高田健の憲法問題国会ウォッチング
「政権交代」後の明文改憲の動きを断ち切るために、
改憲手続き法の凍結と廃法を
09年の総選挙の結果、「55年体制」 以来初めて、その綱領に明文改憲を掲げた改憲政党の自民党が議会第一党の座から転落し、
民主党などによる 「政権交代」 が実現した。これによって、90年代から執拗に企てられ、小泉・安倍内閣をその頂点とした9条を標的にした明文改憲運動はいったん、
収束した。
この情勢を切り開いた力は、「九条の会」 の運動などによる、現憲法成立以来、
国民のあいだに形成されてきた 「戦後民主主義」 が改憲の危機に直面して発揮された 「9条守れ」 の世論であり、
これが90年代に顕著になった長期不況と小泉内閣による 「構造改革」=生活破壊、格差・貧困社会への怒りと結びついた結果であった。
この 「政権交代」 がもたらした新しい政治情勢のもとで、憲法をめぐる闘いは、今日、やや複雑な様相を呈している。
明文改憲を目指す動きは自民党などのなかには残っているものの、政治闘争の舞台の後景にしりぞき、
連立政権3党の政権合意には 「憲法3原則の順守」 が明記された。民主党は 「改憲指向」 の政党であるが、「生活第一」 を掲げて政治権力を奪還し、
連立政権に護憲政党の社民党を迎えており、当面、改憲問題でことをあらだてることを望んでいないことは明白である。
しかしながら同党の主張の中には改憲指向の政策がすくなからず含まれているだけでなく、鳩山首相や小沢幹事長らの政治理念は 「改憲」 である。
また民主党の 「緊密で対等な日米同盟」 という主張は、
米国からの集団的自衛権行使の要求(改憲または憲法解釈の変更)を受け入れざるをえない立場に自身を置いている。
こうした要因から、現政権のもとで不可避的に解釈改憲の動きが発生する可能性がある。
インド洋での自衛鑑の補給活動は間もなく終結されるが、海賊対処法によるアフリカ東海岸での自衛隊の活動は継続されようとしているし、
アフガニスタン戦争に対する加担の動きも容易ならない。「東アジア共同体」 構想をかかげながらそれに逆行する北朝鮮の貨物検査法が上程されるし、
米軍再編への協力も継続され、普天間基地問題では迷走が続いている。
米国が要求する集団的自衛権の行使に道をひらきかねない内閣法制局長官の答弁禁止など 「国会法の改定」 も企てられている。
折しも2010年5月18日は安倍内閣が野党の反対を押し切って強行した 「改憲手続き法」 の凍結期間が、法律上は解除される日である。
改憲手続き法はこの3年、ほとんど機能してこなかった。同法のもっとも肝心な部分である憲法審査会はいまだに作られていない。
2009年に麻生政権が衆議院で 「憲法審査会規程」 を、これも野党の反対の中で採決しただけである。
改憲手続き法が 「附則」 として定めた @ 18歳投票権者導入に関する法整備、公務員の国民投票運動に関する問題、
国民投票に付すべき諸問題などについてはほとんど事態はすすんでいない。
同法を参議院で強行した際に野党の批判を考慮に入れて当時の与党がつけた 「18項目の付帯決議」 に関する処理は何も進んでいない。
要するに3年間の凍結期間は全く機能していなかったのであり、今日、改憲手続き法は何らの効力も発揮していない欠陥法である。
こうした経過と現状をふまえ、安倍内閣の明文改憲路線を精算するためにも、同法に反対した諸党を与党とする新政権はこの法律の凍結を確認し、
きっぱりと廃止法とすべきである。このようにすることこそが、連立政権合意で確認された 「日本国憲法の……3原則の順守を確認するとともに、
憲法の保障する諸権利の実現を第1とし、国民の生活再建に全力を挙げる」 という政策を実現していく道である。
(「私と憲法」 1月1日号所収 高田 健)