2011.7.19 7.22更新

「時代の奔流を見据えて──危機の時代の平和学」

目次 プロフィール
木村 朗 (きむら あきら、鹿児島大学教員、平和学専攻)


 第三三回

福島 「原発震災」 の意味を問う
〜錯綜する天災と人災(その三 下)

3.原発事故報道の欺瞞性と 「原子力ムラ(村)」 の罪
        −福島 「原発震災」 の責任は誰が負うべきか

  原発事故報道をめぐって具体的に検証すべき課題は(原発事故取材の自主規制や記者クラブ制度の問題など)数多くありますが、 ここでは私が特に重要だと思われる次の問題点に絞って見ていきたいと思います。

  第一点は、今回の福島第一原発事故の最大の原因は何だったのか、という問題です。 この問題では、政府・東電は、「想定外の大津波」 がその原因であるとの主張を一貫して繰り返し、 大手メディアとそこに登場する政治家・官僚・学者・ジャーナリストもそれを後押ししてきました。
  例えば、東京電力の清水正孝社長が3月13日夜の初めての記者会見で、福島第一原子力発電所1号機が被災した原因を 「地震による揺れではなく、 想定外の津波が非常用電源にかかり機能しなくなったため」 と説明したことや、 日本原子力技術協会最高顧問・石川迪夫氏(元北大教授、原子力安全・保安院の原子力発電安全顧問も歴任)が4月29日のテレビ朝日の番組 「朝まで生テレビ! 激論! 東日本大震災から50日〜今、何をなすべきなのか?〜」 (パネリスト :大塚耕平(厚生労働副大臣、民主党・参議院議員)、 平野達男(内閣府副大臣、民主党・参議院議員、被災者生活支援特別対策本部事務局長、岩手県選出)、 小野寺五典(自民党・衆議院議員、党水産部会副部会長、宮城県選出)、齋藤健(自民党・衆議院議員、党政務調査会事務局長、 元経産官僚、千葉県選出)、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)、石川正純(北海道大学医学部教授<放射線治療>)、 石川迪夫(日本原子力技術協会最高顧問)、荻原博子(経済ジャーナリスト)、香山リカ(精神科医)、高橋洋一(嘉悦大学教授、元財務官僚)、 長谷川幸洋(東京・中日新聞論説副主幹)で、「福島の事故は津波がなければ起きていなかった」 「福島は地震や老朽化によって事故を起こしたわけじゃないんです」 「8時間以内に電気が来ていれば、今の事態にはなっていない」 「浜岡原発はやめる必要はない。強度はしっかりしている。マグニチュード9でも福島は持った。浜岡でも心配することはない。 津波は、電源さえきちんとしておけば大丈夫」 「原発は30年どころか、60年、100年だって大丈夫ですよ」 などと発言していたのは、 その典型的な例です(石川迪夫氏は、5月23日のテレビ朝日の番組 「ビートたけしのTVタックル〜原発事故でどう変わる!? エネルギー政策を徹底検証!!」 でも同様の発言を繰り返しています!)。

  しかし、このような政府・東電や御用学者・ジャーナリストたちが主張してきた、「福島第一原発は、地震の揺れには立派に耐えた。 全電源喪失の原因は、地震ではなくて津波だった」、「想定外の津波により被害を受けたが、未曾有の激震に耐えたのは立派だ」 という主張は、 実は単なる 「希望的観測」 に過ぎないものであったというよりも、 まったく根拠のない 「詭弁」 「ごまかし」 「デタラメ(大嘘)」 であったことが次第に明らかになってきています(この点で、IAEAの報告書が、 福島第一原発の事故の原因を 「巨大地震に伴う津波」 としているのも大きな誤りであり、 再調査して内容を修正した報告書をあらためて作成して公表する必要があると思います)。

