の海外活動が本来任務化され、防衛庁が防衛省となって安全保障政策を主管とする政策官庁へと転換しようとしています。
更に自衛隊海外派兵恒久法の制定や、自衛隊の海外活動の拡大 (これまでの後方支援活動から、前線での活動)やそれに伴う武器使用権限の拡大、
集団的自衛権行使の憲法解釈見直しを狙っています。
これらはいずれも日米同盟の強化とグローバル化の為のものであり、自民党新憲法草案の先取りと言って良いでしょう。
この動きを進めるために、9条の制約を乗り越えなければならないのです。
4、ブッシュ戦略がストレートに反映した日米同盟強化路線であれば、ブッシュ政権から民主党オバマ政権になって、対日政策は変わるのではないかと反論されるでしょう。
その反論には以下の回答を用意します。
多くの論者がブッシュ政権の特異さを強調し、その内容は 9・11事件により形成されたと主張します。私はそうは考えません。
ブッシュ政権の国家安全保障戦略では、米国の主要な脅威は、ならず者国家、非国家的主体 (国際テロリスト) などの非対称的脅威、大量破壊兵器の拡散とし、
これらの主体が何時どこから米国本土を攻撃するかもしれないし、大量破壊兵器が使われたら、その被害は 9・11を幾何級数的に上回る、
これらの主体は旧ソ連のように抑止が効かない、だから危機が迫る前に先制攻撃するというものです。
実は、ブッシュ戦略の基本的な内容はすでにクリントン政権末期には形成されているのです。
5、クリントン政権は94年に新しい核戦略である 「核態勢見直し」 を作成しました (秘密レポート)。
この中で、核兵器の役割は核兵器保有国に対する抑止力であると規定し、抑止が効かない非国家的主体は核攻撃の標的にはしなかったといわれています。
しかし、その後クリントン政権第二期に統合参謀本部が作成した核戦争ドクトリンである 「統合戦域核作戦ドクトリン (Joint Pub 3-12,1 96.2)」 では、
「大量破壊兵器を所持する非国家的主体 (それらの作戦センター)」 を核攻撃の標的にしたのです。
さらに、クリントン政権末期の2000年5月統合参謀本部が作成した軍事ドクトリン 「Joint Vision 2020」 で、「このような非対称的なアプローチの持つ意味は、
おそらく米国にとって、極近い将来の極めて大きな危険である。そしてこの危険は長距離ミサイルやその他の直接的な合衆国市民と領土への直接的な脅威を含む」 と、
その後の1年4ヵ月後に起こる 9・11事件を予知するかの文章があるのです。
ブッシュ政権の軍事戦略を形成した 「4年毎の国防見直し (01.9.30)」 は 9・11事件直後の発表ですが、 9・11以前にすでに完成した報告書でした。
9・11事件を引用した箇所がありますが、完成後発表前に書き加えたものでしょう。
6、 9・11事件以降米国は非国家的主体を主要な脅威とし、対テロ戦争を軍事政策の最重要課題としますが、
この基礎はクリントン政権時代に形成されたものに外ありません。ブッシュ政権は、クリントン政権時代に形成されてきたものを、更に発展させたものにすぎません。
7、では、この米国の戦略が日本の憲法問題にどのような影響を与えるのでしょうか。
日米同盟強化路線は、ブッシュ政権下で進められた対テロ戦争対応のための軍の変革と、それに合わせた同盟国軍の変革が根底にあります。
日米防衛政策見直し協議はそれを実現させるために行われたのです。この路線を推し進めるためには、
9条の制約を突破することは必須条件であることは見やすいことです。
8、さて、わが国で憲法改正問題が現実的な政策選択の問題に浮上したのは、決して遠い過去のことではありません。
2000年10月国防大学国家戦略研究所対日特別報告書 (アーミテージレポート) が発表されてから後のことです。
アーミテージレポートは、自ら超党派レポートと称しました。その意味は、当時大統領選挙で民主ゴア、共和ブッシュのどちらが勝っても不思議ではない状況下で、
日米同盟を強化するため、どの政権になっても採用されるべき対日政策として作成されました。
執筆者はクリントン政権の元高官や、ブッシュ政権の高官になる人物 (アーミテージ、ウォルフ・ウィッツ、マイケル・グリーンなど) の共同作業でした。
