2012.11.27

高田健の憲法問題国会ウォッチング


総選挙で改憲勢力の台頭を許さない闘いを
宇都宮けんじさんを擁する東京都知事選挙の歴史的な意義


  11月16日、内外の困難を前に、追いつめられた野田佳彦首相はやぶれかぶれで衆議院解散に打って出た。 戦後史上でもかつてない14〜15もの政党による衆議院議員総選挙が始まろうとしている。 この総選挙は石原慎太郎前知事が突如としてその任を放棄したことによる東京都知事選挙とダブル選挙になった。 これらの行方は今後の日本のあり方を大きく左右する重大な選挙になった。

  3年前に政権交代はしたものの、民主党政権は米国や財界、霞ヶ関(官僚)の圧力で、結局、旧来の自民党型の悪政の繰り返しに陥り、 原発震災対応の停滞、解釈改憲の推進、経済の行き詰まり、オスプレイなど沖縄をはじめ米軍基地の問題、領土問題などでの東アジアでの孤立、 消費税増税と社会保障改悪への批判、TPP推進への批判、人々の生活と基本的人権の破壊、民主主義の破壊の政治などなど、 社会全体に耐え難い不満と怒りが渦巻いている。

  野党自民党はこれに対して、一層反動的な立ち位置から政策を対置することで、「自民党らしさ」 を打ち出し、野田政権への批判の声を吸収しようと、 安倍晋三、石破茂らが主導する改憲・極右反動執行部体制を作り出した。 戦後の自民党政治のもっとも悪質なところを継承するかのような安倍自民党は、この間の民主党の失政を利用して、 来る総選挙で比較第一党の座を得て、自公民大連立など、なんらかの連立政権を樹立し、政権に返り咲こうとしている。

  この間の民主党と自民党の保守2大政党による政治に多くの人々が強く閉塞感を抱いている。 無責任なマスメディアの支援も得て、その間隙をぬって登場を策しているのが橋下・石原連合日本維新の会や、みんなの党などのいわゆる新党・第3極だ。 これらの連中に共通する特徴はいずれもが政治的には右翼改憲派であり、経済政策においては新自由主義であることだ。 この第3極志向の諸新党は、原発や、税、TPP、外交などの個々の政策の違いを 「小異」 として切って捨て、 この改憲と新自由主義の 「大同」 において大連合ならぬ大野合をすすめ、人々の政治への不満をかすめ取り、次期政権の一翼を占めようとしている。
  永田町の政治状況は戦後かつてない重大な危機である。

  しかしながら残念なことに、現在、これらに対抗すべき左派・リベラルの野党勢力が弱く、かつ分立した状態にある。 「オリーブの木」 的な連合を唱える小沢一郎の 「国民の生活が第一」 はルーツの危うさとこの間の結党の経過から人々の期待を集め得ないし、 共産党・社民党の護憲・平和勢力も事態の打開の道を切り開くための決定力に欠ける状況である。 とりわけ3・11の東日本大震災とそれにともなう原発事故を経て、人々の闘いは脱原発で、沖縄の米軍基地やオスプレイ撤去で、TPP反対で、 かつてなく高揚している。人々は政治への不満を全国の街頭で表明しつつある。 そして改憲派の跳梁にもかかわらず、憲法第9条と平和への世論の支持は強い。 にもかかわらず、現状では、この世論と左派・リベラル政治勢力が結びついていない。 私たちはかつて2006〜7年にかけて、安倍晋三内閣が企てた明文改憲の野望を、 九条の会をはじめとする全国的な草の根からの運動で 「九条を変えるな」 の巨大な世論を作り出し、阻止した経験を持っている。 この経験に学びながら、護憲・リベラル勢力の共同を構築すること、 およびこれら脱原発などの市民運動との連携をどのように作り上げることができるかにこそ、これからの新しい政治を作り上げるカギがある。

  この点で、今回の東京都知事選挙で市民派統一候補の擁立実現という一つの突破口が開かれたことは希望が持てることであった。
  12月16日投開票の東京都知事選挙に前日弁連会長の宇都宮けんじさんが立候補表明を行い、多くの人々の期待と支持を得て全力で闘っている。 対立候補は石原前知事後継の猪瀬副知事(自民、公明、石原日本維新新党など推薦)や、松沢前神奈川県知事らだ。

