2009.10.26

高田健の憲法問題国会ウォッチング


臨時国会をめぐる鳩山内閣の動向と市民運動の対応

  鳩山新政権が成立してから1ヶ月半が過ぎた。この26日からは臨時国会が始まり、鳩山首相の所信表明演説も行われる。 長期にわたった自公連立政権の悪政に対する人びとの不満と怒りを反映して、各メディアの世論調査を見ても、新政権への支持率は過去最高値の細川内閣、 小泉内閣の高支持率に迫る勢いで、60〜70%台に達している。新政権への人びとの期待の高さが表れている。

  連日、新政権の各閣僚たちの動向がマスメディアによってにぎにぎしく報道され、それらの一挙手一投足が注目を集めている。 新政権のあわただしい動きを見ながら、人びとは09年8月の総選挙の結果がもたらした政治の変化の可能性を実感しつつある。

  一方、少なからぬ人びとが政権の前途に不安を感じているのも事実である。従来の自公政権の政治がどの程度変わるのだろうか。 与党各党が選挙に際して国民に公約した政策は実行されるのだろうか。巨大化した民主党が暴走しないだろうか。などなど、不安は数え上げればキリがない。

  ともあれ、戦後史的な政治の変化が始まった。55年体制の一方の柱であった社会党は15年前の村山政権によって最終的に崩壊したが、 いま、もう一方の柱であった自民党が議会第1党の座を滑り落ち、崩壊に向かっている。 この激変は戦後政治の基本的ファクターである対米関係と財界大資本との癒着という政治の基本構造を打破するような革命的激変ではないが、 その枠内における戦後史を画する変化である。

  私たちはこうした中で、この変化を傍観者的に眺め、論評してこと足れりとする立場にとどまるのではなく、生まれてきた新しい条件を生かして、 新政権が人びとに約束した政策を実行するよう積極的に運動を起こし、 この変化をもたらした根本的要素である民衆の要求を実現するよう行動することが重要だと考えている。

  与党各党が総選挙に際してマニフェストに掲げた長期にわたる新自由主義的な、大企業優先の構造改革政策の中でつくられた諸問題の解決、 国民生活の立て直しのための施策の実行は待ったなしである。これらを本当に進め、解決できるかどうかは、今後の新政権の前途を左右する。

  一方、11月のオバマ米国大統領の来日を前に、ゲーツ国防長官の来日や、長島防衛政務官ら新政権関係者の訪米など、 日米両政府の交流と調整がひんぱんに行われている。これらに関連して浮上している沖縄をはじめとする米軍再編問題、 自衛艦の給油打ち切りをはじめアフガン関連問題など、日米関係と平和の問題も鳩山政権の今後にとって決定的な問題となってきた。

  歴代自民党政権は、小泉内閣による米国のイラク戦争への無条件の支持に見られたように、対米追従=日米同盟最優先の路線をとってきた。 これに対して 「新政権の政策合意」 は、「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくる」 とした。 そして、「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地の在り方についても見直しの方向で臨む」 とも規定した。 ここに表現されている 「緊密な日米同盟」 と 「対等な日米関係」 は、もとより二律背反的で深刻な矛盾をはらんでいる。 いま、発生しつつある日米関係の諸問題はこれをめぐって生じている。
  普天間基地撤去と辺野古新基地建設中止をめぐる問題は、まさに沖縄に象徴される米軍再編見直しのカナメの問題であり、 歴代自民党政権の対米追従、住民犠牲の政治からの脱却の成否を象徴する問題である。鳩山政権内ではいまこの問題で動揺を繰り返されている。 鳩山首相は普天間基地問題を来春の名護市長選挙以降に先送りしようとしているが、オバマ来日前に地ならしに来たゲーツ国防長官は、 問題の期限を事実上 「オバマ訪日時」 に区切って日本政府にその解決を要求した。 沖縄では総選挙の結果、自公両党の国会議員はいなくなった。鳩山政権が 「普天間基地撤去」 を要求するこの沖縄の切実な声に沿って、 日米交渉に臨むかどうか、真価が問われている。

