2010.3.27

高田健の憲法問題国会ウォッチング


改憲手続き法は、このままでは施行できない

  2007年5月に安倍内閣が強行採決をした改憲手続き法は、自らの任期中の憲法改正を焦って、強行採決を繰り返して成立させたものだ。 同法はいくつもの重要問題を 「附則」 にし、18項目もの 「附帯決議」 を付けた、法律としての体をなしていないものだった。 この時に憲法改正案の審議や国民投票の実施可能な時期も3年間凍結した。その期限の3年目が今年の5月18日である。 しかし、この間に参院と衆院選挙があり与党は大敗し、「政権交代」 が起きた。附則や附帯決議などの議論も全く進んでいない。

  当時、自公・与党も不備を認めた改憲手続き法の問題点は以下のようなものである。(1) 投票権者問題(18歳投票権問題、公職選挙法や民法との整合性の保障)。 (2) 国民投票の対象問題(憲法だけでなく、国政の重要問題についての国民投票の可否)。 (3) 広報や広告など、メディアの在り方(議席数で広報の分量を決めてよいか、有料広告を認めると資金能力で宣伝に差ができる)。 (4) 国民投票運動の自由に関する問題(公務員や教育関係者の政治活動、地位利用の制限などによって、自由な活動が制限される)。 (5) 投票成立の要件問題(「過半数」の分母問題や成立に必要な最低投票率規定の有無)、などなど。

  その後、憲法審査会は両院でつくられず、全く始動していない。附則が定めた18歳投票権者等に関する民法や公選法の改定も全く着手されなかった。
  いま政府や民主党内には、「憲手続き法に規定された3年が過ぎた」 という理由で、同法の凍結解除を施行する動きがある。

  「政府は三日、五月十八日に施行される、憲法改正のための手続きを定める国民投票法の投票権者について、十八歳以上とすることを断念し、 当面は二十歳以上とする方針を固めた。十八歳以上にするための前提となる、選挙権を十八歳以上に広げる公職選挙法改正や、 成人年齢を十八歳に引き下げる民法改正などが間に合わないのが確実となったためだ。

  一部で施行そのものを見送るべきだとの意見も出ていたが、一日の民主党役員会などで予定通り施行する方針を確認した」 (東京新聞 2月4日)
  これらの人びとの見解では、18歳投票権のための法整備は間に合わなかったが、 5月18日がきたら、改憲手続き法がこの 「間に合わなかった場合」 を想定した 「経過措置」 規定に従い、当面、20歳で施行できるという。

  たしかに、改憲手続き法の附則第3条には以下のような既定がある。

  第3条 国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、 選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治29年法律第89号)その他の法令の規定について検討を加え、 必要な法制上の措置を講ずるものとする。
  2 前項の法制上の措置が講ぜられ、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加すること等ができるまでの間、第3条、第22条第1項、 第35条及び第36条第1項の規定の適用については、これらの規定中 「満18年以上」 とあるのは、「満20年以上」 とする。 (編集上、法の漢数字表記をアラビア数字表記になおした)

  この付則第3条に関する憲法調査特別委員会の審議(第166通常国会衆議院憲法調査特別委員会、2007年4月12日)の経過を検証すれば、 政府・民主党役員会の理解は明らかに違法であることがわかる。

  憲法調査特別委での法案提案者の船田元(はじめ)理事の答弁では、法整備が進まなかった場合の 「経過措置」 で現行20歳で処理するのは、 民法改正の 「公布」 から 「施行」 までの最大限、半年程度のことであり、今日のように18歳投票権問題に関する民法改正が全く取り組まれず、 改正民法が公布されていない状況は想定されておらず、当てはまらない。船田理事は以下のように説明している。

  「法整備ということはどこまでを指すのかということでありますが、これは公選法あるいは民法の規定にしても、いずれも公布ということを考えております。 しかし、例えば公選法の場合には、仮に本法施行までの3年間の間のぎりぎりのところで公選法が公布となったとしても、 これまでの例からして、おおむね半年間の周知期間があれば、公選法の場合には対応が可能であるということでございます。 したがって、3年後のぎりぎりのところで公選法が18歳で公布をされたとしても、それが施行される半年の間に憲法改正の原案が決まりまして、 そして、国民投票を行うまでの期間を考えますと、実際に国民投票を行う前に18歳の公選法の規定が施行される可能性は極めて強いと思っておりますので、 実効上の問題はないと思っております」

  従って、法案提案者の船田理事の理解では、法整備が進まなかった場合の 「経過措置」で、現行20歳で処理するというのは、 民法改正の 「公布」 から 「施行」 までの最大限、半年程度のことを指しているのであって、現在のように18歳投票権問題に関する民法改正すら全く取り組まれておらず、 「改正民法が公布されてもいない」 という状況は想定されていない。
  今日の状況で、この「経過措置」規程を使って改憲手続き法を「施行する」ということは、立法趣旨からしてあり得ないことだ。

  この18歳投票権者問題一つをとっても、改憲手続き法は凍結延長して、その上できちんと廃止法を成立させ、出直す以外にないのである。

  私たち許すな!憲法改悪・市民連絡会は、アンポをつぶせ!ちょうちんデモの会、憲法を生かす会、日本山妙法寺、 VAWW−NETジャパン、ふぇみん婦人民主クラブ、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくり出す宗教者ネットの皆さんと共に、 この問題を明らかにするため、4月6日(火) 午後2時から衆議院第2議員会館第3会議室で、「このまま改憲手続き法の凍結解除・施行はできない! 4・6緊急院内集会」 を開催する。(「私と憲法」 107号所収)