  この選挙は市民運動(宇都宮けんじさんとともに人にやさしい東京をつくる会)が擁立した候補者を社民党、共産党、国民の生活が第一、生活者ネット、 新社会党、緑の党、ほかの政党やさまざまな団体が支持して共同でたたかう新しい形の選挙を生み出しつつある。 共産党と社民党(旧社会党)が一緒に同じ候補者を推すという意味では、東京都知事選挙では1983年の松岡英夫候補以来、 30年ぶりに実現した画期的な選挙となる。東京では1967年に当選した美濃部亮吉知事が3選を果たして任期を終えた1979年まで、 いわゆる革新都知事体制がつづいたが、その後は2回の選挙を経て、社民党と共産党はそれぞれ別の候補を推し、敗れてきた。 とりわけ、先頃1年余で4期目の任期を無責任にも投げ出して、国政の新党の結成をめざすことになった石原慎太郎都知事の13年半の歴史は、 都民にとって 「惨憺たる歴史」 であった。今回、その歴史を変えようと、市民運動といくつかの政党が共同して、 石原後継候補と 1000万人有権者の支持を激しく争っている。

  11月6日、「人にやさしい都政をつくる会」 の記者会見で発表された40氏による声明は、冒頭に 「惨憺たる石原都政の13年半であった」 と述べて、 石原都政を批判し、「いま、東京都知事を変えることは、日本の右傾化を阻止する力になる」 と指摘した。 そして、基本的な政治的方向性を 「第1は、日本国憲法を尊重し、平和と人権、自治、民主主義、男女の平等、福祉・環境を大切にする都知事である。 第2は、脱原発政策を確実に進める都知事である。第3は、石原都政によってメチャメチャにされた教育に民主主義を取り戻し、教師に自信と自律性を、 教室に学ぶ喜びと意欲を回復させる都知事である。第4は、人々を追い詰め、生きにくくさせ、つながりを奪い、引きこもらせ、あらゆる文化から排除させる、 貧困・格差と闘う都知事である」 と 「4つの柱」 を明確にした。

  その後 「人にやさしい東京をつくる会」(名称変更)は都知事候補に宇都宮けんじさんの擁立を決め、 宇都宮さんは9日、記者会見で立候補の意志を明らかにし、以下の 「東京を変える4つの柱」 の実現をめざすことを表明した。

(1) 誰もが人らしく、自分らしく生きられるまち、東京をつくります。
(2) 原発のない社会へ――東京から脱原発を進めます。
(3) 子どもたちのための教育を再建します。
(4) 憲法のいきる東京をめざします。
  そして、「4期つづいた石原都政のもとで、都政には課題が山積しています。
  オリンピック招致、築地移転問題、新銀行東京、尖閣諸島買収で集めた寄付金の処理など、前知事が突然、放り出してしまった課題は、 『強いリーダーシップ』 という名のもと、都民の声に耳を傾けない強引な施策によって引き起こされてきました。 東京は変えられます。誰かが変えるのではなく、私たち自身の手で、変えることができます。それが今度の都知事選挙なのではないでしょうか」 と述べた。

  ひたすら憲法を敵視し、人権と民主主義を破壊し続けてきた13年余の石原都政のもとで、人々の間に累積した不満と批判が、 このような都知事候補と共通の政策を生み出したのだ。これは東京の、日本の民主主義の歴史に残る快挙になった。

  いま、志ある市民は12月16日の投開票をめざして、宇都宮けんじさんを先頭にして全力で新しい都政を実現するために奮闘している。 この闘いは自覚した市民自身による、さまざまな違いを乗り越えつつ統一した運動であり、民主主義実現の闘いだ。 この帰趨は今後の日本での運動に重大な影響を与えることになるにちがいない。 まさに 「東京が変われば日本が変わる」(宇都宮けんじさんの演説)と考える。 容易ならぬ闘いではあるが、私たちはなんとしてもこの千載一遇の闘いを勝利するべく全力を挙げてたたかう。 都民をはじめ、全国の皆さんに、可能な限りの支援をこころから訴えます。
(「私と憲法」 139号所収 高田健)