和解所見に対する全国原告団の声明

2011年1月22日  
全国B型肝炎訴訟原告団

1 はじめに
(1) 私たちは、本日、本年1月11日に札幌地方裁判所から出されたB型肝炎訴訟の和解所見(「基本合意案」)をうけて、 この和解所見に従った和解が可能か否か検討しました。
  和解所見は、特にキャリア被害者に対し恋愛や結婚での差別を受けた被害、就職差別を受けた被害、 肝炎のみならず肝ガンを発症する不安に襲われた被害を埋めあわせるのには救済内容が不十分であるなど、 私たちが本件訴訟で求めてきたものからすれば決して満足できるものではありません。 現にキャリア原告から受け入れ困難との意見も出されました。他方、病状重篤な原告も多く、一刻も早い解決を求める意見も多く出されました。 また、和解所見には感染被害を発生、放置してきた国の責任について言及されていないことの不十分性を指摘する意見、 発症後20年経過の被害者の扱いが明確でないとの意見も出されました。

(2) これらの意見を集約し、討論した結果、私たちは、次の結論に至りました。
  和解所見に示された和解の要件と水準については、早期解決のために苦渋の選択ではあるが、基本的には受け入れる、 しかし、和解実現のためにはなお解決されるべき課題が多く残されており、 以下の諸点の実現・解決が、実際に国との間で和解の基本合意を締結する前提条件であることを確認しました。

2 被害者の全員救済の実現
(1) 予防接種を受けた事実について不可能な証拠提出等を求めないこと
  被害者認定の最大の問題は、国が、集団予防接種を受けた事実として、母子手帳や予防接種台帳などの提出に固執してきたことです。 しかし、幼少期の予防接種は法律で強制され、多数の機会があったから、ほとんど全ての国民は受けています。
  和解所見は、陳述書などによる代替立証を認めており、全員救済に道を開きました。 しかし、国が数十年前の接種の事実に関して原告らに不可能な証拠の提出を求めることがあっては、全員救済は実現しません。 全員救済が現実のものとなるように、陳述書の記載内容やその余の因果関係・病態認定方法を含む和解所見の具体化について、 国が原告団・弁護団との間で、さらなる協議・確認を行うことを求めます。

(2) 20年以上苦しんでいる慢性肝炎発症患者を切り捨てないこと
  国は除斥期間を強く主張していますが、慢性肝炎を実際に発症し、20年以上の闘病生活を強いられている被害者までもが切り捨てられるのは、 「長く苦しんだものほど救済から排除される」 ことになり、絶対に認められません。この点にこそ、立法を含む政治による解決を求めます。

3 国の加害責任に基づく謝罪等
(1) 被害者は何の落ち度もなく大きな被害を受けてきました。国は、国民に対して、 集団予防接種による加害と被害の事実とその後の放置・隠蔽の事実を正確に説明して理解を求めたうえで、被害者に対して謝罪すべきです。
 私たちは、国が、加害責任に基づく真摯な謝罪を行うよう求めます。

(2) そして、国民全体に対する危険な注射器の使い回しの結果、多数の持続感染者(キャリア)は、 いまだに自分が集団予防接種の被害者であることはおろか、持続感染者であることすら気づいていません。
  国は、直ちに全国民に謝罪し、自分が被害者でないかを確認するためにB型肝炎検査を受けるよう、徹底的な宣伝行動を行い、 被害者に治療を受ける機会を与えて、誠実に償う姿勢を示すよう求めます。

(3) また、国はまたも財源論を強調し、不当に過大な金額をあげてさらには増税論までちらつかせて国民を惑わせ、 国民と被害者の間にくさびを打って再び原告ら被害者を苦しめようとしています。 このような国の態度は被害者に対する差別・偏見をいっそう助長するおそれがあります。 国民に対して、集団予防接種による国の加害責任を正確に説明することなく、被害者への謝罪もしない現在の政府の姿勢は、決して許すことができません。

4 全面解決のために必要な施策
(1) 原告ら集団予防接種によるB型肝炎被害者は、病気そのものによる被害のみならず、故なき差別・偏見で苦しめられています。 集団予防接種による加害事実を隠蔽し、救済を長期間放置してきた加害者としての国が、 集団予防接種の加害と被害の正確な事実関係の説明を国民に対して行い、 正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策(医療機関・医療従事者の対応についての指導・教育を含む)をとることは、 加害者としてなすべき当然の責務です。「私はB型肝炎患者です。」 と普通にいえる社会が実現してこそ被害者にとって本当の解決といえます。
  また、本件の真相究明と再発防止策も不可欠です。
  そして、キャリアを含む全てのウイルス性肝炎患者が、安心して検査・治療を受けて生活ができ、 さらなる治療薬の研究開発や治療体制の充実がなされることなどの恒久対策は、本訴訟の大きな目的です。
  私たちは個人の賠償の問題ではなく、これらの対策が少しでも実現できるようにと考え活動してきました。 私たちはこの恒久対策をさらに進める活動を今後も行っていきます。

(2) これらの施策について国が真摯に対応することを約束し、その実現のための原告団・弁護団と政府との協議機関を設置することを求めます。

5 和解実現に向けての今後の対応
  以上のとおり、裁判所の和解所見を前提にしつつも、和解実現のための大きな課題が未だ残されているとの確認にもとづき、 全国B型肝炎訴訟原告団は、残された課題の解決によって、和解実現に向けて行動します。
以上