ジュネーブ協定 1929年
俘虜ノ待遇ニ關スル條約（假譯）
（千九百二十九年 （昭和四年） 七月二十七日 「ジュネーヴ」 ニテ署名）
獨逸國大統領 （以下締約國元首省略）
戰爭ナル極端ノ場合ニ於テ能フ限リ其ノ避クベカラザル慘害ヲ輕減シ且俘虜ノ状態ヲ緩和スルコトハ一切ノ國ノ義務タルコトヲ認メ
「ヘーグ」 ノ國際條約殊ニ戰爭ノ法規慣例ニ關スル條約竝ニ之ニ附屬スル規則ヲ作成シタル原則ヲ擴張センコトヲ欲シ
之ガ爲條約ヲ締結スルコトニ決シ左ノ如ク各其ノ全權委員ヲ任命セリ （全權委員名略）
因テ各全權委員ハ互ニ其ノ全權委任状ヲ示シ之ガ良好妥當ナルコトヲ認メタル後左ノ如ク協定セリ
第一編 總則
第一條 本條約ハ第七編ノ規定ヲ害スルコトナク左ノ者ニ適用セラルベシ
（一） 陸戰ノ法規慣例ニ關スル千九百七年十月十八日ノ 「ヘーグ」 條約附燭規則第一條、第二條及第三條ニ掲クル一切ノ者ニシテ敵ニ捕ヘラレタル者
（二） 交戰當事者ノ軍ニ屬シ海戰又ハ空戰中ニ於テ敵ニ捕ヘラレタル一切ノ者但シ捕獲ノ状況ガ本條約ノ適用ヲ不可能ナラシムル場合ハ
比ノ限ニ在ラズ然レドモ右ノ除外ハ本條約ノ基本的原則ヲ害スルコトヲ得ズ捕ヘラレタル者ガ俘虜収容所ニ達シタルトキハ直ニ右ノ除外ハ消滅スベシ
第二條 俘虜ハ敵國ノ權内ニ屬シ之ヲ捕ヘタル個人又ハ部隊ノ權内ニ屬スルコトナシ
俘虜ハ常ニ博愛ノ心ヲ以テ取扱ハルベク且暴行、侮辱及公衆ノ好奇心ニ對シテ特ニ保護セラルベシ
俘虜ニ對スル報復手段ハ禁止ス
第三條 俘虜ハ其ノ人格及名誉ヲ尊重セラルベキ權利ヲ有ス婦人ハ女性ニ對スル一切ノ斟酌ヲ以テ待遇セラルベシ
俘虜ハ其ノ私權ノ完全ナル享有能力ヲ保持ス
第四條 俘虜捕獲國ハ俘虜ヲ給養スルノ義務ヲ負フ
俘虜ノ待遇ノ差別ハ其ノ待遇ヲ受クル者ノ軍事的階級、肉體的又ハ精神的健康状態、職業的技能又ハ性ノ區別ニ基クニ非ザレバ不法トス
第二編 捕 獲
第五條 俘虜ハ其ノ氏名及階級又ハ登録番號ニ付訊問ヲ受ケタルトキハ實ヲ以テ答フベキモノトス
若右ノ規定ニ背クトキハ同種ノ俘虜ニ與ヘラルル利益ヲ制限セラルルコトアルベシ
俘虜ノ所屬軍又ハ其ノ國ノ状況ニ關スル情報ヲ獲得スル爲俘虜ニ何等ノ拘束モ加ヘラルルコトナカルベシ囘答ヲ拒絶スル俘虜ハ脅迫、
侮辱ヲ受クルコトナカルベク又如何ナル性質タルヲ問ハズ不愉快又ハ不利益ヲ被ラシメラルルコトナカルベシ
俘虜ニシテ肉體的又ハ精神的理由ニ依リ其ノ身分ヲ示スコト能ハザル者ハ衞生部ニ委託セラルベシ
第六條 個人用ノ衣類及物品 （武噐、馬匹、軍用裝具及軍用書類ヲ除ク） 竝ニ金屬兜及瓦斯豫防 「マスク」 ハ俘虜ノ保有タルベシ
俘虜ノ所持スル金銭ハ將校ノ命ニ依リ且金額ヲ檢證シタル後ニ非ザレバ取上グルコトヲ得ザルベシ取上ゲタル金額ニ付テハ受取證ヲ交付スベシ
右金錢ハ各俘虜ノ勘定ニ記入セラルベシ
身分證明書、階級ノ徽章、勳章及貴重品ハ俘虜ヨリ取上グルコトヲ得ザルベシ
第三編 拘 束
第一款 俘虜ノ後送
第七條 俘虜ハ危險圏外ニ置カルル爲捕獲後成ルベク速ニ戰鬪區域ヨリ充分遠ザカリタル地域ニ在ル收容所ニ後送セラルベシ
俘虜ニシテ負傷又ハ病氣ノ爲後送スルコトガ現地ニ留ルヨリモ一層危險ナル者ニ限リ一時危險區域ニ留置セラルルコトヲ得ベシ
俘虜ハ戰鬪區域ヨリ後送セラルル前無益ニ危險ニ曝サルルコトナカルベシ
徒歩ニ依ル俘虜ノ後送ハ通常一日二十キロメートルノ旅程ヲ以テ爲スベキモノトス但シ水及食料ノ貯蔵所ニ到達スル必要上一層長キ旅程ヲ必要トスル場合ハ比ノ限ニ在ラズ
第八條 交戰者ハ第七十七條ニ規定スル俘虜情報局ヲ通ジ成ルベク速ニ一切ノ俘虜ノ捕獲ヲ相互的ニ通告スルノ義務ヲ有ス
交戰國ハ又俘虜ニ宛テタル家族ノ通信ノ到達スベキ公ノ宛名ヲ相互的ニ通告スルノ義務ヲ有ス
一切ノ俘虜ハ成ルベク速ニ第三十六條及以下ニ規定スル條件ノ下ニ自ラ家族ト通信スルコトヲ得セシメラルべシ
海洋ニ於テ捕ヘラレクル俘虜ニ關シテハ本條ノ規定ハ港ニ到着後成ルベク速ニ適用セラルベシ
第二款 俘虜收容所
第九條 俘虜ハ一定ノ地域外ニ出デザル義務ヲ負ハシメテ之ヲ都市、城塞其ノ他ノ場所ニ留置スルコトヲ得ベシ俘虜ハ
又垣ヲ繞ラセル營内ニ留置スルコトヲ得ベシ幽閉又ハ禁足ヲ已ムヲ得ザル保安又ハ衞生上ノ手段トシテ且該手段ヲ必要トスル事情ノ繼續中ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得ベシ
不健康地ニ於テ又ハ氣候温和ナル土地ヨリ來レル者ニ對シ有害ナル氣候ノ地ニ於テ捕ヘラレタル俘虜ハ成ルベク速ニ一層良好ナル氣候ノ地ニ移サルベシ
