2008.2.21

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎「分断政策」に負けた地域・国民
続・国民意識と岩国市民の選択

  岩国市民は、艦載機受け入れに拒否反応を示しながら、とにかく自民党、公明党が支持した福田良彦市長を当選させた。 この結果、このいままで行けば、岩国が「極東最大」と言われる基地になっていくことは、避けられない情勢になってきた。
  しかし、よく考えてみると、この問題、日本最初の国立公園のひとつである瀬戸内海の西北側一帯の環境がすっかり変わってしまうことなのだ、 ということについて、あまりに想像力がなかったのではないか。 新聞、テレビなど各メディアも、こうした問題を指摘する点であまりに呑気だったのではないか、と思えてならない。 山口県の東端に位置し、広島経済圏の一部になっている岩国市の特殊な位置から、問題を岩国に限定し、 地域を分断する政府・与党の戦略にまんまとはめられてしまったのが、今回の選挙ではなかっただろうか。

  広島市立大学の広島平和研究所所長、浅井基文氏は、岩国の結果について、沖縄の2紙を見ながら、 「地元の中国新聞を上回る」 積極的な報道ぶりに、広島の関心の低さを嘆いている。 ※参照
  浅井氏はこの中で、「広島には核問題にはかろうじてまだ関心があるが、憲法問題、9条にはほとんど関心がない。 岩国市長選挙に対する広島の無関心のほどには深刻な気持ちにすらなる。 日本の平和を真剣に考えるならば、岩国市長選挙に対してもこれほど無関心でいられるはずはなかろう」 という趣旨の発言を記者会見でしたことを明らかにした。
  さらに浅井氏は、「広島市が岩国市長選挙に対して明確なメッセージを発していたならば、2000票弱で負けた選挙はひっくり返せたはずです。 足下から平和が突き崩されていくのを黙って見過ごしている今の広島には、つくづく 『沖縄の問題意識に近づく志をもってほしい』 と思わざるを得ませんでした」 と書いている。

    つまり、浅井氏の指摘は、最初の原爆被爆地・広島が、実際に被害を受ける艦載機の岩国移駐問題について態度表明しなかったことを批判したものだったが、 多数の艦載機が移駐して来る結果、影響を受けるのは単に岩国市だけではないことについて、周辺の自治体や市民団体が気づき、動いたかどうかは、 大いに気になるところだ。
  しかし、岩国市の周辺では、早々と補助金目当てに受け入れを支持した自治体の動きが誇張して宣伝されていたが、 これに反対する周辺自治体や市民団体の動きは、活発だったようにはみえなかった。
  だが事実は、今回やってくる艦載機も、日本製紙 (元山陽パルプ)、東洋紡績、三井石油化学などによるコンビナートの上を飛び、 世界遺産・宮島の厳島神社の上を飛ぶことは間違いない。もちろんその上に墜落出もしたら大惨事だが、実際の飛行空域は、 広島から岩国、柳井にかけての山陽道と屋代島、東西能美島、江田島などに囲まれる安芸灘から広島湾地域一帯に広がっていくだろう。 日本最初の国立公園のひとつである瀬戸内海・西北部の静けさが、どう変わっていくのか、を考えただけでも、考えなければならないことは多い。

  大阪府知事に当選した橋下徹氏は、岩国市長選で福田良彦氏の応援ビデオに出演、「国政の防衛政策に関し、地方自治体が異議を差し挟むべきではない」 と発言した。 井原氏が 「国政にものを言うのは当然」 と反論したのは当然で、「それなら基地は大阪にお願いしよう」 と決めても問題はないのかもしれない。
  しかしいま、日本は米軍基地の75%を沖縄に置き、沖縄県はその19%の面積を基地に提供している状況を、万遍なく全国にばらまけば、 公平になってそれでいい、と言ってすまされない問題があることは間違いないだろう。
  政府・自民党と米軍の再編計画は、せいぜい 「基地被害のたらい回し」 でしかない。 他の土地の被害について 「自分のところでなくてよかった」 というのでは、地方自治も連帯も成り立たない。 岩国市長選の直後、沖縄で女子中学生が暴行される事件が起き、続いて酒に酔った米兵が民家に入り込んでいた事件も起きた。 女子中学生の事件は、全国の衝撃を与え、「もし1日早かったら、岩国の選挙結果も変わっていたかもしれない」 とさえ言われた。 米軍は 「外出禁止」 でトラブル防止に躍起だが、そんな問題ではないはずだ。

  「地位協定」 の見直しは最低のことで、要するに、そもそも外国に異国の軍隊、それも現に戦争している国の部隊を 「英気を養う」 基地として野放し的に駐留させ、 自衛隊と一体化させて世界を支配しようとしていることに問題があるのではないだろうか。
  はっきりしていることは、メディアと政治が論じていかなければならないのは、本当に米軍基地が必要なのかどうか? 何のための基地なのか?  それを考え、少しでも事態を動かしていくことではないのだろうか?
2008.2.21