  この問題に関連して、日本共産党の吉井英勝議員は4月27日の衆院経済産業委員会で、入手した東電の資料に基づき、 地震による受電鉄塔の倒壊で福島第1原発の外部電源が失われ、炉心溶融が引き起こされたと追及しました。 これに対し原子力安全・保安院の寺坂院長は、倒壊した受電鉄塔が 「津波の及ばない地域にあった」 ことを認め、 全電源喪失の原因が津波にないことを明らかにしています(「外部電源喪失 地震が原因」 『しんぶん赤旗』 2011年4月30日付)。
  また、特に注目されるのが、 「1号機、津波前に重要設備損傷か 原子炉建屋で高線量蒸気」 という共同通信の5月15日配信記事です。 その記事によれば、福島第一原発1号機の原子炉建屋内で、3月11日夜に 300mSv/h の放射線量が検出されていたことを確認した上で、 東電関係者が 「地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない」 と、津波より前に重要設備が被害を受けていた可能性を認めたということです。 もしこれが事実であるとすれば、「福島第一原発は地震には立派に耐えたが、 『想定外』 の大津波によって非常用ディーゼル発電機が水没して全電源喪失となり、その結果炉心溶融事故に至った」 というこれまでの政府・東電との説明はまったく説得力を失うことになります。 さらに同記事は、「地震による重要設備への被害がなかったことを前提に、第1原発の事故後、 各地の原発では予備電源確保や防波堤設置など津波対策を強化する動きが広がっているが、 原発の耐震指針についても再検討を迫られそうだ」 と重要な指摘を行っています。 しかし、今日まで稼働中の原発を停止させることにもなる原発の耐震指針の根本的見直しをはかろうという動きは一切見られないばかりか、 玄海原発など定期点検で停止中の原発をできるだけ早期に再稼働させようとしているという事実は、本当に驚くべきことです。 もはやこの国全体が狂いはじめて暴走しているとしか言いようがありません!

  孫崎享さん(元外務相国際情報局長、防衛大学校教授も歴任)も 5月15日のツイッター で、 共同通信の記事を引用しながら、「重要。津波だけでない! 地震による被害! そうであれば、日本国内全て危険。 今津波対策で再開しようとしているがこの根拠を崩すもの。 …(中略)政府、東電、経産省等極めて悪質。一号機早期故障で 『津波ではなく地震で圧力計器、配管等の損傷であること』 すぐにわかったはず。 それをあたかも津波と説明。地震故障であれば、全原発に波及。それで津波とし津波対策で切り抜け図る。ある意味卑劣。 国民サイド、地震被害であること重々認識の要」 と警鐘を鳴らしています。
  また、それよりもかなり早い段階で、元原子炉製造技術者のサイエンスライターの田中三彦さんが、「結論から記せば、地震発生直後、 1号機では地震時の揺れ(地震動)によってなにがしかの配管に中規模の破損または大規模の破損が生じ、 そのため原発事故ではもっとも恐れられている―─しかし技術的見地からは起こるとは考えられていない、 それゆえ 『仮想事故』 というラベル付けがなされている―─ 『冷却材喪失事故』 が起きたのではないかと、私は思っている。 …(中略)もしそういうことであるなら、福島原発大事故は大津波という 『想定外』 の自然現象によってもたらされた例外的事故、とすることはできなくなり、 問題は他の原発の耐震安全性の問題へと波及する。たぶん、はやばやとそれを十分に意識していたのだろう。 原子力安全・保安院の説明にも、連日NHKや民放のテレビに登場する原発推進派御用学者たちの解説の中にも、『冷却材喪失事故』 という言葉は、 私が知る限りこれまでいっさい登場していない」(『世界』 5月号の論考 「福島第一原発事故はけっして 『想定外』 ではない」、 135〜136頁)のなかで指摘しています(同様の指摘は、『東京新聞』 「こちら特報部」 の6月1日付記事 「『津波で暴走』 怪しく、 『揺れが原因』 次々――福島第一原発事故」 や 『読売新聞』 の3月16日付配信記事 「ずれた配管、やばい水! …原発作業員の恐怖証言」 などにも見られます)。