交戰者ハ同一收容所内ニ異人種又ハ異國籍ノ俘虜ヲ収容スルコトヲ出來得ル限リ避クベシ
俘虜ハ如何ナル時タルヲ間ハズ戰鬪區域ノ戰火ニ曝サルベキ地域ニ移送セラルルコトナク又其ノ所在ニ依リ或地點又ハ或地域ヲ砲爆撃ヨリ避ケシムル爲ニ利用セラルルコトナカルベシ
第一章 俘虜收容所ノ設備
第十條 俘虜ハ衞生及保健ニ付出來得ル限リノ保障アル建物又ハ假建物内ニ宿泊セシメラルベシ
該宿泊所ハ全然濕氣ヲ避ケ、必要ノ程度ニ保温且照明セラルベシ火災ノ危險ニ對シテハ一切ノ豫防法講ゼラルベシ
寢室 （總面積、最少氣容、寢具ノ設備及材料） ニ關シテハ捕獲國ノ補充部隊ニ對スルト同一候件タルベシ
第二章 俘虜ノ食糧及被服
第十一條 俘虜ノ食糧ハ其ノ量及質ニ於テ補充部隊ノモノト同一タルベシ
右ノ外俘虜ハ其ノ處分シ得ル食糧補足品ヲ自ラ調理スル手段ヲ供セラルベシ
飲料水ハ充分ニ供給セラルベシ喫煙ハ許サルベシ俘虜ハ炊事場ニ使役セラルルコトヲ得ベシ
食糧ニ關スル一切ノ團體的懲罰手段ハ之ヲ禁止ス
第十二條 被服、下着及靴ハ捕獲國ニ依リ俘虜ニ支給セラルベシ此等用品ノ交換及修理ハ規則的ニ爲サルベシ右ノ外勞働者ハ勞働ノ性質上必要ナル場合ハ何處ニ於テモ勞働服ヲ支給セラルベシ
各收容所内ニハ酒保ヲ設ケ俘虜ヲシテ地方的市價ヲ支沸ヒテ食料品及日用品ヲ購買シ得シムベシ
酒保ニ依リ收容所管理部ノ收ムル利益ハ俘虜ノ爲ニ利用セラルベシ
第三章 俘虜收容所ノ衞生
第十三條 交戰者ハ牧容所ノ清潔及衞生ヲ確保シ且傳染病豫防ノ爲必要ナル一切ノ衞生的措置ヲ執ル義務アルベシ
俘虜ハ生理的法則ニ適ヒ且常ニ清潔ニ保持セラレタル設備ヲ日夜供セラルベシ
右ノ外收容所ガ出來得ル限リ設備スベキ浴場及灌水浴場ノ外ニ俘虜ハ身體ノ清潔ヲ保ツ爲充分ナル水ヲ供給セラルベシ
俘虜ハ運動ヲ爲シ及外氣ニ當ル機會ヲ與ヘラルベシ
第十四條 各收容所ハ俘虜ガ其ノ必要トスルコトアルベキ有ラユル性質ノ手當ヲ受クルコトヲ得ベシ必要ニ應ジ隔離室ハ傳染病患者ノ用ニ供セラルベシ
治療ノ費用 （補缺用假裝置ノ費用ヲ合ム） ハ捕獲國ノ負擔タルベシ
交戰者ハ要求アリタルトキハ治療ヲ受ケタル一切ノ俘虜ニ對シ其ノ病氣ノ性質及期間竝ニ受ケタル手當ヲ示ス公ノ證明書ヲ交付スルノ義務アルベシ
交戰者ハ特別協定ニ依リ醫師及看護人ヲ收容所内ニ留メ置キ之ト同國籍ノ俘虜ヲ介抱セシムルノ權利ヲ相互的ニ有スルコトヲ得ベシ
俘虜ニシテ重病ニ罹リタル者又ハ其ノ病状ガ重大ナル外科手術ヲ必要トスル者ハ捕獲國ノ費用ヲ以テ此等俘虜ヲ治療スルコトヲ得ベキ一切ノ
軍用又ハ民間ノ病院ニ收容セラルベシ
第十五條 俘虜ノ醫學的檢査ハ少クモ月ニ一囘爲サルベシ該檢査ハ一般ノ健康状態及清潔状態ノ監督竝ニ傳染病特ニ結核及花柳病疾患ノ檢出ヲ目的トス
第四章 俘虜ノ智的及道徳的要望
第十六條 俘虜ハ軍事官憲ノ定ムル秩序及取締ニ關スル規定ニ服スルコトヲ唯一ノ條作トシテ其ノ宗教ノ遵行ニ付一切ノ自由ヲ與ヘラレ其ノ宗派ノ禮拜式ニ參列スルコトヲ得ベシ
俘虜ニシテ或宗派ノ司教タル者ハ該宗派ノ名稱如何ニ狗ハラズ自由ニ同宗派ニ屬スル者ノ間ニ宗教ヲ司ルコトヲ許サルベシ
第十七條 交戰者ハ出來得ル限リ俘虜ノ計劃スル智的及體育的娯樂ヲ奬勵スベシ
第五章 俘虜收容所内ノ規律
第十八條 各俘虜收容所ハ責任アル將校ノ管下ニ置カルベシ
俘虜ハ自國軍内ニ於テ自國人ニ關シ現ニ行ハルル規則ニ依リ定メラレタル禮式ノ外捕獲國ノ一切ノ將校ニ對シテ敬禮スル義務アルモノトス
俘虜タル將校ハ捕獲國ノ上級又ハ同階級ノ將校ニ對シテノミ敬禮スル義務アルモノトス
第十九條 階級ノ徽章及勳章ノ佩用ハ許サルベシ
第二十條 一切ノ規則、命令、通告及公告ハ俘虜ノ了解スル國語ヲ以テ通知セラルベシ訊問ニ關シテモ同樣ノ主義採用セラルベシ
第六章 將校及之ニ準スル者ニ關スル特別規定
第二十一條 戰爭開始後直ニ交戰者ハ相當階級ノ將校及之ニ準ズル者ノ間ニ於ケル待遇ノ平等ヲ確保スル爲ニ
各自國軍内ニ於テ使用セラルル稱號及階級ヲ相互的ニ通知スルノ義務ヲ有スベシ
俘虜タル將校及之ニ準ズル者ハ其ノ階級及年齢ニ相當スル敬意ヲ以テ待遇セラルベシ
第二十二條 將校收容所ノ用務ヲ辨ゼシムル爲將校ト同一軍ニ属スル兵卒タル俘虜ニシテ且出來得ル限リ同國語ヲ話ス者ヲ該將校收容所ニ派遣スベシ
右兵卒ノ數ハ將校及之ニ準ズル者ノ階級ヲ考慮シ充分ナル數タルベシ
該將校及之ニ準スル者ハ捕獲國ニ依リ支拂ハルル俸給ヲ以テ其ノ食糧及被服ヲ求ムベシ將校自身ニ依ル日用品ノ管理ハ諸般ノ便宜ヲ與ヘラルベシ
第七章 俘虜ノ金錢收人
第二十三條 交戰國間ノ特別協定特ニ第二十四條ニ規定スル協定ヲ留保シ俘虜タル將校及之ニ準ズル者ハ
