高田健の憲法問題国会ウォッチング
米国や日本財界と政界の改憲派が呼応して
推し進める改憲と日米安保体制の再編
現在、3月11日からの東日本大震災の最中にある。地震、津波、そして原発事故と三重の、史上かつてない大災害の中で、多くの人びとが亡くなり、
傷つき、あるいは苦しんでいる。これは史上まれに見る 「天災」 であると同時に、この間、原発行政を進めてきた政府・財界による重大な 「人災」 でもある。
私たちはその責任をきびしく糾弾しなくてはならない。
とりわけ許し難いのは、未曾有の原発事故対処の最中に財界の幹部が相次いで原発行政の継続を発言していることだ。
日本経団連の米倉弘昌会長は16日、記者会見で福島第1原発の事故について 「千年に1度の津波に耐えているのは素晴らしいこと。
原子力行政はもっと胸を張るべきだ」 と述べ、「(事故は徐々に収束の方向に向かっている)原子力行政が曲がり角に来ているとは思っていない」 と発言した。
日本商工会議所の岡村正会頭も16日の記者会見で 「原発の建設基準を向上させるしかない。
見直しの期間だけ、(建設が)延伸されることは当然起こりうる」 と発言し、今後もエネルギー供給の一定割合は原発に依存せざるを得ないとの認識を表明した。
今後、こうした財界の原発政策継続の企てを打ち破り、脱原発社会をめざすための市民運動の真価が問われるだろう。
一方、この未曾有の災害の中で、菅直人首相が突然、自民党の谷垣総裁に副総理兼震災復興担当相として入閣を要請したことも極めて奇異で、
危険なことだ。公明党の山口代表と国民新党の亀井代表の入閣も想定して、閣僚ポストも3つ増やす手続をやるのだという。
菅政権はドサクサにまぎれて、責任回避の大連立内閣=「救国・挙国一致内閣」 を構想している。
どうしても必要なら 「大震災対策会議」 を作ればいいのだ。内閣だったら国政全般での協力になる。それは議会制民主主義の自殺行為ではないか。
与党、野党の役割が消えて、翼賛体制がつくられるのは、チェック機能の喪失につながる。
この間、窮地に陥った菅内閣が、震災を利用して打開策を狙ったもので、卑劣な政治手法だ。今なら何でも許される、できるという考えだ。
こんなことを許せば改憲も現実のものとなる。結果として、幸か不幸か、提案は谷垣総裁に蹴られてしまったのであるが。
この動きはいつ再燃するか、予断を許さない。
さまざまにいただくメールの中で、ある人が 「私は、この大きな大きな艱難を、新しい社会を創るベクトルに換えていかなくてはと、
心を新たにしております」 と書いていた。この思いを共有しながら、以下の原稿を記す。
一 反古にされた連立3党の 「政策合意」
めまぐるしいほどの政治の変遷のなかで、一昨年の政権交代は はるか昔のことのようだ。
あらためて当時の民主、社民、国民新の 「3党政策合意」 を引っ張り出してみる。
「合意」 の第9番目、「自立した外交で、世界に貢献」 には以下のような記述があった。
「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくる。日米協力の推進によって未来志向の関係を築くことで、
より強固な相互の信頼を醸成しつつ、沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、
米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」。
「中国、韓国をはじめ、アジア・太平洋地域の信頼関係と協力体制を確立し、東アジア共同体(仮称)の構築をめざす」。
「包括的核実験禁止条約の早期発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約の早期実現に取り組み、
核拡散防止条約再検討会議において主導的な役割を果たすなど、核軍縮・核兵器廃絶の先頭に立つ」、などなど。
