憲法9条と日本の安全を考える
国家安全保障基本法案の制定と
憲法96条改正を許してはならない
1 国家安全保障基本法案の重大な内容
昨年7月6日自民党総務会が了承した国家安全保障基本法案概要は、参議院選挙後には法案として議員提案されると見られています。
法案の最大の問題は、集団的自衛権の丸ごと行使を認めるもので(第10条)、そのための下位法として自衛隊法改正(第76条の2集団自衛出動規定の新設)、
武力攻撃事態法と対をなす集団自衛事態法制定、国際平和協力法(自衛隊海外派兵恒久法)などの制定を予定していることです(第5条法制上の措置等)。
なぜ議員立法なのか。ここには巧妙な仕掛けが隠されているのです。内閣提出法案では内閣法制局の法案審査があり、
国家安全保障基本法案は自衛隊創設以来の政府の9条解釈に反するものですから、法制局は承認しないので、内閣としては法案提出は不可能になります。
そこで、国会の多数決で可決させるため議員提案しようとしているのです。
その後、さらにこれを実行するための違憲の下位法を次々に制定しようとしています。
内閣は法執行責任がありますから、違憲の法律でも執行しなければならないということになります。
その結果政府の9条解釈は完全に無視されることになるのです。私はこれを 「裏口入学壊憲」 と呼びます。
集団的自衛権行使は、9条の規範力の最後の砦を突き崩すものです。政府9条解釈とそれを前提にした安保防衛政策では、
自衛権行使の三要件がすべての基礎となり、自衛隊の合憲性、専守防衛政策、海外での自衛隊活動の仕組みなどが積み重ねられてきました。
自衛権行使の三要件とは、@ わが国に対する急迫不正の侵害行為(武力攻撃の存在) A これを排除するために適当な方法がないとき
B 必要最小限度の実力行使に止まる、というものです。
集団的自衛権行使は、自衛権行使の三要件の内、第1要件=わが国への武力攻撃という要件が欠けているため憲法上行使が禁止されているのです。
憲法解釈を変更して限定的な行使が可能だとする見解は、三要件の内、必要最小限度の実力行使という量の問題にすりかえています。
しかし、そもそも行使ができるかという、あくまでも質の問題=第1要件の問題なのです。
従って、集団的自衛権行使を認めるなら、これまでの政府9条解釈とそれを踏まえた安保防衛政策を根底から覆すことになります。
国際平和協力法案はすでに2010年5月26日自民党から衆議院へ議員提案されていましたが、昨年11月衆議院解散で廃案となりました。
しかし、法案はすでにできているので何時でも提出できる状態です。
国際平和協力法案は、現行の国内防衛法制の前提となっている9条の制約を取り払う内容です。
国連の集団的措置以外でも有志連合方式に参加でき、任務遂行のための武器使用、危害射撃に刑法第36、37条の要件をはずし、
安全確保活動・警護活動・船舶検査活動という前線での活動を認めるなど、
これまでの海外派兵法制では違憲の武力行使になるから出来ないとされていたことを可能にします。
2 集団的自衛権行使=戦争国家体制へ向けた政府の取り組み
集団的自衛権を行使しようとすれば、国家安全保障基本法を制定するだけでは十分ではありません。
国家体制自体を変えなければならないからです。基本的人権の手厚い保障、三権分立、議員内閣制度、内閣制度(合議制)、二院制議会、地方自治制度、
国家緊急権制度の不存在など、憲法は9条にとどまらず全体として日本が戦争を遂行できにくい国家システムを作っています。
しかし憲法を丸ごと変えることは、現時点では不可能です。
そこで、それに至る前段階として、戦争ができる国家システムを作るためのさまざまな取り組みが進められているのです。
キーワードは 「国家戦略レベルから部隊戦術レベルに至る日米の一体化」 です。
日米防衛政策見直し協議(米軍再編協議)で合意された日米同盟の一体化の強化です。
国家戦略レベルでの日米の一体化としては具体的には、日本版NSC創設、秘密保全法、新しい防衛計画大綱の策定、ガイドラインの見直しなどです。
これらの取り組みは、危機に際して内閣総理大臣を頂点に、トップダウンで危機管理にあたる体制を平時から構築するための国家改造でもあります。
平時・情勢緊迫時・危機・戦時の各段階で、シームレスかつ迅速に危機に対応するためで、第三次アーミテージレポートが日本に求めていることです。
日本版NSCとは、米国の戦争指導の頂点にある国家安全保障会議(NSC)をモデルにしたものを、
安全保障会議設置法を改正して内閣総理大臣の下に作ろうとします。5月にも通常国会へ法案提出かとの報道があります。
安全保障会議設置法は、周辺事態や武力攻撃事態以外にも 「重大緊急事態」 に際して対応できるものなので、