捕獲國ヨリ該國軍ノ相當階級ノ將校ト同一ノ俸給ヲ受クベシ但シ該俸給ハ俘虜ガ其ノ勤務シタル國ノ軍ニ於テ受クル權利ヲ有スル俸給ヲ越過スルコトヲ得ズ
右俸給ハ出來得レバ月ニ一囘全額ヲ支拂ハルベク且捕獲國ノ負擔ト爲ルベキ支出ガ俘虜ノ利益ノ爲ナリシ場合ト雖モ該支出ノ爲何等減額ヲ爲スコトヲ得ズ
交戰者ハ右ノ支拂ニ適用セラルベキ爲替相場ヲ協定スベシ比ノ種ノ協定ナキトキハ戰爭開始ノ際ニ於ケル相場適用セラルベシ
俸給トシテ俘虜ニ爲サレタル一切ノ支拂ハ俘虜ノ服役シクル國ニ依リ戰爭終了後返濟セラルベシ
第二十四條 交戰者ハ戰爭開始後直ニ各種ノ階級及役種ノ俘虜ガ所持スルコトヲ許サルベキ現金ノ最高限額ヲ協定スベシ伜虜ヨリ取上ゲラレ
又ハ留保セラレタル超過額ハ俘虜ニ依リ爲サレタル預金ト同樣俘虜ノ勘定ニ記入セラルベク且其ノ同意ナクシテ他ノ種ノ貨幣ニ換ヘラルルコトナカルベシ
俘虜ノ勘定ノ貸方額ハ拘束ノ終了ニ際シ俘虜ニ支拂ハルベシ
拘束期間中俘虜ハ右金額ノ全部又ハ一部ヲ其ノ本國ノ銀行又ハ個人ニ移送スルニ付便宜ヲ供興セラルベシ
第八章 俘虜ノ移送
第二十五條 作戰ノ進行上必要ナラザル限リ傷病俘虜ハ旅行ニ依リ其ノ恢復ヲ妨ゲラルル虞アル間移送セラルルコトナカルベシ
第二十六條 移送ノ場合ニハ俘虜ハ其ノ新ナル目的地ヲ公ニ豫告セラルべシ俘虜ハ其ノ個人用品、通信及自己宛小包ヲ携帯スルコトヲ許サルベシ
舊收容所ニ宛テラレタル通信及小包ガ遲滞ナク俘虜ニ轉送セラルル爲有用ナル一切ノ措置執ラルベシ
移送セラレタル俘虜ノ勘定ニ屬スル預金ハ該俘虜ノ新居所ノ權限アル官憲ニ轉送セラルベシ
移送ニ依リ費サレタル費用ハ捕獲國ノ負擔タルベシ
第三款 俘虜ノ勞働
第一章 總 則
第二十七條 交戰者ハ將校及之ニ準ズル者ヲ除キ健康ナル俘虜ヲ其ノ階級及才能ニ從ヒ勞働者トシテ使役スルコトヲ得ベシ
尤モ將校又ハ之ニ準ズル者自己ニ適スル勞働ヲ慾スルトキハ出來得ル限リ之ヲ與フベシ
俘虜タル下士ハ特ニ報酬的作業ヲ要求セザル限リ監督勞働ニノミ服セシメラルベシ
交戰者ハ拘束期間ヲ通シ勞働災害ノ罹災者タル俘虜ヲシテ捕獲國ノ法制上同一種類ノ勞働者ニ適用セラルヘキ規定ノ利益ヲ受ケシムル義務アルモノトス
右捕獲國ノ法制上ノ理由ニ依リ右ノ如キ規定ノ適用ヲ受クルコト能ハザル俘虜ニ關シテハ該國ハ罹災者ニ對シ衡平ニ賠償スルニ適スル一切ノ措置ヲ執ルベキコトヲ
其ノ立法府ニ建議スル義務アルモノトス
第二章 勞働ノ組織
第二十八條 補獲國ハ個人ノ爲ニ働ク俘虜ノ給養、手當、俸給及勞銀ノ支拂ニ關シ全責任ヲ負フベシ
第二十九條 俘虜ハ何人ト雖モ肉體的ニ不適當ナル勞働ニ使役セラルルコトナカルベシ
第三十條 俘虜ノ一日ノ勞働時間 （往復時間ヲ含ム） ハ過度ナラザルベク且如何ナル場合ト雖モ該地方ニ於テ同一勞働ニ從事スル民間勞働者ノ爲認メラルル勞働時間ヲ
超過スルコトヲ得ザルベシ各俘虜ニ對シ毎週聯續二十四時間成ルベク日曜日ニ休養ヲ與ヘラルベシ
第三章 禁止勞働
第三十一條 俘虜ニ依リ爲サルル勞働ハ作戰行動ニ何等直接鬪係ナキモノタルベシ特ニ俘虜ヲ各種兵噐彈藥ノ製造及運搬竝ニ戰鬪部隊ニ宛テラレタル材料ノ
運搬ニ使役スルコトヲ禁止ス
前項ノ規定ニ違犯シタルトキハ俘虜ハ命令實行ノ後若ハ實行ノ初ニ當リ第四十三條及第四十四條ニ規定スル任務ヲ有スル信任者又ハ信任者ナキ場合ハ
保護國ノ代表者ノ仲介ニ依リ其ノ要求ヲ提出セシムル自由ヲ有ス
第三十二條 俘虜ヲ不健康又ハ危險ナル勞働ニ使役スベカラズ
懲罰ノ手段トシテ勞働條件ノ一切ノ加重ハ禁止セラル
第四章 勞働分遣所
第三十三條 勞働分遣所ノ制度ハ俘虜收容所ノ制度ト同一タルベシ特ニ其ノ衞生的條件、食糧、災害又ハ病氣ノ場合ノ手當、
通信竝ニ小包ノ受領ニ關シテ然リトス
一切ノ勞働分遣所ハ俘虜收容所ニ屬スベシ該收容所ノ所長ハ勞働分遣所内ニ於ケル本條約ノ規定ノ勵行ニ付責ニ任ズベシ
第五章 勞 銀
第三十四條 收容所ノ管理、整理及保存ニ關スル勞働ニ對シテハ俘虜ハ勞銀ヲ受ケザルベシ
他ノ勞働ニ使役セラルル俘虜ハ交戰者間ニ協定セラルベキ勞銀ヲ受クル權利アルベシ
該協定ハ又收容所菅理部ノ留保スルコトヲ得ベキ割合、俘虜ニ屬スベキ金額及拘束中該金額ノ交付セラルベキ方法ヲ規定スベシ
右協定ノ締結セラルル迄ハ俘虜ノ勞働ノ報酬ハ左ノ原則ニ從ヒ定メラルベシ
（イ） 國家ノ爲ニ爲サレタル勞働ハ當該國軍ニ屬スル軍人ガ同一勞働ニ從事スル場合ニ於ケル現行定率ニ從ヒ
又ハ定率ナキ場合ハ爲サレクル勞働ニ比例スル率ニ從ヒ支拂ハルベシ
（ロ） 他ノ公共團體又ハ個人ノ爲ニ爲サレタル勞働ニ對シテハ軍事官憲ト協議ノ上條件ヲ定ムベシ