そして第10番目は 「憲法」 で、「唯一の被爆国として、日本国憲法の 『平和主義』 をはじめ 『国民主権』 『基本的人権の尊重』
の3原則の遵守を確認するとともに、憲法の保障する諸権利の実現を第一とし、国民の生活再建に全力を挙げる」 とある。
この 「合意」 文書は積極的な意義があった。第10の憲法についての明確な姿勢はもとより、第9項目でも、従来の日米関係を見直し、
「東アジア共同体」 の構築をめざすとした意味は重要であった。筆者は1年前にある雑誌で 「しかしながら、…… 『主体的な外交戦略を構築し、
緊密で対等な日米同盟関係をつくる』 とある箇所は、深刻な矛盾をはらんでいる」 と指摘したことがある。
日米関係において 「対等」 を求めることは 「緊密な」 「日米同盟」 関係と矛盾する可能性があったからである。
以降の事態の進展はまさに危惧した通りであった。米国は鳩山新政権の主張する 「対等」 な日米関係という立場に不安をいだき、
さまざまなチャンネルを駆使して対日圧力をかけた。鳩山首相は、
のちに 「抑止力論は方便」 という発言で有名になった本年2月の沖縄のメディアのインタビューで告白したように、
「普天間基地」 問題で、米国の意を体した外務・防衛などの官僚の抵抗を受け、閣内でも孤立したあげく、
3党政策合意の路線とは異なる 「日米合意」 を取り結ばざるをえなくなった。その結果が、政権からの社民党の離脱と鳩山首相の辞任であった。
後を継いだ菅直人首相は揺らいだ日米関係を元の軌道にもどし、米国の信頼を獲得すべく、無惨なほどの逆走を重ねている。
連立政権発足から1年半余がすぎて、当時この 「合意」 に署名した3党の党首(鳩山由紀夫、福島みずほ、亀井静香)
が現在の政権の中に誰もいないことは象徴的な事態である。今日ではこの 「合意」 文書はまさに反古そのものである。
各方面から指摘されるように、今日、菅内閣は経済政策においては新自由主義の小泉構造改革の道へと逆走し、日米安保や憲法の問題においても、
小泉政権当時の米国一辺倒、従米路線へと逆走しているかのような状況を呈している。
この事態はたしかに既視感がある。それはかつて細川連立政権の誕生から村山政権に至る過程で見た光景と極めてよく似ている。
当時、揺らいだ日米関係は米国や官僚、財界の圧力によって、日本の自主性どころか、最後には日米安保の再定義、「新ガイドライン」 の取り決めに到った。
いままた、鳩山政権で揺らいだ日米関係は安保、「日米同盟」 の強化の方向で立て直されようとしている。
二 米国から聞こえてくる改憲要求
米国はもはや単独で世界に覇を唱える能力を失った。冷戦と、その後の反テロ報復戦争で疲弊し、
史上最大規模の財政赤字を抱えるオバマ政権が国家予算削減を迫られ、財政的余裕を失いつつあるなかで、日本に対する負担の分担の要求、
改憲と日米同盟強化の要求が強まって来ている。オバマの米国はブッシュ時代の単独行動主義から、同盟重視、
すなわち同盟国への負担の転嫁を推し進める方向へと転換した。
昨年10月、米国議会に強い影響力のある米議会調査局報告書は、日本国憲法の制約について触れ、「米国が起草した日本の憲法は、
第9条の現行解釈が日本に 『集団的自衛』 (第三国に対する米国との戦闘協力)への関与を禁じているため、
より緊密な日米防衛協力への障害となっている」 などと日米関係の現状に不満を表明し、集団的自衛権の行使を可能にする改憲への期待を示唆した。
本年1月、来日したゲーツ米国防長官は日米合意の履行や日米同盟深化の必要性を強調しながら、
「(憲法の枠内で)自衛隊の積極的な海外派遣が安保理常任理入りを正当化する」 などとのべた。
これは、直接憲法改定には触れなかったものの、オバマ政権が打ち出した米国の新戦略にそって、
日本(自衛隊)がより積極的に米軍を補完するため海外で活動することを強く要求した。
