2011.12.26

高田健の憲法問題国会ウォッチング


憲法審査会始動、新たな段階に入った改憲策動
〜新年は草の根からの世論の力で反撃を

  <始動した憲法審査会>
  民主党の野田政権のもと、第179臨時国会から憲法審査会の実質的な審議が衆議院と参議院で始まった。 それぞれ元憲法調査会会長らを参考人に招き質疑する形と、委員が自由討議する形で、実質的に2回ずつ(衆議院は11月17日、12月1日、 参議院は11月28日、12月7日)開かれた。憲法審査会は閉会中でも開くことができることになっているが、 新年早々からの第180通常国会での憲法審査会を舞台とする憲法改悪への動きは予断を許さないものがある。

  憲法審査会は2007年の安倍晋三内閣の当時、自公与党により国会で強行採決された憲法改正手続法が設置を定めたものだが、 その制定の経過(安倍内閣による政治利用と、強行採決など)や、「附則」 および18項目の 「附帯決議」 が付いた。 このことに見られるように重大な欠陥を持った法律であることから、国会内外で厳しい批判を浴び、4年以上にわたって始動できないできた。 しかし09年の政権交代後、1年足らずで民主党の菅直人執行部が参院選で敗北し、衆参両院の議席が与野党ねじれ状況になった後から、 民主党が自民党に妥協し審査会始動への動きが再燃した。 そして3月11日の東日本大震災と東電福島第一原発の大事故の危機に乗じるように、憲法審査会を民自公3党の政治的取引で、 社民党、共産党の反対を押し切って始動させた。

  <憲法審査会の改憲論議の特徴>
  179臨時国会での憲法審査会の議論の特徴を概括的に指摘したい。
  第1は、自民党の委員が相次いで 「3・11」 大震災の発生と関連して、政府の対応の立ち遅れを指摘しながら、 その原因を憲法に 「非常事態条項がない」 「国家緊急権規定がない」 などを理由に欠陥憲法だと指摘することで、 改憲の緊急性を主張した(衆院・自民・中谷元、参院・自民・有村治子ら)ことだ。 参考人として招かれた中山太郎元衆議院憲法調査会長や、関谷勝嗣元参議院憲法調査会長も同様の意見をのべた。 また、3・11と関連しては憲法への自衛隊の役割の明記、9条改憲の主張もあった。

  自民党改憲推進本部(保利耕輔本部長)は12月中旬、「緊急事態に関する憲法改正試案」 をまとめた。 それは 「何人も必要な措置に関して発せられる国や公の機関の指示に従わなければならない」 として、基本的人権の制限を含むものだ。 震災の救援活動において、米軍の 「トモダチ作戦」 や自衛隊の 「10万人投入作戦」 が一定の 「成果」 をあげたことで、 改憲派は 「集団的自衛権の行使」 や 「憲法への自衛隊の明記」 を企てる改憲にとって好機が来たと考えているようだ。

  民主党の委員からは 「大震災」 対応の緊急性から見て、改憲は最優先事項ではないという意見(衆院・民主・山花郁夫)があったが、 同じ民主党内から 「大震災や原発事故は憲法論議の妨げにならない」 (参院・民主・増子輝彦)という 「反論」 も飛び出した。 社民党や共産党の委員が 「震災の最中になぜ改憲論か」 と審査会の始動を批判すると、 「いまだからこそ、国の形がどうあるべきかについて国民ベースの議論が必要だ」 (参院・自民・川口順子)という反論がでた。

  第2には、硬性憲法といわれるゆえんの第96条の改憲規定(両院総議員の3分の2以上の賛成による発議)の問題点を指摘することで、 改憲要件の緩和を主張する意見が、主として 「96条改憲議連」 (衆院・自民・古屋圭司、衆院・民主・小澤鋭仁)のメンバーから相次いで出されたことだ。 民主党の辻元清美委員(衆)は 「96条を過半数に拠る改憲発議に変えると、政権交代ごとに改憲されかねず、それは立憲主義に反する」 と指摘した。

  第3には、改憲論としては言い古された感もあるが、環境権やプライバシー権など 「新しい人権」 の導入を主張する改憲論も、 公明党や民主党の委員を含めて根強くみられた。 公明党の各委員は 「憲法3原則は変えない」 としながら、この 「新しい人権」 を加える 「加憲」 なる改憲論を主張した。 また 「衆参対等統合一院制議連」 (会長・衛藤征士朗衆院副議長)が自民・民主・公明・みんななどの議員で作られ、改憲をめざしている。 みんなの党は憲法調査会で破綻が明確になった 「首相公選制」 導入をいまなお掲げている。

  第4には、自民党の委員たちが、自民党改憲推進本部がすでに30回もの会合を重ね、 来年の4・28(サンフランシスコ講和条約と日米安保条約発効60周年)の 「独立記念日」 (沖縄の分断と全土基地化の日)をめざして2005年に策定した自民党改憲案の、前文、安保条項、非常事態条項などを検討中だと報告したことだ。 自民党の中では中曽根康弘元首相をはじめ、ウルトラ改憲派から、 当時、森喜朗会長と舛添要一事務局長らがとりまとめた05改憲案への不満がくすぶっている。 あきれることに、発言では、憲法調査会当時の議論では、 ほとんど 「論外」 とされた 「押しつけ憲法論」 を堂々と主張する自民党の委員(参院・自民・西田昌司、同・山谷えり子)が少なからずあった。 新改憲案の議論を通じて、自民党は憲法問題でより復古主義的立場に軸足を移行させることで、独自性を出そうとしているかのようだ。

  <草の根からの改憲反対の運動の構築を、
7・16に10万人集会へ>
  米国や財界の改憲要求のターゲットが第9条にあることは明らかだが、今後の憲法審査会の審議の中で、「非常事態条項」 (国家緊急権条項)や、 「新しい人権」 の導入など、改憲への道のさまざまな 「変化球」 が登場する可能性に対して警戒が必要だ。

  2007年の安倍晋三内閣による 「9条改憲」 の策動をうち破ったのは、危機感に燃えた全国の草の根からの市民の運動による世論の高まりだった。 焦った安倍内閣が強行した改憲手続法をめぐる闘いは、改憲派をしてその後 「空白の4年半」 と呼ばせた改憲運動の大きな後退局面を勝ち取った。 しかし、「空白の4年半」 で明文改憲の攻勢が下火になった間に改憲反対運動の側も若干、沈静気味になった事は否定できない。

  今、「九条の会」 の再活性化をはじめとして、「脱原発」 など緊急な課題と結合して多様な市民運動を組織し、 再度の改憲反対運動の高揚を作り出すべき時がきている。全国の草の根で学び、議論し、協力しあい、その力で街頭での宣伝・行動へでる必要がある。

  「さようなら原発1000万人アクション」 実行委員会は1000万人署名運動に取り組みながら、2月11日全国一斉行動(東京は代々木公園)、 3月11日福島現地行動(郡山市開成山球場)、3月24日1000万署名集約集会(日比谷野外音楽堂)、 そして7月16日には原発再稼働を許さない課題を掲げて代々木公園で10万人集会を提唱している。

  5月3日は憲法記念日の全国一斉行動日だ。2月18〜19日には広島で上関のフィールドワークを含む 「第15回許すな! 憲法改悪・市民運動全国交流集会」 が行われる。

  私たちは共同の力でこれらの取り組みを成功させ、市民運動のあらたな高揚の局面をつくり出さなくてはならない。
(「私と憲法」 1月1日号所収 高田健)