2009.3.13

憲法9条と日本の安全を考える

弁護士 井上正信
目次  プロフィール

日米の戦争計画に組み込まれる国民保護システム

1、 私が軍事問題に関する情報を得る一つの情報源に、軍事問題研究会があります。 この 連載コーナー でも紹介した、 陸自イラク先遣隊による 「駆けつけ警護」 問題に関する資料 「武器使用権限の要点」 や、 陸自幹部学校主催 「第一回総合安全保障セミナー」 の驚くべき内容は、軍事問題研究会から有償で手に入れたものです。 この 連載 でもこれらの資料の紹介をしています。私はこの会の正会員なので、 有償といっても決して高いものではありません。 大変地道でまじめな活動をしている会です。9条改正問題に取り組む方には是非入会をおすすめします。

2、 軍事問題研究会が定期的に出しているニュースレター 「軍事民論」 は、読み応えある内容ですが、 最新号 (453号) に 「朝霞駐屯地での国民保護等派遣訓練は周辺事態想定の演習のひとコマだった −情報公開法で見た平成19年度日米共同統合演習 (実働演習) の実態」 と題して、興味深い情報が掲載されていました。

3、 07年11月に4都県の防災・消防関係者を朝霞駐屯地へ集めて、弾道ミサイル着弾による毒ガス被害に対して、 国民保護等派遣を想定した実動訓練を実施していたと報道した08年2月の赤旗新聞の記事から、会が情報公開法により関連文書を公開請求したところ、 この国民保護等派遣訓練は、「平成19年度日米共同統合演習 (実動演習)」 で米軍側のコードネームは 「KEEN SWORD」 であったということが判明したというのです。

4、 「KEEN SWORD」 は、昭和61年から始まったもので、軍事民論によると、この演習は米統合参謀本部議長が発起する、米軍においても位置づけの高い演習とのこと。 平成19年度演習は、統合幕僚監部が発表した 「平成19年度日米共同統合演習 (実動演習) について」 (19.10.11) によると、 周辺事態に際しての日米間の連携要領を実動により演練し、共同統合運用能力の維持・向上を図ることを目的にしています。 演習規模は、自衛隊参加人員約22,500人、艦艇約90隻、航空機約400機、米軍参加人員約8,500名、艦艇約10隻、航空機約50機というかなりの規模です。 訓練項目の中に 「弾道ミサイル対処訓練」 があり、おそらくこの訓練の中に、4都県の防災・消防関係者が参加する訓練が含まれていたと思われます。

5、 招待された自治体関係者は、おそらくこの演習全体のことは知らされていないと思います。 私は、これまでも国民保護法が有事法制の一部であり、自治体が行う国民保護訓練は、 日米共同演習の一部に組み込まれるであろうと述べてきました (自由法曹団通信 1225号1226号 「密かに進む戦争国家体制作り」 参照、)。 その根拠は米軍再編と称されている日米防衛政策見直し協議で合意された文書の中にあります。

6、 2005年10月合意された 「日米同盟:未来のための変革と再編」 (いわゆる中間報告) には次のような記述があります。 「1997年の日米防衛協力のための指針 (新ガイドラインのこと−著者注) が共同作戦計画についての検討及び相互協力計画についての検討の基礎となっていることを想起しつつ、 双方は、安全保障環境の変化を十分踏まえた上で、これらの検討作業が引き続き必要であることを確認した。 この検討作業は、空港及び港湾を含む日本の施設を自衛隊及び米軍が緊急時に使用するための基礎が強化された日本の有事法制を反映するものとなる。 双方は、この検討作業を拡大することとし、そのために、検討作業により具体性を持たせ、関連政府機関及び地方当局と密接に調整し、 二国間の枠組みや計画手法を向上させ、一般及び自衛隊の飛行場及び港湾の詳細な調査を実施し、二国間演習プログラムを強化することを通じて検討作業を確認する。」。 これは、有事法制を前提にして、日米間で共同作戦計画作りとその検証のための軍事演習を強化するというものです。 しかも演習プログラムには政府機関や地方自治体を巻きこむというのです。

7、 周辺事態が生起した場合、有事法制では 「武力攻撃予測事態」 に該当し、有事法制が発動されます。 上記の記載で関係する有事法制とは、米軍支援法、特定公共施設利用法、国民保護法です。 特定公共施設利用法は、道路・港湾・空港・電波・空域・海域を特定公共施設と称して、 国民保護計画での利用 (避難の際のインフラです) と自衛隊・米軍の軍事作戦での利用とを、内閣総理大臣が調整するための法律です。

8、 実は、周辺事態の一つである朝鮮半島有事の際に、日米には二つの大規模作戦計画が存在します。 一つは、米韓連合作戦計画 (OPLAN5027) と、もう一つは日米共同作戦計画 (CONPLAN5055) です。 CONPLAN は概念計画と呼ばれ、最も完成したものを OPLAN といいます。なぜ CONPLAN なのでしょうか。 それは、有事法制がなかったため、日本側の戦争協力態勢ができなかったからです。 先に引用した 「日米同盟;未来のための変革と再編」 の該当部分の意味は、CONPLAN5055 をバージョンアップして OPLAN にするということです。

9、 既に2006年度日米共同指揮所演習 (ヤマサクラ演習) では、九州地区の自治体の国民保護担当の職員が招待されて、演習を見学するということがありました。 国民保護計画は戦時に住民を避難させるための計画ですが、これは自然災害から住民の安全を守るという性質のものではなく、 戦争計画 (作戦計画) で自衛隊・米軍の作戦行動と住民避難とを総合的に行うためのものです。 作戦計画は軍事機密ですから、自治体関係者には全貌は知らされません。有事の計画ですから当然作戦行動が優先させられでしょう。 私たちは知らず知らずに国民保護法により、戦争計画に巻き込まれようとしているのです。 このようなことが9条のもとで許されるはずはありません。今後国民保護訓練が全国で随時行われるでしょう。 私たちは地元で行われる国民保護訓練をしっかり監視しなければなりません。
2009.3.13