2013.3.29

高田健の憲法問題国会ウォッチング


民意と乖離した憲法審査会の議論
安倍改憲暴走政権の意を呈して審議を急ぐことは容認できない


  【両院で憲法審査会が再開】
  改憲をめざす安倍政権のもとでの初めての憲法審査会が3月13日午後(参議院)、3月14日午前(衆議院)と連続で開催された。
  市民連絡会は両日とも20名を超える仲間で、この憲法審査会を傍聴・監視した。日弁連憲法委員会の人びとや他の市民団体の傍聴もあり、 手狭な傍聴席は一杯で、市民の関心が大変高いことを示すものだ。

  今回の議論のテーマは、参議院は 「二院制の在り方について」、衆議院は 「憲法第一章(天皇)、第二章(戦争の放棄)について自由討議」 だった。
  先の総選挙の結果、衆院憲法審査会の様相が大きく変わった。会長は民主党の大畠氏から自民党の保利耕輔氏に代わり、 改憲を主張する自民党の委員が委員50人中31人(うち会長を含め幹事7名)を占め、あらたに 「日本維新の会」 が幹事1名と委員5名を占めた。 これに 「みんなの党」 の委員2名を加えると、委員の8割近くが改憲を標榜する政党の委員になった。

  一方、総選挙で2議席にとどまった社民党は委員の割り当てを失い、政党として護憲を主張する委員は共産党の笠井亮議員1名のみとなった。
  改憲色の強い 「中間派」 の各党は民主党が幹事1名、委員5名、公明党が幹事1名、委員2名、他に 「生活」 の委員が1名だ。 衆院憲法審査会はまさに改憲の為の審査会、改憲案を討議できる審査会の様相になった。
  自民党が圧倒的多数を占める衆議院憲法審査会は毎週開催する方向で、次回は3月21日、参議院は4月3日に再度 「二院制について」 審議し、 その後、「新しい人権」 などを取り上げて行く意向のようだ。

  【13日の参院憲法審査会は2院制維持が多数意見】
  共産党の井上哲士委員が 「憲法調査会の時代には2院制への批判は主として “参院は衆院のカーボンコピーだ” というものだったが、 いまは “衆参ねじれ国会” 批判が主流だ」 と、指摘したことに問題点がよく表れている。 改憲派は改憲をしたいがために、まず改憲ありきで 「2院制」 をあれこれと批判して、その場その場のご都合主義の口実で改憲の主張のためにする。 「カーボンコピー」 論(「衆議院と同じ内容では参議院は必要ない」 という)と 「ねじれ」(「決められない政治」 はよくないという)批判は正反対の口実だ。

  1院制を主張する党は 「みんなの党」 と今回から初登場の 「日本維新の会」 で、 みんなの党の江口克彦委員は 「1院制にすれば迅速で効率的な意志決定ができる」 とか、 「院の維持にかかる諸経費も不要になる」(!)などと驚くべきことまで主張した。 維新の会の水戸将史委員は 「参院のチェック機能を言う意見があるが、我が党の主張の首相公選制を導入すれば、 一院制でも議会が行政府をチェックすることができる。他の国でも1院制でも機能している」 とのべた。 自民党の衆議院側には1院制論が少なくないが、参議院では自民党の委員も2院制維持論が多い。 民主、公明、生活、みどり、社民、共産、改革など各党は2院制維持の議論を展開した。 しかし 「改革」 の桝添要一委員は 「参議院で2院制維持を強調すると、自分が生き残りたいがための議論だという批判が起こりうるので、 衆参の役割分担を明らかにする改革を考えるべきだ」 などと、改憲に同調しかねない意見をのべた。

  【衆議院は改憲論が圧倒的】
  14日の衆院審査会は 「憲法第1章、2章についての自由討議」 だったが、この日の審議についてメディアは 「自民 『国防軍明記を』、 9条改正 維新とみんな同調 民主退潮 改憲派に勢い」(朝日)などと報道したが、概要はほぼこのようなところだ。

