2011.2.12

【 メ デ ィ ア 傍 見 】 12

前澤 猛
目次 プロフィール

続・統計の魔術―NHK世論調査への疑問

  メディアが公表する数字は細かいほど正確性や信頼性が高いわけではない。とくに統計の信頼性については、調査対象の実数と、 そのパーセンテージ(百分率)との関係に一定の原則がある。
  毎月公表されるNHKの世論調査(政治意識月例調査)は、こうした統計上の常識をまったく無視している。 以下は、そう難しい数字の話ではない。統計についての高校レベルの知識による解析結果だと思うのだが、どうだろうか。

  NHKと主要紙が公表した世論調査の結果のうち、2011年1月の政党支持率を、以下、一覧表にまとめてみた。 読者、視聴者は、どれに信頼性を置くだろうか。特徴的な違いは、縦の二重線で分けられた、左側の 「NHK」 と、右側の 「新聞3紙グループ」 だろう。

政党支持率 (NHK及び主要3紙、2011年1月の世論調査)
 
NHK
(8日〜10日)
 
朝日新聞
(15、16日)
読売新聞
(14、15日)
毎日新聞
(14、15日)
民主党
21.9
 
21
21
20
自民党
22.0
 
18
26
21
公明党
2.9
 
3
3
5
みんなの党
3.7
 
3
9
6
共産党
1.8
 
1
4
3
社民党
1.4
 
0
1
1
たちあがれ日本
0.1
 
0
0
 
国民新党
0.1
 
0
0
 
新党改革
0.0
 
0
0
 
改革クラブ
 
 
 
 
新党日本
 
 
 
その他
0.1
 
0
 
支持なし
40.7
 
47
30 *@
42
無回答
5.3
 
7
7
 
社名の( )内は2011年1月の調査日。読売の表の(*@)は、質問が「決めていない」
  一見、NHKの方が、数字が細かく、正確なように思える。しかし、統計としての信頼性は、新聞3社(数値が異なるにしても)に軍配を挙げたい。
  NHKの世論調査は、公表によれば、全国の20歳以上の男女1,650人に電話(RDD)で尋ね、回答数は1,097人(66.5%)だという。 つまり、回答漏れが3分の1、実数で553人いる。そうした背景があって、回答百分率の少数点以下、0.1は、実数で1人だ。 確率は 「1000分の1」。偶然の範囲に入ろう。そして、「たちあがれ日本」 「国民新党」 「その他」 はかろうじて1人の支持者がいたということになる。

  調査主体のNHK放送文化研究所は、筆者の問い合わせに対して、次のように回答した。
  「結果のパーセントは小数点以下を四捨五入して整数で表示していますが、政党支持率は例外として小数点第1位まで表示しています。 結果はそのままお伝えし、『実数を操作する』 ことはございません」

  つまり、内閣支持率は、「小数点以下を四捨五入して整数で表示」 している。2011年1月の場合、「支持する」 は29%、「支持しない」 は59%だが、 四捨五入前の%の数値は 「28.5〜28.4」 および 「58.5〜60.4」 であり、実数は、計算上、支持するが 「313人〜323人」、支持しないが 「642人〜652人」 となる。 つまり、四捨五入される実数は各10人となり、これが統計上の誤差範囲となる。

  しかし、政党支持率の場合は、1097人中の1人が、計算上、0.09%で、四捨五入すれば、確かに0.1%になる。 しかし、それは数字の遊びに過ぎない。四捨五入すべき実数は1以外にはない。つまり0.1%という数値に許容される誤差の範囲はゼロに等しい。

  表示される数字の細かさと統計上の信頼性とは別ものだ。統計としては、実数が1000単位の場合、百分率は、小数点以下一桁を四捨五入して、 整数、つまり 「100分のX」 で現すのが常識、つまり新聞社の表示の方が統計としては、信頼性が高いのだ。

  NHK調査の政党支持率でいえば、少数点以下一桁まで表示されていて、いかにも詳細な世論調査結果に見えるが、 筆者の試算によれば、民主党支持の21.9%は、実数でいえば240人、自民党の22.0%は実数で241人という計算になる。 つまり、1097人中の1人という違いは、統計上、誤差の範囲ではなかろうか。言い換えれば、統計上、考慮すべき 「有意の差」 とは言えないだろう。

  さらに、NHKの調査結果を、月例でみると、支持率低空飛行の政党は、1000余人の有効回答者中、 毎月、極めて奇跡的に少数の支持者が現われていることになる。例えば、この半年間(2010年8月〜2011年1月)を見ると、 「たちあがれ日本」 は1人、0人、2人、1人、3人、1人。「国民新党」 は2、3、1、5、2、1人、という具合だ。 「実数の操作」 はないが、統計上は無視すべき変動ではないだろうか。この1か月で、公明党は3%台(3.1%)から2%台(2.9%)に落ちたといえば、 落ち込みが激しい印象を与えるだろうが、実数では1097人中の2人の減少に過ぎない。

  ちなみに、朝日新聞の有効回答の有権者数は2030人で、NHKの倍近いから、統計の精度も倍になるはずだ。 読売は1069人、毎日は1073人で、NHKの回答者数とほぼ同列だ。しかし、3社とも、内閣支持率と政党支持率は整数に止めている。

  筆者は統計の専門家ではないので、以上の説明と計算数値とに誤りがあれば、訂正にやぶさかではない。
(2011年1月12日記)