  福島第一原発から5キロにある福島県双葉郡富岡町に住んでいた元郵便局員の石丸小四郎さん(双葉地方原発反対同盟代表)は、 昨年6月に福島第一原発2号機で労働者の誤作動によって生じた 「ステーション・ブラックアウト(全電源喪失状態)の恐怖」 という原発事故があったにもかかわらず、「東電はさしたる対策もとらず、翌月16日には原子炉を再起動させてしまったのです」 と指摘するとともに、 今回の原発事故も 「津波によって全てが破壊された」 とされているが、 「津波の前に原発が最も弱いとされる強烈な短周期地震動(ビビリ振動)に3分間さらされ、老朽化した原子炉、格納容器、建屋、ケーブル、配管、 ポンプなどが破損し、その後の津波で非常用ディーゼル発電機が決定的ダメージを受け、全電源喪失状態に陥り、 破局的事態に至った」 と見ていると語っています。 そして、「東電の、『千年来の津波』 『想定外』 『人知を超えた天災』 と全て津波のせいにして責任を回避しようとする動きや “原発の寿命” を決して許してはなりません」 と述べています(「このひとにインタビュー 原発事故に反対して40年間闘い続ける石丸小四郎さん  起こるべくして起きた原発事故」 『社会新報』 2011年6月8日付)。私も、まったく同感です。

  第二点として、原発事故の原因を考える際に触れなければならないのが、「マグニチュード 9.0の嘘と欺瞞」 についてです。 今回の東北地方太平洋沖地震は、「観測史上最大というマグニチュード 9.0の巨大地震」 と一般に見なされるようになっていますが、 気象庁の最初の発表はマグニチュード 7.9、それが 8.4、ついで 8.8、 そして最終的にマグニチュード 9.0へとなし崩し的に上方修正されてしまったという事実があります(『朝日新聞』 2011年5月24日付)。 しかし、このように短期間で気象庁の発表が頻繁に変遷することは、すこし不自然だと思うのは私だけでしょうか。 そして、こうした少し不可解な気象庁の発表の裏には実は隠された 「カラクリ」 があった可能性があります。 それは、「気象庁マグニチュード(Mj)」 から突然に 「モーメント・マグニチュード(Mw)」 へと 「マグニチュードの物差し」 そのものを勝手に変えてしまったために、 「前代未聞」 の数字となったという事情があったというものです。

  3月11日の地震当日に発表されたのは、地震から数分〜10分後にはマグニチュード 7.9、それから16時直前にマグニチュード 8.4という数字であり、 従来からの 「気象庁マグニチュード」 に基づくものでした。ところが、同じ3月11日の17時30分にマグニチュード 8.4からマグニチュード 8.8に、 さらに3月13日の12時22分に 「データを精査した結果として」、マグニチュード 8.8からマグニチュード 9.0に変更されていますが、 この2つがいずれも 「モーメント・マグニチュード」 であったということです(海底地震研究で著名な地震学者の島村英紀さん(元・北海道大学教授)のブログ 「東日本を襲った巨大地震(東日本大震災。東北地方太平洋沖地震)で」 と、 その追記1・2 、を参照)。

  その島村英紀さんは、同じブログのなかで、「いままで気象庁が長年、採用してきていて、 たとえば 『来るべき東海地震の予想マグニチュードは 8.4』 といったときに使われてきた 『気象庁マグニチュード』 だと、いくら大きくても 8.3か 8.4どまり。 それを私たち学者しか使っていなかった別のマグニチュード、『モーメント・マグニチュード』 のスケールで 『 9.0』 として発表したのである。 すべてのことを 『想定外』 に持っていこうという企み(あるいは高級な心理作戦)の一環なのではないだろうか」 と率直に疑問を投げかけています。 また、広瀬隆さんも、近著 『福島原発メルトダウン』 (朝日新書、2011年5月刊行、74〜75頁)の中で、 島村英紀さんの上記のブログを引用しつつ、従来の物差しを突然何の説明もなく変更したことに 「科学の心理をねじ曲げる、政治的介入」 を感じると述べ、 「(政府や東電は−評者)前代未聞の数字を発表することで 『想定外』、『 1000年に一度の地震』 のほうへ情報操作、世論誘導して、 責任逃れを図っているわけです」 とその 「怪しさ」 について率直に言及しています。

