2014.1.1

高田健の憲法問題国会ウォッチング


安倍政権の 「戦争する国」 への暴走を阻止するたたかいを

  「戦後」 を 「戦時」 に変える安倍政権の特異性
  安倍晋三という戦後歴代の首相の中でも特異な人物の下で、この国は東アジアをはじめ世界各地で 「戦争する国」 に向かって暴走を開始しつつある。 少なからぬ人びとが表現するように、もはや時代は新たな 「戦前」 「戦時」 に至っているのかも知れない。 「いくらなんでも、そんなことはないだろう」 と思う人がいることを知っている。

  しかし、2014年の年頭にあたり、筆者はそのように思わざるをえない。 かつて憲法学者の長谷川正安氏によって 「安保と憲法、2つの法体系の相克」 と規定された戦後政治史において、 少なくとも安倍首相は 「戦後レジームからの脱却」 を掲げることで、その枠組みの一方である平和憲法の法体系を全面的に破壊し、 もう一方の安保体系の全面的な展開・確立を実現しようとしている。 9条明文改憲に失敗し、さらにその弥縫策としての96条先行改憲にも失敗した安倍首相は、直近の明文改憲実現を断念し、 集団的自衛権の憲法解釈の変更によって、憲法9条の縛りを解き放とうと決心した。 参院選後の安倍政権の改憲のターゲットはこれに尽きる。安倍はこれを第2次安倍政権の 「歴史的使命」 と自任して、 国会における多数議席の力にまかせて、しゃにむに突っ走ろうとしているのである。安倍政権の容易ならない特異性はここにある。

  「積極的平和主義」 の看板で
        「積極的」 に軍事的緊張を激化させる

  国家安全保障会議(日本版NSC)設置法と秘密保護法を強行採決した秋の185臨時国会を終えて、わずか1週間後の12月17日、 安倍政権は戦後の平和憲法下で初めての 「国家安全保障戦略」(NSS)と、3年前に策定された 「防衛大綱」 と 「中期防衛力整備計画」 の変更を閣議決定し、 「各種事態の抑止と対処のため、『統合機動的防衛力』 を構築」 する方向に国政の舵を切った。 この特徴は中国や北朝鮮を念頭においた 「安全保障環境の変化」 を振りかざして、 自民党を中心とする歴代政権のもとで長期に採用されてきた憲法解釈=「専守防衛」 路線を精算し、 集団的自衛権の行使と一体の 「積極的平和主義」 を基本理念としていることである。 いわく、日本は 「複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している」、「わが国の平和と安全はわが国一国では確保できない、 国際社会で積極的平和主義による一層積極的な役割を果たす」 必要があるというものである。 そのため日本版NSCが外交・防衛の司令塔として日常的に一体的に運用され、軍事力をその政策手段の基本に据えるというものだ。

  決定された国家安全保障戦略は、「国家安全保障の最終的な担保となるのは防衛力であり、これを着実に整備する」 と述べて、 憲法前文の 「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、 平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」 という、 武力に拠らない平和の実現という立場を全く否定している。尖閣諸島問題など領土問題をめぐる安倍政権の対応は、まさにこうしたものである。 今回、道を開いた敵基地攻撃能力や海兵隊的機能の保有、オスプレイの大量配備などはその軍事的担保である。

  安倍首相が2013年9月の国連総会演説で全世界に向かって宣言した 「積極的平和主義」 は、本質的に言えば軍事力を担保とし、 集団的自衛権の行使を前提にした日米同盟の抑止力・対処力に依存するものであり、軍事力による平和の維持・構築という考え方である。 安倍政権はこれを今回のNSSで 「10年先まで見越した、日本の進路」 として策定し、新防衛大綱や中期防でその具体的な諸方策を示した。

  たしかに今回閣議決定された諸文書には 「集団的自衛権の行使」 という文字はない。 これは連立与党の公明党に対する政治的配慮であって、ジグソーパズルの真ん中の一片のみが空いている図である。 このことは安倍首相にとっては痛恨事であり、彼は通常国会の後半までに公明党を脅し、すかしで説得して、 パズルのピース(集団的自衛権の行使という用語)をはめこんで安倍の 「戦争する国」 の10年戦略を完成させようとするだろう。