俘虜ノ貸方ニ殘ル金額ハ拘束ノ終了ニ際シ俘虜ニ交付セラルベシ死亡ノ場合ニ於テハ外交手續ニ依リ死者ノ相續人ニ移送セラルベシ
第四款 俘虜ト外部トノ連絡
第三十五條 戰爭開始後直ニ交戰者ハ本款ノ規定ノ實施ニ關シ定メラレタル措置ヲ公表スベシ
第三十六條 各交戰者ハ各種類ノ俘虜ガ一月内ニ發送スルコトヲ許サルベキ信書及郵便葉書ノ數ヲ定期ニ定メ之ヲ他ノ交戰者ニ通告スベシ
該信書及葉書ハ郵便ニ依リ最短路ニ從ヒ送付セラルベシ
懲罰的理由ヲ以テ此等郵便物ヲ延著セシメ又ハ抑留スルコトヲ得ザルベシ
各俘虜ハ收容所到著後遲クモ一週聞以内ニ及病氣ノ場合ニ同樣ニ其ノ家族ニ宛テ捕獲及健康状態ヲ報知スル爲郵便葉書ヲ發迭スルコトヲ許サルベシ該郵便葉書ハ
成ルヘク速ニ送付セラルベク且何等ノ方法ヲ以テスルヲ問ハズ遲滯セラルルコトナカルベシ
通則トシテ俘虜ノ通信ハ其ノ母國語ヲ以テ書カルベシ交戰者ハ他國語ニ依ル通信ヲ許スコトヲ得ベシ
第三十七條 俘虜ハ其ノ食用又ハ被服ニ供スル爲ノ食料品及其ノ他ノ物品ヲ含ム小包郵便物ヲ個人的ニ受領スルコトヲ許サルベシ
小包ハ受取證ト引換ニ名宛人ニ交付セラルベシ
第三十八條 直接又ハ第七十七條ニ規定スル情報局ヲ通ジテ俘虜ニ宛テラレ又ハ其ノ發シタル信書、金錢又ハ有償物ノ送付及小包郵便物ハ差出國、
名宛國及通過國ニ於テ一切ノ郵便料金ヲ免除セラルベシ同樣ニ俘虜ニ宛テタル贈與品及救恤品ハ輸入税其ノ他ノ諸税及國有鐡道ノ運賃ヲ免除セラルベシ
俘虜ハ承認セラレタル急用ノ場合ニハ通常ノ料金ヲ支拂ヒテ電信ヲ發スルコトヲ許サルベシ
第三十九條 俘虜ハ個人的ニ書籍ノ送付ヲ受クルコトヲ許サルベク該書籍ハ檢閲セラルルコトヲ得ベシ
保護國及公認救恤團體ノ代表者ハ俘虜收容所ノ圖書室ニ著作物及書籍輯ヲ送付スルコトヲ得ベシ
檢閲ノ困難ヲ理由トシテ該送付物ヲ圖書室ニ交付スルヲ遲延セシムルコトヲ得ザルベシ
第四十條 通信ノ檢閲ハ成ルベク速ニ爲サルベシ尚小包郵便物ノ監督ハ小包ノ包含スルコトアルベキ食料品ノ保存ヲ確保スルニ適スル條件ノ下ニ
且出來得レバ名宛人又ハ名宛人ニ依リ正當ニ認メラレタル信任者ノ面前ニ於テ爲サルベシ
軍事上又ハ政治上ノ理由ニ依リ交戰者ノ發令スル通信ノ禁止ハ一時的ノ性質ノミヲ有シ得ベク且出來得ル限リ短期間タルベシ
第四十一條 交戰者ハ俘虜ニ宛テラレ又ハ其ノ署名シタル證書、文書又ハ記録特ニ委任状及遺言状ノ迭達ニ一切ノ便宜ヲ與フベシ
交戰者ハ必要アル場合ニハ俘虜ノ爲セル署名ノ公證ヲ確保スルニ必要ナル措置ヲ執ルベシ
第五款 俘虜ト官憲トノ關係.
第一章 拘束制度ニ關スル俘虜ノ苦情申出
第四十二條 俘虜ハ之ヲ監督スル軍事官憲ニ對シ其ノ服スル拘束ノ制度ニ關シ申請ヲ爲スノ權利ヲ有スベシ
俘虜ハ又保護國ノ代表者ニ對シ拘束ノ制度ニ關シ有スルコトアルベキ苦情ノ諸點ヲ指示スル爲ニ陳述ヲ爲ス權利ヲ有スベシ
右ノ申請及苦情ノ陳述ハ迅速ニ傳達セラルベシ
該申請及苦情ノ陳述ガ根據ナシト認定セラルル場合ニ於テモ之ガ爲何等處罰セラルルコトナカルベシ
第二章 俘虜ノ代表者
第四十三條 俘虜ハ其ノ所在スル一切ノ地方ニ於テ軍事官憲及保護國ニ對シ自己ヲ代表スル任務ヲ有スル信任者ヲ指定スルコトヲ許サルベシ
右ノ指定ハ軍事官憲ノ承認ヲ受クベシ
信任者ハ合同送付品ノ接受及分配ニ當ルベシ又俘虜ガ其ノ間ニ相互扶助ノ制度ヲ組織スルコトヲ決定スル場合ニハ該組織ハ該信任者ノ權限内ニ置カルベシ
尚信任者ハ俘慮ニ對シ俘虜ト第七十八條ニ規定スル救恤協會トノ關係ヲ容易ナラシムル爲仲介ノ勞ヲ提供スルコトヲ得ベシ
將校及之ニ準ズル者ノ收容所ニ於テハ最高級先任將校タル俘虜ハ収容所官憲ト俘虜タル將校及之ニ準ズル者トノ間ノ仲介者トシテ認メラルベシ之ガ爲該將校ハ
収容所官憲トノ交渉ニ際シ通譯トシテ用フル爲一人ノ俘虜將校ヲ指定スル權限アルベシ
第四十四條 信任者ニシテ勞働者トシテ使役セラルル場合ニハ俘虜ノ代表者トシテノ其ノ活動ハ義務勞働時間内ニ計算セラルベシ
信任者ト軍事官憲及保護國トノ通信ノ爲該信任者ハ一切ノ便宜ヲ與ヘラルベシ該通信ノ數ハ制限セラレザルベシ
俘虜ノ代表者ハ其ノ後繼者ヲシテ進行中ノ事務ニ通ゼシムル爲必要ナル時間ヲ與ヘラルルコトナクシテ移轉セシメラルルコトヲ得ザルベシ
第三章 俘虜ニ對スル處罰
（一） 總 則
輯四十五條 俘虜ハ捕獲國軍ノ現行法律、規則及命令ニ服從スベシ
總テ不從順ノ行爲アルトキハ俘慮ニ對シ該法律、規則及命令ノ規定スル手段ヲ施スコトヲ得ベシ
尤モ本章ノ諸規定ヲ留保ス
第四十六條 俘虜ハ捕獲國ノ軍事官憲及裁判所ニ依リ同一事實ニ付該國軍ノ軍人ニ對スルト異ナル罰ヲ課セラルルコトナカルベシ
