2008.9.7

裁判員制度と市民の視点


1、裁判員制度の導入と「裁判の公開」
  8月から始まった裁判員裁判では、法廷の様子がこれまでの刑事裁判とは大きく変わった。 これまでは、傍聴席から法廷を見ていても、法律の専門家ではない市民は何が行われているのかよくわからなかった。 見ていてもわからない理由は、裁判が法律の専門家だけにしか理解できないような難しい言葉と手続きで進められていたことだけではない。 これまでの刑事裁判では、裁判官が法廷の終わった後で、裁判官室や自宅で被告人や証人の供述調書などの書類を読み込んで判断する比重が高かった。 だから、法廷を傍聴しただけでは何が行われているのかわからない場合が多かったのである。

  「裁判の公開」 は、公正な裁判が行われているか市民が監視、検証するために憲法に定められている原則である。 しかし、これまでは公開されていても、それを見ている人には内容がわからない状況であり、 公正な裁判が行われているか市民が実質的に監視や検証をすることはできなかった。ところが、この状況が裁判員制度の導入によって大きく変わった。 法律の専門家ではない裁判員が参加することになり、法廷で見て聞いてわかる審理をする必要が生まれたからである。 法廷を傍聴した市民は、裁判員とほぼ同じ情報を得られる。 そのため、傍聴した人であれば、自分が見た証拠に基づいて判決の内容についても批判や議論を行うことができるようになる。 裁判員制度の導入により、憲法で定められている「裁判の公開」が市民にとって実質的な意味を持ち始めたのである。

2、「裁判員制度市民モニター」の取り組み
  一般社団法人裁判員ネット では、 裁判員裁判を市民の視点からチェックする 「裁判員制度市民モニター」 を、全国各地からインターネット等を通じて募集している。
  裁判員ネットでは市民モニター用の アンケート用紙 を作成して、 ホームページから誰でも入手できるようにしている。 裁判員裁判を傍聴してアンケート用紙を記入し、それを裁判員ネットの事務局に FAX すれば、誰でも市民モニターを務めることができる。 アンケート用紙は、裁判の流れに沿って書き込むことができ、検察側や弁護側の立証のわかりやすさ、 裁判官の審理の進め方など約30項目を4段階で評価するようになっている。また、判決の内容についてもどのように感じたか記入できる。 裁判員ネットでは、8月に東京地裁で行われた第1号裁判員裁判から取り組みを始めて、さいたま地裁での第2号裁判員裁判、 青森地裁での第3号裁判員裁判でも市民モニターを実施した。 これから全国各地で行われる裁判員裁判でも、市民モニターとして傍聴した結果を集めて公表する予定である。

  実際に自分の目で裁判員裁判を見る効果は大きい。市民モニターを通じて市民の司法に対する理解、すなわち 「司法リテラシー」 が向上することも期待できる。 裁判員候補者の中にも、自分が裁判員になる前に、市民モニターとして一度裁判員裁判を見ておきたいという人もいるはずである。
  裁判員裁判には必ず市民モニターがいるという状態になれば、裁判の公開が実質的に大きく進むことになる。これは司法への新しい市民参加の回路である。 始まったばかりの裁判員裁判がどのように運用されているのか、市民の視点からチェックすることができる。 このように市民の声を集めることで、裁判員制度の見直しの際に、法律の専門家だけではなく、裁判員になるかもしれない市民の視点を活かすこともできる。
  裁判員制度市民モニターは、市民の視点から裁判員制度を検証する試みである。 法律の特別な知識は必要ないので、関心のある方はぜひ市民モニターとして協力していただければ幸いである。

                      一般社団法人裁判員ネット
                       代表 大城 聡 (弁護士)

<今後の裁判員裁判の予定>
神戸地裁(殺人未遂) 9月7日〜9日
山口地裁(殺人未遂) 9月8日〜9日
大阪地裁(覚せい剤取締法違反) 9月8日〜9日
さいたま地裁(強盗傷害) 9月8日〜11日
福岡地裁(覚せい剤取締法違反) 9月9日〜11日
和歌山地裁(強盗殺人) 9月14日〜16日
千葉地裁(強盗傷害) 9月14日〜18日 ※16日は休廷
津地裁(強盗傷害) 9月15日〜18日
福岡地裁(殺人) 9月15日〜18日
横浜地裁(覚せい剤取締法違反) 9月28日〜30日
横浜地裁(殺人) 9月29日〜10月1日
さいたま地裁(現住建設物等放火) 9月30日、10月1、2、5日
大阪地裁(覚せい剤取締法違反) 10月5日〜7日
徳島地裁(殺人・現住建造物放火) 10月6日〜8日
福井地裁(強盗致傷) 10月6日〜9日
岐阜地裁(殺人未遂) 10月6日〜9日
名古屋地裁(傷害致死) 10月6日〜9日
岡山地裁(殺人未遂) 10月6日〜9日
秋田地裁(現住建設物等放火未遂) 10月7日〜9日
福岡地裁(強制わいせつ致傷) 10月20日〜22日
富山地裁(殺人) 10月下旬見込
宮崎地裁(現住建造物等放火) 10月上旬見込