  私自身の見方は、こうした気象庁による対応(発表数値の度重なる変更と説明責任の放棄)をめぐって、 「想定外の巨大地震との印象操作ではないか」 との疑問が出てくるのはある意味で当然だと思います。 気象庁や政府・東電は、変更理由についてもっと詳しく説明すべきです。 また、(記者クラブ制度の限界・弊害と言うべきかもしれませんが)この問題でも記者会見の場などで当然なすべき質問・ 追求をしなかった大手メディアの記者たちにも猛省を求めたいものです。

  第三点は、いまもっとも最も深刻になっている被曝問題とも重要なかかわりがある 「突然のレベル7発表の怪と不思議」 です。 経産省の原子力安全・保安院は4月12日に、東京電力福島原発の事故の深刻さは、国際原子力放射線事象評価尺度(INES)を適用し、 「レベル7」 であると発表しました。この突然のレベル2段階引き上げに対して、東電幹部や国連科学委員、IAEAなどからは、 同レベルにある旧ソ連のチェルノブイリ原発事故との差異(その時点で放出されたと推測される放射能の量がチェルノブイリ原発事故の 10%に過ぎないなど) を強調する発言がなされ、 日本の産業界への風評被害に拍車がかかるとの懸念や世界の 「日本離れ」 を危惧する声が高まっているとの事実だけが強調されて伝えられました。 しかし、東北地方を中心に東日本で震度5〜6の強い余震が続いているのと、 福島原発の放射能漏れの長期的な影響への懸念が高まっていることが考えれば、 今後 「レベル7」 以上のさらに深刻な事態・状況になる可能性があるとう事実を直視することがいまもっとも重要なのではないでしょうか。

  この突然のレベル7発表については、「あまりにもバカバカしいのでコメントもしたくありません」、「日本の政府の方は当初はレベル4だと言ったんですよね。 1週間たって5だとようやく言い出して、ずうっとこんにちまで来ていたんですけれども、トンデモナイことであって、 事故が起きた翌日には水素爆発というようなことも起きて大量の放射能がもう出てきたわけだし、東京までが15日・16日には濃密な汚染を受けたわけで、 もうとっくの昔にレベル7だといわなければならなかったと思います」 (「突然のレベル7宣言 & 小学生でもわかる原子力発電のしくみと危険性・・・・by 小出裕章講演」 )と小出裕章さんが発表当日の講演でも語られているように、 政府は今さら何を言っているんだという印象を持たれた方も多かったと思います。 小出さんのような少数の良心的な研究者・専門家だけでなく、上杉隆さんのような魂のある多くのフリージャーナリストも、 今回の福島原発事故発生当初(3月12日の一号機の爆発)から少なくともレベル6で、 14日(3号機の爆発)・15日(2・4号機の爆発)以後はレベル7以上になったことは明らかだと伝えていたからです。

  またこれと関連する問題として、東京電力は震災から2カ月目に当たる5月12日に、 福島第一原発1号機の圧力容器内で燃料棒が冷却水から完全に露出して過熱し、原形をとどめない形で溶け落ちてしまったこと、 事故で圧力容器の下部にできてしまった複数の穴から水とともに格納容器に漏れた可能性がある、と発表しました。 さらに5月15日には、1号機の炉心全体が3月12日午前6時50分ごろの段階でバラバラになり、 一部の燃料はペレットまで壊れた形で圧力容器の底部に燃料が落下したと考えられる分析が発表されています。 これは1号機が 「メルトダウン」 を起こしたことを意味しています。 この政府・東電の原発事故発生から2ヵ月経った5月中旬の相次ぐ 「原発メルトダウン公表」 (1号機だけでなく、2号機、 3号機でもメルトダウンが起きていた可能性が高いことが明らかになった)についても、多くの国民は 「やはりそうだったか」 と感じると同時に、 政府・東電のこれまでの情報開示に対する意識・姿勢に怒りを通り越してただ呆れるしかありませんでした。 というのは、政府や東電は、3月11日の大震災と原発事故が発生して以来、少なからぬ研究者・専門家やフリージャーナリスト、 あるいは海外の主要メディアからの重要な指摘があったにもかかわらず、「炉心溶融=メルトダウンは起こっていない」 と一貫して繰り返してきたからです。 これは、まさに 「大本営発表」 そのものであり、政府・東電の発表する原発関連情報への国民の不信を深めたばかりでなく、 国際社会における日本及び日本人全体(日本政府や東電だけではない!)への信頼を大きく損なうことになったと思います。