同一階級ニ付テハ懲罰ヲ受クル俘慮タル將校、下士又ハ兵卒ハ捕獲國軍ニ於テ同一罰ニ關シ定メラレタルモノヨリ不利ナル待遇ヲ受クルコトナカルベシ
一切ノ體刑、日光ニ依リ照明セラレザル場所ニ於ケル一切ノ監禁及一般ニ一切ノ殘酷ナル罰ヲ禁止ス
同樣ニ個人ノ行爲ニ付團體的ノ罰ヲ課スルコトヲ禁止ズ
第四十七條 規律違反ヲ構成スル事實特ニ逃走ノ企ハ至急確認セラルベシ官等アルト否トヲ問ハズ一切ノ俘虜ニ對シ豫防的拘留ハ最少限度ニ止メラルベシ
俘虜ニ對スル裁判手續ハ事情ノ許ス限リ速ニ爲サルベシ豫防的留置ハ出來得ル限リ制限セラルベシ
一切ノ場合ニ於テ豫防的留置期間ハ該國軍人ニ對シ認メラルル限リ懲罰又ハ刑罰ノ期間ヨリ控除セラルベシ
第四十八條 俘虜ハ其ノ課セラレタル刑罰又ハ懲罰ヲ終ヘタル後他ノ俘虜ト異ナル待遇ヲ受クルコトナカルベシ
尤モ逃走ノ企ニ依リ罰セラレタル俘虜ハ特別ノ監視ノ下ニ置カルルコトヲ得ベシ但シ該監視ハ本條約ニ依リ俘虜ニ與ヘラルル保障ヲ何等除去スルコトヲ得ザルベシ
第四十九條 捕獲國ハ俘虜ノ官等ヲ剃奪スルコトヲ得ズ
懲罸ニ付セラレタル俘虜ハ其ノ階級ニ附帯スル特權ヲ奪ハルルコトナカルベシ特ニ自由ノ剥奪ヲ伴フ罰ヲ受クル將校及之ニ準ズル者ハ
下士又ハ兵卒ニシテ罰セラレタル者ト同一場所ニ置カルルコトナカルベシ
第五十條 逃走シタル俘虜ニシテ其ノ軍ニ達スル前又ハ之ヲ捕ヘタル軍ノ占領シタル地域ヲ離ルルニ先チ再ビ揃ヘラレタル者ハ懲罰ノミニ付セラルベシ
俘虜ニシテ其ノ軍ニ達シ又ハ之ヲ捕ヘタル軍占領シタル地域ヲ離レタル後再ビ俘虜ト爲リタル者ハ前ノ逃走ニ對シテハ何等ノ罰ヲ受クルコトナカルベシ
第五十一條 逃走ノ企ハ再犯ノ場合ト雖モ俘虜ガ該企中人又ハ財物ニ對シテ犯セル重罪又ハ輕罪ニ付裁判所ニ訴ヘラレタル場合ニ於テ刑
ノ加重情状トシテ考慮セラレザルベシ
逃走ノ企又ハ其ノ成就後ニ於テ逃走ニ協同セル逃走者ノ同僚ハ其ノ理由ニ依リ懲罰ノミニ付セラルベシ
第五十二條 交戰者ハ俘虜ノ犯セル犯行ガ懲罰ニ付セラルベキヤ刑罰ニ付セラルベキヤノ問題ノ量定ニ關シ當該官憲ニ於テ最寛大ナル態度ニ出ヅル樣注意スベシ
特ニ逃走又ハ逃走ノ企ニ關聯スル事實ノ量定ニ關シ然ルベシ
俘虜ハ同一事實又ハ同一訴追事項ニ關シ一度ノミ罰セラルルコトヲ得ベシ
第五十三條 懲罰ニ付セラレタル俘虜ニシテ送還ニ關シ規定セラレタル條件ニ適合スル者ハ該罰ヲ終ヘザルコトノ理由ヲ以テ留置セラルルコトナカルベシ
送還スベキ俘虜ニシテ刑事上ノ訴追中ノ者ハ裁判手續ノ終了迄又場合ニ依リ刑期ノ滿了迄送還ヨリ除外セラルルコトヲ得ベシ判決ノ結果既ニ留置中ノ者ハ
其ノ終了迄留置セラルルコトヲ得ベシ
交戰者ハ前項ノ理由ニ依リ送還ヲ許サレザル俘虜ノ名簿ヲ相亙ニ通告スベシ
（二） 懲 罰
第五十四條 拘留ハ俘虜ニ課セラルベキ最重キ懲罰トス
同一罰ノ期間ハ三十日ヲ超過スルコトヲ得ズ
右ノ三十日ノ最大限ハ俘虜ガ數箇ノ事實ニ付懲罰ヲ受クベキ場合ニ於テ右事實ガ相關聯スルト否トヲ問ハズ超過セラルルコトナカルベシ
拘留中又ハ其ノ期間滿了後俘虜ガ新ナル懲罰ヲ受ケタル場含ニ於テ拘留期間ノ何レカガ十日又ハ十日ヲ超ユルトキハ兩拘留ノ間ニ少クモ三日ノ期間ヲ置クベシ
第五十五條 第十一條末項ノ目的トスル規定ノ留保ノ下ニ懲罰ニ付セラレタル俘虜ニ對シ捕獲國軍内ニ行ハルル食糧制限ヲ罰ノ加重トシテ適用スルコトヲ得ベシ
尤モ右ノ制限ハ罰セラレタル俘虜ノ健康状態ガ之ヲ許ス場合ニ非ザレバ之ヲ命ズルコトヲ得ザルベシ
第五十六條 如何ナル場合ニ於テモ俘虜ハ懲罰ヲ受クル爲懲治所 （刑務所、懲治監、徒刑場等） ニ移サルルコトヲ得ザルベシ
懲罰ヲ受クル場所ハ衞生上ノ要求ニ適合スルモノタルベシ
罰セラレタル俘虜ハ自ラ清潔ヲ保持スルコトヲ得シメラルベシ
右俘虜ハ毎日運動ヲ爲シ又ハ少クモ二時間屋外ニ留マルコトヲ得ベシ
第五十七條 懲罰ニ付セラレタル俘虜ハ讀ミ且書クコト及手紙ヲ發受スルコトヲ許サルベシ
之ニ反シ小包及送金ハ滿罰期迄名宛人ニ交付セザルコトヲ得ベシ配付セラレザル小包ニシテ腐敗シ易キ食料品ヲ含ムトキハ
該品ハ醫務室又ハ收容所炊事場ニ付輿セラルベシ
第五十八條 懲罰ニ付セラレタル俘虜ハ其ノ妥求ニ基キ日日ノ診察ヲ受クルコトヲ詐可セラルベシ該俘虜ハ醫師ノ必要ト認ムル手當ヲ受ケ且必要ニ應ジ
收容所醫務室又ハ病院ニ引取ラルベシ
第五十九條 裁判所及上級軍事官憲ノ權限ヲ留保シ懲罰ハ收容所又ハ分遣所ノ所長トシテ懲罰權ヲ有スル將校又ハ該將校ヲ代理スル責任アル將校ノミニ依リ言渡サルベシ
（三） 訴 追
