2011.3.9

【 メ デ ィ ア 傍 見 】 13

前澤 猛
目次 プロフィール

世論調査への疑問−NHKの回答

  前のエッセー 「続。統計の魔術―NHK世論調査への疑問」 (2011年1月12日記)に関して、先月末、NHK放送文化研究所所長あてに問い合わせたところ、 すぐに研究所世論調査部長名で文書の回答をいただいた。回答(公開可の主要部分)と、それに対する小生の感想は以下の通り。 もしろん、小生に統計学の素養があるわけではないから、NHKの方に分があるかもしれない。算数の遊びとして読んでいただければ幸いだ。
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NHK放送文化研究所からの回答(抜粋)

  月例政治意識の政党支持率については、NHKの放送では、ご指摘の通り、小数点1位まで表示しています。 こうした表示は、通信社や民放各社などでも行っていますが、NHKでは、1998年に始まった政治意識月例調査以前から、このように取り扱っています。 その理由は次の通りです。
  NHKでは、政党支持率は、原則として、公職選挙法で政党要件を満たす政党について放送で紹介しています。 この中の一部の政党は、小数点1位を四捨五入して整数表示しますと、支持率が0%となる場合があります。 支持率が0%でも、国民の間で支持がまったく存在しないことを意味するわけではありませんが、世間一般には、こうした受けとめをされて、 誤解される方がいらっしゃるかもしれません。NHKでは、こうしたことも考慮して検討し、政党支持率についでは、小数点1位まで出すことにしています。 ただし、小数点1位まで表示しても支持率が0・0%になった場合は、その政党の支持率は、放送では紹介しないこととしております。
  前澤様のご指摘は、調査回答数が1000人規模の世論調査においては、小数点以下の数字に意味はないということで、 こうした御意見があることも受け止めていますが、NHKでは上記の理由で、 政党支持率は、あくまでも例外として取り扱っていることをご理解いただければ幸いです。(2,011年3月4日付)
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回答に対する疑問

  以上のような丁寧な説明を頂いたが、その論旨は予想通りで、納得するのは難しい。 千人程度の世論調査結果を0.0(小数点以下一桁)まで出すのは、やはり科学的とはいえないのではなかろうか。

  放送法第44条によれば、NHKは 「公衆の要望を知るため、定期的に、科学的な世論調査を行い、かつ、その結果を公表しなければならない」 とされている。 しかし、NHK(および民放、通信社)は、科学的な統計における 「誤差」 と、その「誤差」を考慮した四捨五入についての常識を無視しているといえる。

  回答は、小数点一桁まで出すことに関して、「支持率が0%の場合、世間一般には支持がまったく存在しないと誤解される」 からという。 それは、公共放送のNHKが、科学より、政党を含む世間一般の受け取り方を気にしている、つまり、政策的な配慮を加味しているという印象を与え、 そうした神経の遣い方に同情せざるを得ない。

  NHKの回答は、それ自体が矛盾を内包している。「小数点1位まで表示しても支持率が0・0%になつた場合」 については、 「その政党の支持率は、放送では紹介しないこととしております」 という。実際には、0.0%はホームページで公表されている。 ということは、「0%」 とすれば 「支持者はゼロ」 という誤解を生むが、「0.0%」 なら、それは誤解ではなく正解だというのだろうか。

  世論調査の回答数(者)が 1000(人)前後の場合、ある政党の支持が0.0%なら、回答者はゼロであることを示す。 そして、0.1%なら、支持者は1人である。1000人の中の1人の差しかない。 それは、統計上、誤差の範囲に入る(誤差の範囲の数値については、NHKのHPでも紹介している)。

  もし、回答者が1万人の場合は、0.0%の実数は0人から4人まで。また、0.1%の場合は5人から14人までという幅があり、 統計上の誤差を考慮して四捨五入し、コンマ以下一桁まで出す意味がある。

  具体的にNHKの調査を検証すると、国民新党支持の場合、1月は0.1%だったが、2月は0.0%になっている。 2月のNHK調査の回答数は 1,140(人)だというから、国民新党支持の実数は、計算上ゼロしかない。 では、2月には、国民新党の支持者は本当に0人だったのだろうか。実際には、そうではないだろう。 もし、1万人調査だったら4人か、3人か、2人か、あるいは1人いたかもしれないのだ(もちろんゼロということもある)。 たまたま、その人たちが千人単位のNHKの世論調査の網にはかからなかったという可能性がある。それを統計上の誤差という。

  NHKの回答に謝意を表しつつ、なお残る統計処理上の疑問を記した。
(2011年3月9日記)