2011.11.24

高田健の憲法問題国会ウォッチング


憲法審査会の始動で新たな段階に入った改憲策動
改憲派が3・11に悪のりして非常事態条項導入などを主張

  憲法審査会の実質的な審議が11月17日午前、衆議院で始まった。市民連絡会の多くの仲間がこの日の憲法審査会の審議を傍聴した。

  憲法審査会は2007年の安倍晋三内閣の当時、国会で強行採決された憲法改正手続法が設置を定めたものだが、 その法律制定の経過や附則および18項目の附帯決議に見られるように重大な欠陥を持った法律であることなどから、国会内外で厳しい批判があり、 4年以上にわたって始動できないできた。しかし、民主党の菅直人執行部が参院選で敗北し、衆参両院の議席が与野党ねじれ状況になった後から、 自民党に妥協して審査会始動への動きが再燃した。

  3月11日の東日本大震災と東電福島第一原発の大事故の危機に乗じるように、憲法審査会を民自公3党の取引で始動させた。

  17日の審査会では、参考人として前衆議院憲法調査会会長の中山太郎・元外相と、衆議院法制局の橘幸信氏を招いて、 「衆院憲法調査会の経緯、並びに憲法改正手続法制定の経緯」 などを質疑した。

  中山参考人は冒頭、外相時代に起きた湾岸戦争の時、サウジアラビア政府から自衛隊の派遣を依頼されたが、 憲法上、許されないとして断らざるを得なかった 「苦い危険」 から、「憲法の在り方を検討すべきだ」 と決意し、 憲法調査会設置推進議連を立ち上げたと回顧した。 その際、改憲は両院で3分の2の支持が必要なことから自民党と民主党の支持が必要であることを念頭に置き、 常に自民党の森喜朗元首相と民主党の羽田孜元首相らに相談して進めたと裏話を語った。

  また、改憲手続法の制定では、民主党の枝野幸男委員(当時憲法調査常任委員会会長代理)と相談して、 改憲発議の予行演習として3分の2以上の支持で決めたいと考えたていが、 安倍首相が功を焦って2007年の年頭記者会見で首相自らが改憲推進を発言して 「政局問題」 にしたことで、民主党が反発して制定に賛成せず、 強行採決になったこと。その結果、制定後4年の 「空白期間」 が生じた、強行採決せずにせめてあと1週間審議を延期すれば良かったのだと、 露骨に安倍元首相への不満を口にした。
  しかし、安倍執行部の指令とはいえ、 当時、憲法調査常任委員会で反対する委員が詰め寄るなかで強行採決を実施した中山会長自身の反省の弁は全くなかった。無責任の限りだ。

  橘氏は改憲手続法の 「附則」 にある18歳選挙権、公務員の政治的行為の制限、憲法以外の国民投票導入など、「3つの宿題」 がそのまま残っており、 本来、18歳問題と、公務員の政治活動は改憲手続法の施行までに終わっているという期限が切られた 「宿題」 であったことなどを確認した。

  5分に限定された各会派の意見表明では、冒頭に民主党の山花郁夫委員が 「(全く必要がないとはならないが、改憲論議は)震災復旧の中、 優先順位は相対的に下がる」 と発言した。この発言は、翌日の 「産経」 など右派メディアによって 「改憲に消極姿勢」 との批判を浴びた。

  自民党の中谷元委員は 「3つの宿題の早期解決」 と合わせて、3・11震災と関連して憲法への非常事態条項の導入の必要性を強調した。 そして自民党改憲推進本部がすでに30回もの会合を重ね、来年の4・28(サンフランシスコ講和、 日米安保発効60周年)をめざして2005年に策定した自民党改憲案の改定を準備中で、前文、安保条項、非常事態条項などを検討していると発言した。 自民党の中では中曽根康弘などをはじめ、ウルトラ改憲派から、2005年当時、森会長と舛添要一事務局長がとりまとめた改憲案への不満がくすぶっている。 改憲推進本部はこの空気を背景に作られたものであり、どのような改憲案が出てくるか、おおよそ想像がつく。

  公明党の赤松正雄委員は 「憲法3原則」 を維持していくという意味では護憲派だが、新しい人権などを加える 「加憲」 の立場であると公明党の立場を確認し、 憲法調査会以降の7年で国民的関心が盛り上がったのに、安倍首相による 「不幸な事件」 で空白の4年をつくったことは残念なことだったとのべた。

  みんなの党の柿澤未途委員や、国民新党の中島正純委員も、それぞれ改憲の必要性を主張した。

  一方、共産党の笠井亮委員は 「憲法審査会を動かす理由は全くない。9条は大多数の国民に支持されている」 と指摘し、 社民党の照屋寛徳委員は 「改憲手続法は国会と国民的議論が不十分なまま強行された。この抜本的な再検討が必要だ。 震災の現地や沖縄で反憲法的な生活が強いられている」 と改憲策動に反対した。

  自由討議では96条改憲議連の代表に一人である自民党の古屋圭司委員が96条改憲を主張し、 同党の近藤三津枝委員や柴山昌彦委員もそれぞれ非常事態に対応できる憲法を主張した。 この日の最後に一言求められた中山参考人も 「非常事態における国の在り方」 を議論することが、当面、最大の問題だと強調した。

  民主党の辻元清美委員は安倍元首相時代の 「問題」 は単なる 「政局問題」 ではなく、 99条の憲法尊重擁護義務と立憲主義を理解していないことから生じた問題だ、また政権交代の時代に96条を変えれば、 政権が変わるごとに憲法が変えられることになると述べた。

  議論の中で自民党の委員が相次いで非常事態条項に触れたことは、3・11大震災の不幸につけいり、 ことさら憲法不備を言いつのることで改憲の必要性の宣伝を企てるものだ。 また、不安定な政局との関連で民主党内に大連立志向が根強くあるなかで、自民党が来年のサンフランシスコ講和発効60周年を機に、 改憲案の改定を準備していることは、民主党の妥協を引き出す動きと関連して見逃せない。 米国や財界の改憲要求のターゲットが第9条にあることは明らかだが、今後の憲法審査会の審議の中で、新しい人権や、 非常事態条項(国家緊急権条項)の導入など、さまざまな改憲の道の味付けが試みられることに警戒を要する。

  参議院憲法審査会も間もなく審議が始まるだろう。憲法審査会の始動で改憲策動は、いまや新たな段階に入った。 今後、民自公で構成された憲法審査会幹事会は、審議するテーマを順次、設定しながら、審議を急ぎ、 近い将来の改憲原案の審議に持って行こうとするだろう。私たちはこれを許さず、いま改憲(特に9条改憲)は民意ではないことを主張し、 憲法論議における、この国での憲法の実現の検証作業と、改憲手続法の抜本的再検討の要求をして行かなくてはならない。

  改憲派がいう 「空白の4年間」 は、院内外の改憲反対の闘いの結果が民主党などの改憲への消極性を引き出し、実現してきたものであり、 「偶然の産物」 ではない。運動こそが情勢を切り開くことができることの証明だ。 私たちは憲法審査会の動向をしっかりと監視し、憲法問題を 「理念」 の問題としてだけではなく、脱原発や人権、安保など、 生きた具体的な課題と結びつけて闘い、運動を広げ、改憲派が展開してくるさまざまな議論を一つひとつたたきつぶしながら、 改憲を許さない運動を強化しなくてはならない。
(「私と憲法」 11月25日号収録)