  この他にも、政府や東電がその深刻な事故・汚染の実態や本当の放射線量・被曝度といった決定的に重要な情報を隠蔽する一方で、 大手メディアの加担(実はそのことを知っていたにもかかわらず国民に伝えようとしなかった)というもみ消し ・封印の構図が当てはまる事例は数多くあると思います。 例えば、3号機は核爆発だったのではないかとのアーニー・ガンダーセン博士の仮説 (きくちゆみのブログとポッドキャスト2011/05/03 速報:「子どもに “年20ミリシーベルト”」 に世界中から抗議(プレスリリース) や、アーニー・ガンダーソンの発言を全和訳して紹介している童子丸開さんのサイト 「フクシマからの警告」 を参照)、 隠されている内部被曝の実態、チェルノブイリ原発事故の真相(特に被害状況について)深刻な海洋汚染の実態、 福島原発4号機の爆発(6月14日)と崩壊寸前といわれる建物の状況、 官邸に常駐しているといわれる米国人・専門家の存在と役割(放射能汚染水の海洋投棄や浜岡原発の停止要請、 ステルステストの実施などの政府決定や菅首相の度重なる突然の 「方針転換」 との関連)、 東電・福島第一原発をはじめ日本のほとんどの原発の警備システム(セキュリティー)を担当としているといわれるイスラエルのマグナBSP社の存在と謎 (「福島第一原発にイスラエルの会社の 『謎』」 『週刊現代』 平成23年5月21日号、現代ビジネス 5月22日(日)8時6分配信)、 動植物ばかりでなく人体にも放射能障害の異変が起きはじめているという情報、 すでに様々な形での政府・東電に対する訴訟や刑事告発が行われているという事実 (特に「「集団疎開裁判」:きくちゆみのブログとポッドキャスト2011/07/19 「子を持つ親なら…ふくしま集団疎開裁判を支援してください」、 およびルポルタージュ作家兼ジャーナリストの広瀬隆・明石昇二郎両氏による、 東電幹部や山下俊一・長崎大学教授などに対する勇気ある 「刑事告発」 にご注目!)、無意味かつ有害な計画停電と節電強制の欺瞞、 児童ポルノ法案などネット規制の導入を通じた言論統制の動き(特に、経産省資源エネルギー庁が、ツイッターやブログなど、 インターネット・メディアを監視する業務の入札を開始するとの情報に注目。 Peace Philosophy Center (カナダ在住の乗松聡子さんが運営するサイトや 「私たちの税金で原発情報統制?」 きくちゆみのブログとポッドキャスト2011/07/16を参照)、などをここではとりあえず挙げることができます。

  それでは、この福島 「原発震災」、すなわち大震災に伴う福島第一原発の責任は一体どこが、誰が負うべきなのでしょうか。 それは、「原子力ムラ(村)」 と呼ばれる、原子力に関わる技術者・研究者らを中核とした官民にまたがる隠蔽体質 (秘密主義と欺瞞を特徴とする)が強い閉鎖的な社会集団と、それを取り巻く大がかりな利権構造の存在と無関係ではありません。