2月7日、デニス・ブレア前米国家情報長官(元太平洋軍司令官)は 「米軍が軍事力を提供し、
日本が米軍駐留経費を負担する安保体制は2011年の同盟関係としてはふさわしくない」 「双方がバランスのとれた義務を負う普通の同盟が求められている」
「改憲と防衛力増強に全面的に賛成」 と発言し、日米安保の見直しと普通の同盟化、双務化、および改憲を要求した。
これらのいらだちを含んだ動きに見られるように、今後、米国政府は日米の防衛協力の強化のために、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈と、
中長期的には、その障害となっている憲法9条など平和条項の改変を要求する動きを強めてくるにちがいない。
三 安保60年〜憲法と安保の2つの法体系の相剋の歴史
日米安保50年を期して、政権交代で不安定になり、ギクシャクした日米関係を立て直すため、
鳩山訪米と日米首脳会談で新たな 「日米共同宣言」 を策定することが構想された。しかし、鳩山首相は辞任に追い込まれ、それを果たせなかった。
引き継いだ菅首相は、当初、今春の訪米を模索したが、日本の政局の不安定さから先延ばしされ、6月末に延期した。
菅政権と米国政府はこの 「日米共同宣言」 で、同盟深化、強固な日米同盟を内外に誇示する狙いを持っていた。
しかし、現在、菅政権の存立事態が危うくなり、この日程が不確実になっている。
目下、日米両国政府は外務、防衛閣僚同士の日米安保協議委員会(2+2)を5月初めに開催し、日米の 「共通戦略目標」 を打ち出すことで、
最低限、当面、必要な日米同盟の実効性を担保しようとしているありさまだ。
そこに降って湧いたような政治献金問題での前原外相辞任事件まで起こった。新たに外相になった松本は 「2+2」 開催に意欲的であるが、
日本側の 「2」 の動きは事実上、防衛・外務官僚に操られることは疑いない。要するに、「安保条約改定」 の代わりに 「日米共同宣言」、
その 「共同宣言」 の代わりに 「共通戦略目標」 設定ということになろうとしている。
こうして日米関係の当面のあり方のレールが米国政府と日本の官僚によって敷かれていくのである。
今年は日米安保条約が締結されてから60年目にあたる。この60年間は1960年の日米安保条約の改定を経て、
平和憲法と呼ばれてきた日本国憲法体制と、この日米安保条約を根拠とする米軍のアジア・世界戦略の中での軍事力の復活強化という戦争法体系、
という相対立する2つの法体系(長谷川正安氏らの説)の間にあって、「戦争のできる国の復活」 をねらう勢力と、
反戦・平和を求める勢力との拮抗の歴史であった。米国とそれに追従する日本政府は安保体制の要求するところによって平和憲法の拡大解釈を積み重ね、
平和を求める民衆は平和憲法を盾に、これと闘ってきた。
この60年の歴史の中で、その3分の2は冷戦体制の下にあった時期であり、後の3分の1は冷戦後であった。
安保条約は一度改定されただけで、その後、日米両国政府によって改定安保条約どころか、
安保と自衛隊は憲法9条の規範とは似てもにつかないところまで肥大し、拡大されてきた。
しかし、それは日米政府にとっては平和憲法の制約のもとでの安保の変容であり、きわめて不自由で、不満なものであった。
1951年、朝鮮戦争のまっただ中でサンフランシスコ講和条約と抱き合わせで、米軍の駐留とその特権的地位を保障する旧安保条約が締結された。
1960年、歴史的な反安保闘争の高揚のなかで、それを押し切って安保条約が改定され、米軍の駐留は日本と極東の安全のためと規定された。
以降、10年後からは両国政府のいずれかの通告によって、その1年後には条約は破棄されるとされた。
しかし、以来、今日まで、日米安保条約は廃棄も改定もされないまま過ぎてきた。
