日本平和学会有志による声明
2007年7月2日

内閣総理大臣  安倍 晋三 殿
警察庁長官    漆間  巌  殿

在日本朝鮮留学生同盟への強制捜査に対する平和学会有志声明

  2007年4月25日、警視庁は1973年に発生した拉致疑惑事件に関する容疑で、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)の傘下団体「在日本朝鮮留学生同盟」(留学同)への強制捜査を強行しました。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への制裁措置に並行する一連の強制捜査の一環として行われた本件強制捜査は、高等教育機関に在籍し学ぶ、本会会員も含む在日朝鮮人学生らの研究・教育の権利を著しく侵害するものであり、私たち平和学研究者にとって、また高等教育の現場に身を置き学生たちの育成に従事する者にとって、看過することのできないものです。

  留学同は、日本の大学・大学院・短大・専門学校で学ぶ在日朝鮮人学生らが参加する団体であり、その活動主体は現役の学生たちです。一方、捜査対象となった事件が発生したのは実に34年も前のことです。たとえ容疑者が学生時代に留学同に所属していたとしても、そのことをもって、その当時に生まれてもいない若者たちがメンバーである学生団体そのものに「工作員の人材供給源」との嫌疑をかけ強制捜査するなど牽強付会の極みであり、在日朝鮮人学生を北朝鮮との外交交渉における「人質」として、彼ら彼女らに対する「犯罪集団」イメージを刻印することを目的とした暴挙であると言わざるを得ません。

  留学同のメンバーは日本で生まれ育ち、日本の大学等で他の学生たちと机を並べ、未来への夢と希望をもって学ぶ、普通の若者たちです。自己の民族性とその具現としての国籍を大切にする以外は日本の学生となんら変わらない彼ら彼女らに、どうして朝鮮国家の行為の責を負わせることができるのでしょうか。

  本件強制捜査がメディアで大々的に報道され、「在日朝鮮人学生団体=拉致容疑団体」というイメージが広範に流布されたことで、何十年も前の拉致事件とは何ら関係のない在日朝鮮人学生らのキャンパス生活が、敵意と差別の視線に晒された重苦しく肩身の狭いものになることは、現下の社会情況から容易に想像できることです。それによって、どれだけ彼ら彼女らの心が傷つけられ、どれだけ恐怖心を与えるか、警察や政府は想像できないのでしょうか。これによって、在日朝鮮人学生が研究者として大成する芽を断たれる事態さえ生起しうることを、私たちは研究者・教育者として深刻に憂慮するものです。

  日本で生まれ育った在日朝鮮人の若者が民族や祖国を追求する原点は日本の植民地支配にあることを、日本人は無視してはならないはずです。拉致問題は、6カ国協議の「共同声明」(2005年9月19日)および「初期段階の措置」声明(2007年2月)がいみじくも指摘するように、「行動対行動の原則」に従い「不幸な過去を清算し懸案事項を解決すること」を並行して行い、日朝間の正常な国家間関係を醸成することによってこそ、真の解決を見出せるでしょう。在日朝鮮人への暴力的な迫害はその道に逆行し、拉致問題の最終的解決はもちろん、北東アジアの平和をも脅かすものであると私たちは強調します。

  以上の観点から、私たちは留学同への不当な強制捜査に抗議し、二度とこのような暴挙を繰り返すことのないよう、強く訴えるものです。
 
以上

日本平和学会会員有志(48名)

阿部浩己(神奈川大学)、安部雪乃(愛媛大学大学院)、新崎盛暉(沖縄大学)、ロニー・アレキサンダー(神戸大学)、石井摩耶子、石川捷治(九州大学)、石原昌家(沖縄国際大学)、内海愛子(日本平和学会会長)、漆畑智靖(恵泉女学園大学)、岡本三夫(岡本非暴力平和研究所)、小倉利丸(ピープルズ・プラン研究所)、勝俣誠(明治学院大学)、木戸衛一(大阪大学)、楠原彰(國學院大学)、越田清和(さっぽろ自由学校「遊」)、小島健太郎(成蹊高校)、小西英央(法律文化社)、小松仁美(淑徳大学大学院)、佐々木寛(新潟国際情報大学)、佐竹眞明(名古屋学院大学)、佐藤直己(品川無防備平和条例の会)、佐渡友哲(日本大学)、下羽友衛(東京国際大学)、清水竹人(桜美林大学)、鈴木規夫(愛知大学)、多賀秀敏(早稲田大学)、高橋清貴(恵泉女学園大学)、高林敏之(西サハラ問題研究室、四国学院労働組合)、鶴田雅英、勅使河原香世子(フェリス女学院大学)、戸ア純(首都大学東京)、戸田清(長崎大学)、戸田三三冬(マラテスタ研究センター)、中野瑞紀(中央大学)、西川潤(早稲田大学名誉教授)、朴根好(静岡大学)、蓮井誠一郎(茨城大学)、藤岡美恵子(法政大学)、藤田秀雄(立正大学名誉教w)授)、船越耿一(長崎大学)、古沢希代子(東京女子大学)、堀芳枝(恵泉女学園大学)、ゴードン・サイラス・ムアンギ(四国学院大学)、武者小路公秀(大阪経済法科大学)、村井吉敬(上智大学)、山根和代(高知大学)、横山正樹(フェリス女学院大学)、渡邉智明(九州大学)