  185臨時国会での戦争準備法制の強行
  2013年10月15日から始まった第185臨時国会は、会期を2日延長した上、12月8日に閉会した。 安倍内閣は 「臨時国会」 であるにもかかわらず、国の基本問題に関わる重要法案、国家安全保障会議設置法、 特定秘密保護法などを世論の批判と疑問が極めて大きく表明されるなか、短期間に審議も尽くさないままに与党などの多数で強行採決を行った。

  11月27日、参院本会議で自民、公明、民主、みんな、日本維新の会の各党などの賛成で強行可決されたNSC設置法は、首相が議長となり、 官房長官、外相、防衛相の4者会合を中核とし、外交・安全保障政策の基本方針や中長期的な戦略を決める司令塔的機関だ。 これは6日に参院で自民、公明の賛成で強行採決された秘密保護法、186通常国会で政府自民党が成立を予定している 「国家安全保障基本法」 とともに、 集団的自衛権についての憲法解釈を変えて 「戦争する国」 を準備するための法制度だ。 安倍政権はNSC設置法案をほとんど国民的議論がされないうちに採決したのにつづいて、秘密保護法案を異常なスピードで強行した。 秘密保護法は国の安全保障に関して特に重要な情報を 「特定秘密」 に指定し、それを取り扱う人を調査・管理し、それを外部に知らせたり、 外部から知ろうとしたりする人などを処罰することによって、「特定秘密」 を守ろうとする、人権侵害と戦争準備の稀代の悪法だ。 国会を取り囲む巨大な人波の中で、その波及を極度に恐れた強行採決である。

  国会終了後、安倍政権は前項で述べた閣議決定を強行した。臨時国会といい、この閣議決定といい、麻生副総理が言った 「静かにやろう。 憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。だれも気づかないで変わった。 あの手口学んだらどうか」 を想起させるように、国会の議論を極力避け、世論を恐れながら、強行されたのである。

  秘密保護法に反対する民衆運動の画期的な高揚
  2013年秋の秘密保護法に反対する民衆のたたかいは画期的な高揚を示した。 当初、運動の主体の側には 「なかなか問題が一般に浸透しにくい」 と嘆く声もあったが、秘密保護法に反対する運動は10月後半からは急速に燃え広がった。

  10月中旬、従来から盗聴法に反対してきたグループや私たちのような憲法関連の市民運動などによって、 「『何が秘密? それは秘密』 法に反対するネットワーク」(略称・秘密法反対ネット)が結成されたことを契機に、この市民運動の努力で、 11月21日に1日共闘形態で大規模な秘密法反対集会を開こうとの呼びかけと準備が始まった。

  11・21実行委員会には秘密法反対ネットを中心に新聞労連、平和フォーラム、5・3憲法集会実行委員会、 秘密法に反対する学者・研究者連絡会などが 「呼びかけ5団体」 として結集し、これを軸に様々な市民団体やグループが参加して、 「STOP! 秘密保護法11・21大集会実行委員会」が結成された。 この実行委員会の特徴は、従来の諸課題での共同闘争の枠組みを大きく超える形での結集が実現したことであり、 労働組合の分野では新聞労連など中立系組合と平和フォーラムなどに結集する連合系労組や、5・3実行委員会などに加わっている全労協、 全労連などが参加し、共同したことだ。そしてこの運動を弁護士の強制加入団体である日本弁護士連合会が 「後援」 するという決定をして、 共同したことだ。この幅広い仕組みの運動に呼応して、全国各地で集会やデモなどの行動が行われた。
  21日の日比谷野外音楽堂の集会は会場が満員になり入場封鎖するほどで、参加者数は会場内外に9000人に上った。 会場では 「市民個人席」 「市民グループ席」 が大きな割合を占めた。