1978年、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が作られ、自衛隊にマラッカ海峡に到るシーレーン防衛が義務づけられた。
1996年の橋本・クリントン会談で 「日米安保共同宣言」 が出され、安保はアジア太平洋安保となり、日米安保が 「同盟」 として 「再定義」 され、
1997年には新ガイドラインが調印された。
2000年10月には米国の対日専門家リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイらによる対日政策提言書
「米国と日本〜成熟したパートナーシップに向けて」 が発表された。
2005年には 「2+2」 において、「日米同盟:未来のための変革と再編」 と題する文書が策定され、
2007年には 「同盟の変革:日米の安全保障と防衛協力の進展」 が策定された。
この過程で日米安保条約による安保体制は、「日米同盟」と称されるようになり、大きな変質を遂げた。
すでに述べたように、民主党政権は6月末に予定している菅首相の訪米で、新たな共同宣言を出し、日米同盟を深化させようとしている。
あるいは日米首脳会談が実現できなければ、「2+2」 による 「共通戦略目標」 設定でそれに替えようとしている。
米政府はここで日米安保の 「双務化」 を要求し、事実上、日本に集団的自衛権の行使を要求しようとしている。
もしこうなれば、これはさらなる日米安保の新たな段階である。
この間、日本政府はむりやり憲法の拡大解釈を重ねて米国の要求に対応し、安保の定義し直しと、
海外で戦える自衛隊のための法的整備と体制づくりをすすめてきたが、もはやそれが第9条のもとでは不可能なほどにまで解釈改憲は極限状態になっている。
まさに「2つの法体系」の決定的な衝突が不可避になった。
四 経済同友会の解釈改憲と安保再定義の提案
日本財界の一角からもこれに呼応する動きがでている。経済同友会は今年2月に発表した 「提言」、
「世界構造の変化と日本外交新次元への進化〜日本力を発揚する主体的総合外交戦略」 (以下、「提言))で、2015年の日米安保改定55周年にあたって、
日米同盟のあり方を再定義するあらたな共同声明を発表するよう提言している。
経済同友会の 「提言」 について、長文なので、その見出し部分のみ紹介する。
「提言」 の 「安全保障」 の項には以下の項目のような記述がある。
(1) 日本の防衛力整備(国の安全を確保するための体制構築……のためには、憲法改正をも視野に入れた議論が必要である)。
「日本の安全保障戦略の策定・遂行に関する官邸の機能強化」
「日本の安全保障環境に相応しい防衛力の維持(すくなくとも日本のみが一方的に防衛予算を削減してはならない、など)」
「防衛予算のより柔軟で、効率的な配分の実現」 「武器輸出3原則の弾力的運用」 「在外邦人保護に向けた体制整備」
「安全保障上の重要地域における土地取得・利用規制」 「安全保障政策の根幹は自身による防衛努力であるという認識の共有」、
(2) 日米同盟関係の深化。「集団的自衛権行使の容認」 「関係国との強調の下でのシーレーンの安全保障」 「日米情報共有体制の強化」
「日米同盟の再定義」、
(3) 国際平和協力活動の積極的な展開。「自衛隊の国際平和協力活動の法的基盤整備」 「民軍協力体制の構築」。
「改憲」 と 「日米関係の深化」、ここに財界が望む将来の日米同盟のかたちが表現されている。
「提言」 は前記の 「日米同盟の再定義」 の項では次のように述べている。
「政府による現行の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認することで、日米同盟における片務性を解消し、
その新たな法的環境に基づいて日米同盟関係のあり方を再定義すべく両国は協議を進め、
その成果を2015年の日米同盟(ママ!、筆者注)改定55周年にあたって、新たな日米共同声明として発表すべきである」 と。
