2011.3.23更新

音楽・女性・ジェンダー
―─クラシック音楽界は超男性世界!?
小林 緑
目次 プロフィール
第24回
未曾有の事態に直面して

  第24回原稿をどのようにまとめようか、とぐずぐずしているうちに、戦後最大の災禍に見舞われて早や10日… 神経が麻痺するようなやりきれない想いばかりがこみ上げてくる。まずは被災された方々と救援の皆様に心よりのお見舞いを申し上げます。

  実は、3月8日の国際女性デーとも絡め、このところ続出したクラシック音楽関係の女性を扱った映画に話題に絞ろうと、 ようやく意を決めていたのだが…けれど今回、そうした事柄はすべて擱き、現下のカタストロフのなかでも何より深刻に映る 「原発」 問題に限って、 素人なりに思うところを述べさせていただきたい。

  使用済み燃料の保管場所が未だ確保できない原発のことを 「トイレのないマンション」 に喩えた反対派の至言(東京新聞3月18日夕刊) には思わずうなってしまった! 私自身も原発は 「そもそも存在が許されない矛盾したテクノロジー」 とあちこちで悪口を触れ回っている。 加えて昨年9月には、アジア女性資料センター(AJWRC)の企画になる島根および上関(祝島)原発反対運動の実態を知るツァーに参加して、 島根原発に関る部分の報告を一部書かせていただいた。 そこで同センターの機関誌 「女たちの21世紀」 64号(2010年12月号)に掲載されたその一文に修正や加筆を施して、今回の連載記事に替えることとしたい。 目下の福島原発と東京電力の非常事態は、やがて島根・上関原発と中国電力にも重なるのでは…との不安を抑えきれないからである。

  ☆島根原発反対運動をめぐって
  祝島島民による上関原発反対運動を扱った映画二本と 「Days Japan」 の特集記事、 そして銀座の旅館 「吉水」 における祝島食材を主に整えられた食事会…これが宮古島、済州島に続き3回目、 私がセンター主催のスタディ・ツァーに参加する決め手となった。 「都市在住者である私達がエネルギーなどを奪い尽くす存在であることにもっと自覚的であるべし、との想いから、 地域/環境エネルギー/福祉を繋ぐプランを考えた」 という企画責任者丹羽雅代さんの説明にも心底納得、つくづくAJWCとのご縁に感謝した次第である。

  島根原発勉強会の当日(なんと9・11だった!)も、いつものようにほとんどメモを取っていなかった私が、その報告を無謀にも引き受けたのは、 ひとえに原発差し止め訴訟原告団長芦原康江さんのパワーに圧倒されたからだ。 松江市内にある若者たちの製作したアートの展示・販売をメインに食堂、台所、風呂、中庭、ピアノまで備えた、 とっても不思議な細長い空間 “YCスタジオ” (Young Culture Studio)でお話いただいたが、これは芦原さんが別姓のパートナー氏とともに、 ひとり娘の引きこもり/不登校をきっかけに、そうした若者たちの居場所確保として運営されている由。 芦原さんはまさにご夫妻で地域/福祉/エネルギーの3本柱を体現されていらっしゃるのだ!

  原発は作ることのみが目的―─11年に及ぶ中国電力との法廷闘争から芦原さんたちが得た結論がこれ。 真の必要性や真剣な保安・維持管理、アフター・ケアーなどは一切考慮していないということか。 なにしろあの酷暑のさなかにも停電は一度も起きず電力は余るほど…つまり電力不足という心配はさらさらなかったのだ。 そもそも中電が島根原発でつくる電力は、地元の消費には向けられず、関西方面に送られているという。 中電や推進派が謳い文句としている地域の活性化にしても、地元の雇用は増えず、外部からの労働者が一時的に増えるだけ。 それどころか地元特産の板ワカメなどが原発の熱排水のせいで品質劣化を起こし、伝統の海産業に大打撃を与えている。 おまけに売れなくなった海産品を中電が補償のつもりで買い上げ、しかもそれを社員に買わせているという呆れたやり口。 島根半島を横切るような活断層の危険は過小評価し、原子炉点検も創業以来全く行なわれていないらしいと聞いて絶句! 放射能漏れがあると中電社長が一戸一戸お詫びして回るとか… 一方、反対運動のために保証金をもらえない推進派からは 「娘をレイプしてやる」 などと脅迫されたことも…。

  原発誘致のメリットは以上のようにことごとく虚妄、地域コミュニティを分断するデメリットばかりが際立つのが現状なのだ。 加えて国−保安院−御用学者がこれを追認するという管理機構のお粗末さには、唖然とするばかり。 お話の後、案内された原子力館やいわゆる原発道路、点在する豪華なハコモノの数々、 これらがほとんど中電からのプレゼントとは… 「原発は麻薬のようなもの」 は言い得て妙、 人々が目先の誘惑(振興助成金や一見豪華な建築物)につられ、それに頼らずしては立ち行けない風土にしてしまったのだから。 それにしても、あらゆる問題について回る、企業上層部や国の執行機関にもっと女性が登用されていれば少しはましな状況が生まれていたかも、 という恨み節はここでも聞かれた。そしてケータイも電子レンジも使わない私の胸には、 「みんな普通の素朴な暮らしがしたい、大量の電力を消費せずとも立派に生きていけるのだから」 と芦原さんが繰り返された言葉が、 何より強く響いたのだった。

  以上で転載分は終わるのだが、結びに引いた芦原さんの言葉こそ、改めてもう一度、2011年3月11日以降の日本に住まうすべての人に聞いてほしい。

  それにつけても計画停電をめぐる余りにも理不尽な措置…これはひょっとして、東電と経団連、そして政府による 「原発で電力を確保しなければ、 ずっと停電が続いてこんな不自由・不便な生活になるんだぞ…」 という脅迫では? そう勘繰りさえしている私は、 20数年も前、専門の研究にひきつけて自由なエッセーを、との依頼に応え、自分流の節電・省エネ生活を書き連ねていた。 これもいずれ今回と同じ要領で転載できれば、と思っている。

  PCの電力消費をできるだけ抑えるためにも、今回は短くこれにて結ぶことしよう。海外の友人知人からもお見舞いメッセージが多数届く。 なかには胸が締め付けられる想いだけれど、せめてチャリティ・コンサートを是非やり遂げたい、 と涙ながら電話をくれたパリ在住の日本人歌手も…世界が見守るこの事態、為政者にはなんとしても責任ある対応を示して欲しい。 せめて脱原発の可能性を匂わせる程度は期待できぬものか…?
(2011/3/22)