  フリージャーナリストの山口正紀さん(「人権と報道・連絡会」 世話人)は、『社会評論』 2011年4月号のなかで、 (「たんぽぽ舎」 の槌田敦さんの話を聞いて)、1960年、科学技術庁が日本初の東海原発建設を控え、事故発生時の損害賠償法制定のため、 「日本原子力産業会議」 に被害試算を委託して作られた報告書(巨大事故:1000万キューリー放出=チェルノブイリ事故の30分の1、 における天候ごとの人的・経済的被害を 「想定」 し、人的被害は最大で死者720人、要観察130万人、損害額は最大3兆7千億円: 当時の国家予算の二倍以上と試算した)を 「マル秘文書」 として1999年まで隠蔽し続けた事実があることを指摘した上で、 「もし当時公表されていれば、とうてい原発建設に着手できなかったであろう恐るべき 『想定』。 それが今、現実になりつつある。この想定を隠蔽し、日本を世界第三位の原発大国に仕立てたのは、だれか、なぜか」 と問い、 「政・財・官・学・報が『利権の共同体』 化し、原発事故の 『不都合な想定』 を隠してきた。 その犯罪・責任を追及しつつ、彼らにとっての最大の想定外― 『すべての原発が止まる日』 の実現に努力したい」 と結んでいます。 日本の原子力行政の出発点での重大なボタンの掛け違いが今日の深刻な事態をもたらすことになったことを考えれば、 この山口さんの指摘はあまりにも重いと言わざるを得ません。

  この点で、大手メディアの一角を占めている 『東京新聞』 (2011年4月7日付)の 「筆洗」 で、 「庶民感覚で本質を突く本紙の時事川柳には、はっとさせられることが多い。<専門家こんなにいたのに事故起こる><原発を薦めたタレント知らん顔>。 その通り、と膝を打った▼<マスメディア原発後押し一休み>。「原発ルネサンス」 などと浮ついた言葉を吐いて、 政府が進めてきた原子力政策に無批判だった新聞やテレビへの痛烈な批判と受け止めた▼いま、こんなことを考えている。 殺人や汚職事件の取材にかける百分の一の労力を、政局の取材に使う百分の一の知恵を、 プロ野球や五輪、サッカーのワールドカップの取材に向ける百分の一の情熱を、国の原発政策の監視に注いでいれば、 この人災は防げたのではないか、と…(中略)▼マスメディアとして、原発の 「安全神話」 をつくることに加担した責任を自らの手で問い直さなくてはならない。 新聞の再生はそこから始まるのだと思う」 との自己批判的コメントを掲載していたのが注目されます (「日々坦々」 さんのブログ2011.04/09: 御用学者の巣窟「原子力ムラ(村)」 を覗いてみる、より)。

 <追記> ・ 九電のやらせメール事件が起きた後で、7月11日(月)に開催された鹿児島県議会の 「原子力安全対策等特別委員会」 (午後の会議)に傍聴参加しました。 (傍聴席が20席しかなく)すでに満席で委員会室には入れなかったのですが、隣室で音声のみ傍聴することができました。 その委員会では、参考人として出席した保安院の方と何人かの県議の方との間でそれになりに緊張感のあるやりとりがなされていましたが、 参考人の方の答弁はやはり型にはまったマニュアル通りのものであるとの印象を強く持ちました。 そこでの最大の焦点は原発事故の原因をめぐるもので、 地震が原因ではないのかという県議の追求に参考人があくまで津波であったと答える攻防が展開されていました。 特に注目されたのは、東北地方のある原発(女川原発と推測される)を視察されてきた、まつざき真琴議員(共産党)が、 その原発では地震直後に配管がぐちゃぐちゃになっていたとの原発労働者の方の証言(内部告発情報か)を得たが、 福島第一原発ではその点どうであったのか、というかなり突っ込んだ質問をされたことでした。 これに対して、保安院の参考人の方は、少し損傷した部分はあったが特に過酷事故につながる重大な箇所・程度ではなかった、 とのそつのない官僚答弁でかわしていたのが印象に残っています。 いずれにしても、原発事故を原因が本当は津波ではなく地震ではなかったのかという強い疑いは残されたままです。