そして、「日米同盟の再定義作業においては、北朝鮮や台湾海峡をめぐる問題の平和的解決、中国による軍事政策の透明性向上
、シーレーン防衛、テロ対策、宇宙やサイバー空間をも含めた安全保障政策の確立、日米豪韓印による 「防衛協力等に加え、米国の核の傘の運用、
核兵器不拡散条約(NPT)体制の内外にあるアジアの核兵器への対応についても日米間の協議をより密接に行うべきである。
なお、核軍縮・核廃絶に向けた取り組みは日本外交にとって重要な課題であり、引き続き、核保有国への働きかけを行って行かなくてはならない」 としている。
この財界の動きは以下の産経新聞(本年1月4日 「主張:安保体制60年、条約再改定し強い同盟を、責務担い平和と繁栄守ろう」)の論調と呼応しあっている。
「今年は旧日米安保条約調印(1951年)に基づく日米安保体制の発足から60周年にあたる。
にもかかわらず、これを祝うどころかこの1年に日本の安全保障環境は劇的に悪化した。
尖閣諸島、北方領土、朝鮮半島などで日本の政治・外交を揺るがす事件が相次ぎ、年が明けても解決は見えない。
背景にあるのは、民主党政権下で日米同盟の空洞化が進み、
国民の平和と繁栄を支える安保体制の弱体化が誰の目にも明らかになりつつある寒々とした現実だ」
「自らを守る意志と能力を備えた上で、日本が米国と共同して防衛する態勢を固めなければ、日本の平和と繁栄は成り立たない。
そのためには、憲法解釈を改めて集団的自衛権の行使を可能にするのが先決だが、それだけでは足りない。
現行安保条約の規定を見直し、日米が完全に対等な 『双務性』 『相互性』 を実現して 『普通の同盟国』 としてともに行動できるようにする必要がある」
「北朝鮮に加え、核増強を進める中国の存在でアジアは世界でも有数の 『核増殖』 地帯といえる。
現状を直視した実効性ある核論議を避けてはならない。
少なくとも、安保体制の下で日本の安全を委ねる米国の拡大抑止(核の傘)の機能を強化する措置として、非核3原則の見直しを急ぐべきだ」
「集団的自衛権の行使、非核3原則見直し、安保条約再改定は、日米同盟を立て直して新たな出発とするために不可欠な3本柱といえよう。
政権を超えて是が非でも達成する必要がある。中でも条約再改定は次の10年、20年後を見通して日本の平和と安全を確保し、
時代の要請に応えるための基本設計と位置づけなければならない」 「安保条約は既に一度、1960年に改定を経ている。
新たな時代の新たな挑戦に応えるために再度の改定をためらう理由はない」
今後、こうした経済同友会 「提言」 や産経新聞 「主張」 に見られるような安保体制、日米同盟の再定義と改憲の動きとの闘いが重要な課題になっている。
五 民主党による参院憲法審査会規程策定の動きと、自民党などの改憲への動き
参議院民主党は憲法審査会 「規程」 原案を決め、今後、今国会での制定をめざして自民・公明両党との協議を進めようとしている。
背景としては、問題が昨年秋の臨時国会における参議院議院運営委員会から出発しているところから見て、
衆参ねじれ国会状況に対する野党対策の側面もある。しかし、すでに見たように、この動きの意味するところは 「国会対策」 の域にとどまらない。
「規定」 策定は米国政府や財界、官僚などによる今後の日米関係のあり方の模索と結びついた改憲の動きの一環と見なくてはならない。
2007年5月、安倍内閣が主導した改憲手続法の強行以来、同法が定めた 「憲法審査会」 は両院に設置されないでいる。
2009年6月、その事態に焦った麻生内閣が野党各党の反対を押し切って衆院憲法審査会 「規程」 を強行採決したが、
当時の野党の反対で参院憲法審査会 「規程」 が策定されないまま今日に至っていることには、正当な理由がある。
安倍内閣から麻生内閣にいたる憲法審査会に関する議論の過程で、野党各党は以下のような問題点を指摘してきた。