第六十條 俘虜ニ對スル裁判手續ノ開始ニ際シ捕獲國ハ成ルベク速ニ且常ニ辯論ノ開始期日前ニ保護國ノ代表者ニ之ヲ通告スベシ
右ノ通告ハ左ノ事項ヲ含ムベシ
（イ） 俘虜ノ戸籍及階級
（口） 滞在又ハ留置ノ場所
（ハ） 適用法規ヲ記載スル訴追事項ノ明細書
右ノ通告ニ於テ事件ノ審理ニ當ルベキ裁判所、辯論開始期日及辯論ノ行ハルべキ場所ノ指示ヲ興フルコト能ハザル場合ニ於テハ後日成ルベク速ニ
且何レノ場合ニ於テモ辯論開始ノ前少クモ三週間前ニ該指示ヲ保護國ノ代表者ニ興フベシ
第六十一條 俘虜ハ辯護ノ機會ヲ與ヘラレズシテ處罰セラルルコトナカルベシ
俘虜ハ其ノ訴ヘラレタル事實ニ對シテ有責ナリト自認スル爲強制セラルルコトナカルベシ
第六十二條 俘虜ハ其ノ選擇スル有資格ノ辯護人ヲ帶同シ且必要ニ應ジ適當ナル通譯ヲ用フル權利ヲ有スベシ俘虜ハ捕獲國ニ依リ辯論ノ開始前適當ナル時機ニ其ノ權利ニ付通告ヲ受クベシ
俘虜ガ選擇セザル場合ニ於テハ保護國ハ該俘虜ニ辯護人ヲ附スルコトヲ得ベシ捕獲國ハ保護國ノ請求ニ基キ辯護ヲ爲ス資格アル者ノ名簿ヲ保護園ニ送付スベシ
保護國ノ代表者ハ訴訟辯論ニ立會フ權利ヲ有スベシ
右ノ原則ニ對スル唯一ノ例外ハ國家ノ治安ノ爲訴訟辯論ノ祕密ヲ要スル場合ナリトス此ノ場合ニハ捕獲國ハ保護國ニ之ヲ豫告スベシ
第六十三條 俘虜ニ對スル判決ハ捕獲國軍ニ屬スル者ニ關スルト同一ノ裁判所ニ於テ且同一ノ手續ニ依リテノミ言渡サルルコトヲ得ベシ
第六十四條 一切ノ俘虜ハ自己ニ下サレタル一切ノ判決ニ對シ捕獲國軍ニ屬スル者ト同樣ノ方法ニ依リ上訴スル權利ヲ有スベシ
第六十五條 俘虜ニ對シ言渡サレタル判決ハ直ニ保護國ニ通知セラルベシ
第六十六條 俘虜ニ對シ死刑ノ言渡サルルトキハ犯行ノ性質及情状ヲ詳細ニ記述スル通知ハ俘虜ノ服役シタル軍ノ所屬國ニ移送セラルル爲成ルベク
速ニ保護國ノ代表者ニ送付セラルベシ
該判決ハ右通知ヨリ少クモ三月ノ期間滿了前ニ執行セラレサルベシ
第六十七條 俘虜ハ判決ニ依ルト否トヲ問ハズ本條約第四十二條ノ規定ノ利益ヲ剥奪セラルルコトヲ得ザルベシ
第四編 拘束ノ終了
第一款 直接送還及中立國ニ於ケル收容
第六十八條 交戰者ハ重病者及重傷者タル俘虜ガ移送セラレ得ル状態ニ至リタル後階級及數ニ關係ナク之ヲ其ノ本國ニ送還スル義務アルベシ
從テ交戰者ハ協定ヲ以テ成ルベク速ニ直接送還ノ原因ト爲ルベキ負傷又ハ病氣ノ場合及必要ニ應ジテ中立國ニ於テ收容セシムベキ場合ヲ定ムベシ該協定ノ
締結ニ至ル迄ハ交戰者ハ本條約ニ參考トシテ附屬セラレタル標準協定ニ依ルコトヲ得ベシ
第六十九條 戰爭開始後直ニ交戰者ハ混成醫員會ヲ構成スル爲協定スベシ同會ハ三名ノ委員ヨリ成リ中ニ名ハ
中立國ニ屬シ一名ハ捕獲國ノ指名スル者タルベシ中立國醫師ノ中一名ヲ以テ委貝長トス
同會ハ俘虜ニシテ病者又ハ傷者タル者ヲ診察シ且之ニ對シ有用ナル一切ノ決定ヲ爲スベシ
同會ノ決定ハ過半數ヲ以テ爲サルベク且成ルベク速ニ執行セラルベシ
第七十條 收容所ノ醫官ニ依リ指定セラレタル者ノ外次ニ掲グル俘虜ハ直接送還又ハ中立國ニ於ケル收容ノ爲ニ第六十九條ニ規定スル混成醫員會ノ診察ヲ受クベシ
（イ） 收容所ノ醫官ニ對シ直接ニ右要求ヲ爲ス俘虜
（ロ） 第四十三條ニ規定スル信任者ノ申出ニ依ル俘虜但シ該信任者ハ自己ノ發意ニ依リ又ハ俘虜ノ要求ニ基キ行動スルモノトス
（ハ） 俘虜ニシテ其ノ服役シタル軍ノ所屬國又ハ該國ニ依リ公認セラレタル救恤協會ニ依リ提議セラレタルモノ
第七十一條 俘虜ニシテ勞働災害ノ罹災者ト爲リタル者ハ送還又ハ必要ニ應ジ中立國ニ於ケル收容ニ關シ同一ノ規定ノ利益ヲ享有セシメラルベシ
但シ故意ノ傷者ハ此ノ限ニ在ラズ
第七十二條 戰爭ノ繼續中及人道上ノ理由ノ爲交戰者ハ健全ナル俘虜ニシテ長期ノ拘束ヲ受ケタル者ノ直接送還又ハ中立國ニ於ケル收容ノ爲協定ヲ締結シ得ベシ
第七十三條 俘虜ノ送還又ハ中立國ヘノ移送ノ費用ハ捕獲國ノ國境外ニ於テハ右俘虜ガ服役シタル軍ノ所屬國ニ依リ負擔セラルベシ
第七十四條 送還セラレタル者ハ現役ノ軍務ニ服セシメラルルヲ得サルベシ
第二款 戰爭終了ノ際ニ於ケル解放及送還
第七十五條 交戰者ガ休戰條約ヲ締結セントスルトキハ右交戰者ハ原則トシテ俘虜ノ送還ニ關スル規定ヲ設クベシ此ノ點ニ關スル規定ガ
右條約ニ挿入セラレ得ザリシ場合ト雖モ交戰者ハ成ルベク速ニ之ガ爲連絡ヲトルベシ一切ノ場合ニ於テ俘虜ノ送還ハ平和克復後成ルベク速ニ行ハルベシ
尤モ俘虜ニシテ普通法上ノ重罪又ハ輕罪ノ爲訴追中ノ者ハ右手續ノ終了迄及場合ニ依リ刑期ノ滿了迄留置セラルルヲ得ベシ
普通法上ノ重罪又ハ輕罪ノ爲刑ノ宜告ヲ受ケタル者ニ付テモ同樣ナルベシ