わざわざ改正法をして日本版NSCを作るまでもないはずですが、それにもかかわらず改正法までして設置する意図は、
日本版NSCをホワイトハウスの国家安全保障会議のカウンターパートとすることで、
「国家戦略レベル」 での日米同盟の一体化を強化するためだと思われます。
安全保障問題総理大臣特別補佐官を長とする日本版NSCのスタッフには、自衛隊制服組(一佐クラス)が多数入り込むといわれています。
そうなれば自衛隊制服組がわが国の安全保障政策を担うことになります。
安全保障会議設置法改正は、国家安全保障基本法案がその下位法として制定を求めていものです(第5条)。
秘密保護法制も集団的自衛権行使には不可欠です。日米で集団的自衛権を行使しようとした場合、米軍の情報=自衛隊の情報となるからです。
国家安全保障基本法案で秘密保全法制の制定を求めている(第3条3項)のはこのためです。
集団的自衛権行使の態勢では、米軍と自衛隊(米国政府と日本政府)の情報共有、情報協力の一体化が不可欠であり、
これも日米防衛政策見直し協議で合意されています。
そのため、2007年8月10日、日米軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が締結され、
これを実施するためその前日カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本指針が閣議決定され、
2008年9月2日秘密取扱者適格性確認制度の実施に関するガイドラインが作成され、
特別管理秘密取扱者適格者認定制度として国家公務員に対して運用されています。
ガイドライン策定以外はいずれも第一次安倍内閣での出来事です。秘密保全法制は、GSOMIAが出発点となっているものです。
秘密保全法制では特別秘密取扱者に対する適性評価制度が作られますが、現行の特別管理秘密取扱者適格性確認制度は、
秘密保全法制の適性評価制度の基盤となるでしょう。
秘密保全法制は内閣総理大臣を頂点にしたトップダウンで危機管理にあたる際の、重要な仕掛けとなります。
危機管理では情報コントロールが成否を決するからです。隠すべき情報は隠し、出すべき情報は出して、政府が望む方向へ国民を誘導するためです。
新しい防衛計画大綱は、中国脅威論を背景に防衛予算の増大と、
集団的自衛権行使や中国との武力紛争を想定して自衛隊の態勢の変革(陸自の海兵隊化)を目指すと思われます。
日米防衛協力の指針は、周辺事態に対応した現行の97年版が個別的自衛権行使の態勢を越えられなかったものですが、
集団的自衛権行使を内容とする日米共同作戦が可能な内容を目指すでしょう。
個別的自衛権の問題である中国と日本との武力紛争を想定したものも加わるかもしれません。
そのための日米共同作戦計画策定を日米間で合意しています。
日米の部隊レベルでは基地の共同使用、共同軍事行動のための演習の積み重ねで、「部隊戦術レベル」 での日米一体化が強化されています。
その大規模な実働演習が3・11の際の 「トモダチ作戦」 でした。日米防衛協力の指針見直しは、これを一層促進させるでしょう。
これも第三次アーミテージレポートが日本政府に求めていることです。
3 安倍晋三の野望
安倍晋三は根っからの集団的自衛権行使論者、国家改造論者です。第一次安倍内閣時代に、集団的自衛権行使のため憲法解釈を見直そうとして、
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)を設置しましたが、短期政権で終わったため安倍は自ら報告書は受け取れませんでした。
それを再び起動させています。国家安全保障における官邸機能強化会議、情報機能強化検討会議の設置も第一次安倍内閣です。
いずれも、日米間での情報共有を強化し、内閣総理大臣がトップダウンで危機管理にあたることができる国家システム(日本版NSC)を作ろうとし、
そのための秘密保全法制も提言しています。
第二次安倍内閣は、参議院選挙後に憲法96条改正を発議しようと画策しています。
参議院選挙で勝利し、次の3年後の参議院選挙までの間、国政選挙なしで長期安定政権を作り、以上のような戦争国家体制を作ろうというのです。
これから次々と憲法を破壊する悪法が提出されるはずです。
日本弁護士連合会は、すでに
集団的自衛権行使のための憲法解釈見直しと国家安全保障基本法制定に反対する意見書、
96条改正に反対する意見書 を発表しました。
この二つの意見書は、これから次々と起きてくる憲法改正問題に反対して行く上で、きっと皆様の力になることと確信しています。
是非活用していただきたいものです。