第1、改憲手続法の強行採決は、憲法改正問題という全国民的な課題を野党各党の反対を無視して、
一党一派の党利党略で議会の多数に依拠して行われたものであり、手続き上も重大な瑕疵があること。
第2に、同法の採決にあたって、いくつもの重要問題を 「附則」 にし、与党自らが制度設計の根幹部分にも及ぶ18項目もの 「附帯決議」 をつけるなど、
この改憲手続法は重大な欠陥法であったこと。
そして第3に、その後、「附則」 や 「附帯決議」 で指摘された問題のほとんどが未解決のまま放置されてきていること、などであった。
今日、これらの事態が何も変わっていないにもかかわらず、参院民主党が 「規程」 の制定に乗り出したことは不当であり、まさに天に唾するものである。
一方、自民党の谷垣総裁は1952年4月のサンフランシスコ講和条約発効60周年を記念して、憲法改正案をまとめる考えを明らかにしている。
すでに自民党は2005年11月に党創立50周年を期して自民党新憲法草案をまとめ、発表している。
これは森喜朗が起草委員長になり、舛添要一が事務局長になってまとめたものであるが、
発表当時から自民党内で中曽根康弘らの極右派などから不徹底だと不満が噴出していた。
こうした経過から、谷垣総裁が主張するあたらしい憲法草案策定の作業は、これら極右派の意向をより濃厚に反映したものになる可能性がある。
また、民主党の小澤鋭仁前環境相と自民党の山本有二元金融相が公明、
みんな両党にも呼びかけて現行憲法の 「各議院の総議員の3分の2の賛成で(改憲を発議)」 とある96条に関してそれを 「半数の賛成」
に変えようと企てる 「憲法96条改正議員連盟」 (仮称)を発足させようとしている。これに関しては9条改憲派の安倍晋三元首相も 「(民主・自民両党は、
改正の中身の一致は)ムリだが、2分の1にする改正だけはできる」 などと、同様の考え方を述べたことがある。
またみんなの党の渡辺代表は3月5日、「憲法を改正して国会を一院にする」 と改憲論をのべている。
政治が混迷し、社会に閉塞感が漂う中で、このように政界再編がらみで、さまざまな改憲論が浮上していることも注意しておかなくてはならないだろう。
六 東アジアの対立を拡大する改憲と日米同盟深化ではなく、東アジアの平和と共生を
これらの戦争の危険を招く 「安保再々定義」、際限のない軍拡につながる 「軍事力による抑止」 をめざした 「日米同盟」 の強化、
それらは不可避的に解釈改憲のさらなる拡大と9条明文改憲を要求する。米国政府や日本の政財界が主張する 「日米同盟」 の強化と、
9条改憲は不可分の問題である。
しかし、すでに欧州各国は軍縮の過程に入っている。冷戦の時代の米ソの争いのように、お互いに莫大な軍事費を投入して、
どちらが先に息切れして倒れるかのチキンレースを行うことは愚の骨頂だ。21世紀の今こそ、9条が現実的な可能性を持つ時代となっている。
東アジアとならんで、世界の緊張を激化させてきた中東・北アフリカで、いま歴史的な変動が起きつつある。
朝鮮半島や台湾海峡など冷戦体制が残存する東アジアの緊張を緩和し、北東アジア非核地帯の実現をはじめ、
平和と共生の東アジアを実現し、真に 「戦争の20世紀」 に終止符を打つ課題は世界現代史の要の課題である。
民主党は衆院選マニフェストで公約した 「東アジア共同体」 の実現のための努力を堅持しなくてはならない。
そのためには日本自らが、さきのアジア太平洋戦争にいたる歴史認識を確立して、周辺諸国との戦後処理を清算することが必要不可欠である。
あわせて、その過程で、普天間基地の撤去など在日米軍基地の縮小撤去、
日米安保の抜本的見直し(廃棄)と平和で友好的な 「もうひとつの日米関係」 を構築しなくてはならない。
(本稿は、雑誌 「進歩と改革」 5月号に寄稿したものに、若干、手を加えました。
高田 健)