離散セル俘虜ヲ搜索シ且其ノ送還ヲ確保スル目的ヲ以テ交戰者ハ合意ノ上委員會ヲ設置スルヲ得ベシ
第五編 俘虜ノ死亡
第七十六條 俘虜ノ遺言ハ内國軍軍人ト同一ノ條件ヲ以テ受領セラレ且作成セラルベシ
同樣ニ死亡ノ證明ニ關スル書類ニ關シテモ同一ノ規則ニ從フベシ
交戰者ハ拘束中死亡シタル俘虜ガ鄭重ニ埋葬セラルル樣及墳墓ガ有用ナル一切ノ表示ヲ有シ、尊敬セラレ且相應ニ維持セラルル樣注意スベシ
第六編 俘虜ニ關スル救恤及情報局
第七十七條 戰爭開始後直ニ各交戰國竝ニ交戰者ヲ收容シタル中立國ハ其ノ領域内ニ在ル俘虜ニ關スル官立情報局ヲ設置スベシ
各交戰國ハ其ノ軍ニ依リ爲サレタル俘虜ノ一切ノ捕獲ヲ成ルベク速ニ其ノ情報局ニ通知シ其ノ有スル認識ニ關スル一切ノ情報ニシテ
迅速ニ關係家族ニ了知セシムルヲ得ベキモノヲ右情報局ニ供給シ且家族カ俘虜ニ通信ヲ爲シ得ベキ公ノ宛名ヲ右情報局ニ通知スベシ
情報局ハ一方保護國ノ仲介ニ依リ及他方第七十九條ニ規定セラルル中央部ノ仲介ニ依リ前記一切ノ情報ヲ關係國ニ速ニ傳達スベシ
情報局ハ俘虜ニ關スル一切ノ問合ニ答フルノ任務ヲ有シ俘虜ノ留置、移動、宜誓解放、送還、逃走、入院、死亡ニ關スル一切ノ通報竝ニ其ノ他各俘虜ニ關シ
銘銘票ヲ作成補修スル爲ニ他ノ必要ナル情報ヲ各主務官憲ヨリ受クベシ
情報局ハ該票ニ出來得ル範圍内ニ於テ且第五條ノ規定ヲ留保シテ登録番號、氏名、出生日附及出生地、當人ノ階級及所屬部隊、父ノ名及母ノ氏、
災害ノ場合ニ通知スベキ者ノ宛名、負傷、捕獲ノ、留置ノ、負傷ノ、死亡ノ日附及場所竝ニ他ノ一切ノ重要ナル情報ヲ記載スベシ
各俘虜ノ認識ヲ容易ナラシムベキ一切ノ新規ノ情報ヲ含メル週刊名簿ハ鬪係諸國ニ交付セラルベシ
俘虜ノ銘銘票ハ平和克復後其ノ服役シタル國ニ交付セラルベシ
尚惰報局ハ送還セラレ、宜誓解放セラレ、逃走シ又ハ死亡シタル俘虜ニ依リ遺留セラレタル一切ノ自用品、有價物、信書、給料帳、
認識票等ヲ收集シ且之ヲ關係國ニ交付スルノ義務ヲ有スベシ
第七十八條 慈善行爲ノ媒介者タル目的ヲ以テ自國ノ法律ニ從ヒ正式ニ組織セラレタル俘虜救恤協會ハ其ノ博愛的事業ヲ有效ニ遂行スル爲
交戰者ヨリ自己及其ノ正當ノ委任アル代表者ノ爲ニ軍事上ノ必要ニ依リテ定メラレタル範圍内ニ於テ一切ノ便宜ヲ受クベシ右協會ノ代表者ハ各自軍事官憲ヨリ
免許状ノ交付ヲ受ケ且該官憲ノ定メタル秩序及取締ニ關スル一切ノ規律ニ服スベキ旨書面ヲ以テ約シタル上收容所竝ニ送還俘虜ノ途中休止所ニ於テ
救恤品ヲ分輿スルコトヲ許サルベシ
第七十九條 俘虜情報中央部ハ中立國ニ設立セラルヘシ赤十字國際委員會ハ必要ナリト認ムルトキハ該部ノ組織ヲ關係國ニ提議スベシ
該部ハ俘虜ニ關スル一切ノ情報ニシテ公ノ又ハ私ノ方法ニ依リ其ノ獲得シ得ベキモノヲ蒐集スルノ任務ヲ有スベシ該部ハ右情報ヲ俘虜ノ本國
又ハ俘虜ガ服役シタル國ニ成ルベク速ニ交付スベシ
此等ノ規定ハ赤十字國際委員會ノ博愛的活動ヲ制限スルモノト解釋セラレザルベシ
第八十條 情報局ハ郵便物ニ關スル料金ノ免除竝ニ第三十八條ニ規定セラルル一切ノ免除ヲ享有スベシ
第七編 或種非軍人ニ對スル條約ノ適用
第八十一條 通信員、新聞ノ探訪者、酒保商人、用達人ノ如キ直接ニ軍ノ一部ヲ爲サザル從軍者ニシテ敵ノ權内ニ陷リ
敵ニ於テ之ヲ抑留スルヲ有益ナリト認メタル者ハ其ノ随伴シタル軍ノ軍事官憲ノ證明書ヲ攜帶スル場合ニ限リ俘虜ノ取扱ヲ受タルノ權利ヲ有スベシ
第八編 條約ノ執行
第一款 總 則
第八十ニ條 本條約ノ規定ハ一切ノ場合締約國ニ依リ尊重セラルベシ
戰時ニ於テ交戰者ノ一ガ本條約ノ當事者タラザル場合ト雖モ本條約ノ規定ハ之ニ參加セル交戰者ノ間ニ拘束力ヲ有スベシ
第八十三條 締約國ハ俘虜ニ關スル一切ノ間題ニシテ特ニ規律スルヲ適當ナリト認ムルモノニ關シ特別條約ヲ締結スルノ權利ヲ留保ス
俘虜ハ送還ノ完了迄引續キ右協定ノ利益ヲ享有スベシ但シ前記協定若ハ將來ニ於ケル協定ニ含マルル反對ノ明白ナル規定
又ハ同樣ニ何レカノ交戰者ニ依リ其ノ留置スル俘虜ニ關シ執ラルル更ニ有利ナル措置アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
本條約ノ規定ノ相互ノ適用ヲ確保シ且前記特別條約ノ締結ヲ容易ナラシムル爲交戰者ハ戰爭開始後直ニ俘虜管理ノ任務ヲ有スル
各自ノ官憲ノ代表者ノ會合ヲ許可スルコトヲ得ベシ
第八十四條 本條約及前條ニ規定セラレタル特別條約ノ本文ハ一切ノ俘虜ニ依リ參照セラレ得ベキ場所ニ於テ能フ限リ俘虜ノ母國語ニテ掲示セラルベシ
右條約ノ本文ハ掲示セラレタル本文ヲ知ルコトヲ得ザル俘虜ノ要求アルトキハ之ニ對シ通知セラルベシ