  その後、この実行委員会は1日共闘から臨時国会会期中の秘密保護法に反対する共同行動機関(秘密保護法廃案へ!実行委員会)に再編された。 12月1日に開催された日本弁護士連合会による新宿駅西口の街頭演説会を 「実行委員会」 が 「後援」 して協力するという画期的なことも実現した。 国会の緊迫を反映して、この実行委員会は連続的に、12・2国会キャンドル行動(1500人)、 平日の正午からの12・4国会包囲ヒューマンチェーン(6000人)、参議院特別委員会の強行採決時には12・5国会前集会(昼、夜)と多彩な形態で継続され、 参院本会議の強行採決を前にした12・6日比谷野外音楽堂の集会(日弁連が後援)には、前回を大きく上回る15000人が参加し、 その後、人波は夜遅くまで国会を包囲した。

  一方、この間、学者や研究者、芸術家、文化人、報道界、宗教者など多くの著名人の団体も、連日のように次々と反対を表明した。 これらの動きを主要メディアが連日、報道した。大量のチラシはもとより、ツイッター、フェイスブック、 ブログなどインターネット・メディアも運動の伝播に大きく貢献した。

  国会の周辺は連日、市民のロビイストや抗議の人波が絶えることがなかった。このような政治運動の高揚は実に久方ぶりのことであった。
  衆議院段階では議席の数に任せて強行突破した安倍政権は、こうした院外の情勢を反映して参議院段階では動揺し、 秘密法の監視機関の設置などの弥縫策を相次いで打ち出したり、5日には本会議強行採決を断念した。 安倍政権は会期末の6日ギリギリの場面で2日間の国会延長策を担保にして、参院本会議で強行採決にでた。

  特徴的なことは、採決の翌日からも秘密保護法反対の運動は全国各地・各分野で絶えることなくつづき、実行委員会も 「秘密保護法廃止へ! 実行委員会」 と名称が変更され、通常国会に向けた運動が準備されていることだ。 12月10日の報道では共同通信の世論調査で、内閣支持率が10ポイント以上急落し、47%になったとある。 秘密保護法への反対は60%だった。これは第2次安倍政権の終わりの始まりであるといってよい。

  安倍政権の 「戦争」 政策と対決する多様で、広範な運動を
  憲法の3原則を擁護し、その実現のために、とりわけ9条に代表される平和主義を掲げて微力を尽くしてきた私たちの市民運動は、 2014年の年頭にあたり、その真価が問われていることを痛感している。
  前項の結論で 「第2次安倍政権の終わりが始まった」 と書いた。これを文字通り現実のものとできるかどうか。 1月24日からの第186通常国会ではそれが問われている。最大の焦点は安倍政権がねらう集団的自衛権の憲法解釈の変更を阻止する課題である。 自民党の国家安全保障基本法の動きは、基本法という立法による憲法の破壊である。 総意工夫をして、広範で、多様な運動を作り、世論を盛り上げ、たたかわなくてはならない。 合わせて、沖縄では名護新基地建設のゆくえを左右する名護市長選挙と、東京では猪瀬前都知事の辞職による知事選が始まった。 これらは安倍政権の 「戦争する国」 への道に反対する極めて重要な新年最初のたたかいとなった。

  私たちが直接関わりを持つ具体的な日程を列挙しておく。1月18日・市民憲法講座(集団的自衛権問題)、1月19日・名護市長選投票日、 1月24日・通常国会開会日(秘密保護法廃止! 1.24国会大包囲、同院内集会、5.3憲法集会実行委員会院内集会)、 2月9日都知事選投票日(予定)、2月16〜17日・許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会、3月8日・原発のない福島を県民大集会、 3月15日・さようなら原発集会などなど、諸課題が目白押しになっている。これらの運動を、安倍政権の打倒に向かって大きく連携させていかなくてはならない。
  新年、私たちは全国各地の市民運動など各界の仲間と協力して、この国の 「戦時」 を招かないための歴史的課題を闘い抜きたいと願っている。
(高田健 「私と憲法」 152号所収)