2009.3.10

【マスメディアをどう読むか】

関東学院大学教授・日本ジャーナリスト会議
 丸山 重威
目次 連載に当たって

◎「権力監視」と「社会正義追求」に期待
−原 寿雄著 『ジャーナリズムの可能性』 を読んで

  ある米国の研究者が 「ジャーナリズムはコミュニケーションという大波にのみ込まれつつある」 といっている。
  この本を読んで改めて思ったのも、同じ事態が日本のマスメディアでますます強まっていること、そしてその要因は、結局、 メディアの現場にジャーナリズムとしての自覚と責任感が希薄になったからではないか、ということだ。
  著者は、一九九七年の著書 『ジャーナリズムの思想』 (岩波新書) 以後約十余年のメディアの問題を具体的に取り上げ、 「情報栄えてジャーナリズム滅び、ジャーナリズム滅びて民主主義滅ぶ―そうなってはならない」 と主張する。
  読売の渡辺主筆による 「大連立構想」 を指摘した 「政治報道」、イラク戦争や裁判員法など 「表現の自由をめぐる権力とジャーナリズムの攻防・癒着」、 NHKのあり方を含む 「放送法」、そして根幹の 「ジャーナリズムは戦争を防げるか」 「欧米とは違う 『九条ジャーナリズムの可能性』」 の課題、 「デジタル時代のジャーナリズム」 …。
  内容は盛り沢山。歯切れのいい文章に盛られた問題提起は新鮮だ。現場出身の研究者として、ジャーナリズムを考え続けてきた私には、 はっとさせられる指摘が多かった。
  情報はネットで取れるし、意見も世界規模で伝えられる現代。だが、事実を伝え、公共の立場で権力を監視するジャーナリズム機能はどうなるのか。 著者は 「結局、権力監視、社会正義の追求には (中略) 独立のジャーナリズム集団に期待せざるを得ない」、 「新聞・放送は調査報道を強めることで再生し、自由と民主主義の擁護、発展に不可欠」 と強調している。
  いま、日本の政治や世論、民主主義やジャーナリズムを考えるための基本書である。

  はら・としお 一九二五年生まれ。共同通信社社会部記者、編集局長、同社社長などを歴任。『デスク日記』 ほか。
(「しんぶん赤旗」 2月15日掲載)