第八十五條 締約國ハ本條約ノ公ノ譯文竝ニ本條約ノ適用ヲ確保スル爲採用セシメラルルコトアルベキ法律及規則ヲ瑞西聯邦政府ノ仲介ニ依リ相互ニ通知スベシ
第ニ款 監督ノ組織
第八十六條 締約國ハ本條約ノ正確ナル適用ガ交戰者ノ利益ノ保護ヲ委託セラレタル保護國ノ協力ノ可能ナルニ依リ保障セラルルモノナルコトヲ認ム此ノ點ニ關シ
保護國ハ外交官以外ニ自國人民又ハ他ノ中立國人民ヨリ代表ヲ任命スルコトヲ得ベシ右代表ハ其ノ任務ヲ執行セントスル側ノ交戰者ノ承認ヲ受クベシ
保護國ノ代表者又ハ其ノ代理者ニシテ承認ヲ受ケタル者ハ俘虜ノ留置セラレタル一切ノ場所ニ例外ナク到ルコトヲ許可セラルベシ
右代表者又ハ代理者ハ俘虜ニ依リ占メラレタル一切ノ場所ニ到リ且一般ニ立會人ナク自ラ又ハ通譯ノ仲介ニ依リ俘虜ト會談スルコトヲ得ベシ
交戰者ハ保護國ノ代表者又ハ代理者ニシテ承認ヲ受ケタル者ノ職務ヲ容易ナラシムベシ軍事官憲ハ右代表者又ハ代理者ノ訪問ヲ通知セラルベシ
交戰者ハ俘虜ノ國籍ヲ有スル者ガ右視察旅行ニ參加ヲ許サルルコトヲ承認スル爲協定シ得ベシ
第八十七條 本條約ノ適用ニ付交戰者間ニ意見ノ不一致アル場合ニハ保護國ハ右紛爭ノ處理ノ爲能フ限リ周旋スベシ
之ガ爲各保護國ハ關係交戰者ニ對シ必要ニ應ジテ適當ニ選擇セラレタル中立地域ニ於ケル右關係交戰者ノ代表者ノ會合ヲ特ニ提議シ得ベシ
交戰者ハ右趣旨ヲ以テ自己ニ對シ爲サルル提議ヲ遂行スルニ努ムベシ保護國ハ場合ニ依リ中立國ニ屬スル者
又ハ赤十字國際委員會ニ依リ派遺セラレタル者ニシテ右會合ニ參加ヲ招請セラルベキモノニ對シ關係國ノ承認ヲ求ムルコトヲ得ベシ
第八十八條 前記諸規定ハ赤十字國際委員會ガ關係交戰者ノ承認ヲ得テ俘虜ノ保護ノ爲爲シ得ベキ博愛的活動ヲ妨グルモノニ非ズ
第三款 最終規定
第八十九條 陸戰ノ法規慣例ニ關スル 「ヘーグ」 條約 （千八百九十九年七月ニ十九日ノモノタルト千九百七年十月十八日ノモノタルトヲ問ハズ）
ニ依リ拘束セラレ且本條約ニ參加スル諸國間ノ關係ニ於テ本條約ハ右 「ヘーグ」 條約附屬規則第ニ章ヲ補足スベシ
第九十條 本日ノ日附ヲ有スベキ本條約ハ千九百ニ十九年七月一日 「ジュネーヴ」 ニ開會シタル會議ニ代表者ヲ派遣シタル一切ノ國ノ名ニ於テ
千九百三十年ニ月一日迄ニ署名セラレ得ベシ
第九十一條 本條約ハ成ルベク速ニ批准セラルベシ
批准書ハ 「ベルヌ」 ニ於テ寄託セラルベシ
各批准書ノ寄託ニ付調書一通作成セラレ其ノ認證謄本ハ瑞西聯邦政府ニ依リ一切ノ國ニシテ其ノ名ニ於テ本條約ガ署名セラレ
又ハ加入ガ通告セラレタルモノノ政府ニ交付セラルベシ
第九十二條 本條約ハ少クトモ二箇ノ批准書ガ寄託セラレタル後六月ニシテ實施セラルベシ
爾後本條約ハ各締約國ニ付其ノ批准書ノ寄託後六月ニシテ實施セラルベシ
第九十三條 本條約ハ其ノ實施ノ日ヨリ一切ノ國ニシテ其ノ名ニ於テ本條約ガ署名セラレザリシモノノ名ニ於テ爲サルル加入ノ爲開カルベシ
第九十四條 加入ハ書面ヲ以テ瑞酉聯邦政府ニ對シ通告セラルベク加入書ガ同國政府ニ到達シタル日ノ後六月ニシテ效力ヲ生ズベシ
瑞西聯邦政府ハ一切ノ國ニシテ其ノ名ニ於テ條約ガ署名セラレ又ハ加入ガ通告セラレタルモノノ政府ニ加入ヲ通知スベシ
第九十五條 戰爭状態ハ戰爭開始前又ハ開始後交戰國ニ依リ寄託セラレタル批准及通告セラレタル加入ニ對シ直ニ效力ヲ生ゼシムベシ
戰爭状態ニ在ル諸國ヨリ受領セラレタル批准又ハ加入ノ通知ハ最迅速ナル方法ニ依リ瑞西聯邦政府ニ依リ爲サルベシ
第九十六條 各締約國ハ本條約ヲ廢棄スルノ權能ヲ有スベシ廢棄ハ書面ヲ以テ之ヲ瑞西聯邦政府ニ通告シタル後
一年ヲ經過スルニ非ザレバ效力ヲ生ズルコトナカルベシ瑞西聯邦政府ハ右通告ヲ一切ノ締約國ノ政府ニ通知スベシ
廢棄ハ之ヲ通告シタル國ニ對ンテノミ其ノ效力ヲ生ズベシ
尚右廢棄ハ廢棄國ガ參加セル戰爭中其ノ效力ヲ生ゼザルベシ比ノ場合ニ於テハ本條約ハ一年ノ期間滿了後平和克復迄引續キ其ノ效力ヲ保有スベシ
第九十七條 本條約ノ認證謄本一通ハ瑞西聯邦政府ニ依リ國際聯盟ノ記録ニ寄託セラルベシ同樣ニ瑞西聯邦政府ニ通告セラルベキ批准、
加入及廢棄ハ珊西聯邦政府ニ依リ國際聯盟ニ通知セラルベシ
右證據トシテ前記全權委員ハ本條約ニ署名セリ
千九百二十九年七月二十七日 「ジュネーヴ」 ニ於テ本書一通ヲ作成ス右一通ハ瑞西聯邦ノ記録ニ寄託保存セラルベク其ノ認證謄本ハ會議ニ招請セラレタル一切ノ
國ノ政府ニ交付セラルベシ
（全權委員署名略）
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