  自衛隊の海外派兵をやめさせる課題も切実である。欧米諸国のアフガン戦争を支援する自衛鑑艦のインド洋での給油活動をやめさせ、 海賊対処に名を借りたアフリカ東海岸周辺への自衛隊の派兵を撤回する課題である。 すでに長島昭久防衛政務官が国会承認条項を付加して給油法を延長するという案を語って、福島国務相などから抗議されているし、 政権内では派遣された自衛官を東アフリカの海賊対処に振り向ける (福山哲郎外務副大臣、長島昭久防衛政務官) などという案も語られている。 あらためて詳細な議論は必要がないと思うが、この 「自衛艦による外国軍艦への給油」 については民主党も野党時代に反対していたものであるし、 当時、小沢幹事長は 「憲法違反だ」 とまで厳しく指摘していた (雑誌 『世界』 2007年11月号掲載論文) のであり、自衛艦の撤退は自明の理である。

  給油艦を海賊対処に振り向けるなどという案も、海賊対処に自衛艦を使うこと自体が民主党は反対だったはずである。 軍隊派遣による海賊対処は成果を上げておらず、東アフリカ海域では海賊が増加しており、対処策の抜本的な見直しが必要である。

  また、「東アジア共同体」 構想を掲げた新政権は、そのカナメとも言うべき朝鮮半島の緊張緩和を推進できるかどうかが問われており、 そのためにも 「制裁ではなく、対話」 の道をとり、「北朝鮮貨物臨検特措法」 を断念することも重要である。 当初、政府は 「北朝鮮問題に対話の空気が出てきているので、臨時国会提出を見送る」 としていたが、このところ、岡田外相が法案提出を唱えるなど、 閣内は動揺しはじめた。このような言動は、ようやく醸成されてきた朝鮮半島の対話の空気を壊すものであり、容認できない。

  改憲手続き法による憲法審査会の始動については、今のところ与党もこぞって消極的か反対の立場である。 社民党の福島党首は 「自分たちが内閣にいる限り、改憲に手をつけさせることはない」 と再三言明している。 2010年5月18日の同法の凍結条項の解除問題は、憲法審査会の 「規程」 が参議院にできておらず、両院で審査会の委員が構成されていないなど、始動ができていない。 そればかりか同法の 「付則」 に規定されたいくつかの重要問題もクリアされていないし、 参議院で強行採決された時の18項目の 「附帯決議」 の諸問題にもまったく手が着いていない状態である。凍結解除は問題に成り得ない。 こうした重大な欠陥立法の改憲手続き法は抜本的に再検討していったん廃止すべきであるが、そうでなくとも凍結すべきである。 まして新政権は麻生内閣の下で先ごろ総務省が啓蒙パンフを作成するなどした 「改憲手続き法」 に関する予算を計上してはならない。 また、多くの市民から要求された鳩山首相の 「改憲議員同盟」 顧問辞任の件も明確にすべきである。

  すでにさまざまな民衆運動が新政権への要求を掲げた行動が始まっている。10月17日には貧困対策の取り組みを要求して 「世界貧困デー」 の行動が行われた。 21日には 「えっ!?母子加算復活で高校修学費は廃止?〜このままでは公約違反。鳩山首相の決断を〜」と銘打った院内集会が国会で開催される。 29日には 「労働者のための派遣法抜本的改正実現」 のための日比谷大集会が取り組まれる。都内では、八ツ場ダム建設の中止などを要求する集会も開かれている。

  沖縄からは普天間基地の即時閉鎖と辺野古新基地断念を求めて、超党派の県議会代表団が上京して、国会請願行動が行われ、 22日には国会近くで緊急集会も開かれる。11月8日には宜野湾市で 「辺野古への新基地建設と県内移設に反対する県民大会」 が、 翁長・那覇市長らを共同代表にして開かれる。

  26日の国会開会日には、「9条をまもり、憲法改悪に反対する院内集会」 が、「憲法審査会を始動させるな! アフガン戦争に協力するな!  給油法の延長を許さない 貨物検査法はやめよ、対話と交渉で解決を! 自衛隊を東アフリカから戻せ! 海賊対処法の廃止を海外派兵恒久法はいらない!  憲法を暮らしと雇用にいかそう!」 をスローガンに開催され、11月3日には市民団体共同の 「なによりも生命 軍事力によらない国際協力を」 と題する憲法集会が開かれる。 11月12日のオバマ大統領来日に対しては、WORLD PEACE NOW などがアメリカ大使館への要請行動を企画している。

  いま、新政権の成立を機に全国各地でさまざまな人びとが自らの要求を掲げて立ち上がりつつある。 鳩山新内閣はこれらの声に謙虚に耳を傾け、自公政治からの歴史的な転換を実現しなくてはならない。
(「私と憲法」 102号、10月25日号所収所収)