レポートが提言した内容は、日本が第一に採るべき政策として、有事法制の制定を挙げ、
集団的自衛権に関する憲法解釈が日米同盟強化の障害であると指摘したのです。
9、2007年2月には第二次アーミテージレポートが発表されました。執筆者は第一次レポートとほとんど同じです
(チェイニー副大統領と並んで、ブッシュ政権ではネオ・コンの筆頭であったウォルフ・ウィッツは含まれていません)。つまり超党派レポートです。
発表された時期が、日米防衛政策見直し協議が終了した少し後になります。
つまりこのレポートの目的は、日米防衛政策見直し協議で路線が敷かれた日米同盟の変革を、わが国が確実に実行するよう、対日政策を提言することです。
レポートが日本への勧告として述べている内容は、改憲論議は日米同盟を強化する上で憲法9条の制約を意識している、憲法問題を解決すべき、
自衛隊海外派兵恒久法を制定すべきというものです。
このレポートの内容を、オバマ政権は採用するでしょう。
10、オバマは選挙期間中、政策綱領案でイラクからの撤退は明言しましたが、対テロ戦争政策は、米国の主要な国家戦略として継続すること、
アフガニスタンを主戦場として、アフガニスタンへ米軍を増派することを述べています。
政策綱領案では、核政策につき、「核兵器依存を辞め、究極的に廃絶することで米国は安全になる」 と注目すべき内容もあります。
包括的核実験禁止条約を批准するとも述べています。イランのような敵対国に対しても、軍事力行使の選択肢を残しながらも、直接対話するとも述べています。
11、米国から日本を見ると、ブッシュ政権の対日政策を変える理由はどこにもないのです。
対テロ戦争政策を進める限り (しかもこの政策の基本はブッシュ政権以前から米軍部が形成したものです)、米軍の変革は進められるでしょう。
それに対応した日本の軍事政策と自衛隊の変革も進められるでしょう。日本は米軍にとってきわめて居心地がよい同盟国なのです。
毎年2500億円の思いやり予算をつぎ込んでくれるし、グァムの基地建設に1兆円近いお金を使わせてくれるし、安全保障政策、
軍事政策はいつも米国とすりあわせをしてくれるし、危機の際には在日米軍基地を密約まで結んで自由に使用させてくれるし、
核兵器も密約まで結んで自由に持ち込むことが出来るし、出来の悪い米兵が基地外で事件を起こしても、密約まで結んで裁判権を放棄してくれるし、
在日米軍基地に対して住民の抗議が起きても、日本政府は国民を騙してでも米軍をかばってくれるし、デラックスな米軍住宅を作ってくれるし、
有事法制でいくらでも支援してくれるし、いいこと尽くめなのです。
12、これがある限り、米国の対日政策は決して変わらないでしょう。
ただ、オバマ陣営の外交顧問は、アフガン問題は武力一辺倒では解決できず、軍事力をはじめとするあらゆる国力を利用すべきであると、
外交力の行使も重要であるとの発言をしています。ただブッシュ政権は最近になって、アフガン問題は軍事力では解決できないと、
タリバーン勢力との和平協議を進めようとするカルザイ政権を側面援助する動きもしていますので、
オバマ陣営の外交路線がどれだけブッシュ政権の外交路線を変化させるかは不明です。
13、ここまで書くと、何かしら先行き悲観的になってしまいそうですが、そうではありません。オバマ政権に根拠のない期待を抱かないことを強調しているのです。
ブッシュ政権とオバマ政権では、国際紛争へのアプローチの仕方に違いが出る可能性があります。そうであるだけに、日本が、私たちが変わるチャンスには出来るでしょう。
イラクからの撤退、アフガン問題での外交力の活用は、日本が9条を実行する外交戦略を採用するチャンスです。
日本が変わることによって、オバマ政権の 「変革 (チェンジ)」 を、言葉だけではなく本当の 「変革」 にしなければなりません。
北朝鮮問題でもブッシュ政権以上に6者協議を推進するでしょう。相も変わらず拉致問題解決が入り口であるとする政策を転換する時期でしょう。
2008.11.6
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