2008.3.10

夜回り先生の講演を聞いて
(弁護士会主催 「憲法改正と心の支配」 より)

2008.3.10 相川早苗

  2008年2月9日(土) 弁護士会館で行なわれた 「憲法改正と心の支配」 というシンポジウムに参加しました。
  夜回り先生として知られる水谷修さんの基調講演 「子どもの自主性」 を聞いて、子どもたちの心に深い傷をつける人権侵害の実状に驚きました。 水谷さんの淡々とした語り口の中からは、たくさんのメッセージを伝えたいとの強い思いがひしひし感じられました。


  水谷さんの講演内容は以下のようなものでした。

  虐待・過剰期待・レイプ・心に傷を負った子どもたち。大人を信用せず、現実から逃れるように夜の街で過ごす。 社会に背を向け、麻薬・シンナー・ドラッグに浸る。生まれたとき、この子たちはこうなりたいと思ってはいなかったはず。
  大人から受け続けてきた仕打ちから、夜の世界に逃げ込んできた。社会のひずみは、一番弱い子どもたちに向けられる。

  服装も行動も何の問題もない女学生が水谷さんの元へ来て、泣きながら見せた腕には無数のリストカットの痕。 夜の街に逃げることの出来ない子どもは、ひっそりと自分で自分を切り刻む。最初の数日間、痛みはあるがそれから後は痛みもなく、一種の快感になっていく。 夜回りでは見つけることの出来ない子どもたち。
  水谷さんはマスメディアに出ることを決意、自宅電話番号とメールアドレスを公開する。子どもの7%がリストカットをし、そのうちの95%が女の子。 ぼろぼろになった心に向かい、生きていくために傷をつけ、流れる血を見つめる。

  家庭不和や仕事での鬱憤を子どもに当たり、学歴重視のなか悪い成績を叱られる。多くのいいところは褒められず、いつも欠点だけを叩かれ、 子どもたちにとって家庭は安らぎの場ではなくなる。彼らは夜の街へ、薬へ、リストカットへと向かう。

  金曜日と日曜日は 「魔の日」。ぼろぼろの心を引きずって、やっと平日が終わった 「金曜日」。 明日から又もっとぼろぼろになるのだろう、絶望の1週間が始まる前の 「日曜日」。自殺が最も多い…

  子どもの人権侵害の多くは家庭と学校で起きている。

  子どもたちの生きる場は家庭と学校なのに…


  以上のような水谷さんの講演を聞いて、水谷さんは傷ついた子どもたちの代弁者であり、水谷さんの眉間に深く刻まれた縦じわは、 子どもたちを傷つける大人や社会への深い怒りに思われました。

  私には三人の息子がいます。ですから家庭や学校でいかに容易に子どもの人権侵害が行なわれるか想像がつきます。 多くの場合、親や学校の先生は自分の犯す人権侵害に気づいていません。「子どもの為」 という大義名分のもと、子どもの心を傷つけるのです。

  社会格差・教育の崩壊など、子どもの生きる場はおとなのエゴに覆われています。子どもは失敗をしながら学び、学校や家庭は失敗をする場所のはずです。 それが今、失敗は許されず、厳罰化が一般的な意見を占め、家庭でも学校でも法律でも、どんどん子どもを追い詰めていきます。 自分がその年齢だったころを思い出してみれば、子どもへの理解の幅が広がると思います。

  蛙の子は蛙です。
  親の言ったようには子は育たず、親のしたように子は育つと習いました。いい子に育てるためには親がそのような背中をみせ、子どもには褒めていればいいわけです。 小言は反抗心を育てるものです。小言を言うのではなく穏やかに教えてあげるのがいいのです。

  このように教わっていてもどれも実行するのはなかなか難しい…。うちの息子は今春で三人が大学生になります。 振り返れば小言も言ったし、褒めることも少なかったし、完全に出来たことは何一つありませんでした。私も失敗だらけです。

  「私だっていっぱい失敗をするのだから、あなたの失敗は許せるわ。あなたもいっぱい失敗するのだから、私の失敗も許してね。 お互いに失敗から大切なものを学びましょうね」。という家庭や社会のなかで子どもを育てたら、その子どもが大きくなったとき、 今よりずっと良い社会をつくってくれるでしょう。
  私もこれから益々努力をしていかなければいけないと感じました。

2008.3.10