  衆院憲法審査会は昨年段階ですでに第4章までの検討を終えたことになっているのだが、総選挙を経て新たに委員になった議員が多いことから、 1章、2章で1回、3章・4章で1回のおさらい的な審議を行うようにした。

  第1章の討議では自民党の船田一筆頭幹事が自党の改憲草案を解説して、 「現行憲法の第3条が “(天皇の国事行為は)内閣の助言と承認を必要とし” としているのは礼を失するので “進言” に変えた」 と得々として説明するのを聞いていて、「自民党は “天皇を戴く国” にするという復古的な思想に染まりきっている」 ことを改めて痛感した。 維新の会の馬場伸幸委員は 「維新は残念ながらまだ自主憲法の具体案を持っていない。 しかしわが党の立場は、日本は “首相公選制の主張と連動し、天皇を元首とする立憲君主国だ” という考えだ」 と時代錯誤の主張を述べた。 みんなの党も天皇を元首にして首相公選だと主張した。民主、公明、共産、生活はそれぞれ違いもあるが、天皇条項は現行憲法のままを主張した。

  第2章では、自民の中谷元委員が 「国防軍明記」 を主張。維新の馬場委員は 「いま広がっている領土への不安の根本原因は9条にある」 と改憲を主張。 みんなの党の畠中光成委員は 「2年間の国民的議論を経て9条改憲へ」 と述べた。

  民主党は9条についての立場を明確にせず、公明も現状のままを主張した。生活は 「議論が必要」 とした。 社民党が委員の割り当てを失った結果、共産党だけが9条護憲で孤軍奮闘(笠井委員談)だった。 衆議院審査会の構成は圧倒的に改憲派で占められた。しかし99条改憲から始めて、「9条改憲で国防軍」 とは 「9条支持」 の民意との乖離もはなはだしい。

  なお、審議の途中で自民党の委員の出席が13名程度にまで減り、自民党所属の保利耕輔会長が特別に注意をうながしたほど、不真面目さが目立った。

  【武器輸出3原則の緩和や集団的自衛権行使など解釈改憲と、96条明文改憲に反対する世論を】
  総選挙直後にメディアなどによって語られた 「安倍首相は第一次安倍内閣の失敗の轍を踏まないように、 参院選が終わるまでは改憲などの動きはできるだけ避けて、経済政策に力をいれるなど安全運転をするだろう」 などという観測は、大きく外れている。 安倍首相は国会の議論などで 「96条を変えることから始める」 「憲法9条を変え、国連軍など集団的安全保障に参加する」 などなど、 行政府の長として違憲に問われるべき発言を繰り返している。 また安倍首相は自らが会長を務める改憲派議連の 「創生 『日本』」 の活動を再開させ、自らは会長職を休職しただけで、辞任していない。 安倍政権は昨年総選挙前に準備し始めた 「経済再生実行本部」 と同時に 「教育再生実行本部」 で教育の一層の反動化をすすめている。 一方ではF35や化学防護服の外国との共同生産など、武器輸出3原則の破壊に乗り出している。 これは第9条の解釈改憲だ。あわせて 「安保法制懇」 を再稼働させ、集団的自衛権の行使に向けて、従来からの政府見解の変更を企てている。

  自民党の改憲草案に沿って、9条など、憲法の全面的改悪をめざす96条改憲もこれとあわせてすすめられている。 無視できないのは、日本維新の会やみんなの党などの右翼改憲政党が、「96条研究会」 を結成するなど、マスコミや憲法審査会などの場を通じて、 その先兵の役割を果たしていることだ。実際、維新の会の橋下代表は16日、「首相は維新の存在があったからTPPに踏み切れた。 自民党内の反対派に 『いざという時は維新と組む』 との考えを表に出して党内が収まった」 と語り、 「憲法96条改正でも、自民党と公明党が連立を組んでいるが、首相の決断を応援する」 などと、改憲の先兵になる決意を語った。

  憲法審査会の動きとあわせて、永田町での改憲暴走が始まった。私たちは全力をあげて世論を形成し、これに反撃しなくてはならない。
(「私と憲法」 第143号〜3月25日号所収 高田健)