憲法改正手続法案の慎重審議を求める会長声明

岩手弁護士会

  政府が第164回国会に提出し,審議されていた 「日本国憲法の改正手続に関する法律案」 は,衆議院の特別委員会及び本会議において, 野党4党が慎重審議を求めたにもかかわらず,十分な審議が尽されないまま可決され,今後参議院において審議されることとなった。

  しかしながら,これまでの国会における修正論議の到達点を直視すれば,日本弁護士連合会などが指摘した多くの問題点は依然として審議不十分のまま残っており, 国民主権、基本的人権の保障という憲法の基本原理からして、以下のとおり重大な問題点がある

  第1に,憲法改正案の発議方式は,「内容において関連する事項ごと」 とされているため,複数の事項が一括して投票に付される結果, 国民の意思が正確に反映されないという日弁連の指摘する問題点は解決されていない。

  第2に,公務員及び教育者の地位利用に対する規制については,罰則を定めないものの運動自体を禁止しているため自由な討論を萎縮させてしまう。

  第3に,本法が成立し,国会が憲法改正を発議すると,その改正案の内容を国民に周知するために国会に 「国民投票広報協議会」 が設置されるが, 原則として各会派の所属議員数の比率によるとされているため,反対意見の議員の意見が十分反映されないおそれがある。

  第4に,最低投票率の定めがないため,少数の投票者の意思により改正手続がなされる危険性がある。

  第5に,発議後投票までの期間が,「60日以後180日以内」 とされており,十分な国民的議論を尽くすには短すぎる。

  などである。

  さらに,同法案にある国会法の一部改正についても,両院に常設の憲法審査会を設置し国会閉会中の改憲案の審議を行わせることや, 両院合同協議会の設置を認めることは各議院の独自性などからも疑義がある。

  日本国憲法96条が厳格な改正要件を定めている硬性憲法であることと対比するとき,当会は国会の審議の不十分さを深く憂慮する。

  そこで,憲法改正手続法制定の必要性の有無をはじめ,法案の内容についてもいっそう慎重に審議することを求めるため,本声明を発するものである。 

  2007年4月16日
                       岩手弁護士会